授業pdfファイル

科学技術と社会 3
T.Kuhnのパラダイム論
科学的方法とは帰納的推論である
観察や実験可能な事実に基づいて理論構築
し,予測や一般化を行うのが科学である.
Francis Bacon (1561-1626)
観察と実験!
観察の理論負荷性―N.R.Hanson
• 科学的観察は,生の事実をあるがままに写し
取ることではなく,理論的枠組みに合わせて
事実を選択し,解釈し,構成する行為である.
• 観察した事実は現在の理論に基づいている
ので,事実の観察は理論を革新できない.
観察の理論負荷性
何をどのように観察するかを知らない素人では
小学生の自由研究を超えられない!
– 植物の観察
– 地層や岩石の観察
– 天体観測
観察するには,基礎知識(理論と方法)が必要.
実験の理論負荷性
理論的な予測がなければ
複雑な実験器具や装置を
つくったり,用意したりする
ことはできない.
⇒スーパーカミオカンデ
http://www-sk.icrr.utokyo.ac.jp/library/video.h
tml
ガリレオの落体の実験
重い物と軽い物,落ちる速さは?
• https://www.youtube.com/watch?v=_KvU5tjNCY
ガリレオは思考実験によって,速さが等しいこと
をあらかじめ知っていた.
→ 落とす鉄球を糸で結ぶと?
→ 重さの違う球を糸で結ぶと?
Thomas Kuhnの『科学革命の構造』
• 理論をくつがえすのは理論である.
• それが科学革命である.
パラダイムと科学革命
Paradigm
模範
Scientific revolution
科学革命
Normal science
通常科学
New
Paradigm
新しい
通常科学
パラダイムを中心とした
パズル解きとしての通常科学
 パラダイム=模範となる研究成果・著作
 通常科学=パラダイムが提供するパズル
を解く行為の集合
 パラダイムの選択は価値判断を含む
→ 非通約的(incommensurable)
理論のほころびと新しい理論
ティコの観
測データ
プトレマ
イオス
天動説
木星に
衛星
太陽の速度
の季節差
通常科学
コペルニ
クス
地動説
科学革命
• アリストテレスの自然学からガリレオの近代物
理へ
• 天動説から地動説へ
• 電気の発見
• 燃素説から酸素の発見=「化学革命」
• 古典物理学から量子論へ
• ニュートン物理学から相対性理論へ
• 分子生物学の誕生
フロギストン(燃素phlogiston)説
木(燃素含む)が燃える→灰+フロギストン(気
体)
• 空気がフロギストンで飽和すると,火は消える.
• フロギストンで満たされたガラス瓶に動物を閉
じ込めると死ぬ.
http://www.chemheritage.org/classroom/chema
ch/index.html
プリーストリー(1733-1804)の実験
酸化水銀を加熱→新しい気体が得られた
2HgO → 2Hg + O2
• ろうそくの火を入れると良く燃える.
• 空気よりもネズミが長生きする.
=「脱フロギストン空気」
ラボアジェ(1743-94)の実験
フラスコ内で体積や重量を測りながら実験
• 水銀を燃焼する→酸化水銀+空気の体積が2
割減る.この空気は呼吸にも燃焼にも適さな
い.
2Hg + O2 → 2HgO
• 酸化水銀は水銀よりも重くなっている.
ラボアジェの実験(続き)
酸化水銀を別の容器でさらに加熱する
→水銀にもどる.プリーストリーが見つけた気体
が生成する.
2HgO → 2Hg + O2
• 水銀を燃焼した容器に入れると,元の体積に
戻った.
• 性質も元の空気に戻った.
ラボアジェによる化学革命
• “Sur la combustion en général” (1777年)
酸素の発見
• “Réflexions sur la Phlogistique” (1783年)
フロギストン説は誤っている
• Traité Élémentaire de Chimie 『化学原論』
(1789年)
元素表(33元素)を提示
練習問題
• 日常生活のなかで,観察の理論負荷性が見
られる例を一つ挙げなさい.