泡の一生 10 班 瀧川晃太郎 1. 緒論 泡は我々の生活の中,そしてこの世界に極めてあ りふれた現象である.例えばシャボン玉やビールの 泡,プールなど,液体のあるところに泡があるといっ ても過言ではない.また泡はその性質から,壊れやす いもの,儚いものと捉えられることが多い.しかし, 近年の研究でナノバブルと呼ばれる非常に小さい泡 (直径約100 nm以下)の寿命が半年以上であること が確かめられており 1),この泡の性質を利用する研 究が様々な分野で行われている. この事実を知り,私は泡の性質に興味を持った.そ こで本研究では,泡という現象について理解を深め, 特に洗剤による泡の寿命について実験を行い,どの ような条件で泡の寿命が延びるのかを検証すること にした. 純液体ではこれに対する抵抗力が働かないため, 泡は非常に不安定となる.界面活性剤の含まれる溶 液でも重力によって流下することで泡膜が薄くなる が,泡膜両表面に界面活性剤が配列して層を成すこ とによる静電相互作用反発力𝛱𝐸 や膜内部の水和力 𝛱𝑆 が働いて泡が安定化することになる 2).よって,泡 膜の外圧と内圧の差𝛱(ℎ)は式(2)の様に表される. 𝛱(ℎ) = 𝛱𝐸 + 𝛱𝑉 + 𝛱𝑆 (2) 安定化した泡は表面相互作用自由エネルギー 𝛥F(h) = 𝛥𝐹𝐸 + 𝛥𝐹𝑣 + 𝛥𝐹𝑆 (3) を持ち,そのポテンシャル障壁を超えるエネルギー が外部から与えられえることでよりエネルギーの低 い状態,つまり破泡に至る.泡立ちから破泡までの時 間は以上の様に泡の安定性に依存しており,これを 泡寿命として本研究を行った. 2.泡の構造と破泡のメカニズム 泡とは,その表面が気体と液体の接する気液界面 となっているものを指す.泡の形態には数種類があ るが,本実験では液面の泡について実験を行うため, 以降は単一泡沫(単独で存在する泡)のみを扱うこと とする. 3.実験 本実験では図 2 に示す実験装置を用いて実験を 行った.この実験装置は,300 mlポリビーカーの底部 に穴を空けて送気用チューブを通し,これにピスト ンを接続することで吹き込む気体の体積を調製する ことを可能にしたものである. 泡の発生に用いる界面活性剤としては,市販の洗 剤を採用しており,この洗剤に含有されている界面 活性剤はアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム と脂肪酸アルカノールアミドであった.またその濃 度は 21%であった.この洗剤を水で希釈することで 界面活性剤濃度が 15.8%,10.5%,7.00%,5.25%,4.20% の溶液を調製した. 調製した希釈溶液や 左から 10 ml,5 ml,1 ml 洗剤の原液を実験装 置に入れ,各々の濃 度についてピストン で泡体積を変えなが ら泡寿命をストップ ウォッチで計測した. 図 1. 泡の構造 界面活性剤の水溶液では図 1 の様に界面活性剤が 表面に配列した泡膜ができる.一般に泡膜には,重力 による静水圧や表面張力,van der Waals 力𝛱𝑉 など が働いて自然に薄くなろうとする性質がある 2).こ こで,泡の内外の圧力差𝛥𝑃は泡の半径R,表面張力γ を用いて Young-Laplace の式として式(1)のように 表される. 𝛥𝑃 = 2𝛾 𝑅 (1) 送気チューブ 図 2. 泡寿命測定用実験装置 4.結果と考察 泡体積と泡寿命の関係の実験結果は図3と図4の グラフにまとめられた.また,濃度が 10.5%以下での 泡寿命と界面活性剤濃度の関係を図 5 に示した. 2000 y = 3203.1e-0.531x 泡寿命 / s 1500 1000 500 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 泡体積 / ml 図 3. 泡体積と泡寿命の関係(原液:濃度 21%) 200 180 7% 10.50% 15.75% て表面張力が減少して泡膜を薄化する力が極めて小 さくなることや式(2)の膜間斥力が指数関数的に増 加すること 2),第二に液体の粘性が高い場合は膜間 の排液にかかる時間が長くなることが挙げられる. これに対して低濃度側では,極大点を持ち,それ以外 では減少している.これは,界面活性剤濃度が低く泡 体積が小さい場合は式(1)において泡の半径 R が小 さく,表面張力γが大きくなることで内外圧力差ΔP が非常に大きくなるためだと考えられる. 図 5 では,泡の体積が 0.5 ml 以下では界面活性剤 濃度と泡寿命の間に相関関係があることがわかる. これについては図 6 のように泡の表面粘性と泡寿命 の間には相関関係があることが報告されており 2), 今回の結果はそれに追従する結果を得たものである と考えられる. 160 泡寿命 / s 140 120 100 80 60 40 0 2 4 6 泡体積 / ml 図 4. 泡体積と泡寿命の関係(希釈溶液) 図 6. 泡の表面粘性と泡寿命の関係 (出典:泡のエンジニアリング p.51) 110 100 本実験ではデータを求める際に,最低 5 回測定を 行いその平均値をとったが,その予想値を大きく下 回るデータが散見された.これは泡が,実験条件をそ ろえてもわずかな揺らぎが結果に大きく作用する非 平衡系であることが原因だと考えられる.したがっ て,より正確なデータを得るためには温度や空気の 揺らぎなどの外乱を排除することが必要となる. 泡寿命 / s 90 80 70 60 50 40 0.05ml 30 4% 5% 0.1ml 0.5ml 1ml 6% 7% 8% 9% 界面活性剤濃度 / % 2ml 10% 11% 図 5. 界面活性剤濃度と泡寿命の関係 図 3 と図 4 から,界面活性剤濃度が 21%と 15.8%の グラフの間に,また 10.5%と 7%のグラフの間にはそ れぞれ形状の相似がみられることが分かった.グラ フより,界面活性剤濃度が高い液体の泡では体積が 小さくなると寿命が指数関数的に増大すると考えら れる. この要因としては第一に,界面活性剤によっ 5.結論 ・泡の寿命を延ばすためには界面活性剤濃度を高く し,泡の体積を小さくすればよいことがわかった. ・低濃度,低体積の泡では界面活性剤濃度と泡寿命 に線形関係がある. 参考文献 1) 「マイクロバブル及びナノバブルに関する研究」 https://unit.aist.go.jp/emtech-ri/26envfluid/pdf/takahashi.pdf(2015/1/19 アクセス) 2) 石井淑夫,泡のエンジニアリング,テクノシステ ム(2005) p.3-10,43,51,69-71
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