ラオス中部農山村における食料としての野生動植物の利用実態

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H27 農業農村工学会大会講演会講演要旨集
ラオス中部農 山村に おける食料としての 野生動植物の 利用実態
Utilization of wildlife as foodstuffs in rural areas of central Laos
○羽佐田 勝美
∗
スニー ポンドゥアンシィ
∗∗
Katsumi Hasada, Souny Phomdouangsy
1 . はじ め に
ラ オ スの 農 村 で は 、 水 稲 や 陸稲 に よ る 自 給 的 な 農 業が 営 ま れ る 一 方 、 野 生動 植 物 も 活発
に 採 集・ 利 用 さ れ て お り 、 農家 の 生 計 に 寄 与 し て いる 。 工 芸 の 材 料 や 薬 など と し て 販 売さ
れ 、 家計 の 収 入 源 と な っ て いる 野 生 動 植 物 も あ る が、 ほ と ん ど は 自 給 用 の食 料 と し て 利用
さ れ てい る 。 し か し 、 採 集 以外 の 方 法 か ら 入 手 し た食 材 と 比 較 し 、 世 帯 が野 生 動 植 物 の食
材 に どれ ほ ど 依 存 し て い る かを 評 価 し た 報 告 は 少 ない 。 そ こ で 本 研 究 で は、 農 家 の 食 事調
査 を 実施 し 、 利 用 さ れ た 食 材と そ の 入 手 方 法 を 明 らか に し 、 野 生 動 植 物 の食 材 の 依 存 度を
明 ら かに し た 。 ま た 、 主 に 水稲 栽 培 を 実 施 す る 農 家( 以 下 、「 水 田 農 家 」 とす る 。)と 焼 畑
陸 稲 栽培 の み を 実 施 す る 農 家( 以 下 、「 焼 畑 農 家 」 とす る 。)の 間 で の 依 存 度の 違 い と 依 存
す る 野生 動 植 物 の 種 類 の 違 いを 考 察 し た 。
2 . 調査 対 象 地 及 び 調 査 方 法
調 査対 象 地 は 、 ラ オ ス 中 部の ビ エ ン チ ャ ン 県 フ ァン 郡 N 村 で あ る 。 N 村は 低 地 水 田 、川
や た め池 な ど の 水 辺 、 村 近 縁の 丘 陵 地 、 森 林 で 構 成さ れ 、 こ れ ら の 空 間 から 野 生 動 植 物が
採 集 され て い る 。2013 年 現 在、ラ オ 族 47 世 帯 と カ ム 族 86 世帯 の 計 133 世 帯 、人 口 698 人
で 構 成さ れ 、 主 要 な 生 業 は 低地 水 田 に お け る 水 稲 栽培 と 丘 陵 地 や 森 林 に おけ る 焼 畑 陸 稲栽
培 で ある 。低 地 水 田は 約 80ha と 面 積が 限 ら れ て お り、ま た 、移 住政 策 に よる 人 口 増 加 の た
め、昨 今 で は 丘 陵地 や 森 林 にお け る 焼 畑 陸 稲 栽 培 が盛 ん で あ る。焼 畑 地 では 、陸 稲 に加 え 、
換 金 作物 で あ る ハ ト ム ギ 栽 培も こ こ 数 年 で 盛 ん に なっ て き て い る 。 主 食 以外 の 農 作 物 とし
て 、 果菜 、 葉 菜 、 葉 茎 菜 、 香味 野 菜 や 香 辛 野 菜 な どが ホ ー ム ガ ー デ ン で 栽培 さ れ て い る。
畜 産 につ い て は 、 牛 や 豚 を 飼育 す る 世 帯 は 限 ら れ てお り 、 多 く の 世 帯 で は家 禽 ( ニ ワ トリ
と ア ヒル ) の み 飼 育 さ れ て いる 。 そ の 他 に 、 た め 池を 所 有 し て 自 給 用 の 魚の 養 殖 を し てい
る 世 帯も あ る が 数 世 帯 に と どま る 。
水 田農 家 と 焼 畑 農 家 か ら 、そ れ ぞ れ 平 均 的 な 耕 作面 積 を 持 ち 、 か つ 、 平均 的 な 家 族 構成
の 世 帯 を 4 世 帯 ず つ 抽 出 し 、 計 8 世 帯 の 農 家 に 対 し食 事 調 査 を 実 施 し た 。調 査 方 法 は 記帳
と 写 真撮 影 と し 、 記 帳 は 対 象世 帯 が 調 理 し た 料 理 につ い て 、 朝 昼 夕 そ れ ぞれ の 食 事 の 料理
名、利 用 し た 食 材と そ の 入 手 方法 を 、写 真撮 影 は 料 理 と食 材 を 各 世 帯 に 記 録 して も ら っ た 。
記 録 され た デ ー タ を週 1~ 2 回 確 認 し た 。 調査 期 間は 2014 年 9 月 1 日 から 9 月 30 日 の 1
ヶ 月 間( 雨 季 ) と し た 。
3 . 調査 結 果 及 び 考 察
∗
国 際 農 林 水 産 業 研 究 セ ン タ ー ( Japan International Research Center for Agricultural Sciences)
ラ オ ス 国 立 農 林 研 究 所 農 林 業 政 策 研 究 セ ン タ ー ( Agriculture and Forestry Policy Research Centre,
National Agricultural Forestry Research Institute)
キーワード:野生動植物、食材、採集、水田農家、焼畑農家
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調 査期 間 中 、 8 世帯 全 体 で 1404 品 の料 理 、
4051 品 の 食材 の 利 用 が 確 認 され た 。主 食 のコ
メ や 麺、 調 味 料 、 油 脂 、 香 味野 菜 や 香 辛 野 菜
表 1 食 材 別 、農 家 タ イ プ 別 、入 手 方 法 別 食 材 利 用 頻 度
及びその割合
Table.1 Use frequency and its ratio based on foodstuffs,
farm household types and ways of obtaining
農家タイプ
を 除 い た 906 品 の 食 材 う ち 、食 材 の 種 類 と し
水田農家
て 、 魚、 豚 肉 、 鶏 肉 、 ネ ズ ミ、 カ エ ル 、 コ オ
食材
採集 % 購入 % 贈与 % 生産 %
動物性食材 147 62%
植物性食材 120 39%
ロ ギ など の 動 物 性 食 材 と 、 タケ ノ コ 、 ク ワ レ
焼畑農家
70 13% 143 26% 544 100%
46 40%
18 16%
12
19
パ パ イヤ な ど の 植 物 性 食 材 が確 認 さ れ た 。 ま
全食材
80%
食 材 別、 農 家 タ イ プ 別 、 入 手方 法 別 に 食 材
70%
イ プ も同 じ で あ っ た が 、 動 物性 食 材 は 焼 畑 農
家 38% に 比べ 、水 田農 家 62% と 利用 頻 度 の 割
合 が 高か っ た 。
8% 119 48% 247 100%
37 10% 126 35% 362 100%
408 45% 122 13% 107 12% 269 30% 906 100%
水田農家
焼畑農家
50%
40%
30%
20%
10%
0%
哺乳類
魚介類
生 動 植物 へ の 依 存 度 は 相 対 的に 高 か っ た 。 食
み る と、植 物 性 食 材 は 39% と ど ち ら の農 家 タ
6% 115 100%
60%
に 見 ても 、水 田 農 家 49% 、焼 畑 農 家 39% と 野
材 別 の利 用 頻 度 の 割 合 を 農 家タ イ プ 別 に 見 て
5%
58 16%
7
90%
与 、 生産 ( 栽 培 、 飼 育 な ど )が 確 認 さ れ た 。
相 対 的に 高 い 依 存 度 で あ っ た。 農 家 タ イ プ 別
47 15% 131 43% 305 100%
44 38%
97 39%
に よ り入 手 し て お り、他 の 入 手方 法 と 比 較 し、
%
動物性食材
141 39%
し た 8 世 帯 全 体 で は、食 材 全体 の 45% を 採 集
計
5% 239 100%
64 12%
計
の 利 用頻 度 と そ の 割 合 を表 1 に 示 し た 。調 査
2%
12
267 49%
植物性食材
全農家
7
23 10%
計
シ ダ、セ イ ヨ ウ カラ シ ナ、カ ボ チ ャ、ヘ チ マ 、
た 、 食材 の 入 手 方 法 と し て 、採 集 、 購 入 、 贈
57 24%
鳥類
その他
採集
図 1 農家タイプ別、動物性食材種類別、利用頻度割合
Fig.1 Ratio of use frequency of animal foodstuffs based
on kinds by each farm household type
60%
水田農家
50%
焼畑農家
40%
30%
食 材 の種 類 別 利 用 頻 度 の 割 合を 農 家 タ イ プ
20%
別 に 表し た の が 図 1 及 び図 2 で あ る 。動 物 性
10%
食 材 につ い て 、 水 田 農 家 の 採集 の う ち 約 8 割
0%
葉菜・
葉茎菜
が 魚 介類 ( 主 に 、 魚 ) で 占 めら れ て い た 。 一
花菜
果菜
方、焼 畑 農 家 の 採集 の う ち 約 5 割 が 哺 乳 類(主
に、ネ ズ ミ) で 占め ら れ て いた(図 1)。植 物
性 食 材に つ い て は、水 田 農 家、焼 畑 農 家と も 、
キノコ
タケノコ
その他
採集
図 2 農 家 タ イ プ 別 、植 物 性 食 材 種 類 別 、利 用 頻 度 割 合
Fig.2 Ratio of use frequency of vegetable foodstuffs
based on kinds by each farm household type
採 集 の 約 8 割 が 葉 菜 ・ 葉 茎 菜と タ ケ ノ コ で 占 め ら れて い た ( 図 2)。
4 . まと め
利 用さ れ る 食 材 に つ い て 、他 の 入 手 方 法 と 比 較 する と 、 全 体 と し て 採 集さ れ る 動 物 性及
び 植 物性 食 材 へ の 依 存 度 が 相対 的 に 高 か っ た 。 農 家タ イ プ 別 に 見 て も 、 同様 の 傾 向 が 見ら
れ た 。水 田 農 家 は 採 集 さ れ る動 物 性 食 材 と し て 魚 介類 の 割 合 が 高 か っ た 。主 な 生 業 の 場が
水 田 であ る こ と が 、 魚 介 類 をよ く 採 集 す る こ と と 関係 し て い る と 考 え ら れる 。 焼 畑 農 家は
採 集 され る 動 物 性 食 材 と し て哺 乳 類 の 割 合 が 高 か った 。 主 な 生 業 の 場 が 焼畑 地 で あ る こと
が 、 哺乳 類 を よ く 採 集 す る こと と 関 係 し て い る と 考え ら れ る 。 一 方 、 採 集さ れ る 植 物 性食
材 に つい て は 、 ど ち ら の タ イプ の 農 家 も 葉 菜 ・ 葉 茎菜 と タ ケ ノ コ の 割 合 が高 か っ た 。 この
こ と から 、 採 集 さ れ る 動 物 性食 材 の 種 類 は 農 家 の 生業 の 場 と 関 係 が 深 く 、一 方 、 採 集 され
る 植 物性 食 材 の 種 類 は 農 家 の生 業 の 場 と あ ま り 関 係が な い と 考 え ら れ る 。
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