9. 光電子分光と放射光 9.1. 序 E E

9. 光電子分光と放射光
9.1. 序
X 線により内殻電子をたたき出された光電子には様々な情報を含んでいる。たとえば、エネ
ルギーには、最初にあった内殻の電子の結合エネルギー情報をもつ。
図 9.1-1
光電子分光の原理図
すなわち、飛び出した光電子の運動エネルギー E k , 内殻電子の結合エネルギー(エネルギ
ー準位) E B
Ek
EB
励起する X 線光子のエネルギー
、仕事関数
とすると、
の関係があるから、飛び出した光電子運動エネルギー E k を測定すれば、
もともとの結合エネルギーを算出できる。
通常は、下の図のような半球型エネルギー分析器がエネルギーアナライザーとして用いら
れる。半球型エネルギーアナライザーでは、内側と外側にそれぞれ+とーの電位を与える。
すると、電子は、運動エネルギーに従って曲げられることになるが、適当なエネルギーを
もっていないと反対側に到達することができないので、運動エネルギーの分析を行うこと
ができる。光電子の表記法として C 1s とか Fe 2p3/2 とか言う表記法が用いられる。元素名
を書いた後に、内殻軌道と全角運動量を示す。1s は一つのピークであるが、2p は2つのピ
ークになる。通常 Fe の 2p は閉殻軌道を作る。したがって、1つのピークしかないと考え
ることができる。実際には2本ピークを与えるが、これは、飛び出した電子のスピンと軌
道角運動量の相互作用の違いにより説明される。すなわち、飛び出した後残された1個電
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子のスピン(ホールのスピンと言ってもよいかもしれない)と軌道角運動量が平行と反平行
になる可能性があり、3/2と1/2のエネルギー準位に分裂する。
問 9.1-1
3d 軌道や4f 軌道の電子の場合には、どうなるか考えてみよう。
図 9.1-2
半球型エネルギーアナライザー
また、半球型電子分析器の前に電子レンズをおき、マイクロ領域からの光電子を分光する
マイクロ XPS 法もある。
図 9.1-3
Ni アイランドのマイクロ XPS イメージング
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図 9.1-4
マイクロ XPS による NO の還元反応の追跡例
9.1.1. 化学シフト
飛び出した電子の運動エネルギーは、化学状態によっても数 eV の変化がある。
図 9.1-5
エチルフルオロアセテートの化学シフト
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上図では、エチルフルオロアセテート C4F3H5O2 の C 1s 光電子ピークである。4つ現れる
が、それぞれ異なる炭素に帰属することができる.
一般に飛び出した原子の原子価が正に帯電しているほど結合エネルギー E B は大きい方に
シフトする。 ただし、例外も多少ある。
図 9.1-6
Ag(DCNQI)2 の光電子分光
上図は Ag(DCNQI)2の一部(図の B-C の間の部分)に光を照射し、Ag 金属を析出したも
ののマイクロ XPS である。Ag(DCNQI)2 の Ag の価数は+である。Ag 金属、Ag(DCNQI)2
それぞれの Ag の 3d5/2 の結合エネルギーは 368.2 eV,367.8 eV と Ag+の方が高い結合エネル
ギーをもつ。これは、Ag 金属がイオン化されたあとに残されるホールの緩和が違うためと
考えられる。とはいうものの、例外中の例外である。
9.1.2. 表面敏感性
電子は物質との相互作用が大きいので、物質内部から飛び出すことができない。
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平均自由行程 /原子
1000
100
10
数個程度
1
0.1
1
10
100
1000
Energy /eV
図 9.1-7
電子の運動エネルギーと電子の平均自由行程
上図は、電子の運動エネルギーと電子のエネルギーを失うことなく飛び出すための平均自
由行程をしめした。10-1000eV の運動エネルギーを持つ電子は、表面から数個程度下の原
子から飛び出したものであり、表面敏感なものになる。さらに、角度をつけて、斜めから
観測すると、表面敏感性が増す。数は LaB6 を法線ベクトルに対して、観測した観測したも
のである。0 度では、La もBもよく観測されるのに、83 度から観測すると La が強く観測
されることから、La が表面に濃縮していることがわかる。
図 9.1-8
LaB6の光電子スペクトル(角度分解)
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