多成分量子モンテカルロ法を用いた電子正孔系の研究 前園涼 (北陸先端科学技術大学院大学・情報科学研究科) 変調ドープを施した半導体超格子系などで実現される、電子と正孔が空間的に分離した理想的な二 次元電子系は、エキシトンを素材とした量子凝縮の様相を探る舞台を提供する[1]。我々は、素材 の詳細を有効質量近似の下、二次元電子正孔シートに均らした、図1のようなジェリウム模型とし て系を定式化し、量子拡散モンテカルロ法を用いて解析を進めている。この模型は、単純な舞台設 定の割に、その大域的相図(→図2)は、あまりよくわかっていないとされている[2]。 図1;電子正孔系二層膜系のモデル。垂直方向に電場が印加され、 上層には正孔、下層には電子が存在し、これらが層間距離 d に よって、ペアリングを生じる。 我々の用いた手法は、多体波動関数の初期推定を射影演算子で虚時間発展させて、より厳密解に近 いものに数値的に緩和させる手法である[3]。本研究では、プラズマ状態と、電子と正孔のペアリ ング状態を統一的に記述出来る初期試行推定関数を用いた[4]。 図2;本研究で得られる電子正孔二層膜の相図。横軸は電子間の平均距離 (濃度変化に相当) 、縦軸は層間距離で、いずれも Bohr 単位である。 rs=5.0 程度の距離では、d を小さくしていくと、プラズマ相 →エキシトン相→バイエキシトン相と変化する。 着目した粒子位置まわりに構成される多粒子系の分布サンプリングから、二体相関関数や対分布 関数を高い精度で算定する事が可能である。これを元に量子凝縮の出現や、空間的秩序の様相を同 定する事が出来る。エキシトン相、バイエキシトン相を夫々特徴付ける秩序パラメタや対分布関数 の解析から、図2のような相図トポロジーを得つつある。 図3;モンテカルロサンプリングから得られる多電子配置のスナップショット。 赤/青が電子/正孔、▲/▼が↑/↓スピンを示している。粒子濃度は rs=4 に固定。 シート間距離 d を 3.0 から 0 に減じていくと(上図で左から右)、プラズマ層で 個別独立に運動していた電子正孔がペアリングして励起子相が形成され、更に 励起子が分子を組んで励起子分子相が形成される。 電子密度の中濃度領域(rs〜5-8)において、二層膜の層間距離 d を狭めると、電子正孔プラズマが、 励起子気体形成を経て、励起子分子の気相(バイエキシトン・ガス)に転移する状況を、密度行列、 および、対分布関数の第一原理算定により明確に記述することに成功した。これにより、ある粒子 密度を境に、高密度側では、d→0 でも、バイエキシトンが安定に存在し得ない領域が見いだされた。 参考文献 [1] L. V. Butov, A. C. Gossard, and D. S. Chemla, Nature 418, 751 (2002). [2] S. De Palo, F. Rapisarda, G. Senatore, Phys. Rev. Lett. 88, 206401 (2002). [3] W. M. C. Foulkes, L. Mitas, R. J. Needs, and G. Rajagopal, Rev. Mod. Phys. 73, 33 (2001). [4] Ryo Maezono, Pablo L. Rios, Richard J. Needs, and Tetsuo Ogawa, submitted to PRL.
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