エッセイ・紀行文 南のサカナ 北のニク―― 南魚北肉 私論 【サマリー】 ばい ろん 重 森 貝 崙 「南船北馬」という言葉がある。広い中国における南と北の地理環境と、そ れに適した交通・運輸手段を表現した言葉で、まことに簡にして要を得た名文句、 「南魚北肉」は云うまでもなく、そのモジリである。 そ う きぎ ょと う 2014 年 6 月、養蚕と養魚を同時並行的に行う自然循環農法である「桑基魚塘」 の撮影のため、広東省広州・順徳に滞在した。朝の腹ごしらえは、ホテル近くの お粥屋での定番、 「草魚の切り身入りのお粥」であった。昼も「魚の煎り煮」を 食べ、夜は「魚の姿蒸し」を食していたのを思い出す。 7 月末から 8 月の上旬にかけて、日本の短編映像の仲間と内モンゴル自治区の 北東部を旅した。この地方は、車で何時間走っても見渡す限り大草原であった。 この大草原で視認できる生きものは羊の群れだけといっていい。そして、滞在 中の食事は、圧倒的に<羊肉攻め>であった。すなわち「南魚北肉」を実体験 したのである。この稿は、具体的な海水・淡水魚の料理とその印象、極めて美味 な羊肉のしゃぶしゃぶ、そして仔羊の姿焼きなどともに、 「司馬遷・史記」に記 された魚や羊肉の歴史的叙述を紹介する。
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