ヘルムホルツ共振器を用いた 音響メタマテリアルにおける共振器の結合

平成 26 年度
修 士 論 文 要 旨
教育研究分野 光電子工学
6625041 平松 真也
ヘルムホルツ共振器を用いた
音響メタマテリアルにおける共振器の結合効果
1 はじめに
3 直列結合による効果
メタマテリアルとは,波長以下の周期構造を持
つ人工媒質のことであり,うまく構造設計するこ
とで自然界にはない物性を示す.実効的な媒質の
比誘電率と比透磁率を自在に調節することが可能
なことから,電磁波の分野で盛んに研究されてい
る[1].
一方,音響分野においても音響メタマテリアル
に関する研究が行われている.その中で,波長以
下の周期でヘルムホルツ共振器を配置した音響メ
タマテリアルは,共振器の固有振動と系の周期性
に起因した音波遮断域を持つことが知られている
[2].
本研究では,ヘルムホルツ共振器を周期配置し
た音響メタマテリアルについて,共振器を結合さ
せた構造を考え,導波路の透過スペクトルを有限
要素法により解析することで,共振器の結合が音
波遮断域に与える影響について検討した.
はじめに直列結合のみの場合についてその効果
を検討した.図 2 は,結合管直径 a を 0 ~ 3.14 mm
まで変化させたときの遮断域のピーク周波数と,
a = 0.2 mm,3.14 mm における音圧分布(a) ~ (d)を示
している.a = 0 mm とは結合管を設けず単一の共
振器を周期配置した構造であるので,ヘルムホル
ツ共振器の固有振動に対応した 1 つの遮断モード
が見られる.それに対して結合管を設けた場合に
は,2 つの遮断モードが見られ,a に対して連続的
に変化している.
ここで,図 2(c)を見ると結合したキャビティ内で
半波長共鳴が生じていることがわかる.これは 2
つの共振器の振動モードが逆位相となることに対
応すると考えられる.このモードは図 2(b)につなが
り,音圧分布にもその特性が見られる.
一方,図 2(d)を見るとキャビティ内は一様な分布
を示しており,2 つの共振器の振動モードが同位相
となることに対応すると考えられる.このモード
は a を小さくしていくとキャビティ間の中央で押
し合うために図 2(a)を経て単一の共振器の固有振
動につながるものと考えられる.
2 解析モデルと解析方法
図 1 に,細いネック部と太いキャビティ部から
構成されるヘルムホルツ共振器を導波路に対し直
列方向と並列方向に結合し,周期配置した構造を
示す.直列結合とは隣り合う 2 つの共振器を円筒
状の管(直径 a mm)によりキャビティ部中央で結合
した構造を指し,並列結合とは導波路側面 2 ~ 4 方
向に共振器を配置した構造を指す.また,単体の
ヘルムホルツ共振器の固有振動数 f0 は約 22.7 kHz
である.共振器と結合管および導波路は完全剛体
とし,内部は水(密度:1.0×103 kg/m3,音速:1481 m/s)
で充填されているものとした.導波路の左端から
平面音波(5 kHz ~ 60 kHz)を入射し,右端での透過
スペクトルを COMSOL Multiphysics®を用いて有
限要素法により解析した.
図2
図 1 結合したヘルムホルツ共振器の周期配置
ピーク周波数と結合管直径の関係
4 並列結合による効果
次に,並列結合のみの場合について検討を行っ
た.結合なしの場合と 2 ~ 4 方向に並列結合した場
合の透過スペクトルを図 3(a) ~ (d)に示す.結合数
を増やすと遮断域の幅が広がり,特に高周波側で
顕著であることがわかる.この点について以下の
ように考察を行った.
まず,ヘルムホルツ共振器の共鳴はおもりの付
いたばねの単振動のモデルとして考えることがで
き,固有振動数はばね定数 K,おもりの質量 m を
mm < a < 1.8 mm に注目すると,2 つのモードの間
に a によって周波数が変化する非常に狭い透過域
が見られる.また,a = 2.0 mm のときに注目すると,
2 つのモードによる遮断域が重なり,非常に広い遮
断域が得られることがわかる.このときの透過ス
ペクトルを結合なしの場合と比較した結果を図 5
に示す.これを見ると,結合なしの場合の遮断域
(5.0 kHz)に対し,約 4 倍(21.3 kHz)の遮断域が
得られることがわかった.
用いて f 0  1 K と表される[3].このとき,m は
2 m
共振器に出入りする媒質の質量に相当する.
導波路の側面に取り付けられた 4 つの共振器は
同相で振動するため, 1 つあたりの共振器に出入
りする媒質の体積が減少する.これはおもりの質
量 m が小さくなることに相当するので,固有振動
数は高くなる.この効果は周囲に共振器が多く存
在するほど大きくなると考えられるため,導波路
の両端に配置した共振器については周波数の上昇
は少ない.透過スペクトルの特性にはすべての共
振器の影響が含まれるが,その寄与は入射側の共
振器が最も大きく,その後順に小さくなっていく.
以上の理由により,遮断域が高周波側に大きく広
がったと推察される.
図4
図5
結合管直径と遮断域の関係
直列と並列結合した際の透過スペクトル
6 まとめ
図3
並列結合した際の透過スペクトル
5 直列と並列結合の併用
最後に,直列と並列結合を併用した構造につい
て検討した.図 4 に,結合管直径 a に対する遮断
域のピーク周波数に加え,透過率 0.7 以下を遮断域
と見なしたときの遮断域幅を示す.これを見ると
直列結合の効果として 2 つのモードが見られ, 0
ヘルムホルツ共振器を導波路に周期配置した音
響メタマテリアルにおいて,共振器の結合効果の
検討を行った.直列結合の場合には 2 つの遮断域
が見られ,共振器が互いに同相,逆相で振動する
モードに対応しており,その周波数は結合管直径
に依存することがわかった.並列結合の場合には
遮断域は 1 つであり,結合数を増やすごとに遮断
域の幅が広がることがわかった.直列と並列結合
を併用した構造について同様の解析を行った結果,
それぞれの結合効果が合わさった様な特性が見ら
れた.この構造は,結合管直径を適切に選択する
ことで,特定の周波数域のみを透過させるナロー
パスフィルターや,非常に広い遮断域を持つバン
ドストップフィルターとして応用できる可能性が
ある.
参考文献
[1] J. B. Pendry, Phys. Rev. Lett. 85, 3966, (2000).
[2] N. Fang et al., nature materials 5, 452, (2009).
[3] 東山三樹夫,“音の物理”
,コロナ社, (2010).