2015/6/29 第一薬科大学 3年生 分子生物学 C 転写調節 (p43) 生命薬学講座 分子生物学分野 担当:荒牧弘範 (H27.6.29) a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 ` 大腸菌をグルコース(ブドウ糖)とラクトース(乳糖)の混 合培地で培養すると、グルコースがまず消費され、大腸 菌はいったん増殖を停止する。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 ` その後、しばらくすると再び増殖するが、ここではじ めてラクトースを消費する。この増殖現象はジオキシ ーと呼んでいる。 β-gal D-Glucose a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 ` a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御(図3・10) (グルコースが存在する場合、ラクトースがない場合) グルコースを消費している間、ラクトースを分解酵素(β—ガラ クトシダーゼ、β-gal)の遺伝子(lacZ)の発現は抑制され、 β-gal × グルコースの欠乏とともにlacZが発現・誘導される。 β-gal β-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)の下流には ガラクトシドパーミアーゼ(lacY)、 ガラクトシドトランスアセチラーゼ遺伝子(lacA),が ある。 β-1,4ガラクシド結合 D-Glucose 1 2015/6/29 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御(図3・10) (グルコースが存在する場合、ラクトースがない場合) a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御(図3・10) (グルコースが存在する場合、ラクトースがない場合) リプレッサーによる転写の抑制が起っている。 lacZ遺伝子が転写され、Lacリプレッサーが作られる。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (グルコースが存在する場合、ラクトースがない場合) a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (グルコースが存在する場合、ラクトースがない場合) リプレッサーはlacZ遺伝子の上流に存在するオペレー ター(21残基からなるパリンドローム配列)に結合してい るため、RNAポリメラーゼによるプロモーターからの転 写が阻害されている。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (グルコースが消費され、ラクトースがある場合) a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (グルコースが消費され、ラクトースがある場合) ` ` ` わずかに発現しているβ-galにより、ラクトースがインデュ ーサー活性のあるアロラクトースに変換される。 このインデューサーはリプレッサーに結合し、リプレッサ ーのオペレーターへの結合は阻害される。 その結果、RNAポリメラーゼによる転写は阻害されなく 低レベルの転写が起こる。 2 2015/6/29 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (グルコースが消費され、ラクトースがある場合) ` ` アロラクトース はラクトースの異性体で、ラクトースのグ ルコースとガラクトースの結合がβ-1,4結合に対して、 β-1,6結合である。ラクトースの異性化によって生じる。 イソプロピルチオガラクトシド (IPTG )なども誘導物質で ある。 ①オペロン説と転写因子(p43) ` ` ` ①オペロン説と転写因子(p43) ① ② ③ 遺伝子は発現単位であ るオペロンで構成されて おり、オペロンは1個ま たは複数の遺伝子から 成る。 オペロンの発現はトラン スに働くリプレッサーに より負の制御を受ける。 リプレッサーはオペロン の特定部位であるオペ レーターに作用する。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` ` このオペロンのプロモーターからの転写は十分でなく、 高発現のためには、さらに転写活性化因子(アクチベー ター)を必要とする。 1960年代初頭ジャコブとモノーは、大腸菌を用いた遺伝 学的解析から、ラクトース代謝系に存在する構造遺伝子 群(β-ガラクトシダーゼ遺伝子、ガラクトシドパーミアーゼ 、ガラクトシドトランスアセチラーゼ遺伝子)と、これらの 発現を制御する塩基配列部分とを合わせたものが1つ の単位であると考え、このような単位をオペロンとよんだ 。 彼らが提唱したオペロン説は、その後の多くの研究者に よる検証をへて、現在のような遺伝子構造の基本的概 念へと導かれた。 このオペロン説では、転写の負の制御は見事に説明さ れた。 ①オペロン説と転写因子(p43) ④ リプレッサーは誘導物 質(インデューサー)に より不活化されオペロン の発現の抑制が解除さ れる。 後に、リプレッサーがタ ンパク質であり、オペレ ーターがDNA上の特異 的配列であることも判明 した。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` 転写活性化因子CRP(cAMP Receptor Protein)は細胞内 小分子cAMP存在下で複合体をつくる。 3 2015/6/29 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` 転写活性化因子CRPは細胞内小分子cAMP存在下で複合 体をつくり、プロモーター上流に存在するCRP-cAMP結合 配列に結合する。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` ` 細胞内cAMP量は培地中 にグルコースが存在する と抑えられているが、グル コース欠乏状態では多く 存在している。 この場合は、CRP-cAMP アクチベーターとRNAポリ メラーゼが相互作用して プロモーターからの転写 は誘導される。 a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` CRP-the catabolite activator protein (CAP) a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` a. 大腸菌ラクトースオペロンの転写制御 (p45) ` ` このオペロン説では、転 写の負の制御は見事に 説明された。 一方、正の制御の発見は 遅れ、ラクトースオペロン などでcAMP receptor protein (CRP)が発見され 、転写の正の制御も広く 認められるようになった。 CRP-cAMP結合配列(パリンドローム構造をもつ約24塩基) 表 3・3 にcAMPの有無、インデューサーの有無によるラ クトースオペロンの転写制御の概要を示す。 ①オペロン説と転写因子 ` このような歴史的背景を基に、転写制御における膨大な 数の転写因子による負や正の調節機構が原核・真核生 物で知られるようになった。 4 2015/6/29 今日の誕生花 アザミ(薊) b. トリプトファンオペロンの転写制御 (p45) ` ` リプレッサーの中には、インデューサーでなくコリプレッ サー(抑制補助因子)に結合するものがある。 例として、大腸菌のトリプトファンオペロンがあげられる( 図3・11)。 ` ` ラクトースオペロンと同様に、リプレッサー・オペレーターの系 による転写調節が行われる。 ただし、ラクトースオペロンの転写調節と異なり、オペロンの 遺伝子発現調節はオペロンを構成する遺伝子による反応で できた最終産物、トリプトファンによる調節。 復 讐 b. トリプトファンオペロンの転写制御 (p45) トリプトファンが存在する場合 b. トリプトファンオペロンの転写制御 (p45) トリプトファンが存在しない場合 5 2015/6/29 ポイント ` ` アラビノースオペロン(正の調節) 遺伝子転写調節には転写因子であるリプレッサーやアク チベーターが関わり、それらの因子の活性は環境の変 化や刺激に応答している 環境変化や刺激に応答するために、遺伝子の転写の制 御にはRNAポリメラーゼに加えて様々な転写因子が加 わることがあり、正や負の転写制御がなされている。 ` ` ` アラビノースオペロンの発現にはaraCというタンパク質が 必要になる。 ただし、araCは条件によってはリプレッサーとしてもアク ティベーターとしても働く。 アラビノースが存在するならaraCはアクティベーターとし て働き、アラビノースが存在しないならリプレッサーとして 働く。 http://kusuri-jouhou.com/creature2/expression.html アラビノースオペロン(正の調節) araCがリプレッサーとして働く ときはaraC二量体がO1 とI1O2に結合し、立体障害によっ てアラビノースオペロンの発 現が抑えられている。 アラビノース存在下ではaraCタ ンパク質二量体にアラビノース が結合する。この複合体はI1O2 ループをほどき、I1,I2 と結合 して転写を活性化させる。 問1 http://kusuri-jouhou.com/creature2/expression.html 問1 問2 6 2015/6/29 問2 問3 問3 ②転写因子の機能ドメイン(p46) ` ` DNA結合ドメイン 転写制御ドメイン ` ` 転写因子 • • 転写因子間で共通にみられる構造で、一定の機能を有 するドメイン構造を有する一連のタンパク質群はファミリ ーと呼ばれることもある。 転写因子のDNA結合ドメインはX線やNMRでの構造解 析がなされている。 – – – – ヘリックス-ターン-ヘリックス Znフィンガー ロイシンジッパー ヘリックス-ループ-ヘリックス コファクターなどと結合するリガンド結合ドメイン 他のタンパク質と相互作用するドメイン a. ヘリックス-ターン-ヘリックス (HTH) 構造 ` ` 大腸菌などの細菌類にみられるリプレッサーやCRPをは じめとする転写のアクチベーターの多くは、2量体として 働き、またこれらが認識するDNA配列はパリンドローム 構造を有した特異的塩基配列である 。 X線解析によってDNA認識に関わるヘリックス-ターンヘリックス(helix-turn-helix; HTH)構造がみつけられた( 図3.12)。 7 2015/6/29 a. ヘリックス-ターン-ヘリックス (HTH) 構造 • 2つのαヘリックスが短いβ ターンで結ばれており、C 末端側のαヘリックスが標 的となるDNAの塩基配列 を認識して、その主溝 (major groove)に入り込み 、N末端のαヘリックスは DNAの主溝の外側に斜 めに交差してC末端のαヘ リックスと相互作用しその 安定化に働いていると考 えられている。 c. 塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス (bHJH) 構造 ` 動物細胞の筋分化制御 因子MyoDや原癌遺伝子 Myc等に共通する構造と して、塩基性ヘリックス-ル ープ-ヘリックス(basic helix-loop-helix; bHLH)モ チーフが見いだされた (図 3.14)。 b. • ` b-Zip構造はエンハンサー結合転写因子C/EBP、哺乳類 の転写因子CREB(cAMP応答性エレメント結合タンパク質 )や癌遺伝子産物Fos, Junなどで同定された。b-Zip構造 は2つのサブドメインから成る(図 3.15)。 動物細胞の核内に存在 するレチノイン酸レセプタ ー転写因子などではタン パク質中の4つのシステ イン残基に1個のZnイオ ンが結合した2つのZnフィ ンガーからなるDNA結合 ドメインがあり (図 3.13)、 1つ目のZnフィンガーが 特異的塩基配列を認識し ていると考えられている。 レチノイン酸とはビタミンA(レチノール)の誘 導体で、生理活性はビタミンAの約50-100倍 であり、ビタミンA類の体内での生理活性の 本体そのものである。レチノイン酸は米国で はしわ・にきびの治療医薬品として、FDAに 認可されており、非常に多くの患者さんに皮 膚の若返り薬として使用されているが、日本 では認可されていない。 c. 塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス (bHJH) 構造 • • • • d. b-Zip (basic-region leucine zipper)構造 Znフィンガー構造 bHLHは、塩基性アミノ酸に 富むα-ヘリックス(H1)とル ープを隔てたαヘリックス (H2)よりなる。 H2は一方の面に疎水性アミ ノ酸をもち、2つのHLH分子 間で相互作用し、2量体を 形成する。 2量体は2つの塩基性領域 でパリンドローム配列 (CANNTG)に結合する。 bHLHのN末端とC末端には 転写活性化ドメインがあると 考えられている。 d. b-Zip (basic-region leucine zipper)構 造 • • 2量体形成に関わるロイシン ジッパーを構成するα-ヘリック ス構造と塩基性アミノ酸に富 むα-ヘリックス構造から成る。 ロイシンジッパー構造はα-ヘリ ックスの片面にロイシンなどの 疎水性アミノ酸が位置して疎 水性相互作用により2量体を 形成する。 DNA結合活性にはロイシンジ ッパー構造のN末端側にある アルギニンやリジン等の塩基 性に富むα-ヘリックス領域が 関与する。このα-ヘリックスは DNAの主溝にはまる込み特 異的DNA配列を認識している 。 8
© Copyright 2024 ExpyDoc