山東京伝作『四季交加』の構成 ─挿絵を中心に─ 鈴木奈生 【研究対象】 絵本『四季交加』(半紙本二巻二冊、山東京伝作、北尾重政画、寛政十年鶴屋喜右衛門 板)について、江戸の大路の往来を十二ヶ月に分けて描いた挿絵に着目して分析を行う。 【研究目的】 本作の後印本は確認されず、大正以降に出版された複製本類の流布により、風俗資料とし て享受されてきたことが指摘されている。(1)また京伝の作品研究においては、諸職の人物 (2) を細密に描いた本作は京伝の考証活動の萌芽であると位置付けられてきた。 本発表では、 挿絵の分析を通じて、本作の構成および影響について、先行研究にて看過されてきた角度か ら検討し、 『四季交加』の文学史的位置付けを試みる。 【研究方法・考察】 先行研究では、 〈四季絵〉 〈職人尽〉ものを意識した作とされるが、特に絵に関して、具体 的な典拠や、画面構成の独自性などについては言及されていない。本作には江戸名所絵本や 月次ものの作品との関連が窺え、例えば『絵本世都濃登起』 (北尾重政画、安永三年序)に 依拠した蓋然性が高い図像が確認される。しかし、名所・月次ものに描かれた風物を取り上 げつつも、背景のない画面上に人物のみを配置した画面構成は、他に類を見ないものとなっ ている。本作も江戸名所絵本類も、江戸の繁盛を描く点で共通しているが、本作では、江戸 の繁盛を現出させる材として「交加」=〈往来〉および〈四季〉というモチーフが選択され ており、その両要素を一つの空間内にて並立させる方法として採用されたのが、人物のみを 抽出し、背景を持たない空間に再配置するという方法であったと考えられる。加えて、本作 の影響についても、図像の継承という観点から言及する。 【今後の展開】 挿絵の分析を通じて、『四季交加』の独自性と影響について新たな視座から検討したが、 さらに近世文学の挿絵における典拠という問題に視野を拡げたい。京伝合巻の挿絵には、先 行の名所図絵類を殆どそのまま取り込んだ部分のあることが指摘されている。(3)また、こ れらは一般的に行われていた方法でもあることを考慮した際に、本作では先行作品に見ら れる題材を扱いながらも、典拠をそのまま描き写すという方法は選択されていないという 事実が指摘される。この点について、他作品との比較を通じて考察をすすめたい。 (1) 鈴木重三「解説」 (『近世日本風俗絵本集成』第三回配本、臨川書店、一九七九年) 小池藤五郎『山東京伝の研究』 (岩波書店、一九三五年) 、佐藤至子『山東京伝―滑稽洒落 第一の作者―』 (ミネルヴァ書房、二〇〇九年) (3) 鈴木重三「京伝と絵画」 「合巻の美術」 (『絵本と浮世絵』美術出版社、一九七九年) (2) 23
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