「セラミックスインテグレーション技術による新機能材料創製に関する研究」

研究課題名
「セラミックスインテグレーション技術による新機能材料創製に関する研究」
平成16年度研究計画
(研究期間:第 II 期 平成15∼16年度)
大項目名:圧電素子におけるセラミックスインテグレーション技術の利用
研
究
項
目
中項目名:
担当項目名: 高機能圧電素子に向けた新規強誘電体材料の探索
担当機関・研究室名・研究者名
東京理科大学・理工学部・ 竹中研究室
竹中 正
1. 研究目的
圧電材料の大部分を占める圧電セラミックスは、Pb系ペロブスカイト型強誘電体で、その主流はPbZrO3−PbTiO3 (PZT) を
含む三成分系であり、酸化鉛を主成分として多量に含んでいるため、今後、圧電デバイスの応用分野が拡がり、圧電材料の使
用量が増大するに連れて、低公害化(無鉛化)の問題が必然的に生ずる。そのため、環境にやさしい非鉛系圧電材料の開発に
対する社会的な要請は年々強まり、新規材料開発の分野では、現在の鉛系の性能に匹敵する非鉛系(無鉛・低鉛)圧電材料の
研究開発は急務、かつ、必要不可欠である。
本年度は、昨年度の研究に引き続き、我々がこれまで長年取り組んできた環境に優しい非鉛圧電セラミックスの実用化に貢献
できる材料開発の研究結果を基礎として、非鉛系圧電材料の分野で、現在、もっとも強く求められている非鉛圧電アクチュエ
ータを新しく開発することを目的とする。具体的な目標値は、アクチュエータの動作温度範囲を左右する相転移キュリー温度
Tcが200 ℃以上で、かつ、変位量を決定する圧電定数d33が300 pC/N 以上となるような非鉛圧電セラミックス材料組成を開発
し、それらの新規組成の非鉛圧電セラミックスを使用した積層型非鉛圧電アクチュエータを設計・試作する。
さらに、昨年度に購入した設備備品を駆使して、その圧電アクチュエータの性能を、従来のPZT系圧電アクチュエータと比
較して、詳しく調査し、電子機器や自動車分野などから要求の高い非鉛系圧電アクチュエータの新しい応用分野を開拓しよう
とするものである。
2. 研究方法
チタン酸バリウムBaTiO3 [BT]、チタン酸ビスマスナトリウム(Bi1/2Na1/2)TiO3 [BNT]およびチタン酸ビスマスカリウム
(Bi1/2K1/2)TiO3 [BKT]系固溶体強誘電体セラミックスを実用的な非鉛圧電アクチュエータ材料の候補として取り上げる。無
鉛ペロブスカイト形強誘電体の代表例であるBTは、自由誘電率e33T/e0=1900と特に大きく、圧電定数d33=190 pC/Nと大き
な値を示すことから、無鉛圧電セラミック材料の有力な候補と考えられている。しかし、BTは相転移キュリー点Tc=130 ℃が
低いため動作温度範囲が狭いという問題点があり、これまで圧電セラミックスとしてはあまり顧みられていなかった。この問
題点(低Tc)を解決するため、正方晶系であるBTに、同じく正方晶ペロブスカイト形強誘電体であり、かつ、Tcの高いBKT
を固溶することによって、大きな圧電性を保持したまま、動作温度範囲の広い(Tcが200 ℃以上で、かつ、d33が300 pC/N 以
上)無鉛圧電セラミックスを得る。
得られたセラミックス試料について、誘電特性温度特性、抵抗率特性、圧電特性等の電気的諸特性を、現有設備ならびに本
研究で導入する「強誘電体分極特性評価システム」を駆使して、詳細に測定・評価を行う。
3. これまでの研究成果
図1は、昨年度に取り上げたBNT-BKT-BT三成分系[BNBK]の相境界MPB付近の相関係を示す。作製した組成は、BNBT6
とBNKT16を直線で結んだa(BNBT6)(
- 1ーa)
(BNKT16)系(BNBK1-a)と、BNBT7とBNKT20を直線で結んだa(BNBT7)(
- 1ーa)
(BNKT20)系(BNBK2-a)で、ともに、a=0 、 0.2 、0.4、 0.6、 0.8 、1である。これらの系BNBK1およびBNBK2のキュリー
点Tcは300 ℃前後の比較的高いTcが得られたが、組成によるTcの大きな変化は見られなかった。また、BNBK1の自由誘電率
e33T/e 0は600程度であったのに対し、BNBK2のe33T/e 0は1000以上の高い値が得られた。さらに、電気機械結合係数k33は、
BNBK1系では全ての組成で0.55前後の比較的大きな値を示し、BNBK2ではa = 0.4および0.6で0.55を超えるk33値を得た。
以上のように、BNBK三成分系では大きな自由誘電率e33T/e 0が得られた組成で、最大値と同程度の結合係数k33が得られて
いる点が大きな特徴であり、大きな圧電定数d33が期待される。すなわち、圧電定数d33は0.852
(Bi1/2Na1/2)TiO3- 0.12
(Bi1/2K1/2)
TiO3-0.028 BaTiO3組成で190 pC/Nが得られ、かつ、キュリー温度Tcが300 ℃程度と無鉛圧電セラミックスとしては非常に高
い値を示す組成が得られた。
図1 BNT-BKT-BT三成分系[BNBK]の相境界MPB付近の相関係
4. 本年度の目標
昨年度のBNT、BKTおよびBTを主体とした三成分系組成のMPB近傍、すなわち、0.852BNT-0.12BKT-0.028BTにおいて大き
な圧電定数d33=190.7[pC/N]が得られた。しかし、同組成の圧電温度特性を測定した結果、BNT単体で報告がある通り、この
系でも比較的低温で、反強誘電相に相転移する第二変態点が存在していることがわかった。
したがって、本年度はこの第二変態点の高温化を試み、本来目標の高温キュリー温度化(Tc>300 ℃)を目指す。昨年度の
考察より、MPBではBKT:BTの比が約4:1および2:1において比較的大きな圧電d定数が得られているので、本年度は
(Bi1/2Na1/2)TiO3-(Bi1/2K1/2)TiO3-BaTiO3 [BNBK 系]のBKT:BTが4:1および2:1に固定した横のラインについて、MPBよりも
正方晶側にずらした組成、すなわち、BNBK2:1-aおよびBNBK4:1-a(a=0.852, 0.81, 0.78, 0.75, 0.72, 0.69)を取り上げ、第二変態
点が200 ℃以上に高温化することを確認する。
5. 本年度の研究計画
1)昨年度に開発した非鉛系圧電セラミックス組成、すなわち、チタン酸バリウムBaTiO3 [BT]、チタン酸ビスマスナトリウム
(Bi1/2Na1/2)TiO3 [BNT]およびチタン酸ビスマスカリウム(Bi1/2Na1/2)TiO3 [BKT]からなる3成分系固溶体強誘電体セラミッ
クスを実用的な非鉛圧電アクチュエータ材料の候補として取り上げ、そのうち、昨年度に得られた最適組成のセラミックス試
料を通常のセラミックス焼成技術により作製する。
2)得られたセラミックス試料の物理的・電気的諸特性を現有の測定機器を駆使して詳細に調べる。以上のような手順を踏んで、
BTの有する大きな圧電性を保持したまま、動作温度範囲の広い(Tcが200 ℃以上で、かつ、d33が300 pC/N 以上)無鉛圧電
セラミックスを得る。
3)次に、最適組成のデータを使用して、積層型非鉛圧電アクチュエータを設計し、製作する。
4)設計・試作したアクチュエータの特性を綿密に調査し、従来のPZT鉛系圧電アクチュエータと比較して、詳しく性能評価する。
5)それらの結果を基に、非鉛圧電アクチュエータの新しい応用分野を開拓する。