進路指導室から第36号

平成 27 年 11 月 10 日
進 路 指 導 部
「大阪市立大学医学科出張講義」について
11月6日(金)に、大阪市立大学医学部 大学院医学教育学 教授 首藤太一先生を講師としてお迎えし、
「大
阪市立大学医学科出張講義」を行いました。
首藤先生は、現在、大阪市立大学で教鞭を取られるとともに、全国各地の高校や予備校等でも、生徒、教員、
保護者対象の講義や講演を行われています。ただし、なかなかお忙しい身のゆえ、なかなかその実現は容易では
ありません。やっと、今回、念願の基町高校での実施に至りました。
まず、首藤先生は、集まった生徒たちに、いくつかの簡単な質問を答えさせる中で、姿勢を正し、
「話はきちん
と聞く」
、そして、
「手はしっかり、そして、速く上げる」ことを指導されました。下の写真からも生徒たちが先
生の指導に従っていることが伺えます。
さて、先生の講義の内容の中で印象に残ったことは以下の内容です。
(1)
「6時間長生きの話」
首藤先生が研修医時代、真夜中にある男性が病院に運びこまれた時のこと。先生がその男性を担当されまし
たが、しばらくして亡くなられました。そして、数ヵ月後にも同じようなケースがあり、その時も先生の懸命
な処置にもかかわらず息を引き取られました。先生は、その後も急病患者や入院患者の対応を追われながら次
の朝を迎え、疲れきった身体で男性の処置に関する内容をレポートにまとめ、10時からの医療スタッフによ
るカンファレンスに臨み、レポートを報告されたそうです。しかし、その処置をめぐって先生は多くのスタッ
フからバッシング(非難)を受けたそうです。そして、カンファレンスが終わり、スタッフのほとんどが部屋
から去った後に落ち込んだ先生が部屋から出ようとした時に、ある教授が首藤先生に歩み寄り、こう言われた
そうです。
「前は3時間だったが、今回は6時間長生きできたからいいじゃないか」と。この励ましを受けて、
先生は、次回はもっと長く生きてもらえるよう頑張ろうと思われたそうです。
(2) 過酷な労働環境
研修医時代の首藤先生の労働環境は以下のようなものでした。
○ 朝8時から23時まで、診療、教育、研究にフル回転で、月の当直回数は10~15回
○ 当直明けにも仕事があり、週の労働時間 100時間は当たり前
○ 自宅での夕食 年に30回で、たまに会う子どもには、
「また来てね」と言われた
○ 賃金は、時間あたりにしてコンビニ店員より圧倒的に尐ない
そんな労働環境においても、首藤先生は、自らを「プライドと責任感で支え」られました。
(3) アメリカと日本の医学部入学について
アメリカ留学の中でアメリカと日本の医学部入学の違いを痛感されたそうです。
アメリカ
日本
医学部受験資格
大学卒業
高校卒業
医学部受験年齢
23歳以上
18歳以上
就学期間
4年
6年
入学・国家試験
筆記・実技・面接
主に筆記
医学部に入れたから
医師を志す理由
さまざま
親に言われたから
特に、医師を志す理由については、アメリカでは、
「社会的なステータスを得たいから」
、
「多くの患者を助け
たい」といった自律的なものだったそうです。しかし、日本の場合は、
「医学部に入れたから」
、
「親に言われた
から」といった他律的な理由である場合が多くその違いを実感されたそうです。
(4) 「良医に必要なもの」について
留学中に、首藤先生はアメリカの医療関係者に、
「良医に必要なもの」について質問をしたところ、以下のよ
うに返されたそうです。
1.Skill(技術)
2.Knowledge(知識)
3.Mindset(心・意気)
その中で、最も教育の中で育むことが難しいのは、
「Mindset(心・意気)
」とのことだったそうです。
(5) 現在の医者は良医か?
現在、医学部に入学してくる学生は以下のような学生が多いとのことです。
1. 数学、理科、英語などの机上の勉強は良くできる
・ 「お医者さんになる人は頭がいいので、世の中のことは何でも知っている」と思われているが、
中には、こんなことがわからないのかと思うほどの学生がいる。
(例:小豆や大豆はどちらが大きいか、手紙等での「謝辞」の使い方など)
2. エリート育ちのため、
「無駄なこと」
、
「回り道」
、
「しかられること」を本能的に避ける
3. Multi Choice Question にさらされた弊害
・ 価値観の尐なさ
「しんどい」or「しんどくない」
、
「無駄」or「無駄じゃない」の基準だけで判断する
・ 解答を「選択する」のは得意
受験勉強での択一式の問題には対応できるが、自分で答えを見いだす問題には対応できない
・ 人生の目標が、
「医学部合格」→「国家試験合格」→「医師になること」になっており、
「良医
になること」ではない
(6) 世の中が求める「良医になること」
① コミュニケーションの基本
1.目を見る
2.話を聴く
3.うなずく
また、患者さんに対しては、共感的態度で傾聴することが大切
② 「Skill」アップのコツ
実習等で模範例をぼんやり見てる学生は上達しない。
「次は自分がやらないといけない」という気持ちで他
の人がやるのをしっかり注視することが「Skill」アップには不可欠。また、教師(目上の者)から「やっ
てみるか」の誘いは、
「やれ」と捉えなければならない。また、やらしてもらいたいなら「うなずく力」が必
要。
(7) 「コミュニケーション」力
「コミュニケーション」力は必ずしも「Speech」力ではないとのこと、
「コミュニケーション力」とは、以下
のような3つの力が関わっています。
1.
「リスニング」力
→ 「感じる」力
2.
「リアクション・レスポンス」力
→ 「うなずく」力
3.
「スピーチ」力
→ 「伝える」力、
「メッセージ」力
口は「一つ」
、目と鼻は「二つ」ずつあります。ですから、
「しゃべる倍、目を見て、うなずいて聴く」こと
が大切です。
(8) 卒業試験
大学院での試験で以下のような問題が出題されたそうです。
問 : 以下の状況の中で、医者はまず何をすべきか
・ 92歳 男性
・ 77歳の時に脳内出血に羅患
・ 後遺障害のために15年間、自宅で寝たきり状態
・ 本日、同居の妻に発見され、救急搬送された
答 : 「妻の話をしっかりと傾聴し、支えること」です。
(9) まとめ
医療においては、
「答えがないことを考え続ける」ことが大切であり、そのために求められることは、良医(遣
える人)を目指すことであり、それは、
「Mindest」を身につけることです。そして、以下のようにまとめられ
ました。
1.医者は客商売
・ 自分から元気に挨拶できるようにしよう
・ 人の話は相手の目を見て聴こう
2.いろいろな患者・家族・人とコミュニケーションするために
・ アンテナを立てて、観察力を磨こう
・ 世の中に無駄なことなどは一つもない
・ 患者(相手)の心理を理解するため、痛いことを経験しよう
3.コミュニケーション力=人間力の向上に心がける
・ 苦手だといって避けない
最後に、
「太い根、太い幹に輝く花が咲く、
『無駄』が『ゆとり』になり、
『ゆとり』は『豊かさ』につながる」
とまとめられました。
〔補足〕
講義終了後、首藤先生を交えて、本校教員と他校の先生方と懇談を行いました。
首藤先生は気配りの人で、参加者全員の名前を覚え、話しかけてくださいました。
(ここでは書けないような「楽
しい」懇談でした)そして、首藤先生は、次の日にも勤務があるにもかかわらず、10時過ぎまで私たちにお付
き合いをしていただきました。
懇談会の最後に、首藤先生から挨拶されましたが、以下のようなことを話されました。
○ 最近の高校の先生方は元気がないように思える。先生方に元気を出してもらうために自分の力を役
立てたい
○ 教育に本格的に関わることになり、外科医をやめて10年経つが後悔していない。自分は100人
の患者の命を救える人材を育成したい
首藤先生の高校教育への期待と次世代の育成に対する強い意欲を感じました。また、首藤先生の妥協を許さな
い姿勢に触れることができたように思います。
講義では、寸劇を使った内容もありました。
この場面は、医者(首藤先生)と患者の三浦君(数
学科の三浦先生)との対応のひとコマです。
聴く者を飽きさせない講義であっという間に2時間
が過ぎました。
首藤先生、改めて、ありがとうございました。
なお、11月13日(金)に京都大学、11月20日(金)に早稲田大学先進理工学部、12月19日(土)
に東京工業大学の出張講義を行います。次は、どんな講義を聴かしていただけるのか楽しみにしています。
(文責:進路指導部 池本 邦彦)