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フラストレートしたダイマー系SrCu_2(BO_3)_2における
中性子散乱実験(京大基礎研短期研究計画「フラストレー
ションとカイラル秩序」,研究会報告)
加倉井, 和久
物性研究 (2000), 75(1): 85-88
2000-10-20
http://hdl.handle.net/2433/96885
Right
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
「
フラス トレーションとカイラル秩序」
フラス トレー トした ダ イマ ー 系
Sr
Cu
2(
BO 3)2にお け る中性 子 散 乱 実験
東京大学物性研究所附属中性子散乱研究施設
加倉井和久
概要
Sr
Cu
2
(
BO,
)
2は隣接するダイマーが直交 してお りダイマー間の相互作用 (
J
l
=68
K)がダイマー内の相互
作用 (
J
=1
0K) に比べ比較的大きいために比較的強く結合 している、フラス トレー トした二次元ダイ
マー系としてみなすことが出来る。この系はダイマーの直交性から有限のダイマー間相互作用がある
にもかかわらず、基底状態が厳密にダイマーの基底状態の横として理論的に記述できる。中性子非弾
性散乱実験によりこの系のスピン ・ダイナ ミックスがダイマーの直交性を反映して極端に局在する ト
V)により形成されることが明らかになった。また磁場中高分解能中性子散乱
リプレット励起 ¢-3me
実験により波数によっては零磁場中で トリプレットの締態がすでに解けていることが明らかになった。
古典ス ピン系 と しては記述 で きない量子 ス ピン揺 らぎを持つ基底状態の研究が近年盛んに
行われてい る。 これは主 に飼酸化物高温超伝導体 において検 出され た二次元ス ピン相関の
発見 によるところであ るこ とは明 らかで、 この研究 に ともない数 々の新 しいシング レッ ト
基底状態 を持 つ低次元磁性 系が発見 され た。ハルデー ン、ス ピン ・バイエルス、梯子、 ブ
ラケ ッ ト系等がその例 であ る[
1
】
。 これ等の系のス ピン ・ダイナ ミックスの特徴 は非磁性 シ
ング レッ ト基底状態 か ら第一次励起状態へのエネルギー ・ギャ ップを持つ ことであ り、量
子ス ピン揺 らぎの現象の典型的な もの と して解釈 で きる。 しか しこの様 な量子ス ピン系 に
おけ るフラス トレー シ ョンの効果 については理解 が深 い とは言い難 い。例 えばス ピン ・バ
Ge
03 の最隣接相互作用 と競合する第二次隣接相互作用がシングレッ ト基
イエルス物質 Cu
2】
。そこで競
底状態の形成 に どの程度重要な役割 を果 たすのかは現在 でも論争の的である【
合量子ス ピン系におけるス ピン ・ダイ ン ミックスが興味の対象 とな って くる。
S
r
Cu
2(
BO つ)2は s
rと Cu
BO 3両か ら構成 され る
正方単位格子 を持 つ物質で、 図 1に模 式的 に
b面上 に投影 した Cu
BO 3 面内で
示すようにa
04がダイマー を形成 し、
は最隣接の二つの Cu
03 で結合 している
隣のダイマーと直角に B
[
3
]
.図 1中の実線はダイマー内相互作用
点線はダイマー間相互作用
(
J
)
,
(
J
)を現わす。 こ
の図か ら明 らかな ように隣接 したダイマーの
直交配置によ り J
-がフラス トレー ションの原
4
】 はこのa
b面内の相
因 とな る。宮原 と上田【
h
a
s
t
r
y
S
u
t
h
e
r
l
a
n
d格
互作用ネ ッ トワー クが S
子 [
5
] にマ ップ出来 ることを指摘 した。この
格子の特徴は有限のダイマー間相互作用 が存
在 するのにもかかわ らず、基底状態 が厳密 に
図 1:cuBO3面の模式図。
ダイマーの基底状態の積 として理論的に記述
-
8 5
-
研 究会報告
0 0
0 0
5 4
0
0
3
I
至 II
I
王
王
0
0 0
つJ l
L■
に召、
00Kと
によ りこの系の帯磁 率実験結果 がJ=1
J
■
=68Kの両相互作用 を持つSha
s
t
r
ySut
he
r
l
a
nd
格子で理解で きることを示 した この結果は
。
…
三
重
窺 轟転 竃
5
E
(
m
e
V
)
1
0
0
0
(
U!
u
J
s∼)
q
oo96U
OE\
S
I
UnOU
l
できることである。宮原 と上田は数値対角化
15
Sr
Cu2(
BO 3)2 が顕著な競合量子ス ピン系とし
てみなせ ることを意味する。
中性子非弾性散乱実験は 日本原子力研究所改
3号 炉 に設 置 さ れ た 熱 中性 子 三 軸 分 光 器
I
SSPPONTA及び La
ueLa
n
ge
in研究所高束
v
N1
2
研究炉に設置された冷中性子三軸分光器 I
で行われた。図 2a
)
に熱中性子三軸分光器 (
ェ
ネル ギー分解能約 1
meV)で得 られ た典型的
な低温 スペ ク トル (白丸) と高温スペ ク トル
me
Vのエネルギー
(
黒丸)を示す。低温では3
遷移に分解能 と同 じ幅を持つ鋭い励起 ピーク、
5meVのエネル ギー遷移 にやや分解能 よ り幅
Vか ら12me
V
の広い励起 ピー ク、そ して6me
に幅広 く広 がる励起群 が見え る。高温ではこ
れ等のスペ ク トル構造は無 くな っていること
か ら上記の励起は磁気的励起 であ ることが明
) はこれ らの励起の波数依
らかである。図 2b
存性 を纏 めたものであ る。3meVの励起 ピー
Vの励
クはほ とん ど分散 を持 たないが、5me
起 ピー クは約
1.
5me
V程度の分散幅を示 し、
6me
Vか ら1
2me
V の幅広い励起は全領域で観
(
2,
0,0
)
,
1
,
0
)
(
1
(
2,
0・
5,0
)
(
1
・
5,0・
5,
0
)
0
,0
)
(
3,
(
1
,
0
,0
)
(
2,
0,
0
)
(
2,
0
,0
)
測 され る。ダイマー非磁性基底状態か ら第一
トリプ レッ ト励起状態への遷移であ ると考え
Vの励起 ピー クの波数依 存性 を冷
られ る3me
図 2: ゼロ磁場 中熱中性子非弾性散乱実験結果
咋f
:
2
.
6
7
Å1
)
。
a
)Q:
(
2
,
0,
0
)におけるスぺク トラ。
b
)ど-ク ・エネルギーの波数依存性。縦棒 は観測
された線幅 を表す。
中性 子 三 軸 分 光 器 (エ ネ ル ギ ー 分 解 能 約
0.
2me
V)でさらに詳細に調べた結果が図 3に
示 してある. 図 3の挿入図はスぺク トラのピー
ク位置及び線幅 を ga
us
s
i
a
nf
i
tによ り求めた結
果で、縦棒はエラーではな く線幅 を表わす。
この高分解能で観測 しても分散幅は0.
2me
V以下であ ることが明瞭である。これは フラス ト
レー トしたダイマー直交系の特徴的な局在化 した第一 トリプレッ ト励起状態 を反映するも
ので、理論的には第一 トリプレッ ト励起状態が第 6次項 まで を含 んだ摂動計算で初 めて隣
=1
00Kから予想 さ
のサイ トに移動で きる事実 を反映 している。そ してダイマー内相互作用 J
-8
6-
「フ ラス トレー シ ョンとカイ ラル秩序」
れ る8.
6meVよ りも小 さいギ ャ ップ ・エネル
ここでは高分解能測定 による線幅の波数依存
00
0
1
6
】を参照 されたい。
は文献 [
OO t\SIU nOU)音 SUaluI
る。5
me
V及び 6か ら 1
2me
V の励起 の考察
(U心
J'
/
J
=qc
)近傍 に位置することを示唆す
界点 (
S
O
A/
J=0.
35)
は この Shas
t
r
yギ ーA=3meV(
Sut
he
r
l
a
nd
格子系がダイマー相 と秩序相の臨
性の詳細 を議論する。図 3の挿入図に示 され
た線幅は同図に示 してあ る分解能 と比較 して
3
2
(
1・
5,
0・
5,
0)
で は そ れ と同 じで あ るの に、
4
5
6
En
e
r
gy(
me
℃
(
1
,
0,
0) か ら(
2,
0,
0)
方向に関 してはそれ よ り
0%程広いことが明 らかである。この線幅
も5
図 3:ゼ ロ磁 場 中冷 中性 子非弾性散乱 実験結果
の起源 を探 るため散乱面に垂直な磁場 中にお
¢f
-1
・
5
5
Å 1
)
o Q=
(
1
,
0
,
0
)
,(
1
・
5
,
0
,
0
)
,(
1
・
5
,
0
・
5
,
0
)におけ
1,
0,
0)及 び
け る実 験 を行 っ た 。 図 4に (
る第- トリプレッ ト励起のスぺ ク トラ。
挿入図 :第- トリプレッ ト励起エネルギーの波数
(
1・
5,
0.
5,
0)
における 6
Te
s
l
a磁場 中のスペ ク ト
ルを示す。前者の波数では Ze
e
ma
n分裂 した
依 存性 。縦棒 は si
ngl
ega
u
s
s
i
n f
a
l
tによ り求め られ
た線幅 を示す。
モー ドが二つに分裂 しているのに対 し、後者
では単独 ピー クになっているのが明 らかであ
でに分裂 していることを明 らかに してい る。
0
つの ピー クと磁場依存 しない単独 ピー クにす
0
5
裂する以前 に磁場依存する0
.
3
me
V 離れた二
0
0
1
1
,
0,
0) において
にな っている。この結果は (
ema
n分
零磁場 中で観測 された有限の幅はZe
(
Ua SOOO tJSl
un
O
D
) ^1!Sut
au
I
る。 そ して更に (
1
,
0,
0)の磁場に依存 しない
3me
V の ピー クの線幅は分解能のそれ と同 じ
この結果は野尻等 による磁場 中ESR実験結果
0
1.
5,
0・
5,
0)
の結果 はこ
【
7】とも整合 してい る。(
の零磁場 中における分裂が波数依存性 を持つ
2.
0
4.
0
Ener
gy(
me℃
i
ngl
e
ことを明 らかに してお り、 この分裂が s
s
i
t
e効果では解釈で きない ことを示唆 してい
3.
0
図 4 :6
T磁場 中の冷 中性 子非弾性散乱実験結果
る 。 Cepas等 に よ り ダ イ マ ー 間 の
¢f
-1
・
5
5
A1
)
oQ(
1
,
0
,
0
)
,(
1
・
5
,
0
・
5,
0
)におけるZe
e
ma
n
Dz
i
a
l
os
hi
ns
ki
Mor
i
ya相互作用導入によ りこ
分裂 した第一 トリプレッ ト励起。
の様 な波数依存性 を理解で きることが指摘 さ
れてお り[
8】
、 この解釈 を検証する詳細な波数依存性の実験は近い将来予定 されている。
この研 究 は東 大 物性 研 物 質 設 計評価施 設 の蔭 山、 上 田 (塞 )両氏 、 フラ ンスCENGの
Re
gna
ul
t
,Gr
e
ni
e
r
,F¢k各氏、東大物性研 中性子散乱研究施設の阿曽、温井、 中島、西各氏
との共同研究であ る。
-8
7-
研究会報告
Re
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