JOMF NEWS LETTER No.256 (2015.5) 海外メンタルヘルスの現場からⅡ （22）海外赴任と子供のストレスシンガポール日本人会クリニック医師日暮真由美３月に日本本帰国の患者さんがたくさんいるのが通常ですが、今年は５月、６月とやや変則的な時期に本帰国という方もまだ結構いらっしゃるので、引き続き紹介状書きに追われている今日この頃です。会社の都合でどうしても急きょ帰国が決まるというケースもあるので、小学生や中学生のお子さんがいらっしゃる家庭では大変です。住居が決まらないと学校も決められませんし、なにより５月や６月の１学期の途中で日本の学校に転校しなければいけないというのは親子ともどもとても大きなストレスです。そもそも子供にとっては、この転居、転校は大人の都合によって勝手にもたらされる強制的な環境変化です。特に、国内転居に比べて海外と日本間の引越しによる環境変化はずっとずっと大きくなります。ほとんどの場合、子供の意思がどうあろうとも、その環境変化に適応することが有無を言わせず強いられる形になり、子供のまだ十分に発達しきっていない脳にとっては多大な負担となる可能性があります。 A 君は小１のときにお父さんの駐在赴任に伴ってシンガポールに来ました。子供には国際感覚を身に着けさせたいというお父さんの意向で英語が話せないままインターナショナル校に入学。しばらくは英語の獲得にかなり苦労し、相当のストレスがあったようです。日本人学校に転校することを何度も検討するほど親子で悩み、A 君は学校が嫌いになりかけていました。が、１年を過ぎるころから友達と英語で会話できるようになり、元々サッカーが得意だったことで皆に一目置かれるようにもなって学校が楽しくなりました。将来は英語をもっと勉強してスポーツ関係で国際的な仕事をしたいと夢見るようになりました。ところが、小５の４月にお父さんの日本帰国辞令が突然出て、１か月後には帰国しなければならないことになりました。仲の良かった友達や大好きな先生たちと別れなければならない。活躍できることを楽しみにしていた夏のサッカー大会にももう出られない。日本の学校は仲間はずれやいじめがあるから行きたくない。あんなに英語を頑張ったんだからもっと続けたいのに、日本ではインターにはもう行けない・・・と、いろいろな思いが次々と浮かんできては悲しくなり、どんどん元気がなくなっていきます。時に激しくイライラすることもあり、兄弟げんかも激しくなって、ある時けんかで弟に怪我をさせてしまったことで心配した両親が本人を連れて受診されました。 JOMF NEWS LETTER No.256 (2015.5) 一般的に子供は慣れるのも早いということはよく言われています。が、子供にはそれぞれ生まれ持った気質というものがあるので、その気質の違いによっては「子供だからほうっておいてもそのうち慣れるだろう」というのがうまく当てはまらないこともあります。基本的には、子供は大人が考えている以上に環境変化には敏感かつ精神的負担を感じやすいと念頭におき、親は子供のストレスを想定してそれらにどう寄り添っていくべきかをきちんと考えていく必要がありそうです。