分子の回転運動制御を利用した同位体選択イオン化 高強度レーザーを用いた分子制御の応用として、新しい同位体分離法の研究開発を行っていま す(図1)。「異なる同位体を含む分子は異なる回転周期を持つ」という性質を利用した分子の回 転制御を基礎にしたものです。直線偏光した短パルスレーザー光(回転制御用レーザー)を照射 することで分子に回転トルクを与え、瞬間的に分子の向きが揃った状態を形成します。さらに直 線偏光・短パルスレーザー(イオン化用レーザー)を照射すれば、分子の向きの違いから、一方 の同位体分子を優先的に光反応させることが出来ます。 図1.分子回転運動制御を利用した同位体分離の概念図。 この方法は、既存の方法では困難な、重元素の同位体分離を効率良く行える可能性があります。 窒素の同位体分子(14N2 と 15N2)の非共鳴イオン化を利用した実験で、回転制御用レーザーとイ オン化用レーザーの間の時間差 t を変えることで、生成する同位体イオンの収量比 R (= 14N2+) 15N2+ / 0.85~1.22 の範囲で変化することを明らかにしました[1]。これは、レーザー間の時間差 t を調整すれば、同位体分子を選んで光イオン化することが可能であることを意味しています。さ らに、 イオン収量比 R の変化範囲を大きくするために、 回転制御用レーザーを 1 パルスではなく、 複数の回転制御用レーザーを連続的に照射する実験も行っています。4 つの回転制御用レーザー を用いた実験で、R の変化範囲が 0.49~2.00 になることを示しました(図2)[2]。この結果は、 回転制御による同位体分離の実現に近づくものです。 図2.4 つの回転制御レーザーを利用した場合の実験結果(a)とレーザー照射ス キーム(b)。時間差 t を調整することで、同位体を選んで光イオン化できる。 問い合わせ先 赤木 浩 E-mail: [email protected] 参考文献 [1] “Isotope-selective ionization utilizing molecular alignment and non-resonant multiphoton ionization”, H. Akagi, T. Kasajima, T. Kumada, R. Itakura, A. Yokoyama, H. Hasegawa, and Y. Ohshima, Appl. Phys. B 109, 75-80 (2012). [2] “Isotope-selective ionization utilizing field-free alignment of isotopologues with a train of femtosecond laser pulses”, H. Akagi, T. Kasajima, T. Kumada, R. Itakura, A. Yokoyama, H. Hasegawa, and Y. Ohshima, Phys. Rev. A 91, 063416 (7 pages) (2015).
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