保健医療統計学 調査の計画(Ⅰ)

保健医療統計学
調査の計画(Ⅰ)
岩崎正則
九州歯科大学地域健康開発歯学分野
リクルート・サンプリングの基本
について習得する。
(地域診断のすすめ方 第2版
P132~)
平成26年版歯科医師国家試験出題基準
歯科医学総論Ⅱ 健康管理・増進と予防 約9%
大項目
中項目
ア 疫学の概念
イ 疫学指標
ウ 統計解析
エ 因果関係の成立
オ 観察研究
カ 介入研究
疫学とその応用
キ 歯科集団検診
ク 歯科領域における統計指標
ケ 歯科領域における疫学調査
コ う蝕の疫学要因
サ 歯周病の疫学要因
シ 不正唆合の疫学要因
ス 口腔癌の疫学要因
小項目
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
推論
研究計画
デザイン
目的母集団
研究で得られた知見
実際の研究
実施
予定サンプル
実際の研究参加者
リサーチクエスチョン(research question):
研究の目的。研究者が研究から答えを得ようとする医学的問題。
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
高血圧は心血管病の
危険因子か?
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
高血圧は心血管病の危険因子か?
目的母集団
Framingham市のような
フラミンガム心臓研究
都市郊外に住む全ての米国成人
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
Framingham市の住民(29~69歳)
において高血圧例と正常血圧例
との間には心血管疾患の
発症率に差があるのか?
実際の研究
実施
予定サンプル
Framingham市のすべての住民
(29~69歳)から系統的に選択さ
場所:米国東部
れた2/3の住民
アメリカ合衆国マサチューセッツ州ミドルセックス郡フラミンガム町
Framingham市の住民(29~69歳)
を2年ごとに追跡
実際の研究参加者
研究参加に同意した
Framingham市の住民(29~69歳)
予定サンプルの約2/3
開始年:1948年
目的とする現象
予定変数
開始当時,米国の死因の80%が心血管疾患によって占められており,フラミンガム心臓研究
心血管疾患の発症割合
心血管疾患の発症および
では,感染症研究の手法であった「疫学」を,はじめて心血管疾患にとりいれて心血管疾患
それに伴う死亡
の原因を追及し,その後の30年間で米国の心血管疾患発症率を半減させることに成功した。
実際の測定
(1)心筋梗塞の既往/心電図所見
(2)狭心症
(3)心血管疾患を示唆する
状況下の突然死
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
高血圧は心血管病の危険因子か?
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
Framingham市の住民(29~69歳)
において高血圧例と正常血圧例
との間には心血管疾患の
発症率に差があるのか?
実際の研究
実施
Framingham市の住民(29~69歳)
を2年ごとに追跡
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
Framingham市のような
都市郊外に住む全ての米国成人
Framingham市のすべての住民
(29~69歳)から系統的に選択さ
れた2/3の住民
研究参加に同意した
Framingham市の住民(29~69歳)
予定サンプルの約2/3
目的とする現象
予定変数
実際の測定
心血管疾患の発症割合
心血管疾患の発症および
それに伴う死亡
(1)心筋梗塞の既往/心電図所見
(2)狭心症
(3)心血管疾患を示唆する
状況下の突然死
研究で得られた知見
収縮期高血圧の上昇に伴い,心血管疾患の発症率が上昇する
出典:Kannel. (1999) Historic perspectives on the relative contributions of diastolic and systolic blood pressure elevation to cardiovascular risk profile.
完了した研究の結果を解釈する際の推論の流れ
普遍的真理
研究対象集団
目的母集団
Framingham市のよう
な都市郊外に住むす
べての米国成人に同
じ関連が存在
外的
妥当性
推論
Framingham市に居
住する全ての成人で
同じ関連が存在
外的
妥当性
推論
研究における
真理
研究で得ら
れた知見
予定サンプル
実際の研究
参加者
Framingham市の成
人の予定サンプルに
おいても同じ
関連が存在
内的
妥当性
推論
Framingham市の成
人の研究参加者で観
察された高血圧と心
血管疾患の関連
得られた研究結果を目的母集団target populationに一般化すること
ができるかどうか
研究を計画する場合の流れ
普遍的真理
研究対象集団
目的母集団
Framingham市のよう
な都市郊外に住むす
べての米国成人に同
じ関連が存在
外的
妥当性
推論
Framingham市に居
住する全ての成人で
同じ関連が存在
外的
妥当性
推論
研究における
真理
研究で得ら
れた知見
予定サンプル
実際の研究
参加者
Framingham市の成
人の予定サンプルに
おいても同じ
関連が存在
内的
妥当性
推論
Framingham市の成
人の研究参加者で観
察された高血圧と心
血管疾患の関連
サンプリング
サンプルで観察された知見を集団全体に一般化することを意図して
科学的にデザインする。
リサーチクエスチョンにふさわしい目的母集団の臨床的特性や各種属性を決め,次に地理
的,時間的な条件を加えて,目的母集団を代表し,かつ現実的にアクセス可能なサンプル
へと絞り込んで行く。
基本的な用語と概念
目的母集団:
臨床的特性や各種の属性によって定義される集団のことで,たとえば「すべての10代の
喘息患者」というように,研究結果を一般化しようとするすべての対象者の集合を指す。
研究対象集団:
たとえば,「現在研究者の住む町に居住している10代の喘息患者」というように,目的母
集団の中で,地理的にも時間的にも具体的に研究対象とすることが可能な一部の人々の
集合を指す。
予定サンプル(予定対象者):
研究対象集団の中で,研究者が研究に含めようと考える人々の集合を意味する。
実際の研究参加者:
予定サンプルの中で,実際に研究に参加する人々のことを言う。
リサーチクエスチョンにふさわしい目的母集団を定義する
選択基準(包含基準と除外基準)の決定。
選択基準:
母集団を定義付ける基準
包含基準:
目的母集団の主な特性を定義する条件
除外基準:
研究実施を困難にする人々を除くための条件
リサーチクエスチョンにふさわしい目的母集団を定義する
考慮すべき特性
包含基準
(具体的に)
除外基準
(なるべく少なく)
例
リサーチクエスチョンにふさわしく,
かつ研究効率の高い集団を設定する
属性的特性
29~69歳の成人
臨床的特性
一般健康状態は良好
地理的特性
フラミンガム市に在住する人
時間的特性
ある年の1月1日~12月31日の間
研究対象としてふさわしくない,以下の
ような人々
フォローアップできなくなる可能性が高
い人
アルコール中毒者
その地域から転出予定の人
質のよいデータが得られそうにない人
失見当識のある人
言葉が通じない人
データの解釈を困難にする人
心血管疾患の既往のある人
サンプリングの種類
非確率的サンプル:
選択基準を満たしかつアクセスの容易な人々をサンプルとする。
連続サンプル:
選択基準を満たすすべての人を連続的に集めて得られるサンプル
確率的サンプリング:
単純ランダムサンプリング:
目的母集団の全員に番号をつけ,その中から一部をランダムにサンプリングする方法。
目的母集団が大きすぎて,それを代表するサンプルを抽出する必要がある場合によく
用いられる。
(例)ある病院の白内障手術患者の中から単純ランダムサンプリングを実施するには,
まずある期間中の全手術予定者のリストを作成し,その中から乱数表を用いて対象者
を選出する。
系統的サンプリング:
最初に目的母集団の全員に番号をつけるところまでは同じだが,その後,何らかのあ
らかじめ定めた周期性(規則性)にしたがってサンプリングするという点で,単純ランダ
ムサンプリングとは異なる。
(例)フラミンガム研究では,住所順にリストされた家庭を3家庭ずつ区分し,各区分の
最初の2家庭から適格者をサンプリングするという方法がとられた。
サンプリングの種類
確率的サンプリング(続き)
層化ランダムサンプリング:
目的母集団を,性別,人種のような特性に基づく「層」に分け,おのおのの層からランダ
ムにサンプリングする方法。
(例)妊娠中毒症の発生率incidenceを調べる研究を例に取れば,まず目的母集団を人
種によって層化し,次に,各層から等しい数をサンプリングする。こうすれば,人口の少
ない層からも多くのサンプルが得られるため,データの定度(精度)precisionが増し,人
種間での発生率が比較しやすくなる。
クラスターサンプリング:
クラスター(母集団の中に自然に存在する人の集合。例:学校や地区など)をサンプリ
ング単位とみなして,母集団からクラスターをランダムにサンプリングする方法。クラス
ターサンプリングは母集団が大規模かつ広域に分散していて,対象者リストの作成が
困難な場合に非常に有効な方法。
(例)肺がん患者を対象とする研究を例にとれば,州全体の肺がん患者の退院者リスト
からランダムに選び出すよりも,まず,医療機関をクラスターと見なしてランダムに選び,
選ばれた各医療機関から症例を集める方がはるかに時間的・経済的コストが小さくて
済む。
研究対象者のリクルート
対象者リクルートの目標
(a)系統的誤差(バイアス)が少なく,目的母集団の代表性の高いサンプルを獲得すること
(b)偶然誤差を研究に支障のない程度に留められるだけのサンプル数を確保すること
↓
非応答(不参加)をできるだけ防ぐ。
※接触が難しい人や,接触できても参加を拒否する人は,参加する人とは特性が異なる
傾向があるため。
方策:
選択された対象者と接触するチャンスをできる限り高める。
• 何度も接触を試みる。
• さまざまな接触方法(例:郵便,eメール,電話,家庭訪問)を用いる。
接触に成功した相手に対して
• 侵襲性や不快を伴うような検査を避ける。
• 研究に対する不安や不快感を和らげるために,パンフレットを手渡すか,直接説明す
る。
• 交通費を負担するなどのインセンテイブを提供する。
• 検査結果を提供する。
• 言葉の問題に対処するために,バイリンガルのスタッフを揃えたり,相手の言語で質問
票を作成する。
まとめ
1. 研究では,多くの場合,理論的にも現実的にも,目的母集団を代表するサンプルを用
いることがその前提となる。
2. サンプリングの利点は研究の効率を高めることにあり,サンプルを用いれば,比較的
少ない時間と労力によって,目的母集団についての推論が可能となる。欠点は,誤差
が混入する可能性があることである。サンプルの代表性が不十分な場合,研究結果
を目的母集団に-般化することが難しくなる。また,サンプルサイズが不十分であると,
偶然誤差の混入が問題となる。
3. サンプリングをデザインする場合の第1ステップは,目的母集団の概念を明確にするこ
とである。そのためには,リサーチクエスチョンにふさわしい属性や臨床的特性を持っ
た対象者を定義する包含基準を定める必要がある。
4. 次に,適切な研究対象集団を設定する。これは,地理的,時間的に,現実的に研究対
象とすることのできる集団のことで,このときには,研究対象とするには倫理上の問題
のある対象者や,不適切な対象者を除外するための最小限の除外基準を設けなけれ
ばならない。
5. 次のステップは,サンプリング方法をデザインすることである。臨床研究には,簡易サ
ンプルが便利で,中でも,連続サンプリングがより望ましい方法と言える。サンプルサ
イズを縮小したい場合には,単純ランダムサンプリングや,層化サンプリング,クラス
ターサンプリングなどを組み合わせることができる。
6. そして,リクルート法の計画や実施においては,系統誤差(バイアス)を最小限にとど
め,かつ偶然誤差を十分減らせるだけのサンプル数を確保できるよう,最善の努力を
行う必要がある。
魚の摂取はからだに良いのか?
研究をデザインする
普遍的真理
研究における真理
推論
リサーチクエスチョン
冠動脈疾患患者の中で,
魚油サプリを毎日摂取する人々の
存在率(有病率)はどれくらいか?
研究で得られた知見
推論
研究計画
デザイン
自分の勤めるクリニックを訪れる,
冠動脈疾患の既往があり,
かつ郵送質問票に回答する患者の
中で,魚油サプリを毎日摂取する人
の割合はどれくらいか?
実際の研究
実施
目的母集団
予定サンプル
実際の研究参加者
全ての冠動脈疾患患者
昨年受診した患者の中で
冠動脈性疾患と診断された
215人の患者
昨年受診して冠動脈性疾患
と診断され,かつ質問票に
回答した104人の患者
目的とする現象
予定変数
実際の測定
魚油サプリを摂取する人々の割合
自己申告による魚油サプリの摂取
魚油サプリの摂取に関する
質問項目への回答
【 参考文献 】
 地域診断のすすめ方 第2版
 医学的研究のデザイン -研究の質を高める疫学的
アプローチ- 第4版