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平成 23 年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究成果報告書
殿
申 請
者
所 属
代表者氏名
自然科学系(農学部)
渡邉 剛志
印
本年度の交付を受けたプロジェクト推進経費について,下記のとおり報告いたします。
プロジェクトの種目:発芽研究
プロジェクトの課題:高速原子間力顕微鏡の結晶性構造多糖分解メカニズム解明への応用による
新らたな酵素科学研究領域の開拓
プロジェクトの代表者:所属 新潟大学・自然科学系(農学部)
職名 教授
氏名 渡邉 剛志
分担者 2人
プロジェクトの成果:
(別紙可)
本プロジェクトの目的は、端緒が開かれて間もない高速原子間力顕微鏡の結晶性構造多糖分解メ
カニズム解明への応用を世界に先駆けて推進し、
「これまで間接的な方法で推定されて来た結晶性多
糖分解のメカニズムを、一つ一つの分子の動きと働きのレベルで明らかにする」ことである。特に
本研究では、結晶性多糖のうち最大の未利用バイオマス資源と呼ばれる結晶性構造多糖キチンに焦
点をあてて研究をおこなった。結晶性キチン分解機構の解明は、酵素科学的に重要であると同時に、
様々な役割を果たすキチナーゼの生態学的機能の理解、未利用バイオマス資源であるキチンの有効
活用にも不可欠である。
“水溶性の蛋白質である酵素が、どのようにして結晶性で固体の基質を分解
できるのか?”という問題の解明は極めて興味深い挑戦的な課題である。また、キチンは地球上で
最も大量に生産される未利用のバイオマスであり、その酵素分解メカニズムの解明はこの巨大なバ
イオマス資源の有効活用のために不可欠である。
これまでの研究により、結晶性キチン分解における、キチナーゼ分子表面および活性クレフト内
部の芳香族アミノ酸残基の重要性が明らかになって来た。このことを踏まえて、本研究では大きく
分けて3つの項目に関して研究を行い、次の様な成果を得た。
1)結晶性構造多糖(キチン)のプロセッシブな酵素分解モデルの検証と深化
申請者らは「結晶性キチンのプロセッシブな分解モデル」を提案している。この「プロセッシブな
分解」こそが、結晶性構造多糖の酵素分解メカニズムの中心的な概念である。これを実証し深化させ
ることにより、結晶性構造多糖分解メカニズムの最も本質的な部分を明らかにすることができる。
昨年度までの実験で、プロセッシブな分解にともなうと考えられる酵素(キチナーゼ)の移動を高
速原子間力顕微鏡で直接観察することに成功した。このキチナーゼの結晶性キチン上の移動が、キチ
ン鎖の分解反応の結果であるのかどうかを確認する必要がある。そこで、まずファミリー18キチナ
ーゼ(結晶性キチン分解活性が高いキチナーゼが含まれる)の特異的な阻害剤であるアロサミジンの、
Serratia marcescens キチナーゼ A (ChiA) の酵素活性に与える影響を詳細に分析した。次に、キチナー
ゼ A の酵素活性の阻害が、結晶性キチン表面における動き(移動)にどのような影響を与えるかを高
速原子間力顕微鏡を用いて観察した。その結果、キチナーゼ活性の阻害によりキチナーゼの移動が停
止し、結晶性キチン表面におけるキチナーゼの動きがキチン鎖の分解にともなうものであることを証
明することに成功した。
(注)報告書は2枚以上とする。別紙による場合も同じ。
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2)結晶性構造多糖分解酵素の局所構造の機能検証とさらなる機能解明
結晶性キチンを効率的に分解するキチナーゼの分子表面には複数の芳香族アミノ酸残基が存在す
る。これらの芳香族アミノ酸残基は、
「結晶性キチン表面への酵素の局在化(結合)
」に加えて、「プ
ロセッシブな分解にともなう結晶性キチン表面における酵素の移動」重要な役割を果たすと予想さ
れる。このような芳香族アミノ酸残基の機能を検証するため、S. marcescens キチナーゼ B(ChiB)
の分子表面に露出した4つの芳香族アミノ酸残基を標的として、部位特異的変異によって Trp(W)を
Tyr(Y)に、Y を W に置換した6種の変異 ChiB 遺伝子を構築した。そして、それらがコードする変異
ChiB すべてを大腸菌を用いて発現生産し、精製した。得られた精製変異 ChiB を用いて、高結晶性
β− キチンに対する分解活性や結合活性への変異の影響を調べた結果、Y を W に置換した変異型 ChiB
では野生型酵素に比べて基質への結合力が増大することが、W を Y に置換した変異型酵素では基質
との結合が低下することが分かった。また、Y240W を導入した変異型 ChiB(WWWY, WWWW)は,著しく分
解活性が低下した。さらに、キチナーゼ分子の基質上での動きを高速原子間力顕微鏡を用いて観測
したところ、アミノ酸置換により基質に結合する分子数や酵素の移動速度が変化することがわかっ
た。 これらの結果から、ChiB 分子表面の4つの残基は基質との結合と分解両方において重要な残
基であり、特に Y240 はキチン鎖をクレフト内部に導くのに重要な残基でることを明らかにすること
が出来た。
3)結晶性構造多糖分解酵素の分解方向性と相乗効果
高速原子間力顕微鏡は酵素の動きを直接捉えるために、結晶性構造多糖分解酵素の分解方向性に
関して疑問の余地のないデータを与える。これまでの研究で、S. marcescens の ChiA および ChiB
がキチン鎖を逆方向から分解することが間接的な手法を用いて明らかにしてきた。そして、最近、
高速原子間力顕微鏡によって実際に ChiA と ChiB が結晶性キチン表面を逆方向に移動する様子を
直接観察することに成功した。この、ChiA および ChiB の逆方向からの分解は、ChiA および ChiB
が結晶性キチン分解において相乗効果を発揮する主要な要因であると考えられる。
以上の経緯を踏まえて、より結晶性キチン分解活性が高いキチナーゼとして Bacillus circulans
のキチナーゼ A1
(ChiA1)
と放線菌 Streptomyces coelicolor のキチナーゼ Chi18aC を選択し、
ChiB
によりこれらのキチナーゼの分解効率をさらに向上させることが可能かどうかを調べることにし
た。ChiA1 および Chi18aC はその立体構造から、S. marcescens の ChiA と同様キチン鎖を還元
末端側から非還元末端側に向かって分解すると判断される。まず、これらのキチナーゼの生化学的
性質を、結晶性キチンを含む種々の基質に対する分解活性を中心に解析した。その結果、これらの
キチナーゼはα-キチン(自然界により豊富に存在しより強固な結晶構造を持つ)の分解性に優れて
いることがわかった。従って、ChiA1 および Chi18aC は未利用バイオマス資源であるキチンの利
活用に適している。次に、ChiA1 および Chi18aC による結晶性キチン分解への S. marcescens の
ChiB の影響を分析した。その結果 ChiB は、ChiA1 および Chi18aC に対しても、結晶性キチン分
解において相乗効果を発揮することがわかった。これらのことから、S. marcescens の ChiB は、多
くのキチナーゼおよびキチン分解酵素系の分解効率を向上させるツールとなり得ることが示され
た。
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
(別紙可)
学会発表
1. 「Serratia marcescens キチン分解利用関連遺伝子の遺伝子破壊」
高野慎也、佐々木直美、本間祥太、小川知佐奈、杉本華幸、鈴木一史、渡邉剛志
日本農芸化学会 2012 年大会
2. 「立体構造の異なるキチナーゼによる各種キチンの分解特性」
竹本由衣、大塚未来、中川裕子、戸谷一英、鈴木一史、渡邉剛志
第 25 回キチン・キトサンシンポジウム(2011 年)
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収支決算書
単位:円
863,000 円
配分額:
費目別収支決算表
設備備品費
消耗品費
0
旅
費
863,000
謝金・賃金
0
そ の 他
0
合
0
計
863,000
設備備品費内訳
設備備品名
仕様・型式等
数 量
単
価
金
額
0
計
消耗品費内訳
品
目
数 量
単
価
金
額
ガラス器具、プラスチック器具類
26
223,779
微生物培養用培地および一般試薬
24
153,475
DNA 関連試薬、キット類
14
379,417
8
106,329
その他
863,000
計
旅
費 内訳
事
項 ・ 出張先
回 数
単
価
金
額
0
計
謝 金 ・ 賃 金
内訳
事
項
員 数
単
価
金
額
0
計
そ
の 他 内訳
事
項
員 数
単
価
金
額
0
計
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