外務専門職試験 専門科目

2010 年度
外務専門職試験 専門科目(憲法・国際法・経済学)総評
●憲法
第1問
夫婦別姓の導入が議論されているが、本問では、夫婦同一姓を強制する現行法の憲法問題を問われている。婚姻の自由に対す
る制約と捉えるのがオーソドックスであるが、事実上、女性に対してのみ不利益が課されるという面をとらえて憲法 14 条の問
題、あるいは、従前の姓を称する自由といった視点から、憲法 13 条の問題とすることも考えられよう。
第2問
司法権の限界についての事例式問題である。市議会(地方議会)の出席停止処分について司法審査は及ばないというのが判例・
通説であるが、本問では、処分がなされた経緯からみて、単純にそのように割り切ってしまってよいのかという疑問(問題提起)
が残る。議会の機能不全とも言える異常事態を、あくまで選挙を通じた民主主義による解決に委ねるのか、それとも司法権によ
る介入によって解決するのか、という視点が必要になる。
第3問
教育権の所在についての、いわゆる国民教育権説を論評させる出題である。設問の主張の論拠は、①子どもの教育を受ける権
利に対する責務を担う者が親を中心とする国民全体である、②憲法 23 条は教授の自由を含み、それは普通教育の教師の自由に
及ぶという2点であり、その妥当性を検討していくことになろう。
●国際法
昨年の新試験委員の様子見も終わり、例年並の難易度に戻った感があります。実力差のつく良問です。以下に考えられうる論点を挙
げておきますが、網羅できなくとも、いずれかの論点を掘り下げて書ければ大丈夫でしょう。
第1問
伝統的な規範形成のあり方として条約と国際慣習法の欠点(限定性、相互性、不明確性、法の欠缺)を指摘し、これを補う現代
国際法の規範形成プロセスを示せればよい。法典化条約の整備(普遍性)、国際レジームの形成(客観性、積極性)、一方的国内措
置や国際組織の決議による形成。第1回答練第1問、論述マスターの 14-1(2002 年過去問)、14-3 で解ける問題。
第2問
犯罪人引渡の定義と裁量性を書き、引渡義務を負う場合として、通常の犯罪人引渡条約が存在する場合があり、双方可罰性、
特定性の原則、自国民不引渡原則の条件を論じる。犯罪人引渡条約が存在しない場合でも、国際テロ関連条約、リビアやアフガ
ンに対する安保理決議、国際刑事裁判所による起訴によっても引渡義務が発生する。それ以外には、相互主義に基づく国内法や
国際礼譲によっても引渡はできる。また、政治犯不引渡原則、難民条約、裁判権免除、自国内での訴追を理由に拒否できる。論
述マスター7-8 の問題。ベーシック p.144
第3問
浅田先生の置き土産論点。安保理決議の実施で加盟国の主権との関係で問題になるのは、拘束力ある決定であり、国際的側面
と国内的側面がある。決議 1373 や 1540 のような決議は制裁委員会を設け、国内立法義務まで課して実効性を挙げたが、一部の
国による立法である点で主権の自由を害しかねず正当性に問題がある(第1回答練第2問)。一方、国内面で ICTY 設置決議のよ
うに各種の憲法規定との抵触の問題を生じる場合もある(罪刑法定主義、令状主義等)。論マス 7-4、ベーシック p.138 の問題。
●経済学
昨年と比べると、3問とも解きやすい問題であった。TAC・Wセミナーの講座を受講し、基本から応用までしっかり固めてきた受
験生であれば、合格レベルの答案は十分に書ける。
第1問(費用逓減産業における価格規制の問題)は、2006 年本試験第1問(論述マスター経済学第Ⅰ部第 13 章)とモデル設定が全く同
じであり、問題全体のボリュームはあるものの基本的な内容である。また、簡単ではあるが、限界費用の計算に「微分」が必要であっ
た。各問の内容はベーシック経済学Ⅰ第6章第3節の該当部分を書けば十分である。
第2問(AD-ASモデルの計算問題とデフレ期待の影響の問題)は、計算過程が複雑である点とデフレ期待が貨幣乗数に与える影響
を問うている点ではやや高度である。AD-ASモデルの計算問題については特別対策講義や論文答練第5回第2問で扱ったので、十
分に練習した受験生であれば本問の計算も正確にできたであろう。
第3問(開放経済における金融政策の効果に関する問題)は、まず問(1)と問(2)の基本問題を確実にできてほしいところである。問(3)
の大国モデルは経済学論文対策ゼミで扱った内容であり、ゼミ生は確実に得点できたと思われる。大国モデルについて知らなくても、
論文答練第6回第3問(2)の内容を応用して解くことが可能である。