共振回路

共振回路
目 的 (1) R-L-C直列共振回路を対象とし、交流回路に特有の回路の共振について理解する。
(2) 交流ブリッジを用いて(L - R), C 並列共振回路のインピーダンスを測定し、回路の
共振現象とインピーダンスの関係を理解する。
(3) 直列共振と並列共振の違い、共通点を理解する。
解 説
1. 直列共振
1.1 直列共振回路
図1に示す R L C 直列回路で、電源電圧
を V 、各素子に流れる電流を I とする。R、
L、C の電圧降下をそれぞれ VR、VL および VC
とすると、キルヒホッフの電圧法則により、
次の式(1)が成り立つ。
V = VR + VL + VC
= R I + j L I − j (1 /
L − (1 /
= R +j
VL
L
VC
C
VR
R
I
V
図1 直列共振回路
C) I
C) I
(1)
Z= R+ j
L − (1 / C)
ここで、 とおくと、
R 2 + { L − (1 /
Z=
C)}
2
(2)
となる。
回路のインピーダンス Z は L =1/ C のときに最小となり、電流 I は最大となって
その大きさは V/R となる。このとき、図1の回路は直列共振の状態にあるといい、 L
=1/ C を満たす角周波数 0 および共振周波数 f0 は、以下のようになる。
= 2 f0 = 1 / L C
(3)
0
f0 = 1 / 2
LC
(4 )
1.2 共振回路の Q
抵抗に対する誘導リアクタンスの比 L / R や、抵抗に対する容量リアクタンスの比
( 1 / C) / R を“Q”で表し、回路の良さという。共振状態にあるときの図1の回路のQ
Q0 = L / R = 1 / C R
をQ0とおくと、 で表わされる。この
Q0は共振回路の Q 値と呼ばれ
0
0
る。共振時の VL および VCを、 VL0 および VC0 と表すと、
VL0 = j
=j(
0
0
L I0 = j
0
L (V / R)
L / R) V = j Q0 V
VC0 = − j (1 /
= − j (1 /
0
0
C) I0 = − j (1 /
(5 )
0
C R) V = − j Q0 V
C) (V / R)
(6)
式(5) および式(6) から明らかなように、 VL0 と VC0 の間には 180度の位相差があり、ま
た、両者の大きさは等しく、その値は電源電
圧 V の Q0 倍である。
図2に電源の周波数を変えたときの回路に
流れる電流 I の変化の例を示す。
電流の大きさが共振電流 I0 の 1 / 2、すなわ
ち 0.707 I0 となるときの周波数を f10 、および
f20 とすると、以下の関係が成り立つ。
R= 20 Ω
L= 4 mH
C= 0 . 2 2 µ F
2.0
電流 I [mA]
Q0 = f0 / ( f20 − f10)
f0
2.5
1.5
I0
1.0
I0
2
0.5
(7 )
0
0
ただし、ここで f10 < f20 とする。図2に示した
共振曲線は、Q0が大きい程鋭くなることがわ
かる。
6
8 10 12 14
4
f20 周波数 f [kHz]
2
f10
図2 電流と周波数の関係
2.交流ブリッジによるインピーダンスの測定
2.1 インピーダンス軌跡
一般に、回路のインピーダンス Zf は抵抗分 Rf、リアクタンス分 Xf を用いて次式で表
される。
Zf = Rf + j Xf
(8)
図3の回路のインピーダンスの実数部と虚数部は、
Rf =
L
R
1−
2
C
C
2
LC−
R
CA
A
Xf =
1−
2
2
LC −
2
2
A = L−R C −
CA
図3被測定回路
2
L C
(9)
と表される。L = 4 mH、C = 0.22 µF、R = 20 Ωとし、周波数 f の値を変えて Zf を計算し
た結果を表1に、複素平面上にプロットしたインピーダンス軌跡を図4に示す。図から
0.4
表1 計算結果の例
f [kHz]
Rf [Ω]
Xf [Ω]
0.00
3.20
4.40
4.80
5.00
┇
20
47
161
431
537
┇
0
118
275
371
380
┇
5.14
R= 20 Ω
L= 4 m H
5.23
C= 0 . 2 2 µ F
4.40
0.2
リアクタンス X [kΩ]
L=4 mH, C=0.22 µF, R=20 Ω
周波数 f [kHz]
5.00
4.80
3.20
0
20.00
R=20Ω
0.2
-0.2 7.00
5.30
0.4
0.6
0.8
レジスタンス R [kΩ]
1.0
5.37
5.43
6.30
-0.4
5.50
5.95
-0.6
5.75
5.60
図4 インピーダンス軌跡
わかるように、周波数に対してインピーダンス軌跡はあまり変化しない領域や、急激に
変化する領域があるので、図のように周波数の値をプロットの横に表示する必要があ
る。
2.2 交流ブリッジの平衡
図5の交流ブリッジの平衡条件は、以下の式で求められる。
ZA ZD = ZB Z C
(10)
ブリッジが平衡するとき、図4の検流計 G に電流は流れない。式(10)は両辺とも
に複素数となるので、左辺と右辺が等しくなるのは、それぞれ実数部および虚数部が等
しくなるときである。
なお、実際のインダクタンス L は内部抵抗を無視できないことが多いので、計算およ
びデータ整理時には内部抵抗の値を落とさないように注意すること。
実 験
実験開始前に、“インピーダンス”の実験で使ったボックスと同じものであるか、№
を調べて確認すること。違う場合には、申し出ること。必要なグラフは実験時間内に書
き上げること。
1.直列共振回路
信号源としては発振器を、電圧の測定にはオッシロスコープを使用する。電圧はすべ
てpeak to peak 値で測定する。
図1の共振回路で、実際の回路はコイルの抵抗分を r として図6のように表される。
(1) 図6の回路のように RS、C、L を直列に接続する。RS =10 Ω 、C = 0.22 µF とする。
電源電圧 V の周波数を 2 kHz から徐々に増加させ、電源電圧波形と RS の端子電圧 VRの
波形を同時にオシロスコープで観察し、位相差が0となる周波数(共振周波数 f0 )を見
つける。次に電源電圧 V を 80 mVP-P 一定に保ちながら、周波数を共振点周辺では細か
く、共振点から離れた周波数領域では粗く変えながら、そのつど、VR、VL'、VC および
ZA
ZB
VL'+V C
VL'
VL
Vr
G
r
ZC
図5 交流ブリッジ
ZD
V
L
コイル
VC
C
RS
VR
図6 コイルの内部抵抗を表示した回路
|VL' + VC |を測定する。また、VR に対する V の位相差φを測定する。共振点周辺では
f0 ± 0.1 kHz, f0 ± 0.2 kHz, f0 ± 0.4 kHz, f0 ± 0.6 kHz, f0 ± 1.6 kHz で測定を行う。
(2) RS を 30 Ω に換え、実験(1)と同様に測定を行う。このとき測定するのは、VR および
|VL' + VC |と、VR に対する V の位相差φである。
(3) RS = 30 Ω、C = 2200 pF とし、実験(1)と同様にして、周波数 20 kHz から始めて共振
点 f0 を探す。周波数を f0 ± 0.2 kHz, f0 ± 0.5 kHz, f0 ± 1 kHz, f0 ± 2 kHz, f0 ± 7 kHz に変えな
がらVR および|VL' + VC|を測定する。
2.交流ブリッジによるインピーダンスの測定
被測定インピーダンス Zf を周波数を変えて交流ブリッジにより測定し、図4のよう
なインピーダンス軌跡を描く。
実験開始前までに 式(9)の、L C R に表2の値
を代入し、周波数 f の値を変えて Zf を計算して、表1
表2 計算で使う LCR の値
のように整理し、それをもとに複素平面上にプロット
L [H] C [µF]
R [Ω]
して、インピーダンス軌跡を描いておくこと 。
0.004
注1) 基準インダクタンスとして用いるコイル(インダクト
0.22
20, 80, 150, 400
メータ)には内部抵抗 rL があるので、式(10)により Zf を
計算する際には、 r L の値を落とさないように気をつけよ。内部抵抗の値は、各インダクトメータに
貼ってあるラベルの値を用いること。
注2) 測定とグラフ作成を並行して進め、実験終了時にインピーダンス軌跡が書き上がっているよう
にすること。
(1) 図3に示す回路で、R = 10 Ω として被測定回路を作成する。インダクタンスの内部
抵抗は約 10 Ω であるので、R = 20 Ω について事前に計算してきた結果を実験中に参照
する。
RC発振器
RA
オッシロ
スコープ
RB
D
標準インピ
ーダンス
L
ZS
R
SOURCE
RA
DET
RB
ZS
C
Zf
X
RC
Zf
(L S or C S )
被測定イン
ピーダンス
ST'D
ST'D
X
RC
G
(a) 交流ブリッジの構成
図7 実験で用いる交流ブリッジ
(b) 実際の実験回路
(2) 図7(b)に示したように、交流ブリッジに RC 発振器、オッシロスコープ、被測定イ
ンピーダンス Zf および標準インピーダンス ZS を接続する。標準インピーダンスとして
は、事前に計算した結果から、インピーダンスベクトルが複素平面の第一象限にある場
合の周波数範囲においてはインダクトメータを、第四象限にあるときには可変容量を接
続する。交流ブリッジの左下にあるスイッチは ST'D 側にする。
(3) まず ZS としてインダクトメータを接続して、配線を確認する。電源周波数は 5 kHz
とし、ZS の値を 200 mH 付近にしておく。
(4) ブリッジの可変抵抗 RB および RC の4つのダイヤルを、すべて1に設定する。オッ
シロスコープの波形を見ながら、RA を変えて振幅が一番小さくなる値にする。
(5) RB の一番左のダイヤルを0と2のように左右に動かして見て、電圧波形の振幅がよ
り小さくなる方にダイヤルを動かし、電圧波形の振幅が最も小さくなる値に設定する。
次に、その右のダイヤルを動かして同様の操作を行う。RC についても同様の操作を行
い、ZS の値も変えて電圧波形の振幅が小さくなるようにする。
(6) ある程度振幅が小さくなったら、オッシロスコープのレンジを変えて振幅の変化が
見やすいようにする。RB、RC および ZS を少しずつまんべんなく動かしながら、(5)のよ
うにして、段々に、RB、RC のさらに下の桁の値および ZS の値を決めて行き、最も電圧
波形の振幅が小さくなる(ブリッジの平衡点)RA、RB、RC および ZS の値の組み合わせ
を探す。振幅がなかなか小さくならないときには、(4)にもどり、ZS および RA の値を別
の設定にして再度試み、振幅が小さくなる組み合わせを選ぶ。
(7) 平衡点に近づき、 RB、RC および ZS(LS または CS)を微調節しても平衡点が一点に
定まらない場合は、できるだけ電圧が小さくなる範囲を測定する。
(8) ZS と RA、RB、RC の値からブリッジの平衡条件式(10)を用いて Zf を算出し、た
だちにその値を複素平面上にプロットする。
(9) 周波数を変えて、上記(4)から(8)を繰り返し、インピーダンス軌跡を書く。このと
き、インピーダンス軌跡がなめらかな曲線となるように周波数を選択する。ZS の値の
設定値も周波数によって大きく変化するので、注意すること。
注)概して Xf が大きい周波数で平衡点を探しやすいので、ブリッジの操作になれて
いないときは、そのような周波数から測定を始めるのがよい。
報告書に含まれるべき内容
1.直列共振回路
(1) 実験(1)について、周波数の変化に対する VR、VL'、VC および|VL' + VC |の変化を
1枚のグラフに図示する。
(2) 実験(1), (2)で、VR に対する V の位相差φと周波数の関係を1枚のグラフに描く。
(3) 実験 (2), (3)について、周波数の変化に対する VR および|VL' + VC |の変化をそれ
ぞれ1枚のグラフに図示する。
(4) 実験(1)∼(3)について、共振周波数付近で周波数目盛りを部分的に拡大した、共振曲
線を描く。
2.交流ブリッジによるインピーダンスの測定
図3の回路のインピーダンスに対する計算値、測定値とも表1、図4のように表とグ
ラフで表示する。
考 察
1.直列共振回路
(1) 実験(1)で、共振周波数近辺での VR、VL、VC の変化について考察する。
(2) 実験(1)∼(3)のそれぞれについて、共振曲線より式(7) を用いてQ0を求める。
(3) 実験(1)と(2)で測定した位相差φのグラフを比較し、考察する。
(4) 式(4)を用いて共振回路に挿入したコイルのインダクタンス L を求め、‘インピーダ
ンス’の実験の考察(2)で得られた L の値と比較する。
(5) 実験(1), (2)のそれぞれの場合について、共振時の VR および|VL' + VC|から、図6
の 共振回路に挿入したコイルの内部抵抗 r の値を求めよ。また、‘インピーダンス’
の実験の考察(2)で得られた L の値と比較する。
(6) 直列共振と並列共振について調べ、二つの共振現象を比較せよ。
2.交流ブリッジによるインピーダンスの測定
(1) 計算値と測定値を比較し、誤差の要因について考察せよ。
(2) インピーダンス軌跡の上で、実際には測定の困難な部分について説明せよ。
(3) 図8の2つのホイートストンブリッジにおいて、最初平衡状態にあるものとする。
Rd が変化して Rd + ∆Rdとなったときに検流計に流れる電流 ∆I が大きい(ブリッジの感
度が良い)のは(a), (b)どちらの回路か? ( ∆I / ∆Rd をブリッジの感度という。) ただ
し、図8で Ra > Rb > Rc > Rd の関係があり、rg > > re とする。
参考文献
1) 榊 米一郎、大野 克郎、尾崎 宏 共編、「大学課程 電気回路(1)」、オーム
社、1991
2) 原 正人著「これでわかった電気の理論」、啓学出版、1976 の第9章
R
R
b
d
R
R
a
g
g
r
r
g
Ra
r
e
Rc
E
(a)
b
g
Rc
r
e
Rd
E
(b)
図8 ホイートストンブリッジの感度の比較