海外調査報告(OECD)

資料2-1
海外調査報告
(OECD)
平成28年4月15日
経済成長と財政健全化の両立①
○ 日本のように財政状況が極めて厳しい国においては、一定の歳出・歳入項目を対象とした財政健全化では
なく、あらゆる分野での歳出抑制・税収増を図っていく必要。財政健全化を進めるに当たっては、OECDへの
ヒアリングによれば、経済成長が期待通りにいかないこともあることから、堅実な経済前提を置くことが重要。
○ また、OECDへのヒアリングによれば、中長期的に財政健全化を行う場合には、労働市場改革などの構造
改革が、経済成長と財政健全化の両立を補完する役割を果たすと考えられる。
【持続可能な財政の構築に必要な健全化の規模(構造的基礎的財政収支対GDP比)】
<日本の健全化パス>
左棒グラフ:短・中期的に必要な健全化の規模
右棒グラフ:長期的に必要な健全化の規模
健
全
化
の
規
模
構
造
的
基
礎
的
財
政
収
支
(
対
G
D
P
比
)
短中期的に必要な
健全化の規模
長期的に必要な
健全化の規模
<試算の前提>
○2060年に債務残高対GDP比が60%で安定することを前提。
○上記を達成するため、各国は2012年より必要な一定の時期まで毎年対GDP比1%(日本のみ1.5%)の健全化を行うと仮定。
○健全化を行った場合の構造的基礎的財政収支と健全化を仮定しないベースラインケースにおけるそれとの差がピークを迎えた際の当該差額
を「短中期に必要な健全化の規模」、2060年における当該差額を「長期に必要な健全化の規模」と定義。
1
※Cournède.B , A.Goujard and Á.Pina (2014), “Reconciling fiscal consolidation with growth and equity”, OECD Journal: Economic Studies, Vol. 2013/1.
(年)
経済成長と財政健全化の両立②
○ その上で、歳出・歳入両面で政策の中身を吟味し、可能な限り成長を阻害しない形で予算の重点化を
図っていくことが重要。歳出面では補助金、社会保障給付の抑制、歳入面では環境税の強化などが、成長
との両立が比較的可能であるとの分析がある(他方、「公平」とのトレードオフにも留意が必要)。
○ ただし、上記の分析(下表参照)の結果はあくまで各国の平均に過ぎず、OECDでのヒアリングによれば、
例えば、日本のように既にストック整備が比較的進んでいる国にとっては、公共投資が長期的な成長に十分
な効果をもたらすとは限らない。各国平均という一律の結果に過度に依拠するのではなく、各々の経済社会
状況に応じた重点化を検討する必要。
○各歳出項目の削減による経済成長等への影響
経済成長
公平
○各収入項目の増加による経済成長等への影響
経常
収支
短期
長期
短期
長期
教育
--
--
-
--
+
健康
--
-
-
-
その他政府消費
(家族政策除く)
--
+
-
年金
++
経常
収支
長期
短期
長期
個人所得課税
-
--
+
+
++
社会保険料
-
--
-
-
+
法人所得税
-
--
+
+
環境税
-
+
-
+
消費課税
-
-
-
++
固定資産税
-
その他資産課税
-
売却収入
-
疾病・障がい
-
+
--
失業
-
+
-
家族
-
-
--
--
+
補助金
-
++
+
+
+
--
--
公共投資
公平
短期
++
-
経済成長
++
++
+
++
+
+
++
+
+
-
-
+
++
※Cournède.B , A.Goujard and Á.Pina (2014), “Reconciling fiscal consolidation with growth and equity”, OECD Journal: Economic Studies, Vol. 2013/1.
2
財政健全化に向けた取組
○ OECDへのヒアリングによれば、財政健全化にあたって重要なことは、憲法や基本法に健全化のルール
を盛り込むなど、財政規律の実効性を高め着実に健全化を進めることである。
○ EUにおいて用いられている構造的財政収支は、景気循環の影響が除かれるという特徴がある一方、その
算出に用いられる潜在GDPや歳出・税収弾性値が、用いるデータや推計方法によって大きく変化するといっ
た欠点がある。また、専門的な知識が必要であり国民に理解されにくいといった問題もある。
<構造的財政収支のイメージ>
【2007年のGDPギャップの推計値の変化】
○データや推計方法の変化により大きく変化
構造的財政収支
= 構造的収入 - 構造的支出
𝐴∗
=𝐴×
𝜀
𝑌∗
𝑌
2008年推計
2015年推計
アメリカ
0.4
2.6
日本
0.5
2.5
ドイツ
0.5
2.3
フランス
0.3
2.3
イギリス
0.2
3.4
【弾性値の変化例】
構造的収入(支出)【左辺】は、実際の収入(支出)を、
潜在GDPと実際のGDPの割合(GDPギャップ)に
収入(支出)弾性値を累乗したものを乗じたもの【右辺】
⇒潜在GDPと実際のGDPの差の分だけ調整したもの。
なお、収入、支出はGDPより大きく(小さく)変化することから、
その分を弾性値によって調整。
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項目
2005年推計
2015年推計
所得税
1.80
(対賃金)
1.83
(対収入)
法人税
1.50
(対GDPギャップ)
2.11
(同左)
失業手当
▲4.9
(対GDPギャップ)
▲3.91
(同左)
ポイント
○ 日本のように財政状況が極めて厳しい国においては、あらゆる分野での
歳出抑制・税収増を図っていく必要。その際、経済成長が期待通りにいかな
いこともあることを踏まえた堅実な目標を置くことが重要。また、労働市場改
革などの構造改革が、中長期的な経済成長と財政健全化の両立を支える
役割を果たすと考えられる。
○ その上で、歳出・歳入両面で政策の中身を吟味し、可能な限り成長を阻害
しない形で予算の重点化を図っていく必要(他方、「公平」とのトレードオフに
も留意が必要)。
○ その際には、例えば、既に資本ストックが比較的高い国にとっては、公共
投資が経済成長に十分な効果をもたらすとは限らないなど、その時々の経
済社会状況を踏まえた重点化が重要。
○ 財政健全化の実現に向けて重要なことは、憲法等に健全化ルールを盛り
こむなど、財政規律の実効性を高める取組である。
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