大学コンソーシアム富山 平成26年度 自治体等名 富山県 地域課題解決事業 地域課題提案書 提案部局 地域課題名 富山県の少子化問題を考える 地域課題の 背景 <現状> 経営管理部 文書学術課 本県において、出生順位別にみた母親の平均年齢が年々高くなっており、 第1子の総数に占める35歳以上での出産数も増加傾向にあるなど、女性の 出産の高年齢化が進行している。 <課題> 近年、晩婚化・晩産化を背景として、不妊に悩む方が増加傾向であるとと もに、高年齢出産による婦人科系疾患や胎児異常の発生など、母子へのリス クが懸念されている。妊娠・出産については、若い世代から女性の健康や妊 娠・出産、子育て等と就業のライフバランスを保っていくことが大切である。 課題の概要 「富山県の少子化問題への対応を考える(仮題)」のテーマで、各高等教育 機関の学生がゼミ単位などで取組み、学生自らが主体的に少子化問題につい て調査・分析等を実施し、必要な対策を提案する。また、調査結果について は、県の政策立案に活用するとともに、各大学で成果発表会を実施し、他の 学生への啓発を行う。(3提案まで採択) 〈採択の条件〉 ①大学生が主体的に取組み、県政に反映することのできる調査内容である こと ②調査・検証の手法が具体的で実現可能性が高いこと 事業実施に 当たっての 協働体制 【自治体等の役割】 学生が情報収集など現地活動を行う際に、市町村等と連携しながら、必要 に応じ連絡調整を行う。調査研究に必要な経費の負担、成果発表会の場への 出席を呼びかけのほか、必要に応じて調整等を行う。 【高等教育機関の役割】 学生の目線で少子化問題について調査・分析等を実施し、少子化問題に対 して必要な対策 を提案する。調査結果について、各大学で成果発表会を行う。 成果の活用 方法 学生が実際に少子化をめぐる現状を知り、打開策を模索するなかで、問題 意識を醸成し、学生自身のライフデザインへの意識付けとする。また、結果 報告書は、各大学で成果発表を実施し、他の学生への啓発効果を狙う。 1 地域課題解決事業 実施報告書 非婚化・晩婚化傾向にある若者に家庭生活や子育ての意義理解をすすめる (富山県) 富山大学 人間発達科学部 人間環境システム学科 環境社会デザインコース 教授 神川康子 腰本理沙(4年) 1.課題解決策の要約 現代の若者にとっては、家庭や子どもを持 つことの喜びよりも不安の方が大きいように思 われる。若者が積極的に家庭を築き、子育て をしていていくためには、それらの意義や喜び を実感し、夫婦・親子関係を良好に構築して いくためのコミュニケーション能力や課題解決 能力を身に付ける必要があると考える。そこで、 富山県の夫婦または子どもを持つ 30 代以上 の男女 600 人以上を対象に調査を実施した。 について、家族との会話時間、家計管理者、 家計評価、介護経験、ワークライフバランス (理想と現実) ③配偶者との関わりについて (配偶者との)外出頻度、外出目的、夫婦関 係自己評価、喧嘩頻度、相談頻度、共通の 趣味の有無、記念日や誕生日を祝うか、配 偶者によく掛ける言葉・掛けられる言葉 ④睡眠について 就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、配偶者へ の睡眠不満、配偶者との就寝・起床時刻ズ レ、同寝室者 ⑤子どもについて 子どものリビング滞在時間、子どもの帰宅時 刻、子どもとの会話時間・会話内容、子ども と関わる時間、育児休暇取得経験、子ども の家での仕事内容 2.調査研究の目的 まず、調査結果の分析を通して、家庭生活 の現状や家庭や家族に期待することを明らか にする。次に、よりよい家庭を築くための提案 をし、家庭の機能の回復や家族員の生活の質 向上を図る。最終的には、若者に家庭生活の 意義理解をすすめ、自信を持って家庭や家族 の生活を営もうとする若者が増えることを目的 とする。 4.調査研究の成果 以下に調査結果の一部を述べる。有効票数 は 672 であったが、未記入の項目や不明回答 等があるため、項目によって回答数(n)が異な っている。 (1) 夫婦関係を高く評価する人の特徴 夫婦関係評価が高い人には「夫婦で出掛け ることが多い(図1)」「家族とよく会話する(図 2)」「配偶者によく相談する(図3)」「夫婦共通 の趣味がある(図4)」「記念日や配偶者の誕生 日を祝う(図5)」「配偶者によく掛ける言葉が多 い」「配偶者によく掛けられる言葉が多い」「配 偶者に対する睡眠不満がない(図6)」「配偶者 と同寝室である(図7)」「配偶者との就寝・起床 時刻のズレが小さい(図8,図9)」「理想のワー 3.調査研究の内容 調査期間は平成 25 年 10 月~11 月と平成 26 年 7 月である。調査票は回収後、結果を 統計解析ソフト SPSS(Ver.21)に入力し、単 純集計及びクロス集計を行った。調査内容 は以下の通りである。 ① 基本的属性について 性別、年代、配偶者との年齢差、家族形態、 自身の職業、配偶者の職業、結婚期間、子 どもの数、一番上の子の学年 ②家庭生活について 自身の帰宅時刻、配偶者の帰宅時刻、家事 2 クライフバランスは『家庭中心』である(図10)」 「ワークライフバランスがとれている(図11)」 「子どもとよく会話する(図12)」「子どもと『友人』 や『習い事』、『家族』について話すことが多い」 という傾向が見られた。 (2)夫婦関係を低く評価する人の特徴 夫婦関係評価が低い人には、「配偶者と外 出しない(図1)」「家族との会話時間が短い (図2)」「配偶者と頻繁に喧嘩をする、または 全く喧嘩をしない(図14)」「配偶者によく掛け る言葉が少ない」「配偶者に対して何らかの睡 眠不満がある(図6)」「配偶者との就寝・起床 時刻ズレが大きい(図8,9)」「ワークライフバラ ンスがとれていない(図11)」「1人で寝ている (図7)」という傾向が見られた。夫婦関係を高く 評価する人とは反対の特徴が見られた。 20% 外出頻度 ほぼ毎日出掛ける(79) ときどき出掛ける(336) 40% 36.7% 17.0% 38.7% 42.9% * 図6 ** 40% 60% 100% 40% 60% 非常に良い(54) 良い(102) ふつう(141) 20% 40% 夫婦関係評価 0% 20% 60% 80% 2.2% 6.4% 4.0% 当てはまらない(472) 17.6% 良い(197) 34.3% ふつう(290) 44.1% 3.2%0.8% 悪い(24) 20% 40% 60% 42.6% 非常に悪い(10) 80% 38.3% 27.5% 100% 17.0% 2.1% 35.3% 15.6% 37.3% 35.8% 45.8% 2.2% 0.6% ~2時間(225) 9.8% 28.0% 55.6% 4.9% 1.8% ~3時間(56) 7.1% 33.9% 51.8% 7.1% 3時間以上(48) 10.4% 25.0% 良い(194) 47.9% ふつう(286) 20% 10.4% 6.3% 悪い(24) 40% 19.7% 非常に悪い(9) 15.8% 32.3% ~1時間(222) 13.5% 34.2% ~2時間(136) 16.9% ~3時間(19) 15.8% 60% 80% 33.8% 30分未満(133) 100% 100% 1.4% 45.1% 48.1% 3.8% 4.5%0.9% 46.8% 28.7% 47.8% 26.3% 5.1%1.5% 47.4% 34.5% 良い(197) 0% 非常に良い(94) 10.5% 44.8% ふつう(287) 20% 13.8% 悪い(24) 40% 非常に悪い(9) 良い(194) 80% 100% 53.2% 60.3% 3.2% 36.1% 67.4% 悪い(24) 非常に悪い(10) 60% 43.6% ふつう(298) 2.6% 1.0% 5.4% 1.0% 26.2% 75.0% 25.0% 40.0% 30.0% 家庭と仕事を両立する(381) 仕事を中心にしたい(27) 100% 30.0% 家庭を中心にしたい(207) その他(5) 図10 理想のワークライフバランス と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=620) 0% 100% 44.7% 55.3% 75.3% 79.2% 91.7% ある(226) 80% 100% 42.0% 図9 配偶者との起床時刻ズレ と 夫婦関係評価 (p=0.002,n=610) 44.7% 55.3% 75.3% 79.2% 91.7% ある(226) ない(418) 40% 60% 6.3% 4.2% 3時間以上(29) 6.9% 図4 共通の趣味の有無 と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=644) 非常に良い(94) 55.3% 良い(206) 44.7% ふつう(308) 24.7% 悪い(24) 20.8% 非常に悪い(12) 8.3% 40% 35.2% 54.8% 0% 非常に悪い(3) 80% 20% 20.6% 57.7% なし(71) 42.5% 18.4% 53.0% 1.5% 56.9% 8.3% 1.4% 10.5% 10.5% 60% 夫婦関係評価 当てはまる(142) 7.0% 24.6% ~1時間(179) 現在のワークライフ バランス 夫婦関係評価 0% 悪い(24) 図8 配偶者との就寝時刻ズレ と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=606) 図3 配偶者への相談頻度 と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=310) 非常に良い(94) 55.3% 良い(206) 44.7% ふつう(308) 24.7% 悪い(24) 20.8% 非常に悪い(12) 8.3% 非常に悪い(10) ふつう(300) 当てはまらない(250) 7.2% 27.6% 非常に良い(93) 悪い(10) 良い(95) 当てはまる(364) 100% 80% 47.3% 3.1%1.5% 30分未満(51) 非常に悪い(12) 夫婦関係評価 相談頻度 20% 8.9%2.5% 54.4% 当てはまらない(543) 15.8% 32.2% 配偶者への睡眠不満 と (n=622) 非常に良い(93) 図2 家族会話時間 と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=639) 0% 5.2%2.3% 44.5% 3.3%1.3% 当てはまる(79) 8.9%25.3% 0% 2時間以上(94) 26.6% 34.0% 37.2% 1.1% 1.1% 2.5% 1.2% ~2時間(81) 18.5% 37.0% 40.7% ~1時間30分(95) 17.9% 35.8% 44.2% 2.1% ~1時間(95) 13.7% 32.5% 47.6% 4.7% 1.4% 30分未満(142) 5.6% 23.9% 63.4% 7.0% ほとんどなし(15) 6.7% 13.3% 40.0% 6.7% 33.3% 非常に良い(95) 良い(201) ふつう(307) 悪い(24) 非常に悪い(12) いつもする(87) 39.1% たまにする(132) 13.6% 31.8% あまりしない(72) 2.8% 30.6% しない(19) 5.3% 73.7% 当てはまらない(449) 16.7% 34.1% なし(47) 1.5% 80% 57.8% 図7 同寝室者 と 夫婦関係評価 (n=614) 起床時刻ズレ 会話時間 20% 53.8% 6.5%2.3% 当てはまる(173) 10.4%24.3% 非常に良い(93) 図1 配偶者との外出頻度 夫婦関係評価 (p=0.000,n=647) 0% 配偶者 p=0.000 1人 ** 100% 44.2%1.9%1.1% 当てはまらない(262) 11.1%26.3% 0% p=0.000 50% 当てはまる(360) 17.8% 35.0% 非常に良い(93) 7.5% 14.9% 悪い(24) 睡眠時間 帯 いびき 不満なし ** p=0.035 8.5% 1.2% 59.7% ふつう(309) p=0.009 22.8% 64.8% 全く出掛けない(67) 9.0% 9.0% 良い(206) 80% 40.5% あまり出掛けない(165) 2.4% 23.0% 非常に良い(96) 60% ** 就寝時刻ズレ 0% 0% p=0.000 20% とても良くとれている(35) 40% 48.6% とれている(332) 14.5% 33.7% あまりとれていない(205) 11.7% 31.7% 全くとれていない(40) 7.5% 25.0% 非常に良い(92) 良い(194) ふつう(292) 60% 20.0% 50.2% 52.5% 悪い(24) ない(418) 3 100% 28.6% 2.9% 47.6% 図11 現在のワークライフバランス と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=612) 図5 共通の趣味の有無 と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=644) 80% 3.0% 1.2% 3.9% 2.4% 12.5% 2.5% 非常に悪い(10) 0% 子どもとの会話時間 2時間以上(68) 20% ~2時間(55) 7.3% ~1時間30分(87) 29.1% ほとんどなし(27) 49.1% 37.0% 1.1% 1.1% 識・行動の違いや生活時間のズレが存在す 3.8%1.4% 55.3% ふつう(289) 本調査では、性差や年代差によって意 7.3% 7.3% 45.0% 25.2% 5.調査研究に基づく提言 100% 2.9%1.5% 43.7% 37.0% 良い(194) 80% 39.7% 31.0% ~1時間(211) 12.8% 15.1% 60% 33.8% 23.0% 30分未満(159) 非常に良い(90) 40% 22.1% ること、夫婦関係に影響を及ぼす要因の中 3.8%0.6% 51.9% 3.7% 7.4% 悪い(22) 非常に悪い(12) 心に位置するものが「家庭でのコミュニケ 図12 子どもとの会話時間 と 夫婦関係評価 (p=0.007,n=607) p=0.011 * p=0.022 * p=0.046 * 家族 習い事 友人 0% 非常に良い(89) 50% 当てはまる(215) 21.4% 31.2% 当てはまらない(388) 11.1% 32.5% 当てはまる(78) 25.6% 25.6% 当てはまらない(525) 13.1% 33.0% 当てはまる(78) 24.4% 32.1% ーション」であることが明らかとなった。 (1)家庭内でのコミュニケーションを大 43.6% 1.3%3.8% 48.4% 3.8%1.7% 切にする 38.5% 5.1% 49.1% 3.2%2.3% 良い(193) 非常に悪い(12) 悪い(21) 生活の質向上を図るための提案をする。 43.7% 2.3%1.4% 50.0% 4.1%2.3% 当てはまらない(525) 13.3% 32.0% ふつう(288) この結果を元に家庭機能の回復・家族員の 100% ■家族と1日1時間以上会話する ■悩み事は配偶者に相談してみる 図13 子どもとの会話内容 と 夫婦関係評価 (n=603) 喧嘩の頻度 0% 全くない(94) 年に数回(229) 月1回程度(111) 月2,3回程度(103) 週1回程度(42) 2,3日に1回程度(38) ほぼ毎日(25) 非常に良い(96) 50% ■夫婦共通の趣味を持つ ■夫婦の記念日や家族の誕生日を祝う 100% 40.4% 23.4% 26.6% 3.2% 6.4% 0.9% 14.0% 42.4% 42.8% 2.7% 11.7% 35.1% 50.5% 4.9% 24.3% 63.1% 5.8% 1.9% 4.8% 26.2% 64.3% 4.8% 7.9% 18.4% 60.5% 10.5% 2.6% 12.0% 16.0% 48.0% 12.0% 12.0% 良い(205) ふつう(306) 悪い(23) ■配偶者と一緒に外出する 仕事や育児が忙しいことを理由に夫婦の ための行事を後回しにしてしまいがちに なるため、ふたりの時間を作って、夫婦関 非常に悪い(12) 係に新鮮な風を吹き込むこと 1) が必要で 図14 配偶者との喧嘩頻度 と 夫婦関係評価 (p=0.000,n=642) ある。 ■配偶者へ親和的な言葉を掛ける (3)夫婦関係への影響が見られなかった項目 夫婦関係評価とのクロス集計の結果、有意 「おはよう」や「いってきます」等の挨拶だ 差が認められなかった項目は、「性別」「年代」 けでなく、「ありがとう」や「お疲れ様」のような 「年齢差」「家族形態」「祖父母同居」「家族人 言葉で感謝や労りの気持ちを表現すること 数」「自身の職業」「配偶者の職業」「結婚期間」 が大切である。しかし、夫婦生活に慣れてく 「配偶者帰宅時刻」「食事作りの頻度」「家事時 ると配偶者に礼を述べるような大切な行動を 間(平日)」「1 年以上の介護経験の有無」「将 省略してしまうマイナス面がある 1) ため、とき 来誰が介護者になるか」「睡眠時間(平日)」 どき自分のコミュニケーション態度を見直す 「就寝時刻(平日)」「起床時刻(平日)」「子ども 機会を設けることが必要である。 の数」「一番上の子の学年」「子どものリビング ■上手に夫婦喧嘩をして、本音や不満を溜 滞在時間(平日・休日)」「子どもの帰宅時刻 め込みすぎないよう心掛ける (休日)」「子どもと関わる時間(平日・休日)」で 本調査では、全く喧嘩をしないことにも問 あった。本調査では、基本的属性に関する項 題があることが分かった。夫婦喧嘩は「スカ 目と子どもに関する項目の多くが、夫婦関係 ッとやってコロッと忘れる」こと、相手のプライ 評価には影響を与えないことが明らかとなっ ドを傷つける喧嘩はしないこと、相手をやり た。 こめる言い方を避け、互いに譲るべきところ 4 は譲ることを大切にし 1)、お互いの意見を尊 長いほど、第 2 子以降の出生割合が高く 重し合う機会を設けることも必要である。 なるというデータがある (2)睡眠環境を見直す 3) ことから、育児 休暇のような長期間の休業を取得しにく ■できる限り夫婦同寝室で就寝する い場合は、消化しきれていない年休を使 ただし、生活時間のズレや配偶者との 用して育児のサポートを行うことが、少子 年齢差が大きく、配偶者への睡眠不満が 化対策にも繋がると考えられる。 自身に与える悪影響が大きい場合は、夫 【参考文献】 婦別寝室で寝ることも大切である。 お母さんの心のモヤモヤが晴れる本(斎藤 茂太)1)、男性はなぜ育児休業を取得しない ■できる限り配偶者との就寝時刻及び起床 のか(武石恵美子) 2) パパの育児休業を応 時刻のズレを小さくする 夫婦の生活リズムを揃えることが困難な 援します!(厚生労働省) 理由がない限り、配偶者との就寝時刻の ズレは「1時間以内」、起床時刻のズレは 6.課題解決策の自己評価 「30 分以内」を心がけると良い。 本調査では、家庭の構成要素となる夫婦の (3)生活のバランスを見直す 関係やライフスタイルの分析を通して課題解 ■家事分担について話し合い、必要であれ 決に努めた。年数の経過や職業、子どもの有 ば男性も家事に参加する 無等の基本的属性に関する項目は夫婦関係 仕事が多忙で困難な場合は「ありがとう」 の良し悪しを決めないことが明らかとなった。こ 「お疲れ様」のような感謝の気持ちを伝え の結果は、若者の結婚に対する不安を和らげ ることが大切である。 る要素となり得るのではないかと考える。しかし、 ■ワークライフバランスを見つめ直す 調査対象者に年代による男女のばらつきがあ しかし、仕事と家庭のバランスを両立さ ったことや、中学生の保護者が多く所属に偏り せたいと考えていても、実際は家計のた があったことを踏まえると、結果の検証にはさら めに仕事中心にならざるを得ない状況に なる調査対象者の拡大が必要である。 あり、現代は調和を図ることが困難な時代 課題は残るが、日々の暮らしに不満や忙し と言える。育児や家事分担を試みること さを感じながらも、本調査を通して家庭生活や が必要であるが、困難な場合は「家族と 家族の良さを改めて認識した人、「家庭を見直 のコミュニケーションを取る」という形で すきっかけとなった」「大切なことに気づけた」と 家庭生活に積極的に参加することが必 いう感想を抱いた人が見られたのは事実であ 要不可欠である。 る。これらのことから、家庭生活を見つめる機 ■年次有給休暇を上手に使う(特に男性) 会を設けることは、より良い家庭を築くための 男性の育児休業者が極めて少ないこと 一助となることが分かった。 は、休業を希望しないからではなく、休業 今後は追加調査を行うと同時に、若者に家 したくても休業できない、休業しにくい、制 庭生活の意義理解をすすめ、積極的に結婚 度が理解されていないという状況があるこ や子育てにチャレンジできるようにしていくこと とが考えられる 2)。夫の家事・育児時間が が課題となる。 5 地域課題解決事業 実施報告書 富山県の少子化問題を考える ( 富 山 県 ) 提案・指導教員 富山県立大学工学部環境工学科 教授 九里 徳泰 (参 加 学 生) 田開寛太郎(修士 2 年)、尾形順成(修士 1 年)、大石直人(4 年) 金桝千寛(4 年)、倉島光毅(4 年)、セミナー参加学生 1. 課題解決策の要約 富山県及び射水市の人口減少対策としては、10~24 歳程度の若年層の流出を食い止め、 若者人口を増やすことを考えることが重要である。しかし、 「具体的に何を行うのか」とい うことが非常に難しい問題となる。 具体例としては、富山県内の大学において、他県から下宿をしてきている学生に住民票 の移動を徹底し、県内就職の徹底を行う、といった内容が考えられる。 2. 調査研究(企画や実施を含む)の目的 本調査では、 「多様な利害関係者(ステークホルダー)からの多角的な意見」 、「高度な調 査と分析による地域課題の具体化」、「地域の人々の想いの具現化」をポイントとして、富 山県の少子化及び人口減問題への対策についての提言を行うため、調査・研究を行った。 3. 調査研究(企画や実施を含む)の内容 1)コーホート分析 先ず、富山県及び射水市の少子化・人口減問題の原因を探るため、コーホート分析を用いる ことで人口動態の傾向についての調査を行った。調査に用いたデータは 2005 年及び 2010 年の 国勢調査の人口データである。 2)各自治体の政策についての検討 コーホート分析と並行し、政府、富山県、射水市の3つの自治体の少子化及び人口減問題に 対しての政策がどのように取られているのかについて、調査及び検討を行った。 3)「富山県の少子化対策を考える」セミナーの実施 平成 27 年 3 月 20 日、富山県立大学にて、「富山県の少子化対策を考える」というテー マで、学生の発表及び参加者同士でのディスカッションを行うことを目的としたセミナー 6 を開催した。参加者は次の通りである。大学教員2名(内1人は発表者) 、大学生7名(内 1人は発表者) 、行政(政策推進課2名、子育て支援課1名、健康推進課1名)。 セミナーの内容を詳述する。先ず、大学生から「富山県及び射水市における少子化・人 口減問題の現状について」と題し、上記のコーホート分析結果及び各自治体の政策につい ての検討結果を報告し、この内容についての質疑応答(ディカッション)を行った。次に、大学教 員から論点の整理が行われ、参加者全員で「少子化及び人口減問題」についての意見の交換 会を行った。 4. 調査研究(企画や実施を含む)の成果 1)コーホート分析 以下に、富山県のコーホート分析の結果を図示する。 4,000 2,000 75~79→80~84 70~74→75~79 65~69→70~74 60~64→65~69 55~59→60~64 50~54→55~59 45~49→50~54 40~44→45~49 35~39→40~44 30~34→35~39 25~29→30~34 20~24→25~29 15~19→20~24 10~14→15~19 -2,000 5 ~ 9→10~14 人 口 増 減 数 0 ~ 4→5 ~ 9 0 -4,000 -6,000 -8,000 -10,000 コーホート年代 図1 コーホート分析 2005~2010(富山県) これと同様の分析を、射水市についても行った。この結果から、富山県及び射水市にお いて、人口の減少原因は次の2つであると考える。 ①コーホート年代「10~14→15~19」「15~19→20~24」における減少 (これは、進学・就職などの要素が流出の原因であると考えられる。 ) 7 ②コーホート年代「65~69→70~74」付近における減少 (これは、加齢・寿命による死亡が現象の原因であると考えられる。 ) ②については死亡者数の統計データと併せて考えたが、 死亡による減少と考えるのが妥 当であると結論出来た。 2)各自治体の政策についての検討 考察内容を以下に詳述する。 人口減少に対する政策として、政府及び県のものは、その焦点が「若年層の人口流出」 に当てられていることにおいて、コーホート分析結果に適合しており、有効に働くのでは ないか、と考えられる。しかし、具体的に何をするのか、という点において調査が不十分 なため、疑問が残った。 射水市のものに対しては、そもそも少子化対策しか取られておらず、コーホート分析結 果とは不適合であった。この点において、問題があると考えられる。 3)「富山県の少子化対策を考える」セミナーの実施 セミナー中のディスカッションにおいて、次のような意見が得られた。 ●この問題全体について ・都会に出たい、という気持ちに対して、地元に残るよう無理強いするのではなく、10 代~ 20 代前半の流出を仕方のないものとし、30 歳前後の流入を増やす、という手段もあるのでは ないか。 ・(地域、年代について)局所的な部分の人口だけを見るのではなく、全体としてのバランス が大切なのでは。 ・今回は数字データと政策の話だけだったが、産業や商業に焦点を当てて問題を考えて いかなければいけないのではないか。 ・この問題は、「若い人の想い」を大切にし、考えていかなければならないと思う。 ・「戻りたい」という思いの人はきっといるはず。だから、その人達の勤め先を確保することが 必要になってくるのではないか。 ・「政策の検討」の部分で「何を行うのかが問題になる」とあったが、実際その通りで、非常 に難しい問題であると思う。 ●若年層の人口流出について ・公共交通機関の不足により、射水市は住みづらい。この点に原因があるのでは。 ・理系の私立大学が県内に無い。このため、県内の国公立大学に合格できなかった場合、 県外に移動せざるを得なくなってしまう。 ・都市部との交流、というのは有効であると思う。東京とは北陸新幹線で繋がったが、大阪 方面の繋がりは薄いのでは。 8 5. 調査研究(企画や実施を含む)に基づく提言 以上の調査結果より、この問題に対する提言を行う。 コーホート分析結果から、富山県及び射水市の人口減少対策としては、10~24 歳程度の 若年層の流出を食い止め、若者人口を増やすことを考えるのが重要である、と提言する。 しかし、政策の検討でも述べた通り、「何を行うのか」が非常に難しい問題である。また、 セミナーで得られた意見の通り、 「若者の流出を仕方のないものとし、30代での U ターン (及び I ターン)を増やす」という別の手段も考えることが出来る。 具体的内容の1例としては、富山県内の大学において、他県から下宿をしている学生に 住民票の移動を徹底し、県内就職の徹底を行う、といった内容が考えられる。これにより 「若者の人口」という数字は増え、県内就職も成功した場合、総人口の増加にも繋げるこ とが出来る。 6. 課題解決策の自己評価 本調査研究においては、実データを用いた分析により人口減少の原因を明らかとし、各 自治体の政策を併せて検討することで、対策が調査結果に適合したものなのかどうかを合 理的に判断した。これは評価できる点であると考えられる。 しかし、ディカッションで得た意見にあったように、本調査研究及びその提言では数字 データと政策の話のみに留まり、産業や商業に焦点を当てて問題を考えていない。人口問題は単 なる数字の問題ではなく、社会的かつ様々な側面や要素を複合させて考えていくべき問題である。 この点が、本研究テーマの今後の課題である。 9 事 業 評 価 報 告 書 1.地域課題名 富山県の少子化問題を考える 2.自治体名及び評価部局名 富山県 観光・地域振興局 地方創生推進室 3.課題の概要 近年、晩婚化・晩産化を背景として、不妊に悩む方が増加傾向であるとともに、高 年齢出産による婦人科系疾患や胎児異常の発生など、母子へのリスクが懸念されてい る。妊娠・出産については、若い世代から女性の健康や妊娠・出産、子育て等と就業 のライフバランスを保っていくことが大切である。 4.解決策の提言に対する評価 家庭生活や子育てについての若者の理解を進め、結婚に対する不安を和らげること により、晩婚化を防ごうという視点はよいと思う。行政に対する具体的な施策の提案 があればもっとよかったのではないか。 また、若者人口を増やすため、県外出身の学生の県内就職の徹底を図ればよいとい う提案があったが、行政に何を求めるのか具体的な提案がほしい。 10
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