イ プ シ ロ ン 2015. Vol 。 57, 103 − 106 小中高を一貫した教材開発の可能性について 一整数の問題を中心としてー 名古屋女子大学 山 本 忠 1 。 はじめ に 「 縦360 cm 、横675 cm の長 方形 の床 に 、正 方形 のタ イル を何 枚 か敷き 詰 めて すき 間が ない よ うに し たい 。タイル をで きる だけ 大き くす るに は、1 辺 の長 さ が何cmの タイ ルを 使え ば よいで し ょ うか」「1 個100 円 のおむ すび と1 個160 円の パン をそ れぞ れ買 って 、代 金 の合 計が ちょ うど1520 円 に なる よ うにしたい 。 それ ぞれ 何個買 え ばよい でし ょ うか」 こ れら の問題 は、 高校 数学A の教科 書 と問題 集 から表 現 を改変 し たも ので あ る。 小 学 生が 、既 習 の方 法で 取り組 むこ と ができ る可 能性 があ る。 ま た、 中学 生も 異なっ た 見方 か ら取 り組む と と がで きる はず であ る。 こ の よ うな 小中 高を 一貫 して 使 える数 学 の素 材を 教材化 で き れば 、過 去の既 習 教 材が 異なっ た 見方 から再 学習 され るこ とに な る。 異なっ た 見方 から 振り 返り を行 うこ と は、 理解 を 深 め る手段 の重 要な 一つ であ る。本 稿 では 、整数 の 問題 を例 とし て、一 貫 教材化 の可能 性 を示す。 2 。 小中高 を一 貫し て使 える 素材 の教 材化 一 貫教材 は小 中高 の各 段階 にお け る教科 内容 に合 致し てお り 、教 科内 で位 置づ け 可能 なこ と が第 一に必 要 であ る。 こ れは 、児 童生 徒 が既習 事項 を使 っ て解決 で きる こ とを意 味す る。 す な わち、 児 童生 徒が 自ら取 り組 め る教材 であ る必 要 があ る。 単な る 「お 話 」で は、 児童 生 徒が 自ら 素材 を 「操 作」 でき ない からで あ る。 与 え られ る問題 は、 児童 生 徒が既 習 事項 を使 って 、 自力 解決 でき なく て はい けない ので ある。 中 学で は小学 校で 取 り組 んだ素 材を 再び 取 り上 げ、 新た に学 んだ 方法 ・知 識 を動員 し て、 再び 取 り組む こ とが でき るよ うに教 材を 開発 した い。 高 校で は小 中で の取 り組 みを 受 け再 々度 、新 規 の方 法・知 識 で、同 一 の問題 を考 え直 すこ と にな る。 この よ うに時 間経 過 を経 るこ とに より 、視 点 が上 がり 、問題 の本 質 がよ り見 えやす く なる は うであ る。 この よ うな小 中校 を一 貫し た 一連 の教 材 を開 発で きる 可能性 かお るこ とを以 下 で例示 す る。 3 。 整数 の問題 の小 中高 一貫 教材 化 こ こで は2 元1 次 不定 方程式 を 素材 とし て取 り上 げる。 つ ぎ のよ うな問 題を 考 える。 「1 本が30 円 の鉛 筆と1 本 が70 円 のボ ールペ ン をそ れぞ れ買っ て 、代 金を ちょ うど710 円 にし た 山 本 忠 い。 そ れぞ れ何個買 え ばよい でし ょ うか」 ま ず小 学校 にお ける 教材 として 考 える。 児童 は以 下 のよ うな方 法で 取組 が 可能 であ る。 (ア)鉛筆を□本買うと、30×□円、ボールペンを△本買うと70×△円だから、□と△に本数を入 れ てみ る。 30×3 =90、70 ×10 =700 、90+700=790 (円)、これ で はお金 が不 足す る から、 鉛筆 と ボー ルペ ンを1 本 減 らして 、30×2=60 、70 ×9=630 、60 +630 =690 ( 円)、 これ ではお 金 が余 っ てし ま う。 … …… (イ)□を3とすると、30×3=90だから鉛筆の代金は90円。残りのお金を計算すると、710−90 =680 (円)、70 × △=680 と なら なくて はい け ない。 70×9=630 、70 × 10=700 と なる ので、 鉛 筆を3 本 買 うと、 代金 を ちょ うど710 円に はで きない こ と がわ かる。 … …… (ウ )表 を作っ て、710 円 にな る組 み合 わせ を探 す。 鉛 筆の本 数 1 2 3 4 5 鉛 筆の 代金 30 60 90 120 ボール ペン の本 数 10 9 8 7 6 5 ボール ペン の代 金 700 630 560 490 420 350 1 6 50 180 (ア)のような試行錯誤の経験を経て、□を3に固定して、△に次々と数を当てはめてゆくよう な、新たな方略を見出すことができる。(イ)の方法では、次に□=4、□=5、………とすれば 710 円 にでき る△ が見つ かるは ずで あ る。(ウ)の方 法 もボ ールペ ン の本数 を多 い 方か ら逆 順に 書 くな どの 工夫 が可能 で ある。 また 、代 金 の変化 の 様子 を観 察で き るか ら、解 決 に近づ くこ とがで き る。 いず れ の方 法で も、児 童 は一つ の解 を 見つ けこ と ができ る。 こ れは高 校で 不 定方 程式 の特別 解 を 見出す と きに使 え る方 法であ る。2 元1 次不 定方 程式 は特別 解 が見 つ かれ ば、一 般解 は既 定 の手 順 で求ま る。 高校 生に とっ て は小学 校で 行っ た活 動 を振 り返 り、 不定 方程 式 の意 味を 考え る機 会 とな る。一つ の解 を見つ けた 児童 に は、「ほ かに買い 方 はない で す か」と発 問す れば 、さらに 算数 的な 活 動 を続 け るこ とがで き る。 次 に、 中学校 にお け るこ の問題 の 教材化 を考 え てみ る。解 は 、直 線上 の格 子点 に なる とい う新 た な見方 がで き る。 し た がっ て 、小 学校 で解 いた 問題 へ 直線 の方 程式 の知 識 が生 かさ れ、活 用 され る こ と にな る。 鉛筆をx本買うと、30x円、ボールペンをy本買うと70y円だから、代金は(30x+70y)円と なる。すなわち、30x+70y=710にあてはまるxとyを見出す問題となる。ここで通常の2 元連立方程式とは違って、式が一つであることに生徒は違和感を抱くであろう。したがって、xと y が 自然数 であ るとい う、 も う一つ の条 件 があ るこ とに気 付く よ う指 導す る必 要が ある。 (エ)両辺を10で割ると3x+7y=71だから式、変形からy=-3/7x+71/7 これをグラフ用 紙 に書い て みる。 104 小 中 高を 一 貫 し た教 材 開発 の 可 能 性 につ い て 一整 数 の 問題 を 中 心 と し て ー グ ラフ用 紙に 描く 作業 から 、格 子点 と直 線 の出会 い を実感 でき 、 解を 視覚的 に と らえ るこ とが で きる。 そし て、 グラフ 用紙 を延 長す れ ば、無 数 の負 の解 があ るこ とも 理解で き る。 さて次に、高校で再々度同じ問題を扱い、不定方程式30x+ 70y=710を解く問題とする。こ こ で、小 学 校で の方法 や 中学 校 で の考 え方 が生 きてく る。 以 下 の方 法( オ) が一 貫教 材 の良 さを表 し てい る。 (オ) 3x + 7y = 71として、表から特別解を求める。 X 1 2 3 3X 3 6 9 y 10 9 8 7y 70 63 56 4 5 6 7 8 9 10 15 18 21 24 27 30 7 6 5 4 3 2 49 42 35 28 21 14 1 2 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 1 ● ● ● ● ● ● 7 ● ● ● ● ● ● ● x=5、y=8のとき3x + 7y = 15 + 56 = 71 となり特別解が求まる。 3x + 7y = 71……①、3・5 + 7・8 = 71……②として、①−②から、3(x - 5) + 7(y - 8)=0 ⇔3(x-5) = -7(y-8)……③、ここで、3と7は互いに素であるから、X-5=-7k(kは整 数)とおける。したがって、x = -7k+5……④と表される。ここで、中学校のときに使用したグ ラフを用いて振り返ると、解のx座標の間隔は常に7となっていることが読み取れる。これは、等 差数列の学習時に再び生かされることになる。④を③に代入すれば、同一の整数kに対して、 y=3k+8……⑤と表されるから、グラフから解のy座標の間隔は常に3となっていることが読 み取れる。さらには、2元1次不定方程式が自然数解を持つのは、グラフが第一象限内の格子点を 通る場合であることもわかってくる。自然数解は、-7k + 5 > 0かつ3k+8>Oより、 −8/3<k<5/7すなわち、k= -2,-1,0の場合である。自然数解は(x,y) = (19,2)、(12,5)、(5,8) 105 山 本 忠 である。再びグラフ上で確認し、対応するkの値を記入してみると、2元1次不定方程式が自然数 解 への理 解 が深 ま るこ とに なる。 グラフを使用することは、2元2次不定方程式のうち2次の項が因数分解できない場合、たとえ ば、x2 + 4y2=61のような問題で「これをグラフに表すとどうなるか」という新たな学習意欲に つ なが る。 これ に対し て 、小 学校 での 方法や 中 学校 での 考え 方 とは独 立し て 、2 元1 次不 定方 程式 の解 法手 順 を実 行し た場合 が以 下 の( カ) の方 法であ る。 (ヵ) 3x + 7y=71……①とは別の方程式3x + 7y=1……②の特別解を求める。なぜなら②の 右辺は1であり、容易に特別解が見つかる場合が多いからである。また、どうしても特別解を見い だせなければ、ユークリッドの互除法を実行すれば特別解は見いだせる。②は直ちにx=-2,y=1 が得られるから、3(-2)十7・1=1……③となる。③を71倍すれば、①の特別解を得る。すなわ ち、3(-142)十7・71 = 71……④ここからは、①−④から、(オ)と同様にしてX=−7k-142、 y=3k+71を得る。しかし、この場合は特別解が(x,y)=(-142,71)となり、グラフとの関連 付けは視覚的に困難となる。また、等差数列の学習は初項が小さい例から始めるのが常で3あるか ら、この学習へもつなげにくい。また、自然数解に対応するのは、k= -23,-22,-21の場合であ り、k=Oから順にグラフベ記入してゆく作業も困難である。 しかし、ユークリッドの互除法を含めた(カ)の方法は、2元1次不定方程式の一般的な解法手 順であるから、この方法を知ることも重要である。手順の存在を知れば、2元1次不定方程式ax 十by=mの3つの係数間の倍数関係の有無による解の存在などを調べる、より進んだ学習へ と興味 を移す こ とがで き るか らであ る。 おわり に 本稿 で は小 中高を 一貫 す る整数 の問 題 を設 定し、 学 習を 振り 返る こ とに より、 問題 の 意味 をよ り 深 く追 究し て ゆけ る可能 性 を示し た。 整数 分 野以 外に も、 図形 、数 量 関係、 量 と測 定、 問題解 決 学 習の各 分 野にお いて も小 中 高の一 貫 教材 とし て適 切な 素材 が存 在す る はずで あ る。 これ を一 貫教 材 化す る試 みを今 後 の研究 課題 とし たい。 < 参考 文献 > [1 ]中 島健 三( 編)『 数学 的な 考え 方 と問題 解決 一実 践研 究編 ・高 学年 』、 金子 書房 、昭 和60 年 [2 ]古 藤怜 他 (編)『 新・ 中学 校数 学指 導実 例講 座・ 第4 巻 ・数 量 関係』、金 子書 房、1991 年 [3 ]大 島利 雄他 『数 学A 』(高 校教 科書)、数 研出 版、 平成23 年 [4 ]数 研出 版編 集部 『サ クシ ード数 学A 』( 問題集 )、数研 出版 、平 成23 年 [5 ]里 利光 『整 数 の理論 』、 大阪 教育 図書 、昭 和54 年 [6 ]栗 田哲 也 ・福 田邦彦 『大 学 への数 学・ マ スター ・ オブ ・ 整数 』、東 京 出版 、平成10 年 106
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