富山発, 地産地消の 海洋バイオマス活用の研究開発 富山大学大学院理工学研究部 (理学) 助教・酒徳昭宏 -概要-富山県内だけでも年間約10 t のコンブが焼却処分されている。そのような 廃棄海藻の減容化と有効利用を目指して, 富山湾の堆積物から海藻分解菌Myt-1株 を単離した。本発表では, Myt-1株による廃棄海藻の減容化と, その分解産物を海洋 バイオマスとして捉えた利用法についての研究開発を紹介する。 実 験 背 景 食品加工場などからの廃棄海藻の増加。 日本のワカメ廃棄量20万t/年, 富山県のコンブ廃棄量10t/年 沿岸域の漂着海藻の増加。 横浜市では年間4,000万円の処理費用 そのほとんどが焼却処分されており, 廃棄海藻の減容化とその有効利用が求められている。 従 来 研 究 化学的・物理的処理ではコストが増大, 分解産物の均一な安定供給が困難 バクテリアとそれが産生する分解酵素による処理 これまでの海藻分解菌は, 1種類の海藻しか分解できなかった Myt-1株は, 全ての海藻類を分解可能 富山湾の堆積物中から新種を単離 これまでに報告例のない分解酵素を持っている可能性 菌の観察と種の同定: 菌の観察は, 透過型電子顕微 鏡を用い, 菌種の同定は, 16S rDNAとDNA gyraseの塩 基配列を用いたBLAST検索, 脂肪酸分析, 最近縁種との DNA-DNAハイブリダイゼーションで推定した。 各種藻体の分解活性: 0.2% (w/v) ワカメ, マクサ, ア オサの各種藻体を含んだ人工海水培地にMyt-1株を植 菌後, 培養7日後の藻体の分解を観察した。 分解産物の利用法: 富山湾で採集したウニから得た 精子と卵を人工授精させ, シャレー内で発生させた。その 後, 餌が必要になるプルテウス幼生に海藻分解産物 (単 細胞体, オリゴ糖) を投与した。一方で, 産生されたオリゴ 糖の抗酸化活性をDPPHラジカル除去活性で算出した。 分解酵素遺伝子の網羅的検出: Myt-1株から抽出 したDNAを用いて, 次世代シークエンサーMiseq (illumina) でゲノムDNAの全塩基配列を解析し, 既知の 分解酵素遺伝子との相同性検索を行った。 実 験 結 果 A B C 表1. Myt-1の多糖分解酵素遺伝子 D 0日 1μm 7日 図1. Myt-1の電子顕微鏡写真。Myt-1は, 1本の 極鞭毛を持った, 長さ約1.8μm, 幅約0.4μmの桿 菌であった。様々な同定試験の結果から, Saccharophagus 属の新種であることが強く示唆 された。 図2. Myt-1による海藻の分解の様子。A: ワカメ (褐藻), B: マ クサ (紅藻), C: アオサ (緑藻)。Myt-1でワカメ藻体を分解 して得た細胞体をウニのプルテウス幼生へ投与したとこ ろ摂食した (D)。 酵素 種数 アガラーゼ 4 アルギン酸リアーゼ 6 α-グルコシダーゼ 1 アラビナーゼ 9 ガラクタナーゼ 3 β-グリコシダーゼ 31 キチナーゼ 3 セルラーゼ 12 マンノシダーゼ 3 ペクチダーゼ 20 ま と め 富山湾の堆積物から単離したMyt-1株 Saccharophagus属の新種 様々な海藻種を分解 分解産物の養殖用初期餌料や機能性食品として利用 96種類以上の分解酵素 (報告例のない新規酵素の可能性) 海藻分解だけでなく, 様々な産業への応用 連絡先:富山大学 知財・リエゾンオフィス [email protected] ℡076-445-6392 Fax 076-445-6939
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