吉田秀和賞 新審査委員

平成 27 年 10 月吉日
報道関係各位
公益財団法人水戸市芸術振興財団
吉田秀和賞事務局
吉田秀和賞 新審査委員/
「第 25 回吉田秀和賞」受賞者決定のおしらせ
拝啓 錦秋の候、貴下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平成 2 年に創設されました吉田秀和賞は、優れた芸術評論を発表した人に対して賞を贈
呈し、芸術文化を振興することを目的としております。
平成 24 年から審査委員長を務めていただいた杉本秀太郎氏が去る 5 月 27 日に逝去され
たため、新しい審査委員として、水戸芸術館設計者の建築家・磯崎新氏を迎えましたことを
お知らせいたします。
第 25 回目となりました今回は、磯崎氏と片山杜秀氏が厳正に審査を行ない、椹木野衣
ご
氏著『後美術論』
(美術出版社
2015 年 3 月刊)を受賞作品に決定いたしました。
賞の贈呈式は、平成 27 年 11 月 20 日(金)午後 4 時より水戸芸術館会議場で開催いたし
ます。ご取材のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
敬具
受賞者 : 椹木 野衣(さわらぎ・のい 53 歳 1962 年 7 月 1 日生)
肩書き : 美術批評家、多摩美術大学教授
連絡先 : ㈱美術出版社 『美術手帖』編集部
TEL
03-3234-2155
E-mail
[email protected](岩渕)
候補書籍の総数 : 186 点
(音楽 27 点/演劇 14 点/美術 59 点/映像 39 点/建築 11 点/その他 36 点)
贈呈式 : 平成 27 年 11 月 20 日(金)午後 4 時から 5 時頃まで
水戸芸術館 会議場
〒310-0063 茨城県水戸市五軒町 1-6-8
TEL029-227-8111
FAX029-227-8110
担当 大津良夫 藤井祥子
第25回
椹木
吉田秀和賞
受賞作品
野衣 『後美術論』(美術出版社 2015年3月刊)
[審査員選評]
まるごと非吉田秀和「好み」です。だから「吉田秀和賞」にふさわしい。決して逆説を弄してい
るのではありません。水戸芸術館のアート部門は椹木野衣がゲストキュレーションをしたときな
ど、扱いに困る事件がたびたび起こってもたじろぐことなく、館長のたくみな采配の下で、いまや
世界から注視される存在になっています。包容力があるのです。
このたびの著作『後美術論』のキーポイントは、後=ポストと美術=アートをくっつけたところ
です。記述されている様々な事件は過去半世紀にわたる、美術界と音楽界では鼻つまみとみられて
いた反社会的行為までを含むワイルドなパフォーマンスばかりです。それが著者自らの「好み」と
みえます。べったりとその現場に踏み込んで叙述している。息もつかせぬ臨場感があります。あげ
くにこれまでの 20 世紀芸術の通説が動転し、崩壊がはじまる。これから何がうまれるのか、誰も
説明できないところまでもその所在が示されています。少なくとも著者は水戸芸術館の出発した頃
から、世代が上の私はその前の四半世紀を、これらの事件の発生現場に生で立ち合っています。登
場人物も知っています。これらの事件の連鎖がポストアートと名付けられている。これを著者自ら
の「好み」と表明していることに注目して下さい。たんなる研究や報告ではなく、この報告そのも
磯崎
のが誰も真似できないプロジェクトであることを証すものです。
新
椹木野衣さんは乱世型の批評家だと思う。批評家に必要なものは対象と視線と想像力。椹木さん
が論じたくなる対象は、力が有り余って定型から溢れ出してゆくもの。椹木さんの時代への視線
は、平時に破局の兆しを見つけ、非常時には破局を回避しようとするよりも破局のインパクトのも
たらす変革の可能性に賭けようとするもの。かくて椹木さんの想像力は、あらゆるものを貨幣と交
換可能にしようとし、原子力発電所の「事故からの復旧や将来にわたる賠償や信用さえ、結局は金
で解決される」現代に対して、「無償の愛や目的のない旅によって絶えずどこか遠くへと向かおう
とする純粋な欲望の発露、決して一商品には置き換えられない無限=夢幻への果てしない飛翔」を
行おうと、ジャンル不詳の過剰なものと化してゆく尖鋭な「アート」を、常に挑ませる。椹木さん
が本書で描くのは結局、資本主義と「アート」の最終戦争。これぞ「3・11」後の芸術批評であ
片山
る。
杜秀
[著者略歴]
椹木
野衣 (さわらぎ・のい)
美術批評家。1962 年秩父市生まれ。著書に『日本・現代・美術』
(新潮社)、
『シミュレーショニズム』
(増補版・ちくま学芸文庫)
、
『「爆心地」の芸術』(晶文社)、『黒い太陽と赤いカニ―岡本太郎の日
本』
(中央公論新社)
、
『戦争と万博』
(美術出版社)、
『美術になにが起こったか』
(国書刊行会)、
『な
んにもないところから芸術がはじまる』
(新潮社)
、
『反アート入門』
(幻冬舎)、
『新版
平坦な戦場で
ぼくらが生き延びること 岡崎京子論』
(イースト・プレス)、
『アウトサイダー・アート入門』
(幻冬
舎新書)、
『戦争画とニッポン』
(会田誠との共著、講談社)
、
『日本美術全集 第 19 巻 拡張する戦後
美術』
(責任編集、小学館)
、
『Don’t Follow the Wind 公式カタログ 2015』
(Chim ↑ Pom との共著、
河出書房新社)など。
手がけた展覧会に「アノーマリー」展(レントゲン藝術研究所、1992 年)
、「日本ゼロ年」展(水戸
芸術館、1999-2000 年)
、
「太郎のなかの見知らぬ太郎へ」展(岡本太郎記念館、2006 年)、
「未来の
体温 after AZUMAYA」展(ARATANIURANO/山本現代、2013 年)など。現在、多摩美術大学教授。
吉田秀和賞 審査委員
磯崎 新(いそざき・あらた)
建築家。1931年大分市生まれ。
1954年東京大学工学部建築学科卒業。丹下健三に師事し、博士課程修了。
1963年磯崎新アトリエを設立。以来、国際的建築家として活躍。世界各地で建
築展、美術展を開催し、また多くの国際的なコンペの審査委員、シンポジウムの
議長などを務めた。カリフォルニア大学、ハーバード大学、エール大学、コロン
ビア大学などで客員教授を歴任。建築のみならず、思想、美術、デザイン、文化
論、批評など多岐にわたる領域で活躍。
代表作に、群馬県立近代美術館、ロサンゼルス現代美術館、水戸芸術館、パラウ
サンジョルディ(バルセロナオリンピックスタジアム)、クラコフ日本文化技術
センター、奈義町現代美術館、京都コンサートホール、北京中央美術学院美術館、
上海交響楽団コンサートホールなど多数。2013年、過去50年間に渡り書いてき
た文章を編集した『磯崎新建築論集』(岩波書店)を刊行。
片山 杜秀
(かたやま・もりひで)
音楽評論家、思想史研究者。1963 年仙台生まれ。東京で育つ。慶應義塾大学
大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は政治学。慶應義塾大学法
学部教授。
著書に『音盤考現学』『音盤博物誌』『クラシック迷宮図書館(正・続)』『線量
計と機関銃』『国の死に方』『未完のファシズム』『近代日本の右翼思想』『ゴジ
ラと日の丸』ほか。朝日新聞、『レコード芸術』などで音楽評を執筆するほ
か、NHK-FM『クラシックの迷宮』などでパーソナリティをつとめる。
2006 年、日本近代音楽研究の業績により京都大学人文科学研究所から人文科
学研究協会賞を、2008 年、『音盤考現学』『音盤博物誌』により吉田秀和賞お
よびサントリー学芸賞を、2012 年『未完のファシズム』により司馬遼太郎賞
を受賞。
「吉田秀和賞」について
■対象
音楽・演劇・美術などの各分野で、優れた芸術評論を発表した人に対して
■正賞
表彰状
■副賞
■審査委員
磯崎 新
建築家
片山 杜秀
評論家・慶應義塾大学法学部教授
賞金 200 万円
■吉田秀和賞 受賞作品一覧
第 1 回(平成 3 年度)
秋山邦晴『エリック・サティ覚え書』青土社 1990 年 6 月刊
第 2 回(平成 4 年度)
持田季未子『絵画の思考』岩波書店 1992 年 4 月刊
第 3 回(平成 5 年度)
該当作品なし
第 4 回(平成 6 年度)
渡辺保『昭和の名人 豊竹山城少掾』新潮社 1993 年 9 月刊
第 5 回(平成 7 年度)
松浦寿輝『エッフェル塔試論』筑摩書房 1995 年 6 月刊
第 6 回(平成 8 年度)
長木誠司『フェッルッチョ・ブゾーニ』みすず書房
第 7 回(平成 9 年度)
伊東信宏『バルトーク』中央公論社 1997 年 7 月刊
1995 年 11 月刊
第 8 回(平成 10 年度) 該当作品なし
第 9 回(平成 11 年度) 青柳いづみこ『翼のはえた指 評伝 安川加壽子』白水社 1999 年 6 月刊
第 10 回(平成 12 年度) 小林頼子『フェルメール論 ―神話解体の試み』八坂書房 1998 年 8 月刊
小林頼子『フェルメールの世界 17 世紀オランダ風俗画家の軌跡』
日本放送出版協会 1999 年 10 月刊
第 11 回(平成 13 年度) 加藤幹郎『映画とは何か』みすず書房 2001 年 3 月刊
第 12 回(平成 14 年度) 該当作品なし
第 13 回(平成 15 年度) 岡田温司『モランディとその時代』人文書院 2003 年 8 月刊
第 14 回(平成 16 年度) 湯沢英彦『クリスチャン・ボルタンスキー 死者のモニュメント』
水声社 2004 年 7 月刊
第 15 回(平成 17 年度) 宮澤淳一『グレン・グールド論』春秋社 2004 年 12 月刊
第 16 回(平成 18 年度) 有木宏二『ピサロ/砂の記憶 ―印象派の内なる闇』人文書館 2005 年 11 月刊
第 17 回(平成 19 年度) 該当作品なし
第 18 回(平成 20 年度) 片山杜秀『音盤考現学』アルテスパブリッシング 2008 年 2 月刊
片山杜秀『音盤博物誌』アルテスパブリッシング 2008 年 5 月刊
第 19 回(平成 21 年度) 岡田暁生『音楽の聴き方』中央公論新社 2009 年 6 月刊
第 20 回(平成 22 年度) 白石美雪『ジョン・ケージ
混沌ではなくアナーキー』
武蔵野美術大学出版局 2009 年 10 月刊
第 21 回(平成 23 年度) 椎名亮輔『デオダ・ド・セヴラック 南仏の風、郷愁の音画』
アルテスパブリッシング 2011 年 9 月刊
第 22 回(平成 24 年度) 新関公子『ゴッホ 契約の兄弟 フィンセントとテオ・ファン・ゴッホ』
ブリュッケ 2011 年 11 月刊
第 23 回(平成 25 年度) 末永照和『評伝ジャン・デュビュッフェ アール・ブリュットの探求者』
青土社 2012 年 10 月刊
第 24 回(平成 26 年度) 通崎睦美『木琴デイズ 平岡養一「天衣無縫の音楽人生」』講談社 2013 年 9 月刊
第 25 回(平成 27 年度) 椹木野衣『後美術論』美術出版社 2015 年 3 月刊