Forex 株式会社 ジャパン エコノミックパルス Market Insight 平成28年4月4日(月) 〒107-0052 東京都港区赤坂1-14-5 Tel 03-3568-2973 Fax 03-3568-2977 www.j-pulse.co.jp [email protected] 複合的な円高圧力の持続と歯止めにらむ FRB幹部発言、米指標、原油、日本の政策焦点 今週の為替相場は、複合的な円高圧力の持続と歯止めをにらむ展開となる。週間予 想はドル/円が110.00-113.00円、ユーロ/円が125.30-128.20円。前週からはイエ レン米FRB議長の利上げ慎重発言がドル安、米国の実質金利(名目金利-インフレ 率)低下がドル安、産油国の増産凍結交渉の不透明感が原油安と資源国通貨の反 落、日本での円高と株安の共振連鎖などにより、円高が後押しされている。一方で 今週以降はFRB幹部発言や米国指標、原油動向、日本の政策地ならし次第で反動余 地も残されている 円ロング膨張はCTA中心、変わり身の早さ警戒 「シカゴIMMでの投機的な通貨先物ポジション(国際通貨市場、非商業部門)では 円ロングの高止まりが続いているが、過去に比べてCTA(商品取引業者)の占める 比率が格段と上昇している」――。 アジア系ヘッジファンド幹部はこう指摘しながら、CTA特有の変わり身の早い持 ち高修正に注意を払う。 シカゴIMMの円ポジションは最新3月29日週に、差し引き+5万4387枚のネット円 ロングとなった。前週の+5万3346枚から、2週連続で買い持ちが増加している。3 月29日以降の円高により、円ロングは一段と拡大している可能性があるが、直近最 高である3月8日週の+6万4333枚や、2008年3月の+6万5920枚の方向への円買い余 力は残されたままだ。 一方で円ロングが+5万枚から+6万枚という過去最高水準で高止まりしながら、 ドル/円は3月17日の110.66円前後という直近ドル安値以降、110-113円といったレ ンジでドル安・円高の勢い自体は減退している。引き続き短期ポジション調整を経 ながらの円買い・ドル売り戦略の継続は意識されるが、「変わり身の早い」CTAの 特性からして、円の上値余地(ドルなどの外貨下値余地)が限られてくるや、巨額な 円ロングが巻き戻される円売りエネルギーも累増されている。 おりしも米金融大手ゴールドマン・サックスの新興市場マクロ担当チーフストラ テジストは4日、「中国と日本で追加緩和が見込まれるため、人民元と円は少なく とも2008年以来の安値まで下げる可能性が高く、アジア通貨は下落に転じる」と予 測。ドル安・円高の一般見通しが広がる中にあって、「今後1年で1ドル=130円方 向にドル高が進む」という見通しを示した(ブルームバーグ)。同氏は新興国市場 に悲観論が蔓延していた昨年11月の段階で、「新興国市場が2016年に持ち直すと正 確に予測していた」(同)という。 もっともこうした逆張り見通しは少数派であり、今週も複合的な円高圧力が警戒 される。前週以降、米FRBの慎重な利上げ見通しが広がっており、ドルは昨年まで に「過度なFRBの利上げ織り込み」で記録的なドル全面高が加速されてきた分だ け、反動修正的なドル売り戻しが根強い。しかも米国では平均賃金などのインフレ 指標が改善する一方、金利は低下傾向を維持させていることで、「名目金利-イン フレ率」で算出される実質金利が押し下げられている。 また、米国では最新3月の製造業景況指数や消費者信頼感指数が軒並み改善と 1 Market Insight なっているが、裏表で期待インフレ率が修復されてきた。日本では期待インフレ率 の低下が円高要因となっているが、反対に米国では期待インフレ率の上昇が「昨年 までのドル過大評価」を修正させるドル安圧力となっている(デフレは通貨高、イ ンフレは通貨安の要因)。 その他、前週末1日の原油相場では、サウジアラビアのムハンマド副皇太子が、 「増産方針を堅持するイランも含めたOPEC加盟・非加盟の主要産油国すべてが増産 凍結で合意なければ、サウジは凍結に踏み切らない」と表明した。原油相場が再下 落となっており、資源国通貨(豪ドル、NZドル、カナダ・ドルなど)の反発一服やリ スク回避により、改めて円高を促す構図になっている。その他の注目ポイントは以 下の通り。 <FRBの金融政策の行方> 今週も為替相場では、FRB幹部の発言に一喜一憂が見込まれる。とくに7日にはイ エレン議長が、バーナンキ氏、グリースパン氏などFRB議長経験者と対談を行う予 定になっている。 前週3月29日にはイエレン議長の利上げペース慎重発言がドル全面安を促した が、4月1日には米国の雇用統計や平均賃金、ISM製造業景況指数などが揃って改善 となっている。米国株は米国の指標改善でも「FRBは利上げを急がない」という安 心感により、再上昇となってきた。しかし、このままNYダウなどが過去最高値の更 新方向に向かうと、FRBによる6月利上げのみならず、4月利上げのシナリオが再燃 する可能性は排除できない。その意味で今週以降は、市場の過度な「利上げ遅延へ の安心感」を牽制するようなFRB幹部の発言に注意を要する。 <米国の労働参加率の急激な改善> 1日の3月米雇用統計や平均賃金は改善したものの、FRBによる慎重なペースでの 利上げ見通しを修正させるほどの力強さには欠けた。しかし、FRBが長らく懸念し てきた労働参加率は63.0%となり、市場予想や前月の62.9%を上回る改善上昇と なっている。直近最低である昨年9月の62.4%からは、急激な上昇を記録。6カ月間 で+0.6%というプラス幅は、実に1992年6月以来の大きさとなっている。 円実効相場;20カ月移動平均線を中央値のボリンジャーバンド (英国中銀算出、軸を上下反転)、ドル/円 115 123 131 139 147 155 163 171 179 187 145 135 ↑ ↑ ↑ 円安↑ 円高↓ Mar-16 Jul-15 Nov-14 Mar-14 Jul-13 Nov-12 Mar-12 Jul-11 Nov-10 Mar-10 Jul-09 Nov-08 150 140 ↑ 米労働 参加率 底入れ ↑ 120 110 円 67.1 66.5 65.3 64.7 64.1 90 80 70 ↑ 63.5 62.9 62.3 Nov-14 Nov-12 Nov-10 Nov-08 Nov-06 Nov-04 Nov-02 ドル/円(左軸) バンド上限 バンド下限=109.98 36カ月平均=110.85 労働参加率(右軸) 18カ月平均 Nov-00 Nov-98 Nov-96 Nov-94 Nov-92 Nov-90 Nov-88 Nov-86 禁無断転載・転送 95 65.9 100 円 105 75 ドル/円;20カ月移動平均線を中央値 ボリンジャーバンド、36カ月移動平均 米労働参加率、18カ月移動平均 130 115 85 Mar-08 Jul-07 Nov-06 Mar-06 Jul-05 Nov-04 Mar-04 Jul-03 Nov-02 Mar-02 Jul-01 円実効(左軸) バンド上限 20カ月平均 バンド下限 ドル/円(右軸) 節目 攻防 125 % 2 Market Insight 3月の失業率は前月の4.9%から3月は5.0%に上昇・悪化となったが、これは失業 して長く職探しをあきらめていた人たちが、労働市場に戻りつつあることを示す良 いシグナルだ。米国では労働市場の長期悪化トレンドが底入れ反転したことで、 FRBの過度な利上げ遅延観測やドルの先安見通しが修正される可能性は残されてい る。 <原油増産協議の不透明感と資源需要回復> 原油相場は前週末にサウジが増産凍結に慎重姿勢を示し、4月17日にドーハで開 催される原油増産凍結の会合への期待感が後退した。WTI原油先物は昨年5月以降の 高値から直近安値のフィボナッチ分析「38.2%戻し」である1バレル=40ドル超え を達成したこともあり、一旦の利益確定売りに押されている。連動する形で、資源 国通貨の反発も一服となってきた。 もっとも資源相場や資源国通貨に先行性があるバルチックドライ海運指数は、前 週の原油反落局面でも緩やかな反発地合いを維持させている。前週は米国や中国で 経済指標の改善が相次いだこともあり、過度な世界経済の減速懸念や資源需要の急 減リスクが一服となってきた。海運指数は昨年8月からの先行暴落と今年2月での先 行底入れを経て、100日移動平均線、13週移動平均線といった節目ラインを上抜け 突破している。過去には原油相場や資源国通貨も追随上昇となっており、双方とも に現在の調整反落を経たあとの下値固めと下限の切り上がりは無視できない(円高 抑制)。 <ギリシャ不安再燃の行方> 前週の欧州市場では、ギリシャ支援の条件となっている改革の進展状況に関する 国際債権団による審査が6月か7月まで長引いた場合、ギリシャはデフォルト(債務 不履行)やユーロ離脱のリスクに再びさらされる可能性が浮上してきた。内部告発 サイト「ウィキリークス」は3日、IMFが欧州各国にギリシャ債務軽減を受け入れさ せるため、支援撤退の可能性を検討したことを示す内部文書を公開している。 為替相場でのユーロは現在、ECBによる利上げ休止思惑やFRBの利上げ遅延見通し などにより、ユーロ高・ドル安方向に振れている。ユーロ/円でもユーロが下限を 切り上げてきた。しかし、これから6-7月にかけてギリシャ不安が再燃した場合、 英国のEU離脱問題とあいまって、ユーロ安とポンド安、リスク回避の円高に拍車が 掛かる地雷リスクには注意を要する。 バルチックドライ海運指数とWTI原油先物;週足・一目均衡表の転換線 海運(左軸) 100 90 原油(右軸) 80 転換線 70 60 ↑ 50 40 30 20 10 1,660 転換線 1,460 1,260 1,060 860 660 転換線を上抜け 方向も上向き化 460 260 Apr-16 Jan-16 Oct-15 Jul-15 May-15 Feb-15 Nov-14 Aug-14 Jun-14 Mar-14 Dec-13 Sep-13 Jul-13 Apr-13 Jan-13 Oct-12 Aug-12 May-12 Feb-12 Nov-11 Aug-11 Jun-11 Mar-11 ㌦ お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提供、再 配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させることは出来ま せん。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。また、これらの 情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を負いません。本レポートの 内容は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。投資にあ たっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。 禁無断転載・転送 3
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