強励起固体の電子励起・アブレーションダイナミクス

強励起固体の電子励起・アブレーションダイナミクス
強レーザーパルスを照射された固体中電子の高密度高励起状態をプローブするため真空紫外
(VUV) 領域の時間分解反射スペクトル測定装置を独自に開発しました [1] 。フェムト秒レーザー
パルス (795 nm, 60 fs) 基本波と Ar ガス中にて高次高調波発生した VUV パルス (5 次高調波、
160
nm) は誘電体多層膜ミラー (160nm 反射, 795 nm 透過) によって基本波と分離され、光学遅延ラ
インを経て、再び多層膜ミラーによって共軸に合流させます。基本波および VUV パルスは石英基
板上に集光し、そこから反射された VUV パルスを VUV 分光器に入射し、反射スペクトルを測定
します。装置図は図1(a), (b)に示したとおりです。アブレーション閾値をわずかに上回る強度の
基本波が集光された石英基板上にはプラズマが生成し、VUV の反射率が増大します。石英基板の
照射面は、レーザーショット毎に新しくなるように動かしています。基本波と VUV パルスの遅延
時間を変えながら測定した反射スペクトルが、図1(c) のように得られました。これは、周波数分
解光ゲート(FROG)画像に相当するものであり、FROG の再構築計算アルゴリズムを用いて、
図1(d)に示すように FROG 画像を再構築できました。再構築によって得られた VUV パルス波形
(図1(e)) は、装置中に設置された LiF レンズの透過による正チャープを有していることがわ
かりました。励起された固体表面の時間依存反射率(図1(e))も、モデル関数を使うことなく得
ることができました。本手法は、真空紫外プローブ光を使うことにより高密度励起状態の実時間
観測を可能とするだけでなく、計測が困難である真空紫外パルス波形の計測法としても有効な技
術です。
本手法で用いた VUV パルスの代わりに近赤外から紫外領域のプローブパルスを用いた時間分
解反射率測定においても、時間領域で反射光の干渉が観測され、アブレーションによって膜剥離
図 1.(a) 時間分解真空紫外反射スペクトル測定装置全体図。(b) ポンプ・プローブデレ
イラインおよび固体試料照射ステージを設置した真空チャンバー拡大図。挿入写真は強レ
ーザー照射によってアブレーションされた石英基板。(c) 時間分解真空紫外反射スペクト
ル(実測)
。(d) FROG 解析アルゴリズムを用いて再構築した時間分解スペクトル。(e) 再
構築計算より求めた固体の時間依存反射率(○)
、真空紫外パルス波形(実線)、真空紫外
パルス位相(点線)。
が起きていることが示唆されています [2, 3]。
問い合わせ先: 板倉 隆二
E-mail: [email protected]
参考文献
[1] “Frequency-resolved optical gating for characterization of VUV pulses using ultrafast plasma mirror
switching”, R. Itakura, T. Kumada, M. Nakano, and H. Akagi, Opt. Express 23, 10914-10924 (2015).
[2] “Femtosecond laser ablation dynamics of fused silica extracted from oscillation of time-resolved
reflectivity”, T. Kumada, H. Akagi, R. Itakura, T. Otobe, and A. Yokoyama, J. Appl. Phys. 115, 103505-1-9
(2014).
[3] “Non-thermal effects on femtosecond laser ablation of polymers extracted from the oscillation of
time-resolved reflectivity”, T. Kumada, H. Akagi, R. Itakura, T. Otobe, M. Nishikino, and A. Yokoyama,
Appl. Phys. Lett. 106, 221605-1-5 (2015).