為替トピックス

2015/
為替トピックス
8/20
投資情報部
FX ストラテジスト
由井 謙二
総選挙が確実な情勢に、リラは最安値を更新

トルコのダウトオール首相はエルドアン大統領に連立協議が不調に終わった旨を伝え、組
閣任務を返上。秋にも総選挙の実施が確実な情勢となり、年内にかけてトルコの政治的な
空白期間が続く公算となった。

再選挙となった場合でも、公正発展党(AKP)が単独過半数を確保できるかどうかは油断を
許さない。6月の総選挙で躍進したクルド系政党の得票率がAKPの勝敗の行方を握ってい
る状況とみられる。

政局不安の強まりを受けて、トルコリラ(以下リラ)の対ドル相場は一時1ドル=2.9リラ台を
付ける等、過去最安値を更新。対円でも1リラ=43円台を割りこむ等、2012年9月以来の安
値を付けた。

トルコ中銀は8月の金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決定。金融市場では政策
金利を据え置くとの予想が大勢となっていたが、一部には通貨防衛を目的として中銀が利
上げに踏み切ると予想する向きもあり、会合後のリラは下落した。

リラ相場が底打ちに向かうかどうかをみるうえで、中銀が通貨安阻止に向けて利上げ等、
本腰を入れて対応するのかどうかが、1つのポイントになるとみられる。
連立協議が決裂、解
散総選挙が確実な情
勢に
6月の総選挙後、8/23を期限として与党・公正発展党(AKP)は連立協議を進め
ていたが、8/13に最大野党・共和人民党(CHP)との協議が物別れに終わったほ
か、8/17には右派の民族主義者行動党(MHP)との協議も決裂した。そして、ダウト
オール首相は8/18、エルドアン大統領に信認を得る内閣組閣の可能性を見いだす
ことができなかったと伝え、組閣任務を返上した。エルドアン大統領は8/19、早期に
再選挙を実施する意向を表明し、解散・総選挙が実施されることがほぼ確実な情勢
となった。大統領は憲法の規定に従い、国会議長と協議して最終的に決定する。
総選挙の日程としては、トルコの憲法で解散が決定してから90日後の日曜日と規
定されており、11/22の実施が有力視される。ただ、トルコ高等選挙委員会は90日間
の準備期間を半分にすることができるとされており、場合によっては10月にも再選挙
が実施される可能性もある。いずれの場合でも年内にかけてトルコの政治的な空白
期間が続く公算となった。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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クルド政党の得票率
が AKPの 勝敗の 鍵
を握る
仮に再選挙となった場合、AKPが単独過半数を確保できるかどうかは予断を許さ
ない状況となっている。トルコの世論調査機関SONAR社が7/26から8/4の間に26
県、3,500人を対象に行った世論調査によると、各党の支持率はAKP:42.9%、CHP:
25.2%、MHP:17.0%、クルド系政党の人民民主党(HDP):10.3%となった。単独過半
数には44%程度の得票率が必要とみられるなかで、現状ではAKPは再度、単独過
半数を割り込むことが想定される。ただ、トルコでは、1987年に得票率が10%を超え
ない政党は議席を獲得できないという最低得票率制度が導入されている。そのた
め、クルド系政党であるHDPが10%の得票率を獲得できなければ、その分AKPの議
席数が伸びる公算が大きい。6月の総選挙と同様にクルド系政党がAKPの勝敗の行
方を握っている状況といえよう。
トルコ総選挙(2015年6月7日実施)結果(550議席)
2011年6月12日
2015年6月7日
議席数
議席数
政党
議席増減
公正発展党(AKP)
イスラム穏健派
327
258
▲69
共和民主党(CHP)
中道左派
135
132
▲3
53
80
27
0
80
80
35
0
0
550
550
民族主義者行動党(MHP) 民族主義右派
人民民主党(HDP)
クルド系
無所属候補者
合計
出所:各種資料よりみずほ証券作成
再選挙が現実味を帯びる等、政局不透明感の強まりを背景に株安・債券安(金利
政局不透明感の高ま
りにトルコリラの対ド 上昇)・リラ安のトリプル安の様相となっている。8/18の終値ベースで、主要株価指
ル相場は連日で過去 数であるイスタンブール100指数は75960ポイントと、今年1月に付けた高値から約
17%下落となり、2014年10月以来の安値を付けた。また、同国の10年国債利回りは
最安値を更新
10.29%に上昇し、2014年9月以来の10%台を上回った。トルコリラ(以下リラ)の対ドル
相場はCHPとの連立協議が決裂した8/13には、6/8の総選挙で与党AKPが過半数
割れとなった際に付けた水準を下回り、過去最安値を更新した。その後も連立協議
の不調が伝わるなかで下落基調を強め、8/18には一時1ドル=2.9リラ台を付け、年
初からは約19%減価した。対円でも1リラ=43円台を割りこむ等、2012年9月以来の安
値を付けた。
トルコ空軍によるイスラミックステート(IS)やクルド人の武装組織であるクルド労働
者党(PKK)に対する空爆や、8/10に発生したイスタンブールの米総領事館前の銃
撃事件の発生等、地政学リスクの高まりも投資家の不安心理を助長する形となって
いる。トルコ中央銀行(以下中銀)が公表する対内証券投資動向をみると、海外投
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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資家はトルコの株式および債券から資金を引き上げている。少なくとも政局や治安
等の安定がみられるまでは、海外投資家によるトルコへの資金流入の動きは抑制さ
れる公算が大きい。
海外投資家のトルコ株式・国債動向
(週次:2014/1/3~2015/8/6)
(億ドル)
(ポイント)
8.0
トルコの主要株価指数と10年国債利回り
(週次:2013/1/4~2015/8/18)
100000
債券
6.0
95000
株式
4.0
2.0
0.0
(%)
イスタンブール100(左目盛)
13
10年国債利回り(右目盛)
12
90000
11
85000
10
80000
9
75000
8
70000
7
65000
6
▲ 2.0
▲ 4.0
▲ 6.0
▲ 8.0
14/1/3
14/3/21
14/6/6
14/8/22
14/11/7
(注)4週移動平均、フローベース
出所:トルコ中央銀行のデータよりみずほ証券作成
15/1/23
15/4/10
15/6/26
60000
(年/月/日)
5
13/1
13/7
14/1
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
14/7
15/1
15/7
(年/月)
トルコ中銀は政策金 中銀は8/18の金融政策決定会合で主要政策金利である1週間物レポ金利を7.50%
利を据え置き、リラは に据え置くことを決定した。また、金利コリドー(市場金利の上限と下限)について
売りで反応
も、上限を示す翌日物貸出金利を10.75%、下限を示す翌日物借入金利を7.25%に
それぞれ据え置いた。
7月の消費者物価指数(CPI)が前年比+6.81%と6月(同+7.20%)から伸びが鈍化し、
中銀のインフレターゲット(同+3.0%~+7.0%)の上限を2年2ヵ月ぶりに下回ったことを
受けて、金融市場では主要金利を据え置くとの予想が大勢となっていた。ただ、リラ
が連日最安値を更新する動きとなったこともあり、一部には通貨防衛を目的として中
銀が利上げに踏み切ると予想する向きもあった。
中銀が今回の会合で公表した声明文は前回の内容がほぼ踏襲された。インフレ
に関しては、「食料やエネルギー価格(の下落)が短期的にインフレに好影響をもた
らした」と述べる一方、「最近の通貨リラの下落が物価のコア部分の改善を遅らせて
いる」と指摘。金融政策に関しては、「国内外市場の不確実性や、食料やエネル
ギー価格の振れ幅拡大もあり、インフレ見通しが明確に改善するまで慎重な政策ス
タンスを維持する」との見解を表明している。
また、中銀は今回の決定会合で金融政策の枠組み見直しに向けた行程表(ロード
マップ)を発表した。そこでは、①金利コリドーの上限金利(10.75%)と下限金利
(7.25%)の幅を縮小させたうえで政策金利(7.50%)の上下に均衡させる、②為替市
場の変動率を抑えるために柔軟に為替介入額を増額させる、等の方針を示され
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た。また、同日に中銀はロードマップとは別に外貨売り・リラ買いオークションの上限
を「入札の最低額+3,000万ドル」から「同+7,000万ドル」へと拡大すると発表した。
ただ、当日の為替市場では、リラは対ドル、対円で下落基調が鮮明化した。背景
にはリラの下落が続いているにもかかわらず中銀が政策金利を据え置いたことに対
する失望感や、通貨防衛姿勢が不十分との見方に加え、解散・総選挙の実施がほ
ぼ確実視される情勢となる等、政局不安の強まりが大きく作用している。
今後、米連邦準備理事会(FRB)が利上げに向けて動き出す一方で、トルコでは
政治的な空白の長期化が予想されており、リラ相場が一段と下押す可能性は否定
できない。また、中銀が政治的な配慮等から通貨安に対して為替介入等の一時的
な対応に終始するようであれば、中銀の信認低下がリラの下押し圧力となる可能性
がある。それだけに、リラ相場が底打ちに向かうかどうかをみるうえで、中銀が通貨
安阻止に向けていつの時点で利上げ等、本腰を入れて対応するのかどうかが、1つ
のポイントになるとみられる。
14
(%)
トルコの主要金利の推移
(週次:2010/7/2~2015/8/18)
(%)
12
12
11
10.75
10
10
9
8
8
7.50
7
7.25
6
6
5
4
4
市場金利(翌日物銀行間金利)
3
政策金利(1週間物レポ金利)
2
2
上限金利(翌日物貸出金利)
下限金利(翌日物借入金利)
1
0
0
10/7 11/1 11/7 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 15/7
(注)トルコ中銀は資金供給オペ等を通じ市場金利を政策金利近辺に誘導
市場金利の変動を許容する幅として、上限金利と下限金利を設定
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(1リラ=円)
58
トルコリラの推移
(日次:2012/1/2~2015/8/18)
(年/月)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(1ドル=リラ) リ
1.6
ラ
高
52
2.0
62
49
2.2
46
2.4
43
2.6
2.8
3.0
15/7
リ
ラ
安
(年/月)
( 週次:2010/1/1~2015/8/18)
(1リラ=円)
70
70
66
対円(左目盛)
対ドル(右逆目盛)
(年/月)
トルコリラ円の週足推移
(1リラ=円)
1.8
37
12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
インフレ目標(5%±2%)
消費者物価(CPI)
コアCPI(除く食品、エネルギー)
11/1 11/7 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 15/7
55
40
トルコの物価指数(前年比)
(月次:2011/1~2015/7)
トルコリラ円
52週移動平均線
52週移動平均±10%
66
62
58
58
54
54
50
50
46
46
42
42
38
38
10/1 10/7 11/1 11/7 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 15/7
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
(年/月)
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商 号 等 : みずほ証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 94 号
加入協会 : 日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
広告審査番号 : MG5690-150820-19
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