データサイエンス 岩田 修一 教授

データサイエンス
岩田 修一 教授
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梅城崇師
東京大学は学問の府であり、4千人の教員と2万人もの学生が研究する場であるばかり
でなく、その立地条件から広域避難場所となったり、観光や散歩などのコースになったり
するなど、公共的側面も持っている。
ふと立ち止まって考えると、東京大学はいったいどういう構造になっているのだろうか。
このほど法科大学院の建物ができたが、なぜ無理矢理あんな場所に作ったのだろうか。ま
た、大学が担う役割は年々増加しているといわれるが、いったい何が必要で何が求められ
ているのだろうか。大学内での工事として、工学部8号館や2号館、経済学部、東京大学
病院、理学部、浅野での武田先端知ビルなどがあるが、それらには長期的な立地計画が果
たして存在するのであろうか。このように大学の計画には考えることが多い。
ここで、駒場キャンパスについてみてみると、最近、図書館やアドミニストレーション
棟などが建設されたが、これは CCCL(Center for Creative Campus Life)計画に基づくも
ので、近年の駒場キャンパスはこれに従って概算要求や建築工事を行っている。この計画
は、学生や教職員も含めた人々のキャンパスでの生活を向上させることが目的であり、老
朽化した生協やサークル施設を建て替えるとともに、学内の再編を図るものである。概要
を言えば、駒場寮、105号館、学生会館を取り壊し、銀杏並木をより東側まで伸ばすと
ともに、コミュニケーションプラザという食堂・購買・スポーツ施設が整備された大きな
建物や、サークル活動施設などを作るという計画である。
これにより 91 年に駒場寮が廃寮され三鷹寮建設が決定し、96 年に駒場寮が廃寮された。
この時点では私は東京大学にいなかったため、詳しい事は知らないが、学部側の決定に対
し一部駒場寮学生が反対し続けることになった。明寮が取り壊されキャンパスプラザが完
成したあとも動きは続き、2001 年5月に東京高裁で建物明け渡しを命じる判決が仮執行を
認める形で出され、台風の翌日の8月 22 日に、正門が閉鎖され入構に学生証が必要となる
中で、寮前で抵抗する学生がバリケードを築き、それを 500 人以上の教職員とガードマン
で囲み、機動隊まで待機することになった。大きな混乱はなかったものの、即日、寮の周
囲には高さ3m程度の鉄製の囲いで覆われ、侵入されないようにガードマンが常に監視し
続けるという異常事態になった。今では更地となっている。
反対の理由は、三鷹が遠く、寮の定員が予算の関係で予定より少なくなったことや、駒
場寮の耐震性や文化的価値は確かなので改築に留めるべきだというものだが、それに加え
学生自治会(民青同盟?)の組織的反対や感情論などもあったため、結果とし学生の共感
を得ることはできなかった。
この件に関して傍観者であったが、感じる点がある。それは役所仕事、全会一致の難し
さ、意見の少なさである。
役所仕事は、名前からもわかる。三鷹寮は「三鷹国際学生宿舎」、キャンパスプラザは「多
文化交流施設」という正式名称を持つ。これはこのような名称を持つことで、予算の獲得
がしやすいことが挙げられる。また、駒場寮廃寮など一度決定した計画を執行しなければ
以後数年間は予算がつかないことや、予算執行段階での計画変更が難しいという現状も問
題である。これらの悪しき習慣は、独立行政法人化に伴い無くなることを期待する。
全会一致の難しさは、大多数が賛成して、小数が激しく反対するような場合、実行すべ
きかどうかである。公共の利益と、一部人々の利益を秤にかけられるかどうかである。
この全会一致の難しさを少しでも緩和するために、CCCL 計画において2年ほど前に大き
な動きがあった。それはパブリックコメントという方式が導入されたことである。今まで
施設部など事務方中心で行ってきた CCCL 計画に対して、一般教官や学生の意見を聞くとい
うものである。ただ、パブリックコメントの募集は積極的に行われなかったこともあり、
集まったコメントは20件に過ぎない。また、駒場寮問題でもそうであるが、私も含め一
般学生は意見を持っているかもしれないが、それを敢えて発しようとは思わないのである。
東大闘争の時代とは全く逆の風潮がある雰囲気である。
これらは駒場の事例であるが、これを踏まえ、本郷でも数十年を見据えた長期的なキャ
ンパスマップを、学生の意見を積極的に取り入れながら描くべきではないだろうか。この
計画には、本郷キャンパスだけでなく、浅野や弥生、柏や駒場1、駒場2なども併せて考
慮し、これらの建物や結びつきについて、学科の再編も含めた議論を行うべきである。
まず、キャンパスの改善について全学生や教職員にアンケートを行うべきである。現在
の工事や施工計画は教授会や事務方が中心となっており、そこで活動している学生等の意
見がないのではないだろうか。学生は若く貴重な数年間をキャンパスで学ぶ。より学びや
すい場、研究しやすい場を提供することは重要であるし、学生が学びやすい場というのは、
教える側にとってもきっと重要な要素であるはずである。アンケートも一度だけ実施する
のではなく、定期的に実施して正確に現状を把握し、時間をもって答えてもらうためにも、
新年度ガイダンス時などを利用して必ず全員が余裕をもって答えられるような場を提供す
べきである。また、アンケートの際には前回アンケートの経過報告も添付して、活動を説
明していくことも重要である。
キャンパス構成にアンケートを実施することで、より多くの意見が集めることができる
が、それが反映されなければ意味がない。現在、一般学生には不透明な学部の意志決定シ
ステムを明確化し、学生も教授と同レベルで意見を言えるようなシステム作りも必要であ
る。大学は学生もいて初めて成り立つ。その意思決定プロセスに学生が関与することに無
理はないと思われる。教授会の公開やオブザーバー制度の導入などを計るということも重
要なことではないだろうか。こうすることで、役所仕事的なこともなくなるはずである。
このように、意思決定プロセスに学生が関与することが重要ではないかと思う。学生の
中で希望者等を選出し、裁判員のように意思決定に関わりを持たせることで、逆に学生の
自発的行動を促すこともできるのではないだろうか。