偏光高速度干渉計によるスピーカ放射音場の 1mm分解能イメージング計測

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偏光高速度干渉計によるスピーカ放射音場の
1mm 分解能イメージング計測
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◎石川憲治, 矢田部浩平, 池田雄介, 及川靖広 (早大理工), 大沼隼志, 丹羽隼人 ((株) フォトロン)
1
まえがき
光を用いた音場計測手法は,非接触かつ高密度な
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計測が可能であるという特徴を有しており,音の遠隔
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計測や可視化などに有効である.我々は偏光高速度カ
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メラと位相シフト干渉法を組み合わせることにより,
瞬時かつ定量的に音圧の2次元分布を計測する手法
された音波を 1 mm の空間分解能で計測した結果を
表–1 計測システムの主要パラメタ
の困難である波長の短い音波の波面やスピーカ近傍
項目
の音場のイメージング計測を実現した。
フレームレート
空間分機能
撮影範囲
計測点数
計測原理・システム
光学干渉を用いた音響計測手法では,音による光
音場を透過した光の位相は
n0 − 1
ϕ(r, t) = kn0 |L(r)| + k
γp0
∫
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図–1 計測システムの光学系概要
報告する.マイクロホンアレイでは可視化すること
の位相変調を検出することで音場の情報を得ている.
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を提案している [1, 2].本稿では,スピーカから放射
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上限値
1.55 Mfps
0.2 mm×0.2 mm
ϕ 100mm
512 × 512
においてスピーカ駆動信号は単一周波数の正弦波と
し,カメラのフレームレートは 7000 fps,シャッター
p(l, t)dl
(1)
L(r)
スピードは 25 µs,撮影画素は 512×512 ピクセルと
した.フレームレートを 7000 fps としたのは,カメ
で与えられる [3].ただし,r は観測点位置,t は時間,
ラの仕様上それ以上のフレームレートでは撮影画素
k は光の波数,n0 および p0 は定常状態の空気の屈折
率および圧力,γ は比熱比,L は放射点から観測点の
が狭くなるためである.したがって 3500 Hz 以上の
間を光が通る経路,p は音圧を表す.上式より,検出
グ定理を満たさないが,シャッタースピードを十分に
された光の位相は経路に沿った音圧の積分値となる
短く設定したため瞬時音圧分布の計測が可能である.
ことが分かる.
計測された位相に対してピクセルごとに信号周波数
周波数をもつ正弦波に対しては時間領域のサンプリン
図–1 に計測システムの概要を示す [1].光学系は偏
を中心周波数とする 100 Hz の通過帯域幅をもつ 20
光干渉計の干渉波面が偏光高速度カメラに入射する
次バタワース IIR バンドパスフィルタを適用し,音
構造となっており,計測領域内の音場による光の位相
が同位相となる条件の計測信号の 100 フレーム分の
変化が検出される.偏光高速度カメラは 4 種類の直
平均を取った.可視化された音場の単位は,音圧の積
線偏光子からなる位相シフトアレイおよび撮像素子
分値 Pa·m である.図–2 に実験の様子を示す.干渉
で構成されている [4].本システムの主な特徴を表–1
計と反射体間の領域が計測範囲であり,図では領域の
に示す.カメラのフレームレートが音のサンプリング
中央に超音波トランスデューサが設置されている.
周波数となるため,数百 kHz 帯の超音波までサンプ
図–3 に 超 音 波 ト ラ ン ス デュー サ (MURATA
MA40S4S) から放射された 40 kHz 正弦波音場の計
リング定理を満たす計測が可能である.
測結果を示す.図中の白く塗られた領域は,トラン
3
実験
スデューサおよびその支持部を示している.各図の
本実験では,超音波トランスデューサ,2way スピー
カ,およびスマートフォンから放射される音場の計
測を行った.干渉計筐体から反射鏡までの距離は 40
cm とし,それらは光学除振台上に設置した.各実験
∗
左上にそれぞれで用いたトランスデューサの模式図
を示した.(a) は振動板がプラスチックの円筒に覆わ
れている状態であり,(b) はその円筒を 2 mm 程度切
断し,振動板をむき出しにした状態である.円筒有
Imaging of sound field generated by loudspeakers using high-speed polarization interferometer with 1 mm
spatial resolution. By Kenji Ishikawa, Kohei Yatabe, Yusuke Ikeda, Yasuhiro Oikawa (Waseda University),
Takashi Onuma, and Hayato Niwa (Photron limited).
日本音響学会講演論文集
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2016年9月
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図–4 2way スピーカ放射音場
図–2 計測の様子
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図–5 スマートフォン放射音場
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図–3 40kHz 正弦波で駆動された超音波トランスデューサ
から放射された音場
FP
FP
むすび
4
本研究では,偏光高速度干渉計を用いたスピーカ
りは前方の音圧が強調されているのに対し,円筒無し
放射音場の 1 mm 空間分解能計測を実現した.偏光
では前方と側面および後方の音圧変化が小さいこと
高速度干渉計によって計測された定量的な光位相分
が読み取れる.さらに円筒有りの場合,音響中心はお
布は,音響光学理論を用いることで音圧の線積分値
およそ振動板上の中心に位置しているが,円筒無しの
に変換される.提案手法は非接触かつ 1 mm 以下の
場合は振動板から約 4 mm 離れた点に音響中心が現
空間分解能での計測を実現するため,音源近傍音場
れていることが確認できる.このように提案システ
や微小構造による音の放射・散乱等のマイクロホンで
ムを用いて高空間分解能で音場をイメージング計測
は計測が困難な音場のイメージング計測が可能であ
することで,トランスデューサの僅かな構造の違いに
る.また,計測データから瞬時音圧分布だけでなく,
よる放射音場の差を視覚的に認識することができる.
音圧パワー分布や音源の指向特性を導出することも
図–4 に 2way スピーカ (DENON SC-A11SG) から
可能である.さらに,本稿で示した画像を得るために
放射された 2 kHz, 8 kHz, 15 kHz 正弦波音場の計測
必要な計測時間は数十 ms であり,非常に短い時間で
結果を示す.図中左側にスピーカが設置されており,
スピーカ等の空間的な特性を得ることが可能である.
左上に 2 cm ドームツイータ,左下に 8 cm のウーファ
これらの特徴を活かして,スピーカや小型音響シス
がある.クロスオーバー周波数は 4 kHz である.図
テムの設計,音響材料や音響現象の空間的な特性の
より,2 kHz および 15 kHz はそれぞれツイータおよ
計測等への応用が期待される.
びウーファからのみ音波が再生されているが,8 kHz
はツイータおよびウーファの両方から再生された音
謝辞
波が干渉している様子が確認できる.図–4(a) に表れ
15J08043 の助成を受けて行われた.
ている水平方向の縞は光学素子の位置や角度のわず
参考文献
かなずれによって生じるノイズである.
図–5 にスマートフォンのスピーカから放射された
10 kHz 正弦波の計測結果を示す.図–5(a) は画面左
側にスマートフォンの筐体が撮影されており,スピー
カは右上角よりやや下側に位置している.図–5(b) は
図–5(a) に対してスマートフォンを 90 度回転した状
態であり,画面中央から左側に向かって筐体が設置さ
れている.スマートフォン筐体近傍での音場が可視化
されていることが分かる.
日本音響学会講演論文集
本研究は JSPS 特別研究員奨励費 16J06772,
[ 1 ] K. Ishikawa et. al, “High-speed imaging of sound using parallel phase-shifting interferometry,” Opt. Express,
24(12), 12922–12932 (2016).
[ 2 ] 石川ら, “偏光高速度干渉計を用いた定量的かつサブミリ
メートルの空間分解能を持つ光学的音場計測法”, 音講論集 (春),
593–594 (2016).
[ 3 ] K. Ishikawa et. al, “Numerical analysis of acousto-optic
effect caused by audible sound based on geometrical optics,” 12th WESPAC, 165–169 (2015).
[ 4 ] T. Onuma and Y. Otani, “A development of twodimensional birefringence distribution measurement system
with a sampling rate of 1.3 MHz,” Opt. Commun. 315, 69–
73 (2014).
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