【Market Insights】欧州:BREXIT後の政治リスク

MARKET INSIGHTS
Market Bulletin
2016年8月10日
欧州:BREXIT後の政治リスク
要旨
• 今後、欧州では複数の政治イベントが控えている。これらは英国のEU離脱
選択が、他国にどのような影響をもたらしているかを探る手掛かりとなるだ
ろう。ここもとポピュリズム(大衆迎合主義)の動きが世界各地で見られてい
ることを踏まえると、不透明感は高いと考えている
• 政治的な不透明感の高まりは、今後、欧州に更なる変動をもたらす可能性
が高いと見ている。しかし、欧州経済はまずまずの状態にあり、インカムの
獲得を目指す動きが見られるなど、欧州株式への投資を維持する理由は
依然として存在する
• 債券投資では、欧州の投資適格社債が有望と見ている。ECBの債券買入
策に加え、米国の利上げが先送りされ利回り獲得競争が激化していること
を踏まえれば、需給環境は良好であり、投資妙味が高いと見ている
岐路に立つ欧州政治
ユーロ圏各国は2010年以降、ソブリン危機を招いた反省から、財政緊縮策を
Maria Paola Toschi
Global Market Strategist
Market Insights
Akira Kunikyo
Global Market Strategist
Market Insights
推し進めました。この影響もあって、一部の国では景気の低迷が続いており、
経済的な格差に対する反発も多く見られるようになりました。特に最近では、
移民を問題視する動きから、「反欧州連合(EU)」を掲げる政党の勢いが増し
ています。例えばスペインではポデモス、イタリアでは五つ星運動(5SM)、フ
ランスでは国民戦線といった政党が台頭しています。
このような中で懸念すべきシナリオは、英国のEU離脱選択によって反ユーロ
を掲げる政党が更に勢いを増し、必要な改革が一段と困難になることです。し
かしながら、全く逆のシナリオも考えられます。すなわち、他国が英国の離脱
選択後の混乱を反面教師にして、EU残留を支持するシナリオです。
Guide to the Markets Japan
のダウンロードはこちらから
www.jpmorganasset.co.jp/guide
MARKET BULLETIN | AUGUST 10, 2016
今後も多くの政治イベントを控える
今後、欧州では複数の政治イベントが控えています。これらは英国のEU離
脱選択が、他国にどのような影響をもたらしているかを探る手掛かりとなる
でしょう。
例えば、スペインの状況を見てみましょう。今年6月28日の総選挙では、首
相が属する国民党(中道右派)が獲得議席を増やした一方で、反EUを掲
げるポデモス(急進左派)は選挙前と同議席を獲得するのみに留まりまし
た。この点、既存政党が予想以上に票を伸ばし、一方でポデモスへの支持
が予想を下回ったことは重要です。これは「現時点では」という条件付きで
はあるものの、反EU運動の波及が限定的であることを示しています。
またイタリアでは、五つ星運動が躍進を遂げています。同党は最近実施さ
れた地方選挙で、2名の市長(ローマとトリノ)を輩出しました。今後は、憲
法改正案の是非を巡る国民投票が試金石となるでしょう。10月に行われる
この投票で改正案が否決されれば、レンツィ首相は政界を引退すると表明
しています。規制改革に積極的なレンツィ首相が引退となれば、金融市場
は落胆し、同国の銀行セクターや国家財政の先行きには不透明感が漂う
可能性があります。
加えて、2017年のフランスとドイツの総選挙も重要です。特に投資家が注
目するのは、英国のEU離脱選択の影響で、フランスの極右政党である国
民戦線が勢いづくかどうかという点です。フランスとドイツは国内への影響
を見極めつつ、英国との離脱協議を慎重に進めるでしょう。しかし、ここもと
ポピュリズム(大衆迎合主義)の動きが世界各地で見られていることを踏ま
えると、不透明感は高いと考えています。
図表1:EU域内の総選挙とそのGDP規模
EU全体のGDPに対する、総選挙実施予定国のGDPの割合
50%
41%
40%
27%
30%
18%
20%
12%
11%
10%
0%
2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
出所:Guide to the Markets Japan P40、国際通貨基金(IMF)、J.P. Morgan
Asset Management。
注: 比率はIMFのGDP見通しに基づく。2016年6月30日時点。
2
P O L I TI C A L R I S K A F TE R B R E X I T
MARKET BULLETIN | AUGUST 10, 2016
欧州には依然として投資機会がある
このように欧州の先行きには不透明感が漂いますが、投資の観点からは、
依然として投資機会が存在すると考えます。
例えば欧州株式は、欧州経済が比較的良好であることから、この恩恵を受
ける可能性があります。欧州企業の決算は良好とは言えないものの、利益
の落ち込みが大きいエネルギーや金融セクターを除くと、まずまずの内容
でした。また、相対的に高い配当利回りをもつ欧州株式は、インカムの獲
得を目指す投資家にとって、重要かつ魅力的な投資対象となっています
(図表2)。
一方で周縁国の債券(イタリアやスペイン、ポルトガルなどの国債)は、反
EU運動の動向次第では、価格下落圧力をうける可能性がありますが、
ECBの債券買入策により債券価格はある程度下支えされると見ています。
実際、周縁国の債券価格は英国のEU離脱選択後も横ばいでした。
図表2:各地域・国の株式の予想配当利回り
5%
4.0%
4%
3.0%
3%
2.9%
2.7%
2.3%
2%
1%
0%
列1
欧州株式
列2
新興国株式
列3
アジア株式
(日本除く)
列4
日本株式
列5
米国株式
出所:Guide to the Markets Japan P62、MSCI、Bloomberg、J.P. Morgan
Asset Management。
注:いずれもMSCIの各地域・国の株式インデックスを使用。2016年6月30日時点。
3
P O L I TI C A L R I S K A F TE R B R E X I T
MARKET BULLETIN | AUGUST 10, 2016
投資への示唆
欧州では、反EU運動が英国のEU離脱選択によって勢いづき、必要な改
革が失速する可能性があります。もちろん、スペインの選挙結果を踏まえ
れば、反EU運動の波及を過度に警戒する必要はないでしょう。しかし、10
月に行われるイタリアの憲法改正の是非を巡る国民投票には注意が必要
です。
政治的な不透明感の高まりは、今後、欧州に更なる変動をもたらす可能性
が高いと見ています。しかし、欧州経済はまずまずの状態にあり、インカム
の獲得を目指す動きが見られるなど、欧州株式への投資を維持する理由
は依然として存在します。
債券投資では、欧州の投資適格社債が有望と見ています。ECBの債券買
入策に加え、米国の利上げが先送りされ利回り獲得競争が激化しているこ
とを踏まえれば、需給環境は良好であり、投資妙味が高いと見ています。
また、欧州ハイイールド債券も、利回りの高さや財務状態の改善を魅力に、
投資家の資金を惹きつける可能性があります。
図表3:欧州ハイ・イールド債券と欧州投資適格社債の利回り
2000年1月1日~2016年7月31日
20%
19%
18%
17%
16%
15%
14%
13%
12%
11%
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
欧州ハイ・イールド債券
欧州投資
適格社債
'00
'01
'02
'03
'04
'05
'06
'07
'08
'09
'10
'11
'12
'13
'14
出所:BofA Merrill Lynch、Bloomberg、J.P. Morgan Asset Management
注:使用したインデックスは次の通り。欧州ハイ・イールド債券:BofA Merrill Lynch Euro High Yield
Index、欧州投資適格社債: BofA Merrill Lynch Euro Corporate Index
4
P O L I TI C A L R I S K A F TE R B R E X I T
'15
'16
MARKET INSIGHTS
MSCIの各インデックスは、MSCI Inc.が発表しています。同インデックスに関する情報の確実性および完結性をMSCI Inc.は何ら保証するものではありません。
著作権はMSCI Inc.に帰属しています。BofAメリルリンチの各インデックスは、メリルリンチ・ピアース・フェナー・アンド・スミス・インコーポレーテッドが発表しており、
著作権はメリルリンチ・ピアース・フェナー・アンド・スミス・インコーポレーテッドに帰属しています。
Market Insightsプログラムは、グローバルな金融市場の幅広いデータや解説を、特定の金融商品に言及することなく提供するものです。お客さまの市場に対
する理解と投資判断をサポートします。本プログラムは現在の市場データから投資のヒントや環境の変化を読み解きます。
本資料に記載の見通しは投資の助言や推奨を目的とするものではありません。また、J.P.モルガン・アセット・マネジメントあるいはそのグループ会社において記
載の取引を約束するものでもありません。予測、数値、意見、投資手法や戦略は情報提供を目的として記載されたものであり、一定の前提や作成時点の
市場環境を基準としており、予告なく変更されることがあります。記載の情報は作成時点で正確と判断されるものを使用していますが、その正確性を保証
するものではありません。本資料では、お客さまの投資判断に十分な情報を提供しておらず、証券や金融商品への投資のメリットをお客さまが自身で評価
するにあたって使用するものではありません。また、かかる法務、規制、税務、信用、会計に関しては、個別に評価し、投資にあたっては、投資の目的に適
合するかどうかに関しては専門家の助言とともに判断してください。投資判断の際には必要な情報をすべて事前に入手してください。投資にはリスクが伴いま
す。投資資産の価値および得られるインカム収入は市場環境や税制により上下するため、投資元本が確保されるものではありません。過去のパフォーマンス
および利回りは将来の成果を示唆・保証するものではありません。
J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。本資料は、以下の
グループ会社により発行されたものです。
• ブラジル: バンコ・J.P.モルガンS.A. (ブラジル)
• 英国: JPモルガン・アセット・マネジメント (UK) リミテッド
• 英国以外のEU諸国: JPモルガン・アセット・マネジメント (ヨーロッパ) S.à r.l.
• スイス: J.P.モルガン (スイス) SA
• 香港: JFアセット・マネジメント・リミテッド、JPモルガン・ファンズ (アジア) リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット (アジア) リミテッド
• インド: JPモルガン・アセット・マネジメント・インディア・プライベート・リミテッド
• シンガポール: JPモルガン・アセット・マネジメント (シンガポール) リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット (シンガポール) プライベート・リミ
テッド
• 台湾: JPモルガン・アセット・マネジメント (タイワン) リミテッド、JPモルガン・ファンズ (タイワン) リミテッド
• 日本: JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社 (金融商品取引業者 関東財務局長 (金商) 第330号 加入協会: 日本証券業協会、一般社団法人
投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会)
• 韓国: JPモルガン・アセット・マネジメント (コリア) カンパニー・リミテッド
• オーストラリア: JPモルガン・アセット・マネジメント (オーストラリア) リミテッド (ABN 55143832080) (AFSL 376919) (Corporation Act 2001 (Cth) 第761A条および第
761G条で定義される販売会社に配布が限定されます)
• カナダ (機関投資家限定) : J.P.モルガン・アセット・マネジメント (カナダ) インク
• 米国: JPモルガン・ディストリビューション・サービシズ・インク (FINRA/SIPC会員) 、J.P.モルガン・インベストメント・マネージメント・インク
本資料は、アジア太平洋地域において、香港、台湾、日本およびシンガポールで配布されます。
アジア太平洋地域の他の国では、受取人の使用に限ります。
Copyright 2016 JPMorgan Chase & Co. All rights reserved
Material ID:0903c02a8161512c
jpmorganasset.co.jp/mi