海水浴場における迷子防止を目的としたシステム構築

日本大学理工学部海洋建築工学科
海水浴場における迷子防止を目的としたシステム構築に関する研究
茨城県大洗サンビーチを対象として
指導:教授
近藤 健雄
副手
山本 和清
1130
研究背景
1.
松丸 雄一
のように3面に貼り、
近年、都市化の進展や生活空間の高密度化にともない、
子どもや保護者にと
自然と親しめる空間やオープンスペースが減少してきて
って砂浜をわかりや
いる。そのような中で、身近な緑や水のある場所を求め
すくするため3つの
る人々の希求行動が顕在化してきており、その中で水辺
エリアに分ける。ま
に対する認識が高まりレクリエーション空間としての海
た、子どもに自分の
浜空間の存在価値が見直されてきている。海洋性レクリ
位置を把握させるこ
エーションにおいて利用客約 2400 万人
ととライフセイバー
1)と最も多いの
が海水浴であり、現在日本全国で約 1400 箇所
2)となっ
写真−1
ている。それにともない、海水浴場において迷子が毎年
問題となっている。迷子防止対策は、オランダのザント
フォールト海岸
※1
や東京ディズニーリゾート
※2
におい
て事例があるものの、海水浴場においては保護者の管理
タワーの様子
に保護された際、場
所を特定するために
各エリアにいる子どもにそれぞれ監視タワーに貼り付け
た色と同じ色の太さ6mm ナイロン製のリボンを巻いて
もらった。
にのみに留まっているのが現状である。以上のことから
アンケートとして、この調査に関しての 10 項目の質
わかるとおり、位置が把握しづらい海水浴場において保
問内容を保護者に5段階評価してもらう。また、迷子の
護者の管理のみでは迷子を防止することに限界があるこ
実態を知るため「毎年、海水浴場で迷子が問題になって
とから、海水浴場独自の迷子防止対策が必要である。
いるのはご存知ですか」、「実際に子どもを迷子にさせて
研究目的
2.
しまったことはありますか」という質問を「はい」「いい
本研究では、海水浴場における子どもの迷子の現状に
え」で回答させた。さらに、「子どもを迷子にさせないよ
着目し、子どもに認知されやすいアニメキャラクターを
うに何か特別、気をつけていることはありますか」とい
利用した迷子防止システム案を構築することを目的とす
う質問内容を自由回答形式で回答してもらった。調査概
る。なお、本研究での子どもの定義を1歳から11歳ま
要を(表−1)に示す。
でとする。
表−1
研究方法
3.
茨城県東茨城郡大洗町にあり全長 1300mの砂浜海岸
をもち、日本有数の人出を誇ることや家族連れが多く子
どもが多いことから、大洗サンビーチを調査対象地とし
た。また、本研究では海水浴場において自らの位置を確
調査日
調査時間
調査対象地
調査対象者
調査方法
有効回答数
調査概要
2004年8月18・19日
9時∼15時
茨城県大洗サンビーチ(イーストビーチ)
1歳から11歳までの子どもの保護者
アンケート方式
55/63(87.3%)
認することで迷子を防止することの有効性を実証するた
めに、キャラクターを使用する前に海水浴場をエリアご
ヒアリング調査結果
大洗町役場でのヒアリング調査により迷子の数、原因、
とに色で分け検証する。
3.1
4.1
行動特性、大洗サンビーチの特徴、現在なされている対
ヒアリング調査
大洗町役場での対象者(町長公室、商工観光課、大洗
策を把握することができた(表−2)。
サーフ・ライフセービング・クラブ)協力のもとヒアリ
ング調査を行い、大洗サンビーチでの迷子の特徴や実態
ヒアリング調査結果
1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年
419人 706人 541人 389人 733人 396人
潮の流れにより流されてしまう・パラソルが多すぎる
迷子の原因
迷子の行動特性 一人歩きをしてしまいある場所に留まることができない
6つの監視タワー+センターでライフセイバーが対応
迷子の対策
潮の流れ:西→東 海の家が海岸線から離れている
サンビーチの特徴
迷子の数
を把握する。
3.2
表−2
実験調査(アンケート)
イーストビーチにある3つの監視タワーにそれぞれ、
緑、赤、青の3色のA0サイズのケント紙を(写真−1)
A Study on the Systems Configuration Aiming Missing-child Prevention of a Beach
To Be Aimed at Ibaraki Oarai Sun Beach
MATSUMARU Yuichi,
KONDO Takeo,
YAMAMOTO Kazukiyo
卒業研究概要集
4.2
実験調査結果及び考察
2004
の展望としては、海水浴場において子どもが認知しやす
10 項目のアンケートの結果を比較してみると、リボン
いアニメキャラクターを把握し、リボンを利用した迷子
に対しての評価が比較的高いのに比べ、紙に対する評価
防止システムとオランダのザントフォールト海岸や東京
が低いことが(図−1)よりわかった。しかし、「この対策
ディズニーリゾートのような対策を取り入れ、迷子対策
に対して」という項目については高い評価を得ることが
の有効性を実証していくことを目標とする。
できた。また、海水浴場での迷子の問題を知っている人
【参考文献】
1)財団法人 社会経済生産性本部「レジャー白書 2003」2003 年
2)畔柳昭雄「海洋性レクリエーション施設」1997 年
3)渡辺恵子「児童心理学」1999 年
【補注】
※1 1994 年オランダ、ザントフォールト海岸では、ディック・ブ
ルーナ氏により 60 本のイラストを使った標識が設置され、迷子の
数が 3 分の 1 に減少した例がある。
※2 東京ディズニーリゾートの駐車場では、ディズニーのキャラ
クターを使い場所を分け利用者にとってわかりやすくなっている。
は 40 人(72.7%)であった。また、実際に迷子にさせてし
まった人は9人(16.3%)と6人に1人は海水浴場で子ど
もを迷子にさせてしまっていることがわかった(表−3)。
また、迷子にした人としてない人の評価の差が明らかと
なった(図−2、3)。自由回答形式では、多数ある回答
の中から 5 つのキーワードを年齢別にまとめることがで
迷子にしてしまった人の評価
きた(表−4)。「目を離さない」、「一緒にいる」という回
紙の見やすさ
答が全体の約 80%となっており、高い値となった。この
紙のある高さ
回答に「手を繋ぐ」を合わせた3つの回答は、保護者主
体の回答であることがわかる。これらの回答で「目を離
さない」、「手を繋ぐ」に関して、ある一定の年齢になる
と一人も見受けることができなかった。子どもが保護者
紙の大きさ
紙のわかりやすさ
紙の色
リボンについて
リボンの太さ
リボンの色
リボンの材質
この対策について
から離れて遊ぶことや、保護者が子どもにまかせるとい
0%
10%
20%
30%
非常に悪い
ったことが要因であると推測できる。一方、「目印」、「約
図−1
束する」という回答は、子どもが主体の回答であること
40%
悪い
50%
60%
どちらでもない
70%
良い
80%
90%
100%
非常に良い
アンケート評価内容
迷子にしてない人の評価
がわかる。また、この2つのキーワードで回答した子ど
もの年齢をみると 3 歳以下では見受けられなかった。こ
紙の見やすさ
の傾向は、年齢が低すぎると物や言葉を記憶することが
紙のある高さ
紙の大きさ
紙のわかりやすさ
難しいということが要因 3)であると推察した。
紙の色
リボンについて
5. まとめ
リボンの太さ
本研究では、大洗サンビーチにおける迷子の状況と保
護者による迷子防止対策の現状を子どもの年齢別に把握
リボンの色
リボンの材質
この対策について
することができた。また、このことから小さな子どもは
0%
10%
保護者の管理が行き届いているが、年齢が進むにつれ保
図−2
護者の管理ではなく、子どもが自らを管理していること
が把握できた。しかし、迷子の人数は必ずしも減少して
紙の見やすさ
して保護者に非常に高い評価を得ることができた。今後
紙のある高さ
40%
悪い
50%
60%
どちらでもない
70%
良い
80%
90%
100%
非常に良い
迷子にしてない人の評価
紙の大きさ
紙のわかりやすさ
アンケート結果
紙の色
迷 子 にして しまった 保 護 者 9人
迷子の問題を知っている
8人(88.9%)
迷子の問題を知らない
1人(11.1%)
迷 子 にして な い保 護 者 46人
迷子の問題を知っている
32人(69.6%)
迷子の問題を知らない
14人(30.4%)
表−4
30%
迷子にしてしまった人の評価
いるとは言えない。今回行った調査では、この実験に対
表−3
20%
非常に悪い
リボンについて
リボンの太さ
リボンの色
リボンの材質
この対策について
0%
10%
20%
30%
非常に悪い
40%
悪い
50%
60%
どちらでもない
70%
良い
80%
90%
100%
非常に良い
図−3 迷子にしてしまった人の評価
5つのキーワードと年齢別データ
キーワード 人数 構成比 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳 8歳 9歳 10歳 11歳
目を離さない 35
46.1%
3
4
7
4
5
4
1
3
4
0
0
一緒にいる 25
32.9%
2
2
4
1
3
3
4
1
2
1
2
手を繋ぐ
2
2.6%
0
0
1
0
1
0
0
0
0
0
0
目印
10
13.1%
0
0
0
1
2
2
1
2
2
0
0
約束する
4
5.3%
0
0
0
1
0
0
0
2
0
0
1