[2-28] H27 農業農村工学会大会講演会講演要旨集 サギ類の餌起源とコロニーにおける物質フロー Feed origin of Ardeidae and material flow at a heronry ○森 淳・渡部恵司・小出水規行・竹村武士 Mori A.・Watabe K.・Koizumi N.・Takemura T. 1.はじめに サギ類 は水 田 生 態 系における食 物 網 の上 位 に位置 している。食 性 は種 によって異 なるが、陸 生 昆虫とともに魚類・甲殻類などの水生動物を主要な餌としている。農村工学研究所では、有機農法 と慣行 農法 など営農 方法の違いが代表 種の生息に与 える影 響 を解明 する農林 水産 省の委託 プロ ジェクト「気 候 変 動 に対 応 した循 環 型 食 料 生 産 等 の確 立 のための技 術 開 発 ―生 物 多 様 性 を活 用 した安 定 的 農 業 生 産 技 術 の開 発 」に参 画 し、代 表 種 として選 定 されたサギ類 の餌 となる魚 類 や両 生類の生息に、営農方法が与える影響について研究を進めている。 炭素・窒素安定同位体比(それぞれ δ 13 C、δ 15 N で表される)は食物網解析に用いられるとともに、 生態 ピラミッドにおける物質 フローの把握 にも利 用できる。これは食物網が物質 ・エネルギーの移 動 経路でもあるためである。本研 究では、サギ類の集団営 巣地(サギコロニー)のサギ類の餌残滓や、 糞が落下する土壌に生息する土壌動物の δ 13 C、δ 15 N を分析することにより、サギ類の餌だけでなく サギ類が利用している空間の特徴、物質フローを解析する。 2.調査方法 石川県金沢市内、河北潟近くの平地林のサギコロニーにおいて 2014 年6月に事前調査を行い シラサギ類 、ゴイサギを確 認 した。大 河 原 (未 発 表 )は、コサギ、チュウサギ、ダイサギ、アオサギ、ゴ イサギを周辺で確認している。2014 年 11 月、サギ類がすべて移動した後のサギコロニーにおいてサ ギの頭骨 、鳥の糞 、アメリカザリガニの殻 、アブラゼミの抜 け殻 、土壌 動物 を採 取 した(糞を排泄 した 鳥の種は特定できないが、参考までに採取した)。 またセミの幼虫の生育環境による δ 13 C、δ 15 N の違いを把握するため、農村工学研究所構内のア ブラゼミの抜 け殻 、ダンゴムシ類 、ワラジムシ類 を採 取 した。これらのサンプルを、60℃ で 乾 燥 後 粉 砕、専用のスズカップに充填してサーモエレクトロン社製 DeltaV を用いて δ 13 C、δ 15 N を 計測した。 16.0 3.結果と考察 δ 13 C-δ 15 N を図 1に示 す。 サギ頭 骨 の多 くは‐ 13 20 ‰ 程 度 の 高 い δ C 値 を 示 し た が 、 -24 ~ -26‰の低 い値 を示 した個 体 が含 まれていた。 δ15N (‰) サギコロニーで採取したサンプルの アブラセミの抜け殻 14.0 ハサミムシ類 12.0 ムカデ類 10.0 ダンゴムシ類 ワラジムシ類 8.0 アメリカザリガニ 6.0 サギ類(頭骨) 4.0 前 者 は藻 類 由 来 の有 機 物 に依 存 していること 2.0 を示している。後者の低い δ 13 C は餌資源に関 0.0 -2.0 -30.0 する様々な可能性を示唆している。すなわち利 -28.0 -26.0 -24.0 -22.0 δ13C (‰) -20.0 -18.0 用 していた動 物 が、①陸 生 昆 虫 、②藻 類 の δ 13 C が低 い環 境 で生 息していた、③デトリタス を餌 資 源 としていた場 合 である。これらを推 定 図 1 サ ギ コ ロ ニ ー に お け る δ 13 C-δ 15 N マ ッ プ δ 13 C-δ 15 N map in a heronry 注 : δ 13 C と δ 15 N は ス ケ ー ル が 異 な る するには、DNA を用 いてサギ類 の種 を特 定 し 農 研 機構 農 村工 学研 究所 ( National Institute for Rural Engineering) キ ー ワー ド: 生態 系, 炭素 ・ 窒素 安定 同位 体比 、食 物 網 − 302 − たうえで、食 性 に関 する知 見 とあわせて考 察 する 必要がある。アメリカザリガニの δ 15 N は低く(平均 えられる。δ 1 3 C は -20‰前 後 、‐25‰前後 の2群 に分かれた。前 者は藻 類由 来 と考えられる。後 者 は陸水界でしばしば認められる δ 13 C の低い藻類 由来、C 3 植物由来の双方が考えられるが、コロニ ー周 辺 は水 田 が連 担 しているデトリタスが豊 富 な 環境であるから、水田に生息しイネの残滓が分解 δ15N (‰) 値 ±標 準 偏 差 :1.3±1.4‰)、肉 食 性 は弱 いと考 16.0 ダンゴムシ類(コロニー) 14.0 ワラジムシ類(コロニー) 12.0 10.0 アブラゼミ抜け殻(コロニー) 8.0 ダンゴムシ類(農工研) 6.0 ワラジムシ類(農工研) 4.0 アブラゼミ抜け殻(農工研) 2.0 0.0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0 -30.0 -28.0 -26.0 -24.0 -22.0 -20.0 -18.0 δ13C (‰) されたデトリタスを主 な餌 としていたのかもしれな い。サギ類 は生 産 者 が異 なる多 様 な水 域 環 境 で 生育したアメリカザリガニを餌としていると考えられ る。河北潟の浅瀬ではサギ類がしばしば採餌して 図 2 土 壌 動 物 の δ 13 C-δ 15 N マ ッ プ δ 13 C-δ 15 N map of soil animals 13 注:δ C と δ 15 N は ス ケ ー ル が 異 な る 。エ ラ ー バ ー は 標準偏差。 いる(大河原、私信)。河北潟はこのコロニーを形成しているサギ類の餌起源である可能性がある。 サギ類とアメリカザリガニの δ 15 N 平均の差は 7.3‰となった。これは、栄養段階でいえばほぼ 2 に 相 当 する大 きな差 である。アメリカザリガニがサギ類の餌として利 用 されていることは疑 いないものの、 サギ類の体の δ 13 C、δ 15 N に影響を与えるほどではなかったと考えられる。サギ類の δ 15 N を上昇させ たのは、アメリカザリガニより栄 養 段 階 の高 い生物 、周 辺 の生 物 相 を考 慮すればドジョウなどが考 え られる。なお,採取した糞のδ 13 C、δ 15 N はそれぞれ-28.1±0.5‰、3.0±1.1‰となった。どちらもサ ギ類の頭骨の値とは大きく異なることから、サギ類の糞ではなかった可能性が強い。 図 2 に コ ロ ニ ー 、 農 工 研 で 採 取 した ダ ン ゴ ム シ類 、 ワ ラ ジ ム シ 類 お よ び アブ ラ ゼ ミ の 抜 け 殻 の 13 δ C-δ 15 N マップを示す。いずれの δ 15 N もサギコロニーの方が高くなった。これは、コロニーの土壌 動物がサギ類から排出された糞由来の、δ 15 N の高い窒素を利用したためと考えられる。 コロニーで採取したワラジムシ類の δ 13 C は-20.9~-26.7‰に広く分布した。また δ 13 C と δ 15 N の間 には r=0.48 の有意な正の相関が認められた(p<0.05)。δ 13 C、δ 15 N が高い値を示した個体は、陸上 の C 3 植物ではなく、藻類由来の有機物を利用していた、すなわち、サギ類 の糞または糞の腐植を 餌 としていたと考 えられる。コロニーで散 見 されるサギ類 の死 骸 もワラジムシ類 の餌 となる有 機 物 の 供給源であろう。ワラジムシ類の δ 13 C が、一般的な土壌の δ 13 C(-28~-26‰前後)に比べて上昇す る程度 は、多くの糞が落下すると考えられる巣の直下 からの距離 と関係しているかもしれない。土壌 動物の δ 13 C、δ 15 N の空間的な分布特性 とサギ類の営巣状態の関係の把握が今後の課題である。 サギコロニーではワラジムシ類 の δ 13 C、δ 15 N ともダンゴムシ類より高かった。サギコロニーのワラジ ムシ類はダンゴムシ類よりも動物性の餌を選好する可能性がある。農工研では δ 15 N はダンゴムシ類 の方が高かった。 コ ロニー 、農 工 研 の アブラゼ ミの 抜 け殻 の δ 15 N 平 均 値 に は有 意 差 が 認 め られた が (U-test、 p<0.05)、δ 13 C に有意差は認められず標準偏差も δ 15 N に比べて小さかった。セミ類は土壌中の有 機物を直接利用するのではなく、有機態窒素がいったん分解されて生成 された無機態窒素を木本 植 物 が吸 収 し、大 気 中 の炭 素 を同 化 して生 成 された有 機 物 を含 む樹 液 を利 用 していることと符 合 する。 謝 辞 本 研 究 は農 林 水 産 省 委 託 プロジェクト研 究 「気 候 変 動 に対 応 した循 環 型 食 料 生 産 等 の確 立 のための技 術 開 発 」の一 部 として実 施 した。また金 沢 大 学 自 然 システム学 類 大 河 原 恭 祐 准 教 授 には調 査 地 付 近 におけるサギ 類 の生 態 に関 する情 報 をご教 示 頂 いた。ここに感 謝 の意 を表 する。 − 303 −
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