将来の給付の訴えを提起することのできる 請求

判例批評
将来の給付の訴えを提起することのできる
請求としての適格を有しないものとされた事例
(最高裁平 (受)
号,最高裁平成
年
月
日第二小法廷判決,
所有権移転登記手続,持分移転登記抹消登記手続等,持分確認等請求事
件,一部破棄自判,一部上告棄却,最高裁判所裁判集民事
判時
号
号
頁,
頁)
春 日 川
路
子
事実の概要
本判決は共有地の持分をめぐる親族間の紛争のなかでも,駐車場として利用されてい
る共有地から生ずる収入を単独で得ていた共有者の一人に対して,当該駐車場の賃料収
入のうち当該共有者の持分割合を超える金額の不当利得返還請求の適否についてなされ
たものである。
訴外Aは所有する複数の土地の一部で賃貸マンションや計
台程度の規模の月極駐
車場を経営しており,さらに生前から所有する土地の一部を複数回にわたって子である
Yや訴外B,およびBの配偶者であるX ,孫であるX などに贈与していた。
平成
年
月に訴外A,同年
月に訴外Bがそれぞれ死亡したのちに,駐車場と
して利用されている複数の土地(以下,本件土地とする)について持分を有すると主張
するX とX は,駐車場の経営を引き継いでいたYに対して,本件土地について持分
を有することの確認や,Yが駐車場から得ている収入のうちX とX の持分割合に応
じた金額の不当利得返還等を求める訴えを提起した(なお,Yは本件土地につき単独所
(
)
香川法学
巻 ・ 号(
)
有権を主張しており,X とX に対して真正な登記名義の回復を原因とする持分移転
登記を求める訴えを提起していた)
。
第一審(名古屋地判平成
年
月
日)は,本件土地につきX とX は持分を有
していないとして,X とX の請求をすべて棄却した。それに対して原審(名古屋高
判平成
年
月
日)は,X とX が本件土地について持分を有していることを確
認した。加えてYが得ている賃料収入のうち,X とX の持分割合に応じた金額の不
当利得返還請求を一部認容し,控訴審の口頭弁論終結の日以降に発生すべき部分につい
ても請求を認容した。Yが上告。
判
旨
破棄自判。
最高裁は,原判決のうち口頭弁論終結の日の翌日以降の不当利得返還を認容した部分
を破棄し,同部分にかかる訴えを却下した。
「……原審は,被上告人らの請求を一部認容したが,原審の判断中,原審の口頭弁論
終結の日の翌日である平成
年
月
日以降に生ずべき不当利得金の返還請求を認
容した部分(以下「本件将来請求認容部分」という。)は,是認することができない。
その理由は次のとおりである。
共有者の一人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部
分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日
以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格
を有しないものである(最高裁昭和
判決・裁判集民事
号
年(オ)第
号同
年
月
日第一小法廷
頁参照)
。
そうすると,原審の判断中,本件将来請求認容部分には判決に影響を及ぼすことが明
らかな法令の違反があり,この点をいう本旨には理由がある。原判決中,本件将来請求
認容部分は破棄を免れず,同部分に係る被上告人らの請求を棄却した第一審判決を取消
し,同部分に係る被上告人らの訴えを却下すべきである」。
千葉裁判官並びに須藤裁判官の補足意見
「……将来発生すべき債権に基づく将来の給付請求については,その基礎となるべき
事実関係および法律関係が既に存在し,その継続が予測されるとともに,債権の発生・
消滅およびその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に
予測しうる事由に限られ,しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明し
(
)
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有し
ないものとされた事例(春日川)
てのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても,当事者間の衡平を害する
ことがなく,格別不当とはいえない場合に例外的に可能となるものと解されている(最
高裁昭和
年(オ)第
号同昭和
年
月
日大法廷判決・民集
巻
号
頁参照)
。
これを前提にした上で,前掲昭和
年第一小法廷判決は,裁判集に登載され,判示
事項としては,
「将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しな
いものとされた事例」となっており,文字どおり事例判断であることが明示されてい
る。もっとも,その裁判要旨としては,持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求
める請求のうち事実審の口頭弁論終結後に係る部分は,将来の給付請求の適格を欠くと
され,法理に近い表現が用いられてはいるが,当該事案を前提とした判断であり,事例
判断であることは争いがないところであろう。
そうすると,事例判断としてのこの判決の射程距離が問題となるが,この判決の理解
としては,①持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める将来給付の場合を述べ
たものとする理解(このような捉え方をしていると思われる他の最高裁判例として,最
高裁平成
年(オ)第
号同
年
月
日第一小法廷判決・民集
巻
号
頁が
ある。
)と,②①の場合に加え,当該賃料が駐車場の賃料であるという賃料の内容・性
質をも含んだ事例についての判断であるとする理解とがあり得るところである。
このうち,①の理解によると,この裁判要旨については,将来得るべき賃料はそれが
現実に受領されて初めて不当利得返還請求権が発生することから,その発生は第三者の
意思等によるところ,そのような構造を有する将来請求全てに射程距離が及ぶ判断であ
ると捉えることにもなろう。しかし,昭和
年大法廷判決の法理によって将来請求の
適否を判断するためには,当該不当利得返還請求権の内容・性質,すなわち,その発生
の基礎たる事実関係・法律関係が将来も継続するものかどうかといった事情が最重要で
あり,それを個別に見て判断すべきであるとすれば,昭和
年第一小法廷判決の射程
距離については②の理解を採ることになろう。
私としては,上記①の理解はいささか射程が広すぎるように思う。すなわち,居住用
家屋の賃料や建物の敷地の地代などで,将来にわたり発生する蓋然性が高いものについ
ては将来の給付請求を認めるべきであるし,他方,本件における駐車場の賃料について
は,
台程度の駐車スペースがあり,これが常時全部埋まる可能性は一般には高くは
なく,また,性質上,短期間で更新のないまま期間が終了したり,期間途中でも解約と
なり,あるいは,より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は
随時そちらに移る等の事態も当然に予想されるところであって,将来においても駐車場
収入が現状のまま継続するという蓋然性は低いと思われ,その点で将来の給付請求を認
(
)
香川法学
巻 ・ 号(
)
める適格があるとはいえない。いずれにしろ,将来の給付請求を認める適格の有無は,
このようにその基礎となる債権の内容・性質等の具体的事情を踏まえた判断を行うべき
であり,その意味でも昭和
年第一小法廷判決の射程距離については,上記②の理解
に立つべきである」
。
検
討
本判決の意義
最判平成
年
月
日集民
号
頁(以下,本判決とする)の意義としては,
駐車場として利用されている共有地から生じる収入を単独で得ていた共有者の一人に対
して,賃料収入のうち当該共有者の持分割合を超える金額の不当利得返還を求める訴え
のうち,口頭弁論終結の日の翌日以降の請求については,将来の給付の訴えを提起する
ことのできる適格を有していないと判断したこと,この結論を先例となる昭和
一小法廷判決
月
日集民
号
頁(以下,最判昭和
き出したこと,および,補足意見が最判昭和
特に最判昭和
年第
年とする)を引用して導
年の射程に言及したことが挙げられる。
年の射程については,補足意見とはいえ最高裁判決として初めて言及
されている点が重要であり,最高裁の立場を再確認したとの点でも意義を有する。
先行する裁判例
)継続的不法行為に基づく損害賠償請求
継続的不法行為に基づく将来の損害賠償は,将来の給付の訴えによっては訴求できな
いとするのが判例の立場である。大阪国際空港の周辺住民が国に対して航空機の飛行差
止めや損害賠償等を求めた大阪国際空港事件上告審判決(昭和
日民集
巻
号
頁,以下,最大判昭和
!
年大法廷判決
月
年とする)において最高裁は,将
来の給付の訴えは期限付請求権や条件付請求権のように,「既に権利発生の基礎をなす
事実上および法律上の関係が存在し,ただ,これに基づく具体的な給付義務の成立が将
来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証し
うる別の一定の事実の発生にかかっているにすぎず,将来具体的な給付義務が成立した
時に改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としな
いと考えられる」請求権について提起できるとし,その上で,継続的不法行為に基づく
損害賠償請求権については,明渡義務履行時までの賃料相当損害金のように,請求権の
基礎となる事実関係および法律関係が既に存在しており,その継続が予測され,請求権
の成否およびその内容につき債務者たる占有者に有利な影響を生ずるような将来におけ
(
)
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有し
ないものとされた事例(春日川)
る事情の変動があらかじめ明確に予測できるような事由に限られ,これについては請求
異議の訴え(民事執行法
条)によりその発生を証明してのみ執行を阻止できるとい
う負担を債務者に課しても格別不当とはいえない場合には,将来の給付の訴えを提起で
きると説示した。それに対して,同一態様の行為が将来も継続されることが予測されて
も,損害賠償請求権の成否およびその額をあらかじめ一義的に明確に認定することがで
きず,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとら
えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられる場合には,
「本来例外的に
のみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすること
はできない」とした。そして以上の要件を当てはめて,原告らの航空機等の騒音に基づ
く損害賠償請求のうち事実審口頭弁論終結後に生ずべき損害の賠償を求める部分は,権
利保護の要件を欠くものであり,その部分についての訴えは却下されるべきと判断し
た。なおこの法廷意見には,最小限度の被害の発生が確実に継続するとみとめられる期
間を控え目にみてその終期を定めれば,その期間内に特別の事態が生じたときには請求
異議の訴えによって救済を求めさせても,被告に不当の不利益を課することにはならな
いとの団藤裁判官の反対意見が付された。最大判昭和
年の法廷意見において示され
た要件は後に多くの裁判例に引用されており,これにしたがい将来の給付の訴えは不適
!
法と判断されている。
なお最大判昭和
年では,継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権
のなかでも請求適格が認められる事例として,不動産の不法占拠者に対して明渡義務の
履行完了までの賃料相当額の損害金の支払いを求める場合が挙げられている。これに類
似する将来の給付の訴えを適法と判断したものとしては,雇用契約が終了した後におい
ても社宅の明け渡しを拒み続ける被告に対して,原告たる会社側が社宅の明渡および明
渡時までの損害金の支払い等を求めた事件である,立川簡判昭和
号
頁(以下,立川簡判昭和
年とする)がある。立川簡判昭和
年
月
日判時
年は将来の損害
賠償請求権はいまだ発生していないことを指摘し,将来の給付の訴えが許容される範囲
をドイツ民事訴訟法(以下,ZPO とする)の注釈書や教科書を引用して確認する。そ
のうえで,
「併乍ら占有(即本訴に於て被告等の建物占拠)は継続する性質を有つて居
る,被告等は将来も建物を占拠すると主張して居る。従つて原告の為め損害金請求権の
発生すべき原因が既に存在して居るといわざるを得ない。然らば損害請求権(厳密に云
うと請求権発生の原因)が存在すると認定し且つ之に対し将来の請求の訴を許すことは
不当に例外規定を拡張するものであるということはできない。従来と雖不法占拠を原因
とする建物明渡の訴に於て申立により建物明渡に至るまでの将来の損害金の支払を被告
に命ずることは裁判例である」と判示している。
(
)
香川法学
巻 ・ 号(
)
航空機の騒音等による継続的不法行為に基づく将来の損害の賠償を求めた類似の事案
である平成
年
月
日第三小法廷判決集民
!
号
頁(以下,最判平成
年と
する)では,明確な終期の付された将来給付の適法性が問題となった。控訴審は「口頭
弁論終結後も,本判決の言渡日である平成
年
月
日までの
カ月ないし
年間
といった短期間については,口頭弁論終結時点に周辺住民が受けていた航空機騒音の程
度に取立てて変化が生じないことが推認され,受忍限度や損害額(慰謝料,弁護士費用)
の評価を変更すべき事情も生じないから,終結後の損害の賠償を求めて再び訴えを提起
しなければならないことによる原告らの負担にかんがみて,口頭弁論終結時について認
められる損害賠償請求権と同内容の損害賠償請求権を認めるべきである」として,口頭
弁論終結の日の翌日から控訴審判決言渡日までの期間につき口頭弁論終結時と同内容の
損害賠償請求権の請求を認容した。この判断は最大判昭和
年の団藤裁判官の反対意
見を参考にしたものと考えられる。だが,最高裁は将来の損害賠償請求にかかる部分を
不適法として却下した。上告審法廷意見は最大判昭和
年を適用して,「横田飛行場に
おいて離発着する米軍の航空機の発する騒音等により精神的又は身体的被害を被ってい
ることを理由とする被上告人らの上告人に対する損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁
論終結の日の翌日以降の分については,その性質上,将来の給付の訴えを提起すること
のできる請求権としての適格を有しないものであるから,これを認容する余地はないと
いうべきである」と説示した。
下級審においては,最大判昭和
"
年の後に工場の騒音に基づく将来の損害賠償請求
を認容した事例が存在するものの,併合されていた騒音および振動の発生の差止めも認
容されており,本訴請求たる航空機の飛行差止めが認容されなかった最大判昭和
#
年
とは事案が異なるとの評価がある。工場の騒音に基づく将来の損害賠償を認めた事例に
おいては,被害の発生の継続が高度の蓋然性をもって予想されること,原告の被害が甚
大であること,および,被告による任意の賠償金の支払いが期待されないことが将来給
付を許容する根拠として挙げられた。
)共有者間の不当利得返還請求
最大判昭和
昭和
$
年の要件を,共有者間の不当利得返還請求権にも適用した判例が最判
年である。転売によって利益を得るためXと共同出資して土地(以下,本件土
地とする)を購入したYは,昭和
年
月ころから無断で本件土地を訴外A株式会社
のモータープールとして賃貸し賃料を得ていた。そこでXは本件土地がXとYの共有に
属することの確認および当該賃料のうちYの共有持分を超える部分についての不当利得
返還を求める訴えを提起した。
(
)
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有し
ないものとされた事例(春日川)
第一審(大阪地判昭和
年
月
日)は,本件土地がXとYの共有に属することは
確認したものの,本件土地を賃貸して得る利益はY個人の収入であるとして請求を棄却
した。控訴審(大阪高判昭和
をその分配割合(約
分の
年
月
日)は,Yが右土地から生ずる収益(果実)
)をこえて取得している場合には,XはYに対してその収
益の支払いを求める権利を有するとして,Xの所有権持分移転登記が完了するまでの間
の不当利得返還請求を認容した。
それに対して最高裁は最大判昭和
年を引用した上で,
「
(本件の不当利得返還請求
権)の基礎となるべき事実上および法律上の関係が既に存在し,その継続が予想される
ものと一応いうことができる。しかし,右賃貸借契約が解除等により終了した場合はも
ちろん,賃貸借契約自体は終了しなくても,賃借人たる訴外会社が賃料の支払いを怠っ
ているような場合には,右請求はその基盤を欠くことになるところ,賃貸借契約の解約
が,賃貸人たる上告人の意思にかかわりなく,専ら賃借人の意思に基づいてなされる場
合もあり得るばかりでなく,賃料の支払は賃借人の都合に左右される面が強く,必ずし
も約定通りに支払われるとは限らず,賃貸人はこれを左右し得ないのであるから,右の
ような事情を考慮すると,右請求権の発生・消滅およびその内容につき債務者に有利な
将来における事情の変動が予め明確に予測し得る事由に限られるものということはでき
ず,しかも将来賃料収入が得られなかった場合にその都度請求異議の訴えによって強制
執行を阻止しなければならないという負担を債務者に課することは,いささか債務者に
酷であり,相当でないというべきである。そうとすれば,被上告人(X)の前記請求の
うち,原審口頭弁論終結後の期間にかかる請求部分は,将来の給付の訴えの対象適格を
有するものということはできない」として,不当利得返還請求のうち口頭弁論終結後の
期間にかかる訴えを却下した。
本判決以前に最判昭和
成
年
月
日民集
年を適用した事件として,本判決補足意見が挙げる最判平
巻
号
!
頁(以下,最判平成
年とする)がある。四名の女
性と婚姻関係や内縁関係を有していた被相続人の婚姻関係および相続をめぐる紛争にお
いて,相続により共有の状態にある建物を共有者の一人が他の共有者に無断で賃貸して
賃料収入を全額得ていた。最高裁は原告の主張した賃料相当額の金員支払請求につき口
頭弁論終結後の部分を,
「……共有者の一人が共有物を他に賃貸して得る収益につきそ
の持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち事実審口頭弁
論終結後に係る請求部分は,将来の給付の訴えを提起する請求としての適格を有しない
から(最高裁昭和
号
年
月
年(オ)第
号同
年
月
日第一小法廷判決・裁判集民事
頁参照),同被上告人が上告人に対し原審口頭弁論終結の翌日である平成
日以降の賃料相当額の金員支払を請求する部分に係る訴えは,却下を免れな
(
)
香川法学
巻 ・ 号(
)
い」と判断した。なお,この事件は被相続人が帰化した日本人であり,婚姻関係にあっ
た女性たちも外国籍であったことから,主に国際私法の前提問題に関する判例として評
釈がなされている。他方で,将来給付を不適法と判断した部分については,民事訴訟法
の視点からの詳細な検討はなされていなかった。
将来の給付の訴えについての学説
給付の訴えは,訴訟の対象となる請求権について,事実審の口頭弁論終結の時点で履
行期が到来している場合には現在給付,いまだに到来していない場合には将来給付と呼
ばれて区別される。将来の給付の訴え(民事訴訟法
条)を提起する場合には,訴え
の利益として「あらかじめ請求する必要」のあることが要求され,従来これは主張され
た給付義務の性質,内容,被告の態度等を考慮して個別具体的に判断されてきた。この
必要性が認められる具体例としては,反復継続する給付の場合にすでに履行期の到来し
ている部分についても履行がない場合や,債務者が債務そのものを争っているなど,債
!
務者が履行期に履行しない意思を有していることが明らかに推知される場合がある。
こうした状況のもとで,
「将来給付の対象となりうる請求権」という要素を適法性判
断の場面で取り上げた点に最大判昭和
年の意義があるといえる。この大法廷判決以
前には将来の給付の訴えの対象として主として期限付請求権が想定されていたこと,お
よび,対象となりうる請求権に関して詳細には議論されていなかったこととの事情もあ
り,学説上は条件付請求権や将来発生すべき請求権の場合であっても,訴求する時点で
すでにその基礎の関係が存在しており,かつ,その内容が明確であれば訴えを提起する
"
ことができると説明されるのみであった。裁判実務も基本的にはこの見解に同調してお
#
り,将来の不法行為に基づく損害賠償請求権について許容する下級審判例があった一方
で,基礎たる関係が存在せずその内容が不明確であるとして排斥された事件も存在して
$
いた。
現在では,請求権の性質・内容を将来の給付の訴えの適法性を判断する際に考慮する
%
ことについては見解の一致が見られる。しかし,最大判昭和
&
年の示した不適法却下
という結論に疑問を提起する見解が多く見受けられる。その理由として,最大判昭和
年の法廷意見の基準では不法占拠の事案と騒音等の不法行為の事案を区別するのが
'
極めて困難との点が挙げられており,最判昭和
(
年が不適法とされたことがそれをよ
く示しているとの指摘もある。近時では,最判平成
年の法廷意見に付された「(将来
の給付の訴えの利益は)将来生ずる不確定要素の立証の負担を原,被告いずれに負担さ
せるのが妥当かという利益衡量の問題に尽きるのであって,当該具体的な事案に応じて
判断されるべき事項である。その点は継続的不法行為による損害賠償請求権の場合も同
(
)
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有し
ないものとされた事例(春日川)
様に解すべきであり,最大判昭和
年が定立した基準は狭きに過ぎるものであって見
直されるべき」との田原裁判官の反対意見に同調して,こうした基準から将来給付の適
!
法性を判断すべきとの見解も見受けられる。
このように,学説の大部分は継続的不法行為に基づく将来の損害賠償を求める訴えを
不適法と判断した判例に疑問を投げかけており,これは最判昭和
年において示され
"
た不適法却下との結論に対する批判にも結びついていると考えられる。
本判決の検討
最高裁は本件の共有者間において将来発生する不当利得の返還を求める訴えを却下し
た。このような判断に至った理由のひとつとして,補足意見は,訴えの対象が駐車場と
して利用されている土地の賃料であった点を挙げる。先行する事件である最判昭和
年および本件においては,ともに駐車場として使用されている土地の賃料のうち,共有
者の一人の持分割合を超える部分の駐車場収入の返還が請求されていたとの事情が共通
している。共有地が駐車場として使用されている場合に,将来給付が否定される理由と
して補足意見は,
「……本件における駐車場の賃料については,
台程度の駐車スペー
スがあり,これが常時全部埋まる可能性は一般には高くはなく,また,性質上,短期間
で更新のないまま期間が終了したり,期間途中でも解約となり,あるいは,より低額の
賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移る等の事態も
当然に予想されるところであって,将来においても駐車場収入が現状のまま継続すると
いう蓋然性は低いと」考えられることを挙げる。結論として,本件の不当利得返還請求
権には「将来の給付請求を認める適格があるとはいえない」と説明する。つまり補足意
見は,将来の継続的給付を求める事案のリーディングケースである最大判昭和
年と
そこで示された法理を以下のように理解し,それを前提に示されたものであると考えら
れる。すなわち,最大判昭和
年の法理は将来の不当利得返還を求める訴えにも適用
できるということ,および,この法理によれば請求権発生の蓋然性の高いものは将来給
付により訴求できるということである。以下,補足意見の前提になったと推測される理
解を検討する。
まず補足意見は,継続的不法行為に基づく将来の損害賠償請求の適法性を判断した最
大判昭和
年の法理を,共有者間の将来の不当利得返還請求の適法性を判断する際に
も適用できると考えている。この点につき,最大判昭和
と判断した最判昭和
ろう。最大判昭和
年を適用して請求を不適法
年を引用していることから,法廷意見も同様の立場と言えるだ
年が示した要件はどのような事件に適用できるのか,特に継続的
不法行為に基づく将来の損害賠償請求以外の事案にも適用できるのかとの問題について
(
)
香川法学
巻 ・ 号(
)
は,これまで議論が続いてきた。この点につき最高裁は,昭和
大判昭和
年の判決において最
年の法理にしたがい,将来の不当利得返還を求める訴えを不適法と判断し
た。加えて下級審判決のなかには,最大判昭和
!
年の要件を将来の土地の明渡請求の
適法性を判断する際に適用する例もある。他方で,学説の中にはこのような要件の適用
"
に疑問を提起する見解や,最大判昭和
年の示した要件は,その適用する範囲をいた
ずらに拡張すべきではなく,継続的不法行為に基づく将来の損害賠償請求の事案にのみ
#
適用すべきと主張するものもある。本判決において,最高裁は明言こそしていないが最
大判昭和
年の法理は,将来の不当利得返還請求の適法性を判断する際にも適用でき
るとの立場を示した。その根拠として,不法行為に基づく損害賠償請求権も不当利得返
還請求権も契約以外の原因から発生する債権であり,その種類や内容が法律によって定
$
められており,損害や利得・損失があって初めて発生するという性質が共通すること,
このことから同様の要件によって判断されるべきことが挙げられるだろう。伝統的に将
来の給付の訴えの利益は,権利の性質等を考慮した上で,「あらかじめ請求する必要」
があるか否かが判断されてきた。こうした理解を前提にすれば,権利の性質が類似して
いる場合には,同様の要件によって判断されることになる。したがって,最高裁が最大
判昭和
年およびそこで示された法理を最判昭和
年の事件に適用したことには,理
由があったといえる。
さらに補足意見は,法廷意見が触れていない最大判昭和
する。すなわち補足意見は,最大判昭和
年の射程についても言及
年に従えば将来にわたって発生する蓋然性
が低い請求権は将来の給付の訴えに対象になりえないが,「将来にわたり発生する蓋然
性が高いものについては将来の給付請求を認めるべき」であるという。確かに一理ある
が,全面的には賛同できない。先にも触れたように,最判平成
年において最高裁は,
判決言渡日までと期限を区切り請求権発生の蓋然性が高い期間に限定して将来給付を認
容した控訴審判決を破棄自判し,そのような将来の給付の訴えは不適法であると判断し
ている。加えて,補足意見が将来給付の対象になり得るものであると例示する,共有物
たる居住用家屋の賃料収入の分配が問題となった最判平成
年においても,将来の不
当利得返還請求は不適法であるとして否定されている。このような一連の最高裁の判断
から,共有物が居住目的等で賃貸されているとの事情や請求権の発生の蓋然性が単に高
いという事情だけでは将来給付は適法にならないのではとの疑問が残り,これが補足意
見への疑問にもつながるといえよう。将来給付の適法性を判断する際には,確かに土地
の利用目的や,請求権が将来にわたって発生する蓋然性も判断要素になるとは考えられ
るが,それ以外の要素も考慮または要求される可能性がある。
将来給付が適法と判断されるためには,いかなる要素が要求されるのか,との問題を
(
)
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有し
ないものとされた事例(春日川)
検討するにあたっては,将来給付が適法となる可能性の高い事件類型の分析が一助にな
るだろう。最大判昭和
年を契機として,反復継続する将来の給付を求める訴え一般
について裁判例が蓄積されてきた経緯があり,そこから将来給付が適法とされやすい請
求と,斥けられる可能性の高い請求があるということも明らかとなってきた。前者の代
表的事例として将来の賃金支払いを求める訴えが挙げられる。この訴えは,解雇の無効
等を争って提起される,従業員の地位にいまだあることや労働契約関係存在の確認を求
める訴え(以下,地位等の確認の訴えとする)に併合して提起される場合が多い。この
ように基礎たる権利や法律関係の確認または給付を求める訴えに併合されている将来の
!
給付の訴えは,適法になる可能性が高い。こうした将来の賃金請求の類型の分析から
は,ある一定の基礎たる関係から将来給付の対象となる権利・法律関係が生じることが
"
論理的に導かれ,当該基礎たる関係の存否を訴訟手続が進行している「現在」の時点で
確定できる場合には,将来給付が適法になる可能性が高いといえそうである。
なお,日本法の参考とされた ZPO において将来給付の対象になるのは,期限付きや
#
条件付きのすでに発生していると考えられるものだけである。したがって,純粋に将来
$
発生する請求権は対象にならないとされており,このことからドイツ法においても土地
の不法占拠者が当該土地を明け渡すまで支払う賃料相当損害金(利用利益損害賠償,
Nutzungsentschädigung)を将来の給付の訴えによって訴求できるか否かは問題となる。
この問題については,土地の占拠という一体的な侵害行為が継続しており,そこから反
対給付に左右されない,ひとまとまりの損害賠償請求権がすでに発生していると捉えら
れ,将来発生する権利ではないといえることから,ZPO
%
条の反復継続する給付を求
める場合の将来の給付の訴えの対象になるとされる。さらに,賃貸借契約が終了した後
に賃借物が明け渡される時まで発生する明渡義務の履行遅延に基づく損害賠償(BGB
&
a 条)も,将来給付の対象として扱われている。
本件についてみれば,確かに共有者の一人が不特定多数の第三者に共有地を駐車場と
して使用させていることによって,他の共有者が当該共有地を利用できないという損害
や損失が発生しており,加えてそれらが,問題となっている共有地が駐車場として使用
される限り継続するとみることも可能であろう。だが本件において請求されている,駐
車場としての収入のうち共有地の持分割合を超える部分の不当利得返還請求権は,共有
者の一人が駐車場収入を受け取って利得が生じた際に発生すると考えられるものであ
る。この点については補足意見も指摘するように,本件の賃貸人たる共有者の一人が駐
車場収入を口頭弁論終結後の将来も継続して得られるか否かは不明確であり確定するの
は困難であると考えられる。また,ほかの共有者が土地を利用できないという状態や,
賃貸人たる共有者の一人が共有地を駐車場として利用し,第三者に使用させている状態
(
)
香川法学
巻 ・ 号(
)
といった事実関係の存在から,本件の不当利得返還請求権の発生および存在を論理的に
明確に判断できるわけでもない。したがって,こうした将来給付請求を不適法と判断し
た法廷意見および補足意見には理由があるといえる。ただし先にも触れたように,最大
判昭和
年の理解,および,最判昭和
現状では最判昭和
年の射程の理解にはなお疑問が残る。よって
年は,共有物がいかなる目的・用途で賃貸されている場合にも適
用されると解するのが相当である。
! 本判決につき,長谷部由起子・本件判評・民事訴訟法判例百選第 版(
本件判評・民事訴訟法判例百選第 版(
)
頁以下,松浦馨・本件判評・民事訴訟法判例百選Ⅰ(
高裁判所判例解説民事篇昭和
年度(
" 一例として,名古屋高判昭和
幹線公害事件)
,東京高判昭和
年 月
日民集
)
年 月
頁(国道
号(
)
巻 号
巻 ∼ 号
頁(東海道新
頁(厚木基地公害事件)
,大阪高判平成
巻 ・ 号(
. No.
,
)
頁以下,慶應義塾大学民事
頁以下,川嶋四郎・本件判評・法学セミ
日判時
号
頁。
頁。
& 本判決につき,井上治典・本件判評・昭和
頁以下,片野三郎・本件判評・昭和
年度主要民事判例解説(判例タイムズ
年度重要判例解説(ジュリスト臨時増刊
小林秀之・本件判評・法学セミナー
)
)
頁を参照した。
年 月
% 長谷部・前掲注⑴・
(
号(
頁以下,加茂紀久男・本件評釈・最
号線事件)がある。
手続判例研究会・本件判評・Lexis 判例速報
ナー
頁以下,笠井正俊・
頁以下を参照した。
# 本判決につき野村秀敏・本件判評・民商法雑誌
$ 大阪地判昭和
)
日下級裁判所民事裁判例集
年 月 日民集
巻 号
)
頁以下,川嶋四郎・本件判評・法学教室
号(
)
号,
号,
)
)
頁,坂口裕英・本件判評・民商法雑誌
頁,
巻 号
頁以下を参照した。
' 道垣内正人・本件判評・国際私法判例百選第 版(
度主要民事判例解説(判例タイムズ
号,
) , 頁,河田充規・本件判評・平成
)
年
頁以下。
( 給付の訴えと将来の給付の訴えの概要につき,斎藤秀夫編著『注解民事訴訟法⑷』
(第一法規出版株式
会社,
年) ∼
) 加茂・前掲注⑴・
頁(林屋礼二執筆部分)を参照した。
頁,兼子一『条解民事訴訟法 上』
(弘文堂,
民事訴訟法⑷』
(第一法規出版,
)
三ケ月章『民事訴訟法研究第 巻』
(有斐閣,
* 名古屋地判昭和
年 月
巻 ・ 号
案ではあるが大阪地判昭和
巻 号
年 月
頁,齋藤秀夫編『注解
頁。
巻 ・
号
頁,岐阜地判昭和
年
頁。
+ 訴えを却下したものとしては,最判昭和
日下級裁判所民事裁判例集
)
日下級裁判所民事裁判例集
月 日下級裁判所民事裁判例集
)
頁(林屋礼二執筆部分)
,三ケ月章「権利保護の資格と利益」
年
月
日判時
号
頁,東京地判昭和
年 月
頁,請求を棄却したものとしては,一回的給付を求めた事
日下級裁判所民事裁判例集 巻 号
頁がある。
, 訴えの利益とは別個の要件と捉える見解としては,伊藤眞「将来給付」判例時報
頁,伊藤=山本和彦編『ジュリスト増刊民事訴訟法の争点』
(有斐閣,
上田徹一郎『民事訴訟法』
(第 版,法学書院,
)
号(
) ,
頁(秋山幹夫執筆部分)
,
頁,訴えの利益の一部と捉える見解としては,
高橋宏志『重点講義民事訴訟法 上』
(第 版補訂版,有斐閣,
(
)
)
)
頁,三ケ月章『民事訴訟法』
将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有し
ないものとされた事例(春日川)
(第 版,弘文堂,
) 頁がある。なお,日渡紀夫・本件判評・ジュリスト臨時増刊
号(
)
頁は,将来給付の「許容性(被告の不利益への配慮)
」を考慮すべきかとの問題において,同様の分
類を提示している。
! 一例として,長谷部・前掲注⑴・
頁,兼子=松浦ら編『条解民事訴訟法』(第 版,弘文堂,
)
頁(竹下守夫執筆部分)
,松浦馨「将来の不法行為による損害異賠償請求のための給付の訴えの適否」
(新堂ほか編『判例民事訴訟法の理論 中野貞一郎先生古稀祝賀』有斐閣,
前掲注⑸・
)
頁以下,伊藤・
頁。
" 松浦・前掲注⒀・
頁,新堂=福永編『注釈民事訴訟法⑸』
(有斐閣,
)
頁(上原敏夫執筆
部分)
。
# 前掲注⒁『注釈民事訴訟法⑸』
$ 伊藤・前掲注⑸・
(
)
頁(上原敏夫執筆部分)
。
頁以下,野村・前掲注⑷・
頁,三木浩 一・本 件 判 評・法 学 研 究
巻
号
頁。
% 井上・前掲注⑹・
頁,片野・前掲注⑹・
頁,小林・前掲注⑹・
頁,坂口・前掲注⑹・
頁,なお最高裁の結論を批判しないものとして,菊池維大=村松俊夫著『全訂民事訴訟法Ⅱ』
(第 版,
日本評論社,
)
頁。
& 一例として,東京地判平成 年 月
号
日判時
号
頁,東京地判平成
年 月
日判タ
頁。
' 井上・前掲注⑹・
頁。
( 坂口・前掲注⑹・
頁。
) 内田貴『民法Ⅲ 債権総論・担保物権』
(第 版,東京大学出版会,
)
頁。
* 本来の請求に併合されている代償請求について同様の点を指摘するものとして,高橋・前掲注⑿・
,
,
頁。
+ この点につき,特別の定めがない場合には,労働者は労務を提供して初めて賃金を請求できるのが労
働法の原則である,朝倉むつ子・島田陽一・盛誠吾著『労働法』
(第 版,有斐閣,
, 角森正雄「ドイツ民事訴訟法
介」富山大学紀要富大経済論集
−
)
頁。
条における将来の給付の訴えについて Roth 判事の所説の紹
巻 号(
)
,
頁。
- Rauscher, Wax, Wenzel/Becker-Eberhard, Münchener Kommentar zum Zivilprozessordnung,( . Auflage)
,
C. H. Beck,
. BGH, Urt. v.
, §
. .
Rn. .
=MDR
=NVwZ
,
/ MünchKomm/ Becker-Eberhard(oben Fn.
条の対象になるのか,それとも ZPO
)§
,
.
Rn. は ZPO
条の対象になるとする。なお,ZPO
条の対象になるのかにつき,学説は未だに見解の一致を見
ない状況であり,ドイツ連邦通常最高裁判所もその見解を明らかにしてはいない。
〔付記〕
本判決の先行研究として,日渡紀夫・ジュリスト臨時増刊
下,宮川聡・甲南法務研究
号(
)
)
)
巻
号(
)
号
号(
)
頁以
頁以下,酒井博
頁以下,三木浩一・法学研究
頁以下,上田竹志・法学教室別冊付録
(
)
頁以下,堀野出・新・判例解説 Watch
頁以下,今津綾子・民商法雑誌
行・北海学園大学法学研究
号(
号(
号(
)
号(
巻
) 頁,名津井吉裕・
香川法学
私法判例リマークス
号
下(
巻 ・ 号(
)
)
頁以下を参照した。
本研究は,JSPS 科研費(課題番号
)の助成を受けたものである。
〔謝辞〕
本判決の下級審判決の資料の入手については,前川弘美弁護士のご協力を得た。また
本稿は,中央大学民事法研究会(
年
月
日)において発表の機会をいただき,
諸先生方から貴重なご教示とご意見を賜った。お力添えいただいた皆様にこの場を借り
て深く御礼申し上げたい。
(かすがかわ・みちこ
(
)
法学部講師)