BL40XU 高フラックス - SPring-8

大型放射光施設の現状と高度化
BL40XU
高フラックス
本ビームラインはヘリカルアンジュレータを光源とし、
一般に繊維回折では小角散乱を X 線イメージインテンシ
分光器を使用せずに 2 枚の全反射ミラーでビームを集光す
ファイアで記録することが多いが、フラットパネル検出器
ることにより、擬似単色の高輝度 X 線ビームを使用できる
を使用することにより、広角反射を同時に測定することも
ビームラインである。このビーム特性を活かして、回折、
可能となっている。これにより、ミクロフィブリル構造と、
散乱、XAFS、イメージングなど、多様な利用実験が行わ
それを構成する高分子繊維の配列等の関係を検討すること
れている。本ビームラインには共同利用実験に供されてい
ができる。
る実験ハッチ 1 と、CREST 研究プロジェクトにより建設
された実験ハッチ 2 がある。
このシステムは毛髪や歯エナメル質で既に使用実績があ
り、データベース構築を必要とするような系統的な材料評
価に応用が期待される。
1.実験ハッチ 1
実験ハッチ 1 では、2012 年度に引き続き非結晶試料の
時分割 X 線回折、XPCS(X‐ray Photon Correlation
Spectroscopy)、1 分子計測、マイクロビーム回折実験等
が行われている。今回はマイクロビームを用いて単繊維の
X 線回折実験を行う際に有用な繊維試料自動測定装置の開
発を行ったので解説する。
本ビームラインでは 5 ミクロン程度の準単色マイクロビ
ームを容易に使用できるため、単繊維 X 線回折実験が可能
である。繊維回折実験においては、製法や材質の異なる多
くの試料を測定する必要が生じる場合がある。そのような
実験に備えて、多数の繊維を自動測定するシステムを開発
図 1 繊維測定用ホルダー(試料間距離 = 5 mm)
した。本開発にはインハウス課題 2012A1841 のビームタ
また、本ビームラインでは仏 Xenocs 社製スキャッタレ
イムを使用した。
試料の繊維は専用ホルダーにあらかじめ粘着テープなど
ススリットが導入されており、これにより特に小角散乱実
で垂直に貼り付けておく(図 1)。実験時にはホルダーを
験を行う際に問題となるスリットエッジからの寄生散乱を
ビームライン実験装置の X‐Z 自動ステージに載せ、顕微鏡
大幅に抑えることが可能になった。特にピンホールを用い
で測定場所を確認する。これは繊維試料の多くが湾曲して
たマイクロビーム回折実験ではピンホールの加工精度に依
おり、目視による位置の確認が必要なためである。各繊維
存してピンホール内壁から生じる寄生散乱を完全に取り除
の両側の座標を測り、それをプログラムに読み込むことで、
くのが困難だが、図 2 に示すとおり、ピンホールとスキャッ
測定する繊維の場所を指定する。縦方向の場所を変えて指
タレススリットを組み合わせることにより、マイクロビー
定することによって、一本の繊維について、繊維軸方向に
ム回折実験でも小角領域の寄生散乱を大幅に減らすことが
複数の箇所で測定を行うことも可能である。繊維横断方向
可能である。
の測定間隔をあらかじめ与えておき、
測定開始後は計測ソフトウェアが各繊
維を水平方向に与えた距離ずつ動か
し、各点で回折像を自動的に記録する。
現在使用可能なホルダーでは、最高
13 本までを装着できるが、専用のホ
ルダーを作るか、または繊維を貼り付
ける間隔を狭くすることで、数 10 本
の繊維を一度に自動測定することも可
能である。
図 2 記録された散乱。(a)ピンホール 2 枚のみ、(b)ピンホール 2 枚 + スキャッタレス
スリット、(c)b の光学系を使用して記録されたコラゲンの回折像。コラゲンの
1 次反射(65.3 nm)がビームストップより遥かに離れた位置に記録されている。
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大型放射光施設の現状と高度化
2.実験ハッチ 2
実験ハッチ 2 では、これまで行われてきた集光 X 線を利
用した時間分解測定や微小単結晶構造解析の他に、次世代
エンジンの燃料噴射ノズルの開発のため、燃料噴射時の噴
霧形成過程を X 線吸収コントラストによって観察する実験
が行われた。
燃料噴射は圧力をかけた状態で一気に燃料を噴射する
ため、噴射スピードは非常に速く、また、噴霧パターン
図 3 シングルショット制御システムの概要図
は毎回微妙に異なるため、ポンプ-プローブ測定のよう
に繰り返し計測を行うことは不可能である。したがって、
毎回 1 度きりの噴霧形状をシングルバンチの X 線 1 発だ
けで取得しなければならない。検出器側には十分な時間
分解能がないため、任意のタイミングで X 線パルス 1 発
だけを取り出すことができるシングルショット制御シス
テムを開発した。
図 3 にシングルショット制御システムの概要を示す。実
験ハッチ 2 にはピコ秒分解能で時間分解測定を行うための
X 線パルスセレクター(X‐ray Pulse selector : XPS)が
設置してあり、蓄積リングの RF 信号と同期して 100 〜
1000 Hz 程度の X 線パルスを利用できる。この XPS を実
験ハッチ 1 に移動し、さらに高速シャッターとこれらの制
御回路などを追加してシングルショットを取り出すことに
した。測定開始のトリガー信号が制御回路に入力されると
指定のタイミングで RF 信号と同期した XPS からの信号を
透過させるとともに高速シャッターを制御するための信号
を出力する。XPS からの信号は RF 信号と完全に同期して
いるため、この信号をトリガーとして燃料噴射装置の噴射
タイミングを制御することで燃料噴射後の任意時間経過し
た状態の噴霧形状を測定可能となる。XPS の下流には 2 台
の高速シャッターを設置し、シャッターの開閉タイミング
を制御して X 線 1 パルスだけを通過させる仕組みになって
いる。
制御回路は、複数の入出力信号のタイミングを制御して
図 4 APD によるシングルショットのモニタリング
処理する必要があり、専用装置の組み合わせによる制御で
は回路が煩雑になる。そこで、今回はマイコンボードを使
用してソフトウェア上での処理を行うことにした。利用し
たマイコンボードは 16 MHz 駆動の Arduino UNO(アル
を連動させ、自動で測定位置と時間を変えながら測定する
ドゥイーノ ウノ)であり、非常に安価である上に必要な
プログラムも開発した。一方で、ビームモニタで使用する
環境が無償で提供されている。 専用装置と比較するとジ
CCD カメラの動作に 1 ショットあたり 3 秒程度かかるこ
ッターや動作スピードは若干劣るものの、数ミリ秒間隔の
とが測定時間を律速しているため、より高速動作が可能な
X 線パルスを処理するには十分な性能を持っている。
カメラを使用することにより、測定時間の短縮を図る予定
図 4 は H‐mode(11/29‐filling + 1 bunch)のシングル
である。
バンチからのシングルショットを高速シャッター 2 の下流
に設置した APD で計測したものである。XPS の透過信号
利用研究促進部門
から約 12.5 ms 後のパルスが取り出せており、前後のパ
バイオ・ソフトマテリアルグループ
ルスがないことが確認できる。また、このシステムによる
八木 直人、青山 光輝、岩本 裕之
時間的な噴霧形成過程の他に空間的な燃料拡散過程も観察
ナノテクノロジー利用研究推進グループ
するため、このシステムと燃料噴射装置用の XZ ステージ
安田 伸広
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