201 5 年度 数学基礎考究2 (落合) 確認小テスト解説 (10/8) [1] 体 K 上のベクトル空間 V が与えられたとき, V の基底とは何か? 定 義を 過不足なく 正確に記せ. (注: V が無限次元の場合の定義がうまく 書けない人は V が有限次元のベクトル空間と仮定してから答えてもよ い.) 有限次元の場合の定義を何通りか述べる. 定義 1 (教科書 p8 の定義 1.2.2) V を K 線型空間とする. v 1 , . . . , v n が V の基底であるとは , 任意の v∈V a1 .. に対して v = a1 v 1 + · · · + an v n をみたすベクトル a = . ∈ K n が an 一意に存在することをいう. 定義 2 V を K 線型空間とする. v 1 , . . . , v n が V の基底であるとは, v 1 , . . . , v n が V を生成し, v 1 , . . . , v n が 1 次独立であることをいう. 定義 3 a1 .. V を K 線型空間とする. v 1 , . . . , v n が V の基底であるとは, . ∈ K n an を a1 v 1 + · · · + an v n ∈ V にうつす K 線型写像 K n −→ V が同型である ことをいう. 三つの定義を述べたが、主に最初の二つの定義の何れかがスタンダー ドである. 定義 1 か定義 2 のどちらかを強く推奨します. 有限次元とは限らない場合の定義については, まずそもそも有限次元で ないベクトル空間における和の定義, 直積と直和が同型でないことな どに注意する. 教科書 1.6 を読んでみてください. 無限個のベクトルが あったときの線型和は 係数のうち有限個以外は零 であることを理解し ていれば, 有限次元と同じように書いてもよいであろう. 有限次元の場 合の定義を何通りか述べる. ある添え字集合 I で添え字付けられる K の直和を K (I) と記す. 定義 1 V を K 線型空間とする. ある添え字集合 I で添え字付けられる V の元の ∑ 族 (v i )i∈I が V の基底であるとは, 任意の v ∈ V に対して v = i∈I ai v i をみたすベクトル a = (ai )i∈I ∈ K (I) が一意に存在することをいう. 定義 2 V を K 線型空間とする. ある添え字集合 I で添え字付けられる V の元 の族 (v i )i∈I が V の基底であるとは, (v i )i∈I が V を生成し, (v i )i∈I が 1 次独立であることをいう. 定義 3 V を K 線型空間とする. ある添え字集合 I で添え字付けられる V の元 ∑ の族 (v i )i∈I が V の基底であるとは, (ai )i∈I ∈ K (I) を i∈I ai v i ∈ V に うつす K 線型写像 K (I) −→ V が同型であることをいう. [2] 与えられたベクトル空間 V に対して, 基底の濃度 (有限次元の場合 は基底の個数) は基底の取り方によらないことが知られている. このこ とを定理の形式で数学的に正確に論述せよ. (注: 無限集合の濃度を知 らない人は有限次元と仮定して答えてもよい.) 定理 (有限次元に限った場合/教科書の定理 1.5.4) V を K 線型空間とする. v 1 , . . . , v m と w1 , . . . , wn が V の基底ならば, m = n となる. 定理 (有限次元とは限らない場合/教科書の定理 1.6.4) V を K 線型空間とする. ある添え字集合 I で添え字付けられる V の元の 族 (v i )i∈I とある添え字集合 J で添え字付けられる V の元の族 (wi )j∈J V の基底であるならば, I と J は濃度が等しい1. [3] 次のベクトル空間 V に対して, 基底を具体的に記せ. (1) 実数体 R 上のベクトル空間としての複素数体 C. 1濃度の言葉を知らなければ I と J の間に全単射写像があるといっても同じである. √ 例えば, 1, −1 が基底である. あるいは, x ∈ C \ R を勝手に選んだと きの x, x が基底である (ただし, x は x の複素共役である). (2) K 上の n 次元数ベクトル空間 V = K n . 例えば, 標準基底 e1 , . . . , en がある. (3) K 係数の n 次正方行列のなすベクトル空間 V = Mn (K). 例えば, eij を (i, j) 成分が 1 でそれ以外の成分がすべて 0 の行列とする とき, (eij )1≤i,j≤n が基底となる. (4) K 係数の 1 変数多項式環 K[X]. 例えば, 1, X, X 2 , . . . , X n , . . . が基底となる. 発展的コメント 若干の注意を与えておく. 教科書の定理 1.6.7 によって勝手な K ベクト ル空間は基底を持つことが知られている. しかしながら, V が無限次元 のときには与えられたベクトル空間に (4) のようにわかりやすい基底が とれるとは限らない. 例えば, K[X] の代わりに係数が無限個 0 でない ものもゆるす形式的べき級数 K[[X]] を考えると, V = K[[X]] も K ベ クトル空間であるが, 次元は非可算無限である. このような K[[X]] に 具体的な基底を思い付くだろうか?
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