ショウガ搾汁残渣の有効利用

栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
共同研究
ショウガ搾汁残渣の有効利用
伊藤
和子 *
福嶋
瞬*
亀山
大 輔 **
Effective Utilization of Residue of Squeezed Ginger
Kazuko ITOH, Shun FUKUSHIMA and Daisuke KAMEYAMA
生 姜 漬 物 加 工 時 に 生 じ る 規 格 外 品 は , ほ ぼ 50%が 水 分 で あ る た め , 搾 汁 後 廃 棄 さ れ て い る 。
し か し ,こ の 搾 汁 残 渣 に は ,シ ョ ウ ガ 特 有 の 香 気 成 分 や 辛 味 成 分 が 残 存 し て い る こ と が 考 え ら
れ る こ と か ら ,そ の 有 効 活 用 が 望 ま れ て い る 。そ の た め ,搾 汁 残 渣 を 常 圧 乾 燥 ・ 真 空 凍 結 乾 燥
・減 圧 乾 燥 に て 粉 末 化 し ,9 メ ッ シ ュ 及 び 30 メ ッ シ ュ の ふ る い で 篩 別 し 2 画 分 に 分 け ,そ れ ぞ
れ の 香 気 成 分 及 び 辛 味 成 分 を 分 析 し た 。常 圧 乾 燥 に お け る 乾 燥 粉 末 が 香 気 及 び 辛 味 と も に 優 れ
ており,製品化に適するものと考えられた。
Key Words : 生 姜 , 搾 汁 残 渣 , 香 気 成 分 , 辛 味 成 分
1
はじめに
画分に分けた。
ショウガは,特徴的な香りと刺激性を有し,世界中で
○減圧乾燥法
使用される香辛料・香辛野菜である。ショウガには,血
減圧乾燥機(CVK-12PS:ISUZU 製作所製)を用い,70℃
行を良くして身体を温める効能があることが知られてお
にて 7 時間及び 9 時間減圧乾燥後粉砕し,それぞれ常圧
り,日本では寿司の薬味や料理の下味の食材として用い
乾燥法と同様に2画分に分けた。
られている。また,海外では医薬品の一種としても用い
2.3
られている。
香気成分分析
香気成分は,head space sorptive extraction(HSSE)
(株)シオダ食品において,生姜漬物の加工工程で生じ
法 に よ り 行 っ た 。 HSSE 法 に よ る 抽 出 は , EG-Silicone
る規格外品は,約 50%の水分を除くために搾汁した後,
Twister(Gerstel 社製)を用い,試料 0.2g に内部標準
利用されずに大量に廃棄されているのが現状である。そ
としてイソプロパノールを添加し,40℃30min 吸着させ
こで,これら未利用資源の有効活用を目指し,搾汁残渣
た。その後,加熱脱着装置(Gerstel 社製)つきガスク
の乾燥方法の違いによる香気成分・辛味成分の比較を行
ロ マ ト グ ラ フ 質 量 分 析 計 (GC/MS) ( GC6890N,MS5973:
った。
Agilent Technologies 社製)を用いて測定を行った。
加熱脱着装置の温度条件は,TDS:20℃(1min)-60℃/min
2
2.1
研究の方法
昇温-210℃(4min)とし,CIS:-150℃(0.01min)-12℃/sec
原料
昇 温 -210 ℃ (5min) と し た 。 GC/MS 条 件 は , カ ラ ム :
ショウガ搾汁残渣は(株)シオダ食品の生姜加工工程か
Inertcap pure WAX(30m,0.25mm,0.25 μ m:GL Sciences
ら生じる規格外品を搾汁したものを用いた。
製),オーブン温度:40℃(3min)-5℃/min 昇温-150℃-10
2.2
℃ /min 昇 温 -250 ℃ (5min) , キ ャ リ ア ガ ス : ヘ リ ウ ム
乾燥方法の検討
○常圧乾燥法
1ml/min,トランスファーライン温度:250℃,イオン源
(株)シオダ食品の通風乾燥機を用い,80℃20 時間常圧
乾燥後粉砕し,9,30 メッシュのふるいを用いて篩別し,
温度:230℃,イオン化モード:EI,イオン化電圧:70eV
で測定を行った。
9~30 メッシュ画分と 30 メッシュ通過画分とに分けた。
○真空凍結乾燥法
分析成分は,ショウガの香りに大きく寄与すると考え
られる Eucalyptol とβ-Phellandrene,(株)シオダ食品
真空凍結乾燥機(RLEⅡ-103:共和真空製)を用い,棚
において原料として使用している早堀りショウガの特徴
温度 40℃にて凍結乾燥後粉砕し,常圧乾燥法と同様に2
的な成分である Limonene,Linalool,Neral 及び Nerol
* 栃木県産業技術センター
** 株式会社シオダ食品
食品技術部
を対象成分とした。
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栃木県産業技術センター 研究報告 No.12(2015)
2.4
辛味成分分析
3.2
辛味成分は,6-Gingerol,Shogaol,Zingerone につい
1)
て飯島らの方法 に準じ定量を行った。
辛味成分の比較
常圧乾燥,真空凍結乾燥及び減圧乾燥にて作製した乾
燥粉末の,辛味成分分析結果を図2,3に示す。なお,
すなわち,試料 0.2g にメタノール 10ml を加え,氷冷
Zingerone は今回検出されなかった。
しながら超音波装置にて 20min 抽出した。超高速遠心機
分析の結果,6-Gingerol では,常圧乾燥及び真空凍結
で 12,000rpm 10min 遠心し,上清を採取した。沈殿物に
乾燥条件による粉末の濃度が高かった。また,すべての
メタノール 10ml を加え,同様の操作を繰り返して上清を
乾燥条件において,9~30 メッシュより 30 メッシュ通過
採取して合わせ,25ml に定容した。
画分の濃度が高い傾向がみられた。Shogaol では,常圧
HPLC 条件は,装置:Prominence(島津製作所製),検
乾燥において増加が認められた。
出器:フォトダイオードアレイ検出器,検出波長:280nm,
カラム:Develosil ODS(4.6×150mm:野村化学製),カ
以上の結果から,常圧乾燥条件が最も優れていると考
えられた。
ラム温度:35℃,溶離液A:超純水(0.1%ギ酸含有),
溶離液B:アセトニトリル(0.1%ギ酸含有),グラジエ
ン ト 条 件 : A 70% → 10%(20min),10%(10min)10% →
70%,70%(10min),流速:1ml/min とした。
3
3.1
結果及び考察
香気成分の比較
常圧乾燥,真空凍結乾燥及び減圧乾燥にて作製した乾
燥粉末の,香気成分分析結果を図1に示す。また,検討
した香気成分の香りの特徴を表1に示す。真空凍結乾燥
及び減圧乾燥では香気成分の減少がみられ,常圧乾燥が
Tukey-Kramer の HSD 検定
適していると考えられた。
異なる記号間は 5%水準で有意
図2
図1
乾燥条件による 6-Gingerol の比較
乾燥条件による香気成分の比較
Tukey-Kramer の HSD 検定
表1
香気成分と香気の特徴
香気成分名
*:1%水準で有意
香気の特徴
図3
乾燥条件による Shogaol の比較
Limonene
柑橘系の芳香
β-Phellandrene
生姜の香り
Eucalyptol
清涼感のある香り
Linalool
スズラン様芳香
減 圧 乾 燥 に よ り 粉 末 を 作 製 し ,そ れ ぞ れ の 香 気 成 分 及
Neral
甘いレモンの香り
び 辛 味 成 分 を 比 較 検 討 し た 。そ の 結 果 ,常 圧 乾 燥 条 件
Nerol
バラ様の甘い香り
が香気・辛味ともに優れていることがわかった。
4
おわりに
生姜搾 汁 残 渣 を 用 い ,常 圧 乾 燥 ,真 空 凍 結 乾 燥 及 び
今 後 は ,常 圧 乾 燥 粉 末 を 用 い た 商 品 開 発 を 検 討 し て
いく予定である。
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参考文献
1) 食品機能性の科学,(株)産業技術サービスセンター,
1086-1089,(2008)
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