インピーダンス

インピーダンス
目 的
(1) R、L、Cで構成される線形回路の電圧・電流の測定を通して、交流回路を取り扱
うときの基本となるインピーダンスの概念を把握する。
(2) インピーダンスが電源周波数によって変化することを理解し、インピーダンスの表
記方法を習得する。
解 説
1.交流とベクトル
一般に、図1(b)のように時間とともに正弦的に変化する量は、次式で表わされる。
i = Im sin ( t +
)
(1 )
ここでωは角速度または角周波数と呼ばれ、θは初期位相(角)または単に位相(角)
とも呼ばれる。図1(a)は、原点に一方の端を固定したまま、反時計回りに角速度ωで
回転する長さ Im の棒を表わしている。図からわかるように、棒の先端の縦軸への投影
は時間とともに正弦的な変化をする。位相θにより棒の方向が決まるので、このような
棒をフェーザ(ベクトル)と呼ぶ。図1(a)で横軸を実軸、縦軸を虚軸と考えれば、あ
る瞬間 t におけるこのベクトルは複素数の形式で次式のように書ける。
c = a + j b = Im cos
= Im e j
t+
+ j sin
t+
t+
= Im e j e j t = I e j t
(2)
j
e = cos + j sin
ここで、オイラーの公式 を用いた。すなわち、複素平面を用いて
ベクトルを表示することができる。図1の場合、このベクトルは振幅 Im 、初期位相θ
の正弦波に対応している。
2.インピーダンスの概念と表記方法
図2に示す回路で、素子に流れる電流を i 、端子1-2間の電圧降下を v で表すと、
そこに接続されている回路素子により電流と電圧の大きさだけでなく、電流と電圧の位
相差も変わる。
複素平面
i
Im
c
b
t =0
Im
2π
a
t= – /
T
– /
(a)
(b)
図1 正弦波交流
t
いま、図2の回路素子が抵抗、コイル、キャパシタである場
合、それぞれ、次式のように表わされる。
vR = R i
di
vL = L
dt
vC = (1/C) i dt
1
i
(R : 抵抗)
(3a)
(L : インダクタンス)
(3b)
(C : 容量)
(3c)
v
2
ここで、 電流 i を正弦波交流電流とすると、波高値 Im、実効値
Ie を用いて、電流は式(4)のように表わされる。
i = Im sin
t=
t ⇔ I ej
2 Ie sin
t
図2 回路素子に流れる
電流と電圧降下
(4 )
式(4)を用いると、式(3a)∼(3c)は次のようになる。
vR =
2 R Iesin t
⇔RIe
vL = 2
⇔
j t
= VR e j
L Ie cos
L I ej
t
t
( 5a )
t= 2
L Ie sin ( t +
e j 2 = j L I e j t = VL e j
vC = - 2 (1/ C) Ie cos
j
⇔ (1/ C) I e
t
/2)
t
( 5b )
t = 2 (1/ C) Ie s i n ( t -
e - j 2 = (1/j C) I e j t = VC e j
t
/2)
( 5c )
式(5a)∼(5c)は、フェーザ表示を大文字で表して、次式のように書き直せる。
VR = R I
( 6a )
VL = j L I
( 6b )
VC = - j(1/ C) I
( 6c )
式(6a)∼(6c)の R、jωL、− j (1/ωC) を、それぞれ ZR、ZL、ZC とおくと、これ
らの式は次式の形にまとめられる。
v
i
Im
Im
i
v
(a)v は i より位相
進んでいる。( +
)
(b)v は i より位相
図3 インピーダンスを流れる電流と電圧降下の波形
遅れている。( -
)
V= ZI
(7 )
リアクタンス [Ω]
式(7)は交流回路に対するオームの法則
を表し、Z を複素インピーダンス、Z の絶
対値|Z |を単にインピーダンスと呼んで
区別することもある。一般にインピーダン
スと言った場合には、複素インピーダンス
を指す。よって、Z は複素数であり、ZR は
実数部のみからなる複素インピーダンス、
ZLとZCは虚数部だけを持つ複素インピーダ
ンスである。Z の実数部を抵抗(レジスタ
ンス)、虚数部をリアクタンスと呼ぶ。
回路を流れる電流 i と、インピーダンス Z
両端の電圧降下 v に図3(a)のような関係が
ある場合、一般に電流を基準とし、電圧は
電流より位相がφ進んでいると言い、ま
た、図3(b)の場合、電圧は電流より位相が
φ遅れていると言う。φはインピーダンス
の位相角と呼ばれる。 Z の抵抗分をR、リ
アクタンス分を X で表すと、Z と R と X の
間の関係は図4のように複素平面上に図示
でき、以下の関係があることがわかる。
Z= R+ jX
2
Z=
R +X
tan
=X/R
(8)
2
1
Z
2
V
Im
jX
Z
|Z|
φ
R Re
0
図4 インピーダンスの複素表示
Z A = RA + j XA
Z 0 = R 0 + j X0
Z B = R B + j XB
XA
ZA
X0
Z0
Z0 = Z A + ZB
= ( R A+ R ) + j ( X +X )
B
A
B
= R + jX
0
0
0
(9 )
( 10 )
I
RB
RA R0
レジスタンス [Ω]
XB
次に、二つのインピーダンス ZA と ZB が
ZB
直列に接続されている場合、それぞれのイ
図5 合成インピーダンスの複素表示
ンピーダンスとその合成インピーダンス Z0
は複素平面上で図5のようになり、合成イ
ンピーダンス Z0 はインピーダンス ZA と ZB を表すベクトルを合成することによって
も、また、それぞれの複素表示の和としても得られることがわかる。
3.インピーダンスの周波数特性
一般に、インピーダンス Z は周波数 f の関数で、式(11)のように表わされる。
Z( ) = R( ) + j X( )
( 11 )
ここで、 は角周波数( = 2 f )である。
したがって、インピーダンスの大きさ Z( ) および基準とする波(電流)との間の位
相角φは、
Z( ) =
R 2( ) + X 2 ( )
( ) = tan -1
( 12 )
X( )
R( )
(13)
となり、周波数で変化する。
実 験
信号源としては発振器を、電圧および位相差の測定にはオッシロスコープを使用す
る。電圧はすべて peak to peak 値で測定する。電流検出抵抗 RS は 500 Ω とする。
実験は、(1)∼(3)ないし(4)までを第1週で終了させること。また、実験開始前に、測
定回路を構成するボックスの№を記録しておくこと。
《実験の前に》
図6の回路で、Z の部分に 500 Ω の抵抗を接続する。周波数を 10 kHz に設定し、
信号電圧 V が 4 V p-p のときの、Z および RS の電圧降下 VZ および VR を測定する。ただ
し、オッシロスコープの2本のプローブをCH1 を Z にCH2 を RS に、図7のように接
続して測定することはできない。これは、図7に示すように、2本のプローブのアース
がオッシロスコープ内部で接続してあるためである。1本のプローブ(CH2)だけでそ
れぞれの電圧を測定したときと、2本のプローブを使って VZ と VRを同時に測定した場
合とで、測定値が異なることを確認せよ。正しい値は、VZ = 2 V p-p、 VR = 2 V p-p であ
る。電源電圧 V と VR は同時に測定できるので V と VRの位相差を測定することができる
が、VZ と VR の位相差を測定することはできないことに注意せよ。
《実 験》
1.コイルとコンデンサのインピーダンスベクトル
(1)(誘導負荷)図6の回路で Z の部分にコイルを接続する。信号電圧 V を 4 V p-p 、周
波数を 20 kHz とし、Z および RS の電圧降下( VZ および VR )と、VR(電流 I と同位
相)に対する電源電圧 V の位相差を測定する。
(2)(容量負荷)図6の回路で、Z に 0.1 μF のコンデンサを接続する。V を 4 V p-p 、周
波数を 1 kHz とし、実験(1)と同様の測定を行う。
VZ
Z
I
V
RS
Z0= V
I
500Ω
R S : 電流検出用抵抗
図6 測定回路
VR
CH2 でトリ
ガをかける。
CH1 CH2
入力抵抗≥1MΩ
i0
i
iZ
i
iZ
アース
500 Ω
v
オシロスコープの内部
でアースラインがつな
がっている。
この抵抗は入って
いないのと同じに
なってしまう。
500 Ω
Z
4 Vp-p
v
R
i0
アース
図7 オッシロスコープ使用上の注意
〈インピーダンスベクトルの求め方〉
回路を流れる電流 I は電流検出抵抗の両端の電位差 VR により、次式で求められる。
Ip-p =
VRp-p
RS
図6の回路全体の合成インピーダンス Z0 の大きさは、電源電圧と電流から求められる。
Z0 =
Vp-p
V
=
I
Ip-p
インピーダンスの大きさと測定した位相差φより、合成インピーダンス Z0 のベクトルを
複素平面上に図示する。また、合成インピーダンスが求めるインピーダンス Z と抵抗 RS
のベクトルの合成であることを利用して、被測定インピーダンス Z を図の上で求める。
Z 両端の電圧降下 VZ の値からインピーダンスの大きさ Z は次式で求められる。
Z =
VZ
I
=
VZp-p
Ip-p
図示した Z ベクトルの長さを測って、値を確認せよ。
2.直列接続、並列接続の合成インピーダンスベクトル
(3) (直列接続) 図6の回路で、Z の部分にコイル、 0.1 μF のコンデンサを直列に接
続する。V を 4 Vp-p 、周波数を 2 kHz とし、Z および RS の電圧降下( VZ および VR )
と、VR に対する V の位相差を測定する。次に、周波数を 20 kHz に変えて測定する。
(4) (並列接続)図6の回路で、Z の部分にコイル、 0.1 μF のコンデンサを並列に接続
する。V を 4 Vp-p 、周波数を 7 kHz とし、実験(3)と同様の測定を行う。次に、周波数
を 9 kHz に変えて測定する。
実験(1)と(2)の場合と同様に、実験(3)と(4)の結果から、各周波数に対する合成イン
ピーダンス Z0 のベクトルを複素平面上に図示する。
3.インピーダンスベクトルの周波数による変化
(5) (誘導負荷)図6の回路で、Z の部分にコイルを接続する。V を 4 Vp-p 一定に保ち
ながら、周波数を 1 ∼ 100[kHz]の範囲で変え、そのつど、Z および RS の電圧降下
VZ および VR と、VR に対する V の位相差を測定する。
(6) (容量負荷)図6の回路で、Z の部分に0.1μFのコンデンサを接続する。実験(5)と
同様の測定を行う。
実験(5)と(6)の結果から、周波数の変化に対するインピーダンスの大きさ ZL 、ZC の変
化を1枚の方眼紙に図示する。また、位相差φの変化を1枚の片対数グラフに図示する。
報告書に含まれるべき内容
(図6枚)
(1) 実験(1), (2)で書いた、インピーダンス Z0 および Z を複素平面上にベクトル表示し
た1枚の図。実験(1), (2)を一つの図(方眼紙)にまとめる。
(2) 実験(3), (4)で書いた、インピーダンス Z0 を複素平面上にベクトル表示したそれぞ
れ1枚の図。実験(3), (4)を別々の方眼紙に描く。
(3) 実験(5), (6)で書いた、周波数の変化に対する ZL、ZC の変化を、方眼紙に図示。実
験(5), (6)を一つの図にまとめる。
(4) 実験(5), (6)で書いた、位相差φの変化を片対数グラフに図示。実験(5), (6)を一つの
図にまとめる。
(5) 実験(5)で、周波数の変化に伴う合成インピーダンス Z0 のベクトルの変化を1枚の
複素平面上に図示。(方眼紙)
考 察 (含図3枚)
(1) 実験(3)で得られた直列接続の合成インピーダンス Z0 を、周波数、 2 kHz と20 kHz
に対して1枚ずつ書き、ZR、ZC を書き加えて ZLをそれぞれのベクトル図から求め、コ
イルの内部抵抗 r について考察する。
(2) 実験(5)で得られた周波数の変化に対する ZL のグラフの傾きより、コイルのインダ
クタンス L を算出する。(考察(1)より求めた r の値、および L の値を各自の実験ノー
トに書き留めておくこと。次の共振回路の実験の結果と比較する。)
(3) 実験(6)で得られた ZC の逆数 YC (アドミッタンス)を計算し、周波数の変化に対す
る YC のグラフを方眼紙に書き、その傾きよりコンデンサの静電容量 C を算出する。
(4) 実験(1)および(2)を通じ、 |V| = |VZ| + |VR| が成立しているかどうかを調べる。
成立しないときは、その理由を考える。
(5) 交流の電力について調べよ。(力率、皮相電力、有効電力、無効電力)
参考文献
1) 榊 米一郎、大野 克郎、尾崎 宏 共編、「大学課程 電気回路(1)」、オーム
社、1991
2) 原 正人著「これでわかった電気の理論」、啓学出版、1976 の第8,9章
他、図書館にも多数収蔵されている回路の本。
* なお、次のテーマの‘共振回路’の中の交流ブリッジの実験では、事前に計算された理論値と測定値
を比較しながら実験を進めることになる。テキストをよく読んで、必要な値を計算しておくこと。