BCネットワーク 第8回乳がんシンポジウム@ニューヨーク 治療中と治療後の心のアンバランスを サポートする栄養と食事 宮下麻子 米国登録栄養士:マンハッタン ウェルネス メディカル Asako Miyashita, MS, RD April 24, 2015 在ニューヨーク日本国総領事・大使公邸 心=脳・身体&栄養 心の働きに脳が大きな役割を担う。心の状態を理解 する時には、身体全体の健康も見直して。 心臓、胃、肝臓、腎臓などの他の臓器や細胞に栄養 素を十分与えて健康が保たれる様に脳の細胞も十分 な栄養素があってこそ健康が維持できる。 私達の身体機能には40−50の栄養素が必要*1。 心のバランスと栄養 食事から栄養をきちんと取らないと、身体に異常をきた すのだけではなく、脳の機能にも異常をきたします。 心にも異常が発生する。 偏った食事や食事を抜くなどの生活を続けていると、 脳にダメージを与え、機能低下を招く。 脳に必要な栄養素や食事は何? 心のバランスと栄養 バランスの取れた栄養素と同じく大切なのは1日の摂取 カロリーをきちんと取ること。 1日の摂取カロリーの20−25%を消費している。 脳に必要な栄養素:糖分、たんぱく質、脂質、ビタミン、 ミネラル、抗酸化物質、プロバイオティックス。 日本食はブレインフードの宝庫! + 脳と栄養:脂質 脳の60%は脂肪で構成される*2。 脂質に含まれる飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸。 飽和脂肪酸:中性脂肪やコレステロールを増やす。 摂り過ぎは動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などにつながる。 不足すると血管が脆くなる、脳出血につながる。 <飽和脂肪酸を含む食品> 動物性食品、乳製品、ラード 不飽和脂肪酸:オリーブ油などに含まれる一価不飽和脂 肪酸と多価不飽和脂肪酸に分けられる。多価不飽和脂肪 酸にはOmega-3脂肪酸、Omega-6脂肪酸が含まれる。 多価不飽和脂肪酸にはこんな効果が・・・ 脳と栄養:脂質 脳は60%脂質からできている内の20%は不飽和脂肪酸 (Omega-3 & Omega-6) からできていて、脳の神経細胞 の生産と働きに重要。 →体内生産はできないので、食事から摂取する 必要がある。 Omega-3脂肪酸:中性脂肪を減らし、善玉コレステロー ルを増やす。動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、皮膚炎予 防、集中力や脳の健康に必須。 Omega-6脂肪酸:悪玉コレステロールを減らすが、摂り 過ぎは善玉コレステロールも減らしてしまう。 脳と栄養:脂質 Omega-3脂肪酸:魚油、えごま油、亜麻仁種(油)、 チアシード、くるみ Omega-6脂肪酸:植物油、種実類、卵、 肉類(オーガニックや牧草肥育) *加工食品 ☆魚介類摂取↑=心の安定など精神面が落ち着く#3 理想の摂取比率 Omega-3 : Omega-6 2 : 1 (4:1) 脳と栄養:たんぱく質 脳内では神経細胞同士の情報を電気信号で伝達しあ う物質である「神経伝達物質」がバランス良く働く ことにより、脳の機能は健全に保たれる。 神経伝達物質はアミノ酸(たんぱく質)からできて いるので食事からの摂取がとても大切。 たんぱく質摂取 胃 液 、 膵 液、 腸液によっ てアミノ酸 に分解 分解された アミノ酸は 小腸で吸収 される 門脈を経て肝臓に 運ばれて たんぱく質に合成 脳と栄養:たんぱく質 たんぱく質摂取が不足すると 筋肉量減少、免疫力低下、疲労、むくみ、貧血、 鬱症状、無関心、思考能力、モチベーション低下#4。 感情や考え、心と 関係する以下の神経伝達物質の 情報伝達にも影響がでる。 - セロトニン - アセチルコリン - ドーパミン - ノルアドレナリン/アドレナリン - GABA (γ-アミノ酪酸) セロトニン 精神状態を安定させる役割のセロトニンは、心身のス トレスにさらされると、副腎からコルチゾールという ホルモンが分泌し、セロトニンが減少する。 セロトニンが減少すると気分の落ち込み、睡眠障害、 楽しめない、疎外感を感じる。 <セロトニンを上げる組み合わせと食べ物> トリプトファン(卵、肉類、豆類) + 糖質 魚介類、果物、穀物、卵、アボカド、乳製品、 動物性食品(オーガニックや牧草肥育) アセチルコリン 副交感神経の作用に関係する。 アセチルコリンが不足:記憶力低下、混乱、困惑、 物忘れ。 アセチルコリンの材料となるレシチンを多く取る事 で情報の伝達や記憶力を高める。 レシチンは、ビタミンCと一緒に摂取すると、アセ チルコリンの生成が高まる。 <アセチルコリンを上げる食べ物> 卵黄、魚介類(特にOmega-3を多く含むサーモンや まぐろ、青魚、小魚、うなぎ)、卵黄、大豆(納豆も 含む)、穀物類、ゴマ油、レバー ドーパミン 快感を高める神経伝達物質。ドーパミンが高まると幸せを感じ 活動的になる。出過ぎると精神不安定になる。 ドーパミンが不足するとモチベーション、やる気がなくなる、 刺激物がほしくなる。 <ドーパミンの分泌を良くする食べ物> チロシンとは フェニルアラニン(必須アミノ酸)から作られる物質で ドーパミンの原料になり、脳の機能を助ける。 チロシンを多く含む食べ物 大豆製品、乳製品、鶏肉、野菜、果物。タケノコの水煮の白い アクに見えるのもチロシン。 *チロシンを効果的に脳に送るためには、糖質が含まれる 食品を一緒に摂ると良い。例:ご飯+納豆 ノルアドレナリン/アドレナリン ノルアドレナリン、アドレナリンの働きは、やる気、 勇気、闘争心、暴力、怒りや恐れなどの情動変化に関 連する。 ノルアドレナリンの原料となるチロシンの摂取に加え、 ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取する。 <ノルアドレナリン/アドレナリンのための食べ物> 赤身の肉、鶏肉、シーフード、卵、乳製品、大豆製品 種実類、バナナ、アボカド GABA (ギャバ) ギャバにはストレスを和らげ、リラックス状態をもたら す作用がある。 ドーパミンなど興奮系の神経伝達物質の過剰分泌を抑え る作用がある。 ギャバが減少すると、リラックスできない、不安症、イ ライラ、興奮状態が続く。 <ギャバの分泌を上げる食べ物> 穀物類(胚芽米、玄米)、トマト、芋類、発酵食品、 スプラウト類(アルファルファ)、小魚、柑橘類、 緑茶、チョコレート <レシピアイディア> トマト+アルファルファ+アボカドサラダ 脳と栄養:炭水化物 脳のエネルギー源:集中力や記憶力、脳の働きを良 くする。 脳に十分な糖分が足りなくなると、身体の他の組織 がから取り込んで脳に糖分を確保する。 穀物類、豆類、野菜、果物を1日の3食にバランス よく取り入れる。 脳と栄養:ビタミン・ミネラル・その他の栄養素 ビタミンとミネラルは炭水化物と糖分、アミノ酸 (たんぱく質)を神経伝達物質、脂質を脳の神経細胞 に変換する役割がある。 心のビタミン・ミネラル: - ビタミンB群 - ビタミンC - 葉酸 - マグネシウム - セレン - 亜鉛 脳と栄養:ビタミン・ミネラル・その他の栄養素 v ビタミンB群:B1(脳・神経), B2(血液生産), ナイアシン(B3:セロトニンを増やす), B5 (アセチルコリン生成、 脂質、糖質代謝に必要), B6(神経伝達やたんぱく質分解), B12 (神経細胞の核酸やアミノ酸の合成、赤血球生成) v ビタミンC:脳への化学物質伝達の役割。 v 葉酸:記憶力の向上や認知症予防の効果がある。 v ビタミンD:脳の機能と発達、神経伝達物質調整に関わる。 v ビタミンE:体内の酸化防止、血流を良くする、脳内活性。 脳と栄養:ビタミン・ミネラル・その他の栄養素 v セレン:健康な神経細胞維持、甲状腺などのホルモンにも関係する。 v 亜鉛:脳内の神経物質に関わる。 v マグネシウム&カルシウム:記憶力維持、脳細胞への不要な物質を溜め込 まない。 カルシウムは神経伝達物質の働きを助ける。 v オメガ3脂肪酸:頭から足の先までに必要な栄養素。 v ファイトニュートリエント&抗酸化物質:活性酸素除去、脳は体内に取り込 まれた酸素を多く消費、大量の活性酸素が発生。抗酸化物質摂取によって 脳内の活性酸素を除去、脳の働きを活性化、脳梗塞、脳出血など、脳の 疾患予防に役立つ。 v プロバイオティックス:腸内環境を整える。 脳と栄養:ビタミン・ミネラル・その他の栄養素 v ビタミンB1:豚肉、大豆製品、ピーナッツ、小麦胚芽、玄米、胚芽米、 レバー、うなぎ v ビタミンB2: きのこ類、乳製品、ほうれん草、アーモンド、卵、海草類 v ビタミンB3: 鶏むね肉、レバー、かつお、たらこ、ぶり、きのこ類、豆類 v ビタミンB5:レバー類、鶏もも肉、卵、鮭、いわし、大豆製品 v ビタミンB6:まぐろ、かつお、いわし、鮭、鶏むね肉、バナナ、 胚芽、卵 v ビタミンB12: 小魚類、貝類、レバー、鶏・豚・牛肉、乳製品 v ビタミンC:緑や赤系の野菜、じゃがいも、果物(柑橘類、ベリー系) v 葉酸:レバー類、胚芽、豆類、緑の葉野菜 v ビタミンD:乳製品、脂肪が多い魚(肝類、うなぎ、さんま等)、 干し椎茸、切り干し大根 v ビタミンE:オリーブ油、アボカド、ナッツ類(特にアーモンド)、米油、 濃い緑の野菜 脳と栄養:ビタミン・ミネラル・その他の栄養素 v セレン:レバー類、魚介類、ブラジルナッツ v 亜鉛:赤身の肉(特に牛肉、ラム)、貝類、うなぎ、ナッツ類(特にカシューナッツ、 アーモンド)、大豆製品、乳製品、緑茶、黒米や雑穀 v マグネシウム:玄米、種実類(特にひまわりの種、ゴマなど)、海草類、豆類、魚介類 (特にえび、いわし)、小麦胚芽、緑茶 v カルシウム:小魚、乳製品、濃い緑の野菜 v オメガ3脂肪酸:魚油、サーモン、マグロ、いわし、亜麻仁種油、チアシード、 くるみ、オーガニックや牧草肥育の肉類、大豆製品 v ファイトニュートリエント&抗酸化物質:穀物類、野菜、果物、茶類、スパイス・香辛料 v プロバイオティックス:ヨーグルト、味噌、納豆、ぬか漬け、塩麹、漬け物:キムチ、 サワークラフト、ピクルス、オリーブ、ケファ、クロレラ プロバイオティックス(Probiotics) 腸は第二の脳 身体に有益な菌を増やして、腸内細菌叢(フローラ)のバランスを整え、 健康を守る。 腸内環境のバランス=善玉菌と悪玉菌のバランス プロバイオティックスの働き: ü 免疫力を上げる ü がん予防 ü 腸内感染を防ぐ ü アレルギーの予防 ü 炎症性大腸炎の予防 ü 動脈硬化や生活習慣病の改善と予防 心が安定している時の食生活 1日1回はお米と発酵食品を食べる。 例:ご飯と味噌汁+たんぱく質+野菜 毎食にたんぱく質を取り入れる。 間食にはナッツ類、ヨーグルト、果物。 *バナナにはセロトニンを上げるビタミンB6が豊富 に含まれていて、中1本のカロリーは100カロリー 前後で糖分は14g、1日に必要なビタミンB6の30% が摂れる。 ☆精神的にも肉体的にも元気な時にご飯をたくさん炊い たり、冷凍できる主菜、スープ類を作って冷凍しておく と、料理をする元気がない時に便利。 脳のためのレシピ ヨーグルト+フルーツ+ナッツ+(ブラン) 低脂肪又は無脂肪ヨーグルト ½カップ (たんぱく質) バナナなどの果物 ¼カップ (糖分・ビタミン・ミネラル) クルミ 刻んだもの大さじ1 (たんぱく質・オメガ3脂肪酸) ブラン ¼ カップ (食物繊維) <栄養価> カロリー:300〜330kcal たんぱく質:13〜16g,糖質40〜55g, 食物繊維10g,脂質:5〜9g ドーパミンアップスムージー バナナ 小1本(ビタミンB6) ケール又はほうれん草 ¾カップ (ビタミンC、葉酸) アーモンドミルク ¾カップ(たんぱく質) シナモン、ナツメグ好みのスパイス (抗酸化物質) <栄養価> カロリー:150kcal たんぱく質:5g,糖質30g, 食物繊維5g,脂質:6g 脳のためのレシピ ビタミンB豊富なチャーハン ご飯茶碗1〜1.5杯 (糖分、アミノ酸、ビタミン、ミネラル) ニンニク1片 (抗酸化物質) 生姜 刻んで小さじ1 (抗酸化物質) 玉ねぎ ½個 (ビタミンB1、B2、亜鉛) 豚バラ肉 1切れ (ビタミンB1、たんぱく質) 椎茸 1〜2個 (ビタミンB2) ほうれん草 刻んで1カップ (ビタミンC、葉酸) 卵 1個 (ビタミンB2、B5、B6、たんぱく質) 塩こしょう、 醤油又は味噌 ごま油 <栄養価> カロリー:530kcal たんぱく質:13g,糖質75g, 食物繊維1g,脂質:13g 覚えておきたいこと 心が安定している時からバランスのよい食事を 時間を決めて食べる様に心がけましょう。 1日3〜5回に分けて細かく食べてもいいので、 十分な栄養が摂れるように。 気分が上がらない時でも一品、 1つの食品でも食べるように。 食事は抜かないことが大切です。 References ご清聴ありがとうございました。 Thank you for BC network & Jamsnet 1. Clark Spencer Larsen, "Dietary Reconstruction and Nutritional Assessment of Past Peoples: The Bioanthropological Record," in The Cambridge World History of Food, ed. Kenneth Kiple and Kriemhild Conee Ornelas (Cambridge: The Cambridge University Press, 2000). 2. Acta Neurol Taiwan. 2009 Dec;18(4):231-41.Essential fatty acids and human brain.Chang CY1, Ke DS, Chen JY. 3. Kalmijn S, van Boxtel MP, Ocke M, Verschuren WM, Kromhout D, Launer LJ: Dietary intake of fatty acids and fish in relation to cognitive performance at middle age. Neurology 2004; 62(2): 275-80. 4. Holford P: The Alzheimer’s Prevention Plan: 10 Proven ways to stop memory decline and reduce the risk of Alzheimer’s. London: Piatkus. 2005 *本講演内容の複写・複製・転写・転訳することを禁じます。
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