関西の物流不動産賃貸市場 - ジョーンズ ラング ラサール

関西の物流不動産賃貸市場:
黎明から確立へ
先進大型施設賃料も中長期的に堅調な推移を予想、2017年前後の大量供給の影響も一時的
2016年4月 | JLLインダストリアル&ロジスティックスジャパン
2
JLL
エクゼクティブサマリー
関西1の物流不動産賃貸市場は黎明期から、2020年に向け確
立期となることが予想される。
2016年から2018年に予想され
る高水準の供給を契機に市場形成が急ピッチで進み、
その
基盤は堅固となっていくと予想している。特に先進大型物流
インターネット通販などによる旺盛な新規
施設2については、
需要にも支えられ、高水準の供給を乗り越え堅調に推移す
ると予測している。
需要構造の変化がその大きな要因になるが、特に成長続く
インターネット通販がより強いドライバーとなると考えられ
る。関西の先進大型物流施設のテナントでは、
インターネッ
ト通販の比率は5%に留まっている。首都圏では17%を占めて
おり、今後インターネット通販各社の関西での拠点整備が
本格化する可能性が高い。
非常にタイトな需給が続いていた
ため潜在化した需要が統合・移転なども含め顕在化すること
も期待できる。
JLLでは、前回の首都圏に続き需要のセクター別の分析・予
測や、市場動向の分析・予測を行い、関西の先進大型物流施
設の賃料は、
インターネット通販を中心に旺盛な需要を主
要因に2020年までの5年間の上昇率は合計6.2%となると予想
している。
2016年から2018年の供給急増期を背景に一時賃
料は踊り場となるものの、
その後は上昇基調に戻ると分析し
ている。
1
関西:2府4県=大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、滋賀県、和歌山県
2
JLLの大型先進物流施設の定義:延床面積50,000㎡以上で竣工が2000年以降の賃貸物流施設
関西の物流不動産賃貸市場
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関西の物流不動産賃貸市場は黎明から確立へ
物流不動産賃貸市場はオフィスや商業施設などと比べ歴史が浅い
市場で、
近年市場形成が急ピッチで進んできた首都圏でもその歴史
は約15年に留まっている。
日本の物流施設は歴史的に保管型倉庫が
ほとんどであり、
製造業などメーカーも含め自社保有・自社使用が一
般的であったことが要因で、
現在でも物流不動産ストック中賃貸施
図1
大型先進物流施設の新規供給量(関西:2府4県)
(万坪)
15
設は全体の1割にも満たないとされ、
先進物流施設、
特にマルチテナ
ント型はさらに比率が低い。
首都圏を追う形でスタートした関西の
物流不動産賃貸市場であったが、
図1にあるように2010年以降現在
10
までの6年間で大型先進物流施設の供給がない年が半分を占めるな
ど、
市場形成の面では立ち遅れてきた。
5
新規供給が少ないなか空室は非常に少なく限定され、関西の物流
不動産賃貸市場はかなりタイトな需給状況が続いてきた。
2014年
2015年と複数の大型物件の開業が続いたが、竣工後間を開けずに
満室となるケースも少なくなく、現状の空室率も2%強と非常に低水
準に留まっている。通常、竣工後リーシング活動が本格化し1年以内
に決まれば良好な市場環境とされる物流施設賃貸としては、異例に
速いペースとなっている。
ここ数年国際的なディベロッパー・投資家に加え国内の大手ディベ
ロッパーも参入し大型の開発プロジェクトが相次いでおり、
2016年
以降2018年までの3年間は年平均で過去に比べ4倍近い高水準の供
給が予想されている。
この大量供給により、関西の物流不動産賃貸
市場にもたらされるのは、市況の長期低迷期入りであろうか、
それと
も、市場の形成が進み堅調さを増していくのだろうか。
JLLとしては後
者の可能性が高いと分析している。
4
JLL
0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
出所: JLL
(暦年)
需要構造は大きく変化すると予想
首都圏と同様に需要構造の変化が大きな要因になるが、
特に成長が
続くインターネット通販がより強い推進役となるとJLLでは予想して
図2
いる。
関西の大型先進物流施設のテナント構成
(2004年~2015年の新規供給分)
JLLは、
2004年から2015年の間に竣工した関西の先進大型物流施設の
テナント分析を行った。
3PLが床面積合計の60%と半分超の面積を占
35%
めている一方、
インターネット通販の比率は僅か5%に留まっている
(図2)
。
それ以外の35%が消費財などメーカー関係や卸売業者、
小売
60%
業者、
宅配便関係となる。
3PLの荷主の業種から分析すると、
食品・飲
■ 3PL
■ インターネット通販
■ その他
料に加え、
家電・機械、
薬品・化粧品など消費財メーカーが主体で、
衣
5%
料・アパレル・雑貨など小売関係が続き、
ここでもインターネット通販
が少ないのが特徴となっている。
関西での需要構造を中長期的にみると、
インターネット通販の比率
出所: JLL
が大きく拡大し、
3PLも伸びる一方、
メーカーや卸売・小売業者の比率
が縮小すると予想している。
JLLでは、
2016年から2020年の間に新規供
給される関西の先進大型物流施設について、
テナント構成をセクター
ごとに分析・予測した
(図3)
。
インターネット通販が、
新規供給床面積
図3
関西の大型先進物流施設のテナント構成予想
(2016年~2020年の新規供給分)
合計の48%と半分近くに達し、
3PLの比率は38%となるものと予測され
る。
インターネット通販と3PL経由以外については、
成長余地は相対的
14%
に低く新規需要も限られると考えられ、
新規供給床面積に占める比
率は低下し、
14%に留まると予測している。
需要の大きな構造変換が
38%
起こる可能性が高いとみており、
2020年時点でのインターネット通販
の比率は26%と現在の5倍強に達すると予想している。
■ 3PL
■ インターネット通販
48%
■ その他
出所: JLL
関西の物流不動産賃貸市場
5
インターネット通販中心に需要は旺盛と予想
JLLでは首都圏と同様、関西の物流不動産賃貸市場の市場データを
集計・分析し、将来予測を行っている。需要面では、先にみたように
インターネット通販や3PLを中心に旺盛な需要が期待でき、特に新
たに開業する大型先進物流施設にはその傾向が強まると考えてい
図4
大型先進物流施設の新規供給量(関西:2府4県)
(万坪)
25
23.3
る。前々回、JLLが発刊したレポート
「クリック革命」
では、インター
ネット通販の売上拡大による物流不動産の新規需要を予測してい
20
での6年間に必要とされる物流不動産の想定総面積は200万坪とな
15
19.7
る。
すなわち、
日本のインターネット通販売上の拡大により2020年ま
り、
これは年間平均で33万坪となる。
同レポートで示したように、総
務省の家計消費状況調査をベースとすると、関西の比率は15%とな
る。
インターネット通販売上拡大分による物流不動産の新規需要は
関西では2020年まで年5万坪と想定できることになる。
一方、図4にあるように関西の大型先進物流施設の新規供給
は、2016年から2020年までの5年間で、合計では72万坪、年平均で14.5
万坪が新規に供給されると予想している。
2004年から2015年までの
年平均供給量と比べると3倍という高い水準の供給となる。前記イ
ンターネット通販売上拡大による新規需要に3PLの新規需要分を加
え、
これら以外の統合・移転需要なども考慮に入れると、
この5年間
での新規供給にはほぼ十分な需要が期待できると分析している。
6
JLL
9.9 9.9
10
5
0
13.0
11.3
8.1
4.9
4.7
2.8
8.1 8.1
3.8
2.1
0.0 0.0
0.0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016F2017F2018F2019F2020F
出所: JLL
(暦年)
ここ3年高水準の供給が続くが、その後空室率は低下へ
ただし2016年から2018年の3年間の供給急増期は別の見方が必要と
たがって、
複数の大型物件の供給が予想される2017年年央から2018
なっている。
これは2004年から2015年までの年平均供給量と比べ、
3年
進物流施設全体の空室率は10%台後半に上昇すると予想している。
なろう。
年平均でも約19万坪、
特に2017年は23万坪を超える見込みと
平均でも3.9倍、
2017年単年では4.9倍となり、
数値的には2015年でも供
給実績比2.2倍であった首都圏をはるかに超える大量供給となる。
し
年は、
需要が追い付かなくなる可能性が高いと分析、
関西の大型先
その後2018年年末をピークとして、
空室率は低下に向かっていくと分
析、
その数年内には一けた台になる可能性も見ている。
インターネット通販向けはアップサイド大きい
前記、
関西の先進大型物流施設のテナント分析で、
インターネット
通販の比率は5%に留まっている。
前回JLLが発刊した
「首都圏の物流
不動産賃貸市場:揺籃期を脱し、
確立・成長期に」
で同様に首都圏の
先進大型物流施設のテナント分析を行っているが、
インターネット
通販は17%を占めており、存在感を増しているのと対照的となって
いる
(図5)
。
JLLでは、
供給面・需要面それぞれに要因があると分析し
ている。
まず供給面では、先に述べたように関西では需給がひっ迫した状況
が続きなかなか大型拠点にふさわしい入居可能な施設がなかった
ことが挙げられる。供給面の制約で潜在化した需要がある可能性
がある。
需要面では、関西での大型拠点整備の優先順位が低かったと考え
られる。関西は首都圏を含む関東に続く日本で第2の大消費市場で
ありインターネット通販市場でも同様だが、
その市場規模は3分の1
図5
大型先進物流施設のテナント構成
100%
90%
80%
70%
60%
■ 3PL
50%
■ その他
40%
■ インターネット通販
30%
20%
10%
0
関西
首都圏
関西 : 2004年∼2015年の新規供給分
首都圏 : 2010年∼2014年の新規供給分
出所: JLL
に留まっている。成長著しいインターネット通販で物流施設は
「売り
場」
として価値を生む非常に大事な存在だが、大型拠点整備は首都
圏が先行し関西は後回しとなりがちで、大手でも中型以下に入居す
るケースがみられる。
したがって、首都圏での整備が進んだ事業者か
ら、関西の本格的な拠点整備へと移行する可能性が高く、既存施設
からの大型施設への統合・移転需要が出てくることも十分ありえよ
う。潜在化していた需要が顕在化してくることも考えられる。
JLLでの
分析モデルでは、
これらの面は需要の付加的なプラス要素となる。
ま
た、千葉県湾岸部で見られたように新たな大型拠点整備が他の事
業者の新規拠点整備の呼び水になることも期待できる。
また、
イン
ターネット通販以外の業界に波及することも出てくると考えられる。
関西の物流不動産賃貸市場
7
道路ネットワークの改善続く
関西の物流不動産賃貸
市場は、黎明期から確立期に
日本の多くの大都市圏では、
道路ネットワークの改善が続いている。
JLLは、関西の物流不動産賃貸市場は黎明期から確立期を迎える可
線)
、
南北を結ぶ京奈和自動車道など整備が進んでいる
(図6参照)
。
の供給を契機に、市場形成が急ピッチで進みその基盤は堅固となっ
関西では、
東西を結ぶ新名神高速道路
(近畿自動車道名古屋神戸
名神自動車道・中国自動車道や近畿自動車道などのバイパスとなる
ため既存の幹線道路の渋滞緩和に寄与するほか、
速達性など交通利
便性が大きく向上することになり特に物流オペレーションにはプラス
能性が高いと分析している。
2016年から2018年に予想される高水準
ていくと予想している。関西の大型先進物流施設賃料も賃料下落リ
スクは大きくなく、
2020年に向けて堅調に推移すると分析している。
が大きい。
まず市場規模でみると2020年時点の関西の大型先進物流施設の合
2016年度は重要区間の完成・開通が多く予定されている。
まず、
新名
準となると予想している。
これは消費市場やインターネット通販市場
計床面積は130万坪に達し、首都圏の同床面積比で40%を超える水
神高速道路では
(仮)
高槻ジャンクション
(JCT)
と神戸JCT間の40.5キ
の規模と比べると、遅れを急速に取戻し一部では追い越した水準と
間が完成・開通予定となっている。
特に
(仮)
高槻JCTと神戸JCT間は、
型によりマッチする形となる。
ロメートルと、
(仮)
城陽JCTと
(仮)
八幡JCT間の3.5キロメートルの2区
中国自動車道の混雑区間である吹田―豊中―宝塚の北側内陸部を
結ぶバイパスとなり、
通過型の交通がシフトすると見込まれ、
大きな効
果が期待できる。
京奈和自動車道では大和御所道路区間の御所南イ
ンターチェンジ(IC)
と五条北IC間7.2キロメートルと、
紀北西道路区間
の岩出根来ICと
(仮)
和歌山JCT間6.5キロメートルが完成・開通予定
で奈良中央部と和歌山を内陸部で結ぶ幹線道路が完成することにな
る。
新名神高速道路が開通する北摂など関西の内陸部では、
これら
新規区間開通やネットワークの改善により新たな物流適地が誕生す
ることが考えられ、
関西の物流不動産賃貸市場の広がりや基盤形成
に寄与していくと予想している。
8
JLL
なる。
テナント構成もインターネット通販が存在感を大きく増し先進
図6
関西の幹線道路ネットワーク
滋賀県
京都府
琵琶湖
京
都
兵庫県
縦
貫
自
動
車
道
中国縦
山 陽自
断自動
動車道
車道
神
高
道
路
高槻
2016年度
神戸JC
名
速
第一
JC
T
T
新名神 高速道 路
八 幡 IC
城陽IC
2016年度
大阪府
2016年度
京奈和
自動 車
道
奈良県
2016年度
出所:国土交通省、
JLL
和歌山県
開通予定時期
関西の物流不動産賃貸市場
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賃料も高水準の供給を
乗り越え堅調に推移と予想
関西の大型先進物流施設賃料も高水準の供給を乗り越え堅調に推
移すると予想している。
まず、JLLのレポート
「首都圏の物流不動産賃
貸市場:揺籃期を脱し、確立・成長期に」
で分析・指摘したように、
「首都圏の先進大型施設賃料は上昇期入りした、
または上昇は必
然的で避けられなくなっている」
ことが大きい。首都圏でも供給増、
空室増を需要増で乗り越えていることが先例となる。
ディベロッパー
や施設オーナーでは、賃料交渉を優位に進められるという認識が広
がり始めている。物流J-REIT大手のGLP投資法人は、以前より賃料の
増額改定を経営のコミットメントの一つとして掲げ2%台半ばの増額
実績を達成してきたが、2016年2月期予想では関西所在の物件を含
め平均で11.8%の増額を予想しており達成はほぼ確実とのコメント
を決算説明会でしている。今後の新規供給物件についても手ごたえ
を感じているディベロッパーや施設オーナーが多く、強めの設定を
守る戦略も見られる。大型の物件が多く、
その分ディベロッパーや施
設オーナーの数が限定されることもプラス要素となろう。
JLLでは、需要のセクター別の分析・予測や、市場動向の分析・予測
を行い、関西の先進大型物流施設の賃料は、2016年以降2020年まで
の5年間の上昇率は合計6.2%となると予想している。
インターネット
通販を中心に旺盛な需要が予想されるものの、先に分析を示したよ
うに2016年から2018年の供給急増期を背景に2017年年央から2018
年は空室率が10%台後半まで上昇することから賃料は踊り場となる
ものの、
その後は上昇基調に戻ると分析している。
この賃料予測で
も、2020年の予想月額賃料は坪当たり4,000円弱となり、
よく言われた
3,500円の水準は過去のものとなる。
また首都圏の同賃料と比べても
その差は20%弱となり、
オフィスなど他のカテゴリーと比べてもギャッ
プは非常に小さい。
10
JLL
関西の物流不動産賃貸市場
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