山村 行弘 暮らしの法律 Yamamura Yukihiro 弁護士。第一東京弁護士会所属。 一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談などを手がける。 協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所) 第 52回 戸籍上の氏名は 変えられる? 相談者の気持ち 人気急上昇の芸能人と同姓同名のため、最近、いろいろと 迷惑なことが起きています。このような理由でも改名する ことはできますか? 「氏 (名字) 」 は、名とともに、 した場合に認めらてれおり (同法 107 条の2) 、氏 個人の同一性を特定するため の変更と比較すると緩やかな要件となっていま の呼称として、重要な機能を す。もっとも、少なくとも単なる個人の主観的 果たすものです。また、特に 感情や姓名判断、信仰上の希望、社会活動の一 氏については、夫婦の構成する生活共同体およ 部に支障があるというのみでは足りず、社会生 び親と未成年の子の構成する保育的な生活共同 活上著しい支障が生じている場合で、名の変更 体に属する者の共通の呼称ですので、それが変 をする必要性が社会的に高い場合であることが 更された場合の社会一般に及ぼす影響は大きく、 必要です。 同姓同名の者がいることを理由に名の変更が 軽々しく変更が許されるべきではないと考えら れています。このことから、戸籍法 107 条は、 認められたケースとしては、近隣に同姓同名の 家庭裁判所が「やむを得ない事由」 があると認定 者が居住しているため、郵便物や運送品等の誤 した場合に限って、氏の変更を認めています。 配を生じ、社会生活上支障を来していたという この、「やむを得ない場合」に該当するのは、 例があります。 どのような場合でしょう。 これについては、 個々 本件では、人気急上昇の芸能人と同姓同名の のケースにおいて家庭裁判所が認定することに ため、名前を変えたいというケースですが、前 なりますが、一般的には、著しく珍奇または難 述のとおり、氏の変更が認められるのは、その 読・難書で実生活に支障のあるもの、外国人の 氏の継続を強制することが社会観念上甚だしく 姓と紛らわしいもの、その氏の継続を強制する 不当と認められるような場合に限られます。こ ことが社会観念上甚だしく不当と認められる場 のことからすれば、人気のある芸能人と同姓同 合などとされています。例えば、 「四月一日」( わ 名という程度では、氏の変更は難しいと言える たぬき ) や「八月一日」 (ほずみ)という氏は、難 でしょう。他方、名については、同姓同名であ 読を原因として変更が認容されています。 ることにより、前述のような社会生活上の著し い支障が生じているのであれば、変更が認めら では、「名」の変更はどうでしょうか。名の変 れる可能性があると言えるでしょう。 更は、家庭裁判所が 「正当な事由」 があると認定 2016.9 36
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