1-7-9 偏光高速度干渉計によるスピーカ放射音場の 1mm 分解能イメージング計測 ∗ ◎石川憲治, 矢田部浩平, 池田雄介, 及川靖広 (早大理工), 大沼隼志, 丹羽隼人 ((株) フォトロン) 1 まえがき 光を用いた音場計測手法は,非接触かつ高密度な සએ ખೝঞথ६ 計測が可能であるという特徴を有しており,音の遠隔 ੑ୩ୠ 計測や可視化などに有効である.我々は偏光高速度カ ုঅش ५উজॵॱ メラと位相シフト干渉法を組み合わせることにより, 瞬時かつ定量的に音圧の2次元分布を計測する手法 された音波を 1 mm の空間分解能で計測した結果を 表–1 計測システムの主要パラメタ の困難である波長の短い音波の波面やスピーカ近傍 項目 の音場のイメージング計測を実現した。 フレームレート 空間分機能 撮影範囲 計測点数 計測原理・システム 光学干渉を用いた音響計測手法では,音による光 音場を透過した光の位相は n0 − 1 ϕ(r, t) = kn0 |L(r)| + k γp0 ∫ ঞথ६ ௱ ੑ 図–1 計測システムの光学系概要 報告する.マイクロホンアレイでは可視化すること の位相変調を検出することで音場の情報を得ている. ঞথ६ ణশഝ ုৈச২ढ़ওছ を提案している [1, 2].本稿では,スピーカから放射 2 ঞش२ 上限値 1.55 Mfps 0.2 mm×0.2 mm ϕ 100mm 512 × 512 においてスピーカ駆動信号は単一周波数の正弦波と し,カメラのフレームレートは 7000 fps,シャッター p(l, t)dl (1) L(r) スピードは 25 µs,撮影画素は 512×512 ピクセルと した.フレームレートを 7000 fps としたのは,カメ で与えられる [3].ただし,r は観測点位置,t は時間, ラの仕様上それ以上のフレームレートでは撮影画素 k は光の波数,n0 および p0 は定常状態の空気の屈折 率および圧力,γ は比熱比,L は放射点から観測点の が狭くなるためである.したがって 3500 Hz 以上の 間を光が通る経路,p は音圧を表す.上式より,検出 グ定理を満たさないが,シャッタースピードを十分に された光の位相は経路に沿った音圧の積分値となる 短く設定したため瞬時音圧分布の計測が可能である. ことが分かる. 計測された位相に対してピクセルごとに信号周波数 周波数をもつ正弦波に対しては時間領域のサンプリン 図–1 に計測システムの概要を示す [1].光学系は偏 を中心周波数とする 100 Hz の通過帯域幅をもつ 20 光干渉計の干渉波面が偏光高速度カメラに入射する 次バタワース IIR バンドパスフィルタを適用し,音 構造となっており,計測領域内の音場による光の位相 が同位相となる条件の計測信号の 100 フレーム分の 変化が検出される.偏光高速度カメラは 4 種類の直 平均を取った.可視化された音場の単位は,音圧の積 線偏光子からなる位相シフトアレイおよび撮像素子 分値 Pa·m である.図–2 に実験の様子を示す.干渉 で構成されている [4].本システムの主な特徴を表–1 計と反射体間の領域が計測範囲であり,図では領域の に示す.カメラのフレームレートが音のサンプリング 中央に超音波トランスデューサが設置されている. 周波数となるため,数百 kHz 帯の超音波までサンプ 図–3 に 超 音 波 ト ラ ン ス デュー サ (MURATA MA40S4S) から放射された 40 kHz 正弦波音場の計 リング定理を満たす計測が可能である. 測結果を示す.図中の白く塗られた領域は,トラン 3 実験 スデューサおよびその支持部を示している.各図の 本実験では,超音波トランスデューサ,2way スピー カ,およびスマートフォンから放射される音場の計 測を行った.干渉計筐体から反射鏡までの距離は 40 cm とし,それらは光学除振台上に設置した.各実験 ∗ 左上にそれぞれで用いたトランスデューサの模式図 を示した.(a) は振動板がプラスチックの円筒に覆わ れている状態であり,(b) はその円筒を 2 mm 程度切 断し,振動板をむき出しにした状態である.円筒有 Imaging of sound field generated by loudspeakers using high-speed polarization interferometer with 1 mm spatial resolution. By Kenji Ishikawa, Kohei Yatabe, Yusuke Ikeda, Yasuhiro Oikawa (Waseda University), Takashi Onuma, and Hayato Niwa (Photron limited). 日本音響学会講演論文集 - 343 - 2016年9月 PP 10 ੑ೧ 5 0 -5 FP DN+] ௱ੑ ॺছথ५ॹগش१ ખೝ৬ FP EN+] FP -10 FN+] 3D؞P 図–4 2way スピーカ放射音場 図–2 計測の様子 ஷഝ 0.4 10 0.2 0 5 -0.2 0 -0.4 FP -5 FP D FP -10 Dથॉ E૮ख E 3D؞P 図–5 スマートフォン放射音場 3D؞P 図–3 40kHz 正弦波で駆動された超音波トランスデューサ から放射された音場 FP FP むすび 4 本研究では,偏光高速度干渉計を用いたスピーカ りは前方の音圧が強調されているのに対し,円筒無し 放射音場の 1 mm 空間分解能計測を実現した.偏光 では前方と側面および後方の音圧変化が小さいこと 高速度干渉計によって計測された定量的な光位相分 が読み取れる.さらに円筒有りの場合,音響中心はお 布は,音響光学理論を用いることで音圧の線積分値 およそ振動板上の中心に位置しているが,円筒無しの に変換される.提案手法は非接触かつ 1 mm 以下の 場合は振動板から約 4 mm 離れた点に音響中心が現 空間分解能での計測を実現するため,音源近傍音場 れていることが確認できる.このように提案システ や微小構造による音の放射・散乱等のマイクロホンで ムを用いて高空間分解能で音場をイメージング計測 は計測が困難な音場のイメージング計測が可能であ することで,トランスデューサの僅かな構造の違いに る.また,計測データから瞬時音圧分布だけでなく, よる放射音場の差を視覚的に認識することができる. 音圧パワー分布や音源の指向特性を導出することも 図–4 に 2way スピーカ (DENON SC-A11SG) から 可能である.さらに,本稿で示した画像を得るために 放射された 2 kHz, 8 kHz, 15 kHz 正弦波音場の計測 必要な計測時間は数十 ms であり,非常に短い時間で 結果を示す.図中左側にスピーカが設置されており, スピーカ等の空間的な特性を得ることが可能である. 左上に 2 cm ドームツイータ,左下に 8 cm のウーファ これらの特徴を活かして,スピーカや小型音響シス がある.クロスオーバー周波数は 4 kHz である.図 テムの設計,音響材料や音響現象の空間的な特性の より,2 kHz および 15 kHz はそれぞれツイータおよ 計測等への応用が期待される. びウーファからのみ音波が再生されているが,8 kHz はツイータおよびウーファの両方から再生された音 謝辞 波が干渉している様子が確認できる.図–4(a) に表れ 15J08043 の助成を受けて行われた. ている水平方向の縞は光学素子の位置や角度のわず 参考文献 かなずれによって生じるノイズである. 図–5 にスマートフォンのスピーカから放射された 10 kHz 正弦波の計測結果を示す.図–5(a) は画面左 側にスマートフォンの筐体が撮影されており,スピー カは右上角よりやや下側に位置している.図–5(b) は 図–5(a) に対してスマートフォンを 90 度回転した状 態であり,画面中央から左側に向かって筐体が設置さ れている.スマートフォン筐体近傍での音場が可視化 されていることが分かる. 日本音響学会講演論文集 本研究は JSPS 特別研究員奨励費 16J06772, [ 1 ] K. Ishikawa et. al, “High-speed imaging of sound using parallel phase-shifting interferometry,” Opt. Express, 24(12), 12922–12932 (2016). [ 2 ] 石川ら, “偏光高速度干渉計を用いた定量的かつサブミリ メートルの空間分解能を持つ光学的音場計測法”, 音講論集 (春), 593–594 (2016). [ 3 ] K. Ishikawa et. al, “Numerical analysis of acousto-optic effect caused by audible sound based on geometrical optics,” 12th WESPAC, 165–169 (2015). [ 4 ] T. Onuma and Y. Otani, “A development of twodimensional birefringence distribution measurement system with a sampling rate of 1.3 MHz,” Opt. Commun. 315, 69– 73 (2014). - 344 - 2016年9月
© Copyright 2024 ExpyDoc