■■■ ■■ ■ 1.力の作用と運動の関係 ■ ■■ ■■■ まず最初に,物体の運動を考えるときに必要となる「基本事項」をまとめておく. ただしこのテキストで扱う“ 物体 ”とは, “ 大きさや形を気にしなくてもよい物体 ”を指すものとす る.その究極の物体が,質量はあるが大きさのない物体で,これを質点あるいは粒子と呼ぶ. もちろん,問題の図中に書かれた物体には大きさも形も存在しているが, 「大きい・小さい」とか「丸 い・四角い」というようなことを(本質的には)気にしなくても解ける問題だけ扱う. 大きさや形を気にしなくてはならない問題では,モーメントという重要な概念が必要になるが,その 詳細は「力学の基礎2」でもう一度学習する. 1-1. 運動の表し方 運動を表すもっとも基本的な量は,位置と速度と加速度である.それらはベクトル量で,次のよう に定義される(下図参照). 速 度 : 加速度 : lim d~r(t) ∆~r = = ~v (t) ∆t dt (1) lim ∆~v d~v (t) = = ~a(t) ∆t dt (2) ∆t → 0 ∆t → 0 物体は一般に,空間内を運動する(三次元運動).したがって,各ベクトル量を xyz 直交座標系で ~r(t) =(x,y ,z ),~v (t) =(vx ,vy ,vz ),~a(t) =(ax ,ay ,az ) (3) と成分表示したとき,それらの成分どうしの間には次の関係が成り立つ. 速 度 : dx dy dz = vx , = vy , = vz dt dt dt (4) 加速度 : dvx dvy dvz = ax , = ay , = az dt dt dt (5) もちろん,座標系が変わればその成分表示も (4),(5) とは違ったものになるが,ベクトルを使って 書かれた (1) と (2) の定儀式は,座標系が変わってもそっくりそのまま適用される. → ∆r → r (t) → r (t+∆t) O 1 path 1-2. 位置や速度の求め方 (1) と (2) の関係から,次式が成立する. Z t1 Z t1 Z t1 Z t1 Z t1 d~r(t) dt = ~v (t)dt より d~r(t) = ~v (t)dt ∴ ~r(t1 ) − ~r(t0 ) = ~v (t)dt dt t0 t0 t0 t0 t0 Z t1 t0 d~v (t) dt = dt Z Z t1 t0 Z t1 Z t1 t0 t0 t1 ~a(t)dt ~a(t)dt ∴ ~v (t1 ) − ~v (t0 ) = d~v (t) = ~a(t)dt より t0 これより,時刻 t0 における位置 ~r(t0 ) と速度 ~v (t0 ) がわかれば,任意の時刻 t1 における位置と速度 がわかる.すなわち, Z t1 ~r(t1 ) = ~r(t0 ) + ~v (t)dt (6) ~a(t)dt (7) t0 Z t1 ~v (t1 ) = ~v (t0 ) + t0 (6) や (7) の積分を計算するためには,~v (t) や ~a(t) の具体的な関数形が必要である.~v (t) や ~a(t) が 初めから与えられている場合は別として,一般には,次の手順に従って位置や速度を決定する. [ 1 ] まず,運動方程式を解いて加速度 ~a(t) を求める. [ 2 ] それを (7) に代入して速度 ~v (t) を求める. [ 3 ] さらにそれを (6) に代入して位置 ~r(t) を求める. 運動方程式については,次の項で説明する. 1-3. 運動の法則 物体の運動は, “ 運動の3法則 ”にしたがって決定される.なかでも,第2法則の運動方程式がもっ とも根本的な原理である.力学が理解できるかどうかは,運動方程式を確実にマスターできるかどう かにかかっていると言っても過言ではない! 【第1法則】 慣性の法則が成立する座標系が,宇宙には少なくとも一つ存在する.そ の座標系を慣性系という. 【第2法則】 慣性系では,物体の運動について次の関係(運動方程式)が成立する m~a(t) = n X F~i (t) i=1 ただし,m:物体の質量, (8) X F~i (t):物体に作用しているすべての力の総和 【第3法則】 任意の物体間の力は,作用・反作用の法則に従う 2 補 足 1◦ 物体が運動している間,一般に ~a(t) も F~i (t) も時間とともに変化していくが,その間も運動方 程式 (8) は常に成立している. 2◦ 運動方程式は,各成分ごとに成立する.xyz 直交座標系の場合であれば, max = X Fix , may = X Fiy , maz = X Fiz が同時に成立する. 3◦ X F~i (t) = ~0 のとき, “ 物体に作用する力はつり合っている ”という.このとき第2法則から, X d~v (t) ~ F~i (t) = ~0 より ~a(t) = ~0 ∴ ~a(t) = = 0 より ~v (t) = 一定 dt が言える.つまり,最初に静止していた物体は,力がつり合っている限りずっと静止し続ける. 結局, “ 力の釣り合いの式 ”というのは,運動方程式の特別な場合に過ぎないことがわかる. 4◦ 運動方程式 (8) の成り立つ座標系が慣性系である,と表現してもよい.地球に固定された座標 系は,慣性系とみなせる場合がほとんどである. 1-4. 解法の手順 力学に関する問題は,1-1 で説明した「速度・加速度の定義」と,1-3 で説明した「運動の3法則」 だけで大半が解ける.したがって前にも指摘したように,運動方程式をマスターすることに全力を傾 けてもらいたい.そのために必要な解法の手順を,以下にまとめておく.この手順に従って,演習問 題【1-7】∼【1-10】を解くこと. [ 1 ] 考察の対象となる物体をはっきりさせる(物体は1個だけか? それとも2個以上か?). [ 2 ] その物体に対して,その物体以外から作用している力をすべて書き出す.物体の図を書 いて,そこに働いている力をすべて描き込む(必ずこの作業を習慣づけること!) [ 3 ] 図をみながら,運動方程式を書く.物体が2個以上あるときは,[ 2 ] と [ 3 ] の作業を, それぞれの物体に対して別々に行う. [ 4 ] その運動方程式(数学的に言えば微分方程式)を解いて,物体の加速度を求める.大半 は高等学校までの微積分の知識で解けるはず. [ 4 ] までたどり着いたら,p.2 にまとめた [ 1 ]∼[ 3 ] の手順に従って,速度と位置を決定する. 3 8 問 題 7 † 位置・速度・加速度 † ポイント 位置・速度・加速度のどれか1つが与えられているとき,残りの量を求める.定義に従って微 分積分の計算を行えばよく,力学的な考え方はとくに必要としない.( 1-1,1-2 参照 ) 【 1-1 】 x 軸上を運動している物体がある.時刻 t[s] における物体の位置 x(t) [m] が x(t) = 2t3 − 8t2 + 5t で与えられるとき,t = 3 s における物体の速度と加速度を求めよ. 【 1-2 】 xy 平面上を動く動点 P の座標(x, y )が x = t2 − t , y = √ 3t で表されるとき, t = 2 における P の速さ v を求めよ.また,このとき動点 P のえがく曲線を求め,その概形を 図示せよ. 【 1-3 】 下図のような加速度で滑走路を走行している飛行機が,t = 20 s で離陸した.離陸する までに飛行機が走行した距離と,離陸したときの速度を求めよ. 6 a (m/ s2) 5 4 3 2 1 0 0 2 4 6 8 4 10 t ( s) 12 14 16 18 20 † 力のつりあい † ポイント 物体に働いている力を正確に図示することから始める.力の大きさ(矢印の長さ)は適当でも かまわないが,力の向きは正しく書かなければならない.また,物体と物体とが接していると ころでは,必ず「作用・反作用の法則」を考慮すること.( 1-3 参照 ) 【 1-4 】 図のようにバネ A とバネ B を点 Q で連結して,A の一端を天井の点 P に固定し,B の 一端 R に質量 M の物体をつり下げて,全体を静止させた.次の文中の空欄° A ∼° C には適当な 語句,° 1 ∼° 8 には適当な式を記入せよ.必要なら,重力加速度を g とすること. ° A 物体には の方向に重力 ° 1 がはたらき,その反作用として物体は ° B を 力 ° 2 で上方に引く.物体は静止しているから,物体は点 R でバネ B から鉛直上向き に ° 3 の力を受ける.また,その反作用として,バネ B は点 R で ° 4 ° C の方向に の力を受ける. バネ B の質量を mB とする.B は静止しているので,点 Q でバネ A から上向きに 力を受ける.また,その反作用として,バネ A は点 Q で下向きに ° 6 いている. P A Q B R 5 の の力を受ける. バネ A の質量を mA とする.A は静止しているので,点 P で天井から上向きに 力を受ける.また,その反作用として,バネ A は天井を点 P で下向きに ° 5 ° 8 ° 7 の の力で引 【 1-5 】 図のようなブロックの上に質量 m = 50 kg の円柱を置き,全体を静止させた.円柱 もブロックも表面はなめらかであるとして,円柱がブロックの表面から受ける抗力を求めよ. 40 30 40 60" 30 (1) (2) 【 1-6 】 水平面上に置かれた質量 m の物体にロープをかけて,下図のように力 F を加え,この 物体を一定の速さで水平にすべらせた.物体が一定の速さですべっているときの F の大きさを 求めよ.ただし,物体と水平面との間のすべり摩擦係数を µ,重力加速度の大きさを g とする. ※ 物体に働く力がつりあっていてもその物体が静止しているとは限らない,という例題 F 30 6 † 運動方程式 † ポイント ここでも,物体に働いている力を正確に図示することから始める.当然,作用・反作用の法則 を考慮しなければならない.すべての力を図示したら,その図を見ながら,成分ごとに運動方 程式を書く.面倒がらずにこの手順をふめるようになることが,力学を理解する唯一のポイン トである.( 1-3,1-4 参照 ) 【 1-7 】 質量 m の物体が下記のような運動をするとき,それぞれの場合について運動方程式を 書け.ただし,重力加速度の大きさを g とする.これ以外に必要な記号や座標は,各自で定義 して使うこと.また,力の作用している図を必ず書くこと. (1) 真空中を自由落下する物体の運動方程式 (2) 空気中を速度に比例する抵抗を受けながら落下する物体の運動方程式 (3) 大きさ F の力で鉛直上方に引き上げられる物体の運動方程式 (4) 傾斜角 θ,動摩擦係数 µ の斜面上をすべり落ちる物体の運動方程式 (5) バネ定数 k のバネにつながれた状態でなめらかな水平面上に置かれた物体が,自然長の 位置から x だけ変位した位置にある瞬間の運動方程式 (6) バネ定数 k のバネで鉛直につり下げられた物体が,つ̇り̇あ̇い̇の̇位̇置̇ から y だけ変位した 位置にある瞬間の運動方程式 【 1-8 】 問題【 1-5 】(1) のブロックと円柱を台車に乗せ,ブロックを台車に固定する.この台 車に水平方向の力 F を加えて台車を加速したところ,円柱が B 点でブロックから受ける抗力 が 0 になった.このときの台車の加速度を求めよ.ただし,台車と床との間の摩擦は無視でき るものとする. B A 7 F − 以下の2問では,滑車およびロープの質量は無視できるものとする − 【 1-9 】 ガレージのドアを上下させる仕組みとして,図のような 3 種類の機構を考える. (1) ドアの質量を m とする.それぞれの機構において,ドアを静止させるために必要なつり あい重り(カウンターウェイト)の質量を求めよ. (2) カウンターウェイトを手で操作してドアを上方に引き上げるとき,もっとも重く感じられ るのはどの機構か. Door Weight 【 1-10 】 図のようなゴンドラに人間が乗り,ゴンドラにかけられたロープの一端をその人間が 引っ張っている.人間の質量を m,ゴンドラの質量を M ,重力加速度の大きさを g として, 以下の設問に答えよ. (1) ゴンドラが空中で静止しているとき,人間がロープを 引く力 T の大きさはいくらになるか. (2) ゴンドラが空中で静止しているとき,人間がゴンドラ の床から受ける力 N の大きさはいくらになるか. (3) ゴンドラが加速度 a で上昇しているとき,T と N の 大きさはどうなるか. 8
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