卵巣がん・子宮体がん「がん幹細胞」を標的とした 特異的

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研究紹介
卵巣がん・子宮体がん
「がん幹細胞」
を標的とした
特異的治療薬の探索
体癌がん幹細胞を標的とした特異的治療薬の探索
新潟大学医歯学総合病院 総合周産期母子医療センター
新潟大学医歯学総合病院 総合周産期母子医療センター
石黒 竜也
石
黒
竜
也
はじめに
婦人科領域においては、卵巣がん由来のスフェ
既存の抗がん剤や放射線治療に加え、分子標的
ロイド形成による in vitro 培養は短期であれば可
薬の導入により、いくつかの固形がんの生命予後
能である事も報告されているが 6)、現在に至るま
の改善は認めているものの、いまだ十分とは言え
で、精製した卵巣がん幹細胞を in vitro で安定な
射線治療に加え、分子標的薬の導入により、いくつかの
改善は認めているものの、いまだ十分とは言えず、難治
ず、難治性固形がんの撲滅に向け新たな治療戦略
け新たな治療戦略が望まれている。近年、固形がんの増
が望まれている。近年、固形がんの増殖・転移・
に関与する「がん幹細胞」の存在が報告され(図1)、
治療抵抗性に関与する「がん幹細胞」の存在が報
、
とした治療ががんの新規治療として期待されている
告され(図1)、「がん幹細胞」を標的とした治療 が、がんの新規治療として期待されている
。
1)
、2)
継代培養を行った例は報告されていない。一方、
子宮体がんについては同スフェロイド培養に基づ
いた解析の報告は皆無に等しい。そこで我々は婦
人科悪性腫瘍臨床検体由来の同スフェロイド細胞
培養系を基盤とし、がんの再発・転移・治療抵抗
性などに密接に関わると考えられる
「がん幹細胞」
一般に幹細胞は自己複製を反映するスフェロイ
複製を反映するスフェロイド(球状体)の形成能を有す
ド(球状体)の形成能を有する事が知られており、 に対する特異的治療薬の探索および臨床応用への
年の乳がんにおけるがん幹細胞性質を持つスフェロ
)
2003年の乳がんにおけるがん幹細胞性質を持つス
、乳がんや脳腫瘍(膠芽腫)
など多くの他臓器由来の固 発展を目指す。
フェロイド細胞の報告以降3)、
乳がんや脳腫瘍(膠
LQYLWURでの培
臨床検体由来のスフェロイド形成による
4)
芽腫)
など多くの他臓器由来の固形悪性腫瘍に
これまでの研究成果
研究が多数報告され、がん幹細胞の特性解明ならびに治
我々はこれまでに卵巣漿液性腺がん検体よりス
おいて、臨床検体由来のスフェロイド形成による
られている。
in vitro での培養に基づくがん幹細胞研究が多数
フェロイド細胞の安定培養に成功し、そのがん幹
幹細胞のLQYLWURにおける継代培養系の確立は、臨床に
報告され、がん幹細胞の特性解明ならびに治療に
細胞性質の確認ならびに同特性について報告し
験系として非常に有用であり、がん幹細胞の生物学的特
向けた試みが進められている。
た7)
(図2)。がん幹細胞性質として、免疫不全マ
)
これまでの研究成果
など様々な面で非常に重要である
。
臨床検体由来のがん幹細胞の in vitro における
ウスにおける腫瘍形成能(臨床検体と類似の組織
我々はこれまでに卵巣漿液性腺がん検体よりスフェロイド細胞の安定培養に
LQYLWUR培 型・免疫染色像を呈する腫瘍の形成)、幹細胞マー
は、卵巣がん由来のスフェロイド形成による
継代培養系の確立は、臨床に近い性質を反映する
成功し、そのがん幹細胞性質の確認ならびに同特性について報告した )
(図2)
。
)
である事も報告されているが
、現在に至るまで、精製し
カーの発現、スフェロイド細胞増殖を指標とした
実験系として非常に有用であり、がん幹細胞の生
がん幹細胞性質として、免疫不全マウスにおける腫瘍形成能(臨床検体と類似
の組織型・免疫染色像を呈する腫瘍の形成)
自己複製能、in vitro、幹細胞マーカーの発現、スフェロ
物学的特性の解析や治療法開発など様々な面で非
における分化誘導後の幹細
YLWURで安定な継代培養を行った例は報告されていない。
イド細胞増殖を指標とした自己複製能、LQYLWUR における分化誘導後の幹細胞
常に重要である 。
胞マーカー・分化マーカーの発現変化、アルデヒ
いては同スフェロイド培養に基づいた解析の報告は皆無
マーカー・分化マーカーの発現変化、アルデヒド脱水素酵素活性を指標とした
ド脱水素酵素活性を指標とした腫瘍形成・スフェ
婦人科
腫瘍形成・スフェロイド増殖の増加を確認した。これら実験系を通じ、卵巣が
5)
の同ス
ん幹細胞は我々
がこれまでに報
告した大腸がん
幹細胞とは異な
る性質を有する
細胞である事が
明らかとなり )、
を基盤
・治療
わると
胞」に対
索およ
目指す。
図1 がん幹細胞
新潟県医師会報 H28.3 № 792
がん腫によるが
ん幹細胞の特性
の差異が存在す
る事が示された。
図2 臨床検体由来のスフェロイド細胞
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ロイド増殖の増加を確認した。これら実験系を通
る。これらの実験を通じ最終的に臨床応用への可
じ、卵巣がん幹細胞は我々がこれまでに報告した
能性を模索する。
大腸がん幹細胞とは異なる性質を有する細胞であ
る事が明らかとなり8)、がん腫によるがん幹細胞
謝辞
の特性の差異が存在する事が示された。
本研究に対して平成27年新潟県医師会学術研究
助成金を賜り、この場をお借りして感謝申し上げ
研究の大要
ます。
1)ヒト臨床検体由来のスフェロイド継代培養方
法の確立とがん幹細胞性質の確認
文献
今回、臨床治療では同様の化学療法が用いられ
1)Kreso A, Dick JE : Evolution of the cancer
る婦人科領域の他の悪性腫瘍のがん幹細胞の性質
stem cell model. Cell stem cell 2014 ; 14 :
を明らかにするために、子宮体がん臨床検体より
275-291.
上記と同様のアプローチ方法を用いて、がん幹細
2)Oskarsson T, Batlle E, Massague J :
胞の安定培養を試みる。これまでに我々は数例の
Metastatic stem cells : sources, niches, and
子宮体がん由来のがん幹細胞の培養に成功してお
vital pathways. Cell stem cell 2014 ; 14 : 306-
り(図2)、引き続き継続して新たな細胞の培養
321.
に取り組む。
2)化合物ライブラリーを用いたがん幹細胞特異
的治療薬の探索
3)Dontu G, Abdallah WM, Foley JM, et al : In
vitro propagation and transcriptional
profiling of human mammary stem/
がん幹細胞は既存の抗がん剤に対する治療抵抗
progenitor cells. Genes & development
性が報告されており、がん幹細胞に対する特異的
2003 ; 17 : 1253-1270.
な治療薬の発見は、がんの根治に向けた重要な足
4)Singh SK, Clarke ID, Terasaki M, et al :
がかりとなると考えられる。そこで我々の樹立し
Identification of a cancer stem cell in human
たがん幹細胞を使用し、まず化合物ライブラリー
brain tumors. Cancer research 2003 ; 63 :
を用い in vitro におけるスクリーニング試験を施
5821-5828.
行する。すなわちスフェロイド細胞の増殖抑制を
呈する化合物を検索する(図3)
。特定した化合
5)Mather JP : Cancer stem cells : In vitro
models. Stem cells 2012 ; 30 : 95-99.
物を用い in vivo における腫瘍抑制効果・薬理毒
6)Zhang S, Balch C, Chan MW, et al :
性の有無を確認する。加えて、がん腫間による差
Identification and characterization of
を確認する目的で、子宮体がんスフェロイド細胞
ovarian cancer-initiating cells from primary
で特定した化合物の増殖抑制効果を卵巣がんなら
human tumors. Cancer research 2008 ; 68 :
びに大腸がんスフェロイド細胞を用いて検証す
4311-4320.
の増
合物
)。特
いLQ
7)Ishiguro T, Sato A, Ohata H, et al :
抑制
有無を
、がん
認す
がんス
Capacity. Cancer research 2016 ; 76 : 150-
特定
抑制
図3 化合物ライブラリーを用いたスクリーニング
らび
ロイド細胞を用いて検証する。これら実験を通じ最終的に臨
を模索する。
Establishment and Characterization of an In
Vitro Model of Ovarian Cancer Stem-like
Cells with an Enhanced Proliferative
160.
8)Ohata H, Ishiguro T, Aihara Y, et al :
Induction of the stem-like cell regulator
CD44 by Rho kinase inhibition contributes
to the maintenance of colon cancer-initiating
cells. Cancer research 2012 ; 72 : 5101-5110.
新潟県医師会報 H28.3 № 792