平成 23 年度高分子科学功績賞 うえ だ 上田 みつる 充 東京工業大学大学院理工学研究科・教授(工学博士) 〔業績〕 縮合系高分子の合成法の開発 Development of New Synthetic Methods for Condensation Polymers 上田充氏は、昭和 45 年千葉大学工学部工業化学科を卒業後、 昭和 47 年同大学院工学研究科修士課程工業化学専攻を修了し、 昭和 53 年に東京工業大学工学博士の学位を取得した。昭和 47 年に山形大学工学部高分子化学科に助手として採用され、昭和 53 年から1 年間、米国アラバマ大学に博士研究員として滞在し た。昭和 55 年に助教授に、平成元年には教授に昇進した。そ の間、昭和 60 年から 1 年間米国 IBM アルマデン研究所に客員 研究員として滞在した。その後、平成 10 年に東京工業大学大 学院理工学研究科有機・高分子物質専攻の教授に就任し、現在 に至っている。 上田氏は縮合系高分子の合成法の開発に一貫して取り組み、 顕著な研究業績を挙げてきた。とくに、活性アシル誘導体の 開発、これらを重合場で生成させる活性化剤の開発を行い、温 和な条件下での縮合系高分子合成法を確立した。さらに、より 簡便に一次構造の制御された縮合系高分子合成の新しい分野を 切り開いてきた。主な研究業績は以下のとおりである。 1)直接重縮合のための各種縮合剤の開発 カルボン酸と求核剤との反応を温和な条件下で進行させるた めの種々の高活性縮合剤の開発を行い、これらの縮合剤がカル ボン酸の活性化を重合反応場で行う直接重縮合法による縮合系 高分子合成に非常に有効であることを示した。その中の一部は 工業的に製造され、電子工業関連の産業において長年使用され ている。 2)化学選択的ポリマー合成および定序性ポリマーの合成 先に合成した縮合剤の高い官能基間の反応選択性に着目して、 多官能性モノマーの官能基を保護せず、望みの官能基間の反応 のみを進行させる化学選択的ポリマー合成に成功している。さ らに、非対称モノマー間の重合を検討し、対称−非対称モノマ ー、2 種の非対称モノマー、そして、3 種の非対称モノマー間 の重合により定序性ポリマーを一段で合成する方法を開発した。 3)簡便なデンドリマー合成 デンドリマーはタンパク質合成と同様にその合成方法は煩雑 であり、大量合成には不適である。そこで、デンドリマーの簡 便な合成方法の開発に取り組み、保護−脱保護操作を必要とし ない活性化剤を用いる one-pot 法や縮合と脱保護を one-pot で 行う合成方法を開発し、従来法に比べて合成ステップを半減さ 344 せた。 4)ハイパーブランチポリマーの分岐度制御 ハイパーブランチポリマーは多段階の合成ステップを必要と するデンドリマー合成に比べて、ABn モノマーの重合で得られ るのでその合成法は簡便である。しかし、分子量分布がなく構 造が単一なデンドリマーと異なり、ハイパーブランチポリマー の分子量分布は広く、分岐度(DB)は 0.5 程度である。この分 岐度制御に取り組み、モノマーデザインを工夫することにより、 任意の分岐度、すなわち、DB が 0 の線状ポリマーから DB が 1 の100 %分岐したハイパーブランチポリマーの合成に成功した。 5)Ni 触媒を用いる芳香族ポリマーの合成 有機金属触媒を用いる縮合系高分子合成において、簡便な芳 香族ポリマーの合成方法として、塩化ニッケル/亜鉛系触媒に 着目し、ポリ(フェニレン) 、ポリ(エーテルケトン) 、ポリ(エ ーテルスルホン)などの一連の芳香族ポリマーを合成し、この 重合方法がC-C 結合生成をともなう縮合系ポリマーの一般的な 合成方法になり得ることを示した。 6)位置選択的酸化カップリング重合による芳香族ポリマー の合成 縮合系高分子合成において、アトムエコノミカルな重合は酸 化カップリング重合であるが、大きな問題はカップリング位置 選択性である。この分野において、塩化銅、塩化鉄、触媒量の バナジル錯体/空気系を用いた酸化カップリング重合で、位置 選択的なポリ(フェニレン) 、ポリ(ビナフチレン) 、ポリチオフ ェン等の合成に成功した。 これらの成果は 550 報以上の学術論文として公表され、国内 外で高い評価を受けている。 また、高分子学会では、本・支部主催の講演会、夏季大学の 委員や講師、学会の出版物の編者および執筆者、高分子学会の 光反応・電子用材料研究会の委員長、システム情報委員会委員 長、PJ の編集委員や編集委員長、行事委員長を務めるととも に、学会理事/常任理事として高分子学会の発展に寄与した。 以上のように上田氏の高分子科学および高分子学会への貢 献はきわめて大きく、高分子科学功績賞に値するものと認め られた。 高分子 61 巻 5 月号 (2012 年)
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