3. 動物モデルから探るアトピー性皮膚炎の発症のしくみ 東京農工大学農学部獣医学科臨床免疫学講座 松田 浩珍 2月ともなると花粉症のため,くしゃみを繰り返す人や眼を真っ赤にしている人を多くみかけます。 また、生活環境の変化が誘因とされるアトピー性皮膚炎や喘息などは、一年を通してその発症が 問題となっています。このようにアレルギーは今や国民病として社会問題化しており,これを裏付 けるように国民の約半数が何らかのアレルギーに悩まされたことがあるか、または現在罹患してい るといわれています。 しかしながら,多くの研究者の努力にもかかわらず,この病気を完全に制御する予防・治療法を確 立するには至っていません。特に,乳幼児より発症するアトピー性皮膚炎は遺伝的素因の他に、 ストレス、ダニ、大気汚染物質など様々な環境因子が複雑に関連し発症の引き金を引くため、発 病の成り立ちが複雑であり、根治療法の開発につながらなかった現実があります。 他方、疾患モデル動物の存在は、薬品開発を進めるにあたって極めて重要な情報を与えてくれま す。事実,糖尿病や腎不全など多くの疾患モデル動物が発見・開発され,病気の解明とそれから 得られた情報をもとに治療薬の開発が進められています。 従って,アトピー性皮膚炎においても適切なモデル動物の開発が待たれていたわけです。このよ うな状況の中で,我々は世界に先駆け NC/Nga マウスがアトピー性皮膚炎自然発症マウスあること を示し,現在その発症機構を明らかにしつつあります。このマウスの特徴は,空気を清浄化してい ない環境で飼育すると,アトピー性皮膚炎の特徴である強い痒みを伴う慢性湿疹を自然発症する ことです。これとは逆に,フィルターを使用して清浄化した環境では皮膚炎は全く発症しません。ま た,皮膚炎の発症に伴い,血液中の IgE 抗体価も増加します。アトピー性皮膚炎患者の約80%に IgE 価の上昇が認められることから,このようなケースのモデルと考えられます。その他,病理組織 学的検査や免疫学的検査などによって,人のアトピー性皮膚炎に酷似していることが判明してい ます。従って,このマウスは新薬の開発・評価に利用できるわけで,事実,新世代治療薬として市 販されているプロトピックはこのマウスによっても薬効が検証されています。 また,最近では機能性食品である乳酸菌(L. GG)もその効果が明らかになっています。本講演で は NC/Nga マウスの解析によって得られた新知見から,アトピー性皮膚炎発症のしくみをお話した いと思います。
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