幾何学序論1 K.Ichihara 実数とは 実数の定義 実数の演算 加法について 乗法について 幾何学序論1 逆数 実数の大小関係 練習問題 市原一裕 2015 年 7 月 6 日(月)2 限 1 / 14 実数の定義の準備(コーシー列) 幾何学序論1 K.Ichihara 注意 3.5.1 実数とは 実数の定義 R. デデキントが考えた「有理数の切断」(「デデキントの切 断」ともよばれる(1872))を使う方法もあるが,ここで紹 介するのは,カントールによる方法(おなじく 1872). 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 練習問題 定義 3.5.1【有理数のコーシー列(Cauchy sequence】 各項が有理数である数列 {xn } が以下の条件を満たすとき, 「有理数のコーシー列」または「有理コーシー列」という: ∀ε > 0, ∃N ∈ N s.t. m, n > N ⇒ |xm − xn | < ε 注意 3.5.2 有理数のコーシー列は(Q の中で)収束するとは限らない. 2 / 14 実数の定義の準備(コーシー列の同値関係) 幾何学序論1 K.Ichihara 注意 3.5.3 実数とは 実数の定義 有理数の絶対値は,通常通り,定義する(ここでは省略). 実数の演算 定理 3.5.1【有理コーシー列の同値関係】 実数の大小関係 加法について 乗法について 逆数 練習問題 2つの有理コーシー列 {xn } と {yn } の関係 {xn } ∼ {yn } を 次のように定義すると,これは同値関係になる. ∀ε > 0, ∃N ∈ N s.t. n > N ⇒ |xn − yn | < ε 注意 3.5.4 上の条件は,有理数の数列として {xn − yn } が 0 に収束し ている,とみることができる.つまり, lim (xn − yn ) = 0 n→∞ としても良い. 3 / 14 実数の定義 定義 3.5.2【実数の集合 R】 集合 A := { {xn } | {xn } は有理コーシー列 } と,3.5.1 で 定義した同値関係 ∼ を用いて,実数の集合 R を A/∼ と定 義する.すなわち実数とは,同値関係 ∼ による有理コー シー列の同値類のこと. 幾何学序論1 K.Ichihara 実数とは 実数の定義 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 練習問題 注意 3.5.5 有理数 r に対して,数列 {r, r, r, · · · } とすると,これはコー シー列.これを r ∈ Q と同一視する.これにより,Q ⊂ R とみなす. 注意 3.5.6 以下,有理コーシー列 {an } の表す同値類(つまり,実数) を,[{an }] で表すことにする. (前の記号では,C( ) と書い ていたけど,見にくいので変更) 4 / 14 実数の演算 幾何学序論1 K.Ichihara 定義 3.5.3【実数の四則演算】 2 つの実数 α = [{an }] と β = [{bn }] について, 1. 和 α + β を数列 {cn := an + bn } の定める同値類 [{cn }] と定義する. 2. 差 α − β を数列 {dn := an − bn } の定める同値類 [{dn }] と定義する. 実数とは 実数の定義 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 練習問題 3. 積 αβ を数列 {en := an bn } の定める同値類 [{en }] と定 義する. α 4. β ̸= 0 のとき,商 を次の数列 {fn } の同値類 [{fn }] β と定義する. an (bn ̸= 0) fn := bn a (bn = 0) n 5 / 14 実数の演算の正当性 幾何学序論1 K.Ichihara 定理 3.5.2【四則演算の well-definedness】 実数とは 実数の定義 実数の演算 1. 上の数列 {cn },{dn },{en },{fn } は全て有理コー シー列になる. 2. 有理数のコーシー列 {an },{a′n },{bn }.{b′n } があり, {an } ∼ {a′n } かつ {bn } ∼ {b′n } であるとする.このと き,上のようにして得られる数列 {cn } と {c′n } は同値 (つまり,{cn } ∼ {c′n }). {dn } と {d′n },{en } と {e′n },{fn } と {fn′ } についても 同様. 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 練習問題 注意 3.5.7 有理数を表す数列に対する四則演算は,これまでの有理数 の四則演算と一致する. 6 / 14 実数の加法について 幾何学序論1 K.Ichihara 定理 3.5.3【加法の性質】 実数とは 実数の定義 1. 実数の加法について,結合則と交換則がなりたつ. つまり,任意の実数 α,β ,γ に対して,次が成り立つ. 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 α + (β + γ) = (α + β) + γ , α+β =β+α 練習問題 2. 0 = [{0, 0, 0, · · · }] は加法の単位元である. つまり,任意の実数 α に対して,0 + α = α + 0 = α 定理 3.5.4【加法の逆元】 1. 実数 α に対して 0 − α を,−α と略記すると,−α は 加法において α の逆元である.つまり, α + (−α) = (−α) + α = 0 である. 2. 実数 α と β に対して,α − β = α + (−β) が成り立つ. 7 / 14 実数の乗法について 幾何学序論1 K.Ichihara 定理 3.5.5【乗法の性質】 実数とは 実数の定義 実数の演算 ▶ 任意の実数 α, β, γ ∈ R に対して,次が成り立つ. 1. αβ = βα 2. α(βγ) = (αβ)γ 3. α(β + γ) = αβ + αγ ▶ 実数 1 は正の実数における乗法の単位元である. つまり,任意の α ∈ R に対して,α × 1 = 1 × α = α が成り立つ. ▶ 任意の実数 α と実数 0 に対して,α × 0 = 0 × α = 0 が成り立つ. 任意の実数 α に対して,以下が成立. ▶ 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 練習問題 1. −α = (−1) × α 2. −(−α) = α 8 / 14 実数の逆数 幾何学序論1 K.Ichihara 実数とは 実数の定義 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 定理 3.5.6【乗法の逆数】 練習問題 ゼロでない実数 α の逆数 α1 を,割り算 1 ÷ α の結果とし て定義すると, α1 は乗法において α の逆数である. つまり, α1 × α = α × α1 = 1 が成り立つ. 9 / 14 大小関係 幾何学序論1 K.Ichihara 定義 3.5.4【実数の大小関係】 2 つの実数 α = [{an }] と β = [{bn }] について,次のように 大小関係を定義する. 実数とは 実数の定義 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 ▶ (復習)α = β が成り立つのは,それぞれの代表元 (有理コーシー列){an } と {bn } が次をみたすとき: 実数の大小関係 練習問題 ∀ε > 0, ∃N ∈ N s.t. n > N ⇒ |xn − yn | < ε (つまり, lim |an − bn | = 0) n→∞ ▶ α ̸= β かつ,ある代表元 {an } と {bn } について, ∀n ∈ N について an ≤ bn がなりたつとき,α < β と定 義する. ▶ α ̸= β かつ,ある代表元 {an } と {bn } について, ∀n ∈ N について an ≥ bn がなりたつとき,α > β と定 義する. 10 / 14 大小関係について 幾何学序論1 K.Ichihara 実数とは 実数の定義 定理 3.5.7【実数の大小関係の性質】 実数の演算 加法について 乗法について α,β ,γ を実数とする. ▶ 次の 3 つのうち一つだけがつねに成立する: α < β ,α = β ,α > β ▶ 推移律が成り立つ: α < β かつ β < γ ならば α < γ ▶ 次がつねに成り立つ. 逆数 実数の大小関係 練習問題 1. α < β ならば α + γ < β + γ 2. α < β かつ γ > 0 ならば α × γ < β × γ 11 / 14 実数の小数表示 幾何学序論1 K.Ichihara 実数とは 実数の定義 実数の演算 定理 3.5.8【実数の十進小数表示】 加法について 乗法について 任意の正の実数 x ∈ R に対して,次の形の有理コーシー列 {an } で x = [{an }] となるものが存在する. an = x 0 + x1 x2 xn + 2 + ··· + n, 10 10 10 xi ∈ Z, 逆数 実数の大小関係 練習問題 0 ≤ xi ≤ 9 ただし x0 は,x = x0 または x > x0 をみたす最大の整数. 注意 0.999 · · · と 1 のように,唯一つだけ存在する訳ではない. 12 / 14 練習問題 幾何学序論1 K.Ichihara 練習問題 3.5.1 2つの有理コーシー列 {xn } と {yn } の関係 {xn } ∼ {yn } を 次のように定義したとき,反射律が成り立つことを示しな さい. 実数とは 実数の定義 実数の演算 加法について 乗法について 逆数 実数の大小関係 練習問題 ∀ε > 0, ∃N ∈ N s.t. n > N ⇒ |xn − yn | < ε 練習問題 3.5.2 2つの有理コーシー列 {an } と {bn } に対して,数列 {dn := an − bn } が有理コーシー列になることを示しなさい. 練習問題 3.5.3 有理コーシー列の同値類として実数を定義したとき, 0.9999 · · · = 1 となることを示しなさい. 13 / 14
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