モンゴル北部森林-草原境界域におけるカラマツと土壌の窒素同位体比の

モンゴル北部森林-草原境界域におけるカラマツと土壌の窒素同位体比の空間変動
June 10th, 2015 コースセミナー
杉本研究室 D3 藤吉麗
はじめに
植物と土壌の窒素同位体比(δ15N)は、生態系内外の様々な窒素サイクルプロセスを反映
して変動することが知られている。近年、それら δ15N の変動が空間的な傾向を示すことが
明らかとなり、その傾向と環境因子(e.g., 降水量、気温、標高、土壌年齢)の関係が示唆
されている。例えば年降水量の多い場所ほど土壌と植物の δ15N は低い傾向が報告されてい
る(e.g., Austin and Vitousek 1998; Amundson et al. 2003)。しかしながら、このような δ15N の
空間傾向に反映されている窒素サイクルプロセスについての理解は、未だ進んでいない。
上記メカニズムの解明を目標として、本研究では、環境勾配をもつモンゴル北部森林-草原
境界域(エコトーン)に着目した。シベリアカラマツの葉と土壌の δ15N について環境勾配に
沿った δ15N の空間変動の特徴を調べ、その変動に関わる環境因子、および δ15N 変動を引き
起こす窒素サイクルプロセスを明らかにすることを目的とした。
方法
モンゴル北部森林草原境界域の東西に計 6 つの調査エリアをおき、各エリア内の森林―
草原勾配に沿って複数のサイトを設定した。2004 年から 2012 年の 5 月から 8 月の期間に、
各サイトでシベリアカラマツの葉と有機層から鉱物質土壌深度 50cm までの土壌の採取を行
い、δ15N、δ13C、CN 含量、溶存態 N 含量(DON, NH4+, NO3-)について分析を行った。
結果と考察
カラマツ一個体の葉の N 含量については明瞭な季節変動がみられたが、同じ葉の δ15N、
δ13C についてはそのような時間変動は確認されなかった。
カラマツ葉と土壌(0-20cm)の δ15N は明瞭な空間変動を示し、エリア内においては、森林
から草原にかけて δ15N が増加する傾向が確認された。全てのエリアを含めたとき、δ15N お
よび両者の差(Δδ15N)の変動は、複数の環境因子と対応関係がみられた。すなわち Δδ15N が
大きい(-8 to -7‰)サイトではカラマツ葉 δ15N (-5 to -4‰)、土壌の δ15N (+2 to +5‰)が低く、
mor type の比較的厚い有機層がみられ、湿潤・弱光環境でカラマツの利用可能な N に乏し
い傾向を示した。反対に、Δδ15N が小さい(-4 to -2‰)サイトではカラマツ葉 δ15N (+3 to +4‰)、
土壌の δ15N (+6 to +7‰)が高く、mull type の薄い有機層がみられ、乾燥・強光環境でカラマ
ツの利用可能な N に富む傾向を示した。
土壌有機物の分解によって生成する生物利用可能な N について、定常状態を仮定し窒素同
位体のマスバランスを考えると、生成した N の一部が微生物に取り込まれるプロセス、あ
るいは、土壌上部の有機層から供給される N をカラマツが取り込むプロセスによって、Δδ15N
の変動が説明されることが明らかとなった。