子どもの主体的な考えを生かした理科学習 ~生き生きと活動できる理科学習を目指して~ 田原本町立東小学校 石井 裕子 1.はじめに 各学年で理科を学習するにあたって次の能力を育てることが重要である。 第3学年 身近な自然の事物・現象の共通点や差異点に気付いたり、比較したりする能力 第4学年 自然の事物・現象の変化とその要因を関係付ける能力 第5学年 自然の事物・現象について、変化させる要因と変化させない要因とを区別しながら、観察や 実験を計画的に行っていく条件制御の能力 第6学年 自然の事物・現象についての要因や規則性、関係を推論する能力 今までこのような観点で理科を指導できていなかった。そこで、今年は6年の担任ということで、理 科の授業を見直すことにした。 ◎今まで行ってきた理科の指導 ・教科書に載っている実験を行い、予想を立てて、結果をまとめるといった流れ。 ・結果はほとんど教師がまとめてしまっていた。 ・子どもたちが何を学んでいるかを、きちんと理解できておらず、ただ、実験が楽しいというだけで終 わってしまっていた。 ・なぜ、この実験を行っているのか、自分の生活とどのように結びついているのかなどが明確ではなか った。 だから、予想・仮説を立ててそれを解決する実験を考え、結果からわかることを考察していく力をつ けたいと考えた。問題解決能力をつけ、日常生活に結びつくことを意識して授業づくりを行った。 子どもの主体的な考えを生かした理科学習を進めていく際に、以下のポイントを中心に進めていくこ とにした。 1.身の回りの事柄や事象とつなげていけるような学習にする。 2.子どもの主体的な考え(考察や疑問、調べてみたいこと、振り返り)をもとに次のめあてや実験テ ーマを見つけていく。 3.予想や仮説を立てる際、実験結果から考察する際、書く活動を必ず取り入れる。 4.調べてみたいことを立証するための実験方法を考えさせる。 5.子どもの思考が自然な流れになることを意識して、教材研究を行う。 2.実践報告 単元名:水よう液の性質 (1)指導計画 次 時 ○めあて ・主な学習活動 1 1 ○10円玉にしょうゆや酢、うすい塩酸をかけてみよう。 2 ○金属(鉄やアルミニウム)にうすい塩酸を加えるとどうなるだろうか? ・うすい塩酸に鉄とアルミニウムを加えて実験する。 3 ○実験結果から考えを深めよう。 ・第2時でなくなった鉄やアルミニウムはどこへ行ったのかを考える。 実験結果をまとめて考察や疑問を話し合い次の授業の活動の方向性を考える 時間を作る。 4 ○うすい塩酸にとけた鉄(スチールウール)やアルミニウムのゆくえを調べよう。 ・第3時で考えた実験をする。 5 ○うすい塩酸に溶けて出てきた黄色っぽい粉や白っぽい粉は鉄やアルミニウムなのだ ろうか。 ・実験方法を考え調べる。 6 ○実験結果から考えを深めよう。 ・実験結果をまとめ、考察・疑問をまとめ共有しあう。 7 ○ほかの水溶液でも鉄やアルミニウムはとけるのだろうか。 ・うすい水酸化ナトリウム水溶液と食塩水とそれ以外の自分たちで調べたい水溶液を考え 鉄とアルミニウムに加えて実験する。→何日か試験管をおいておく。 2 3 8 ○水溶液によって性質はちがうのだろうか。 9 ・リトマス紙を用いて、様々な水溶液を調べる。 10 ○水溶液には何がとけているのだろう。 ・炭酸水について実験する。 11 ○本当に二酸化炭素は水に溶けるのか。また、酸素や窒素も水に溶けるのだろうか。 ・二酸化炭素・酸素・窒素を水の入ったペットボトルに入れて実験する。 (2)実際の授業 第1時 T:10 円玉をピカピカにする方法って・・・ C:しょうゆや酢をかけるときれいになると聞いたことがある! めあて 予想 10円玉にしょうゆや酢、うすい塩酸をかけてみよう。 しょうゆをつけると10円がきれいになる。汚れがとれる。色が変わる。 塩の成分でピカピカになる。 結果 10円玉がきれいになった。色が薄くなった。 考察 T:どうして、きれいになったのか C:きれいになって、汚れがとれた。その部分だけとけた。 10 円玉は銅である。つまり、金属をきれいにしたり溶かし たりする水溶液があることがわかる。 考察より ・次は1円なども試してみたい。 ・銅以外の金属も溶けるのだろうか? 1 円玉はお金なので代用として、アルミホイルを用いること を話し合った。他の金属として、鉄が出てきたので、次時の実 験では、金属(鉄やアルミニウム)に塩酸をかけてみることに する。 子どもの考察や疑問から次の時間のめあてを決め ていく。子どもの思考の流れを大切にした。 第2時 めあて 金属(鉄やアルミニウム)にうすい塩酸を加えるとどうなるだろうか? 結果 実験結果に「くさい」と書 いている児童がいた。くさ いということは何か気体 が発生しているのではな いかという意見が出てき た。 結果は自分の言葉で書かせるようにして きた。初めは、なかなか書けなかったが、 実験の様子をよく見て些細なことも書く ように伝えると、徐々に書けるようになっ てきた。 第3時 実験結果から考えを深めよう。それぞれがノートに書いた実験結果・考察を共有する。 T:鉄やアルミニウムは、消えたやなくなったと言っているけれど、どこにいったのだろうか? 鉄やアルミニウムは溶けてどうなっ たかを子どもたちは絵と言葉で表し た。ノートは一人一人が自由に考えを 書くことのできる場である。友達の意 見を聞いてしまうと、それに固まって しまうこともあるため、まずは自分の 考えを整理する場として自由に書く という活動を大切にした。 意見の共有。 鉄やアルミニウムが溶け たかどうかを調べる方法 を考えた。5年の時に食塩 水から食塩を取り出すと きにコンロで焼いたこと を思い出してこの方法に 決まった。実験方法はでき るだけ子どもたちに考え C:もしコンロで焼いて、何か出てきたら、溶けているということになる。 させるようにした。 T:もし何も出てこなかったら? C:何も出てこなかったら気体になって空気中に出ていったということになると思う。 T:次の授業のめあては、 「うすい塩酸にとけた鉄(スチールウール)やアルミニウムのゆくえを調べよう。 」 だね。実験方法はコンロで焼いてみよう。 第4時 めあて うすい塩酸にとけた鉄(スチールウール)やアルミニウムのゆくえを調べよう。 T:でてきた黄色っぽい粉や白っぽい粉は鉄やアルミニウムなのかな? C:違うと思う。 T:どうして? C:色、形が違うから C:同じだと思う。 T:どうして? C:食塩水だと水に食塩がとけて、蒸発させると食塩が出てきたから、溶けたものが出てくると思う。 T:そしたら、次の授業は薄い塩酸にとけた鉄やアルミニウムは もとの、鉄やアルミニウムなのかを調べてみよう。どんな調べ 方があるかな? T:まず、鉄だとしたら? C:磁石につく C:もう一度塩酸に溶かす。 T:では、次の時間にやってみよう。 疑問を持つことが大切である。なぜ、この結果になったのかな? と子どもたちは考える。子どもたちの疑問の中にはすぐに解決し ないものも、もちろんある。しかし、子どもの自由な考えを大切 にしていきたいと思った。 第5時 めあて うすい塩酸に溶けて出てきた黄色っぽい粉や白っぽい 粉は鉄やアルミニウムなのだろうか。 予想 同じだろう 理由:溶けたものが残っているから。 ちがう 理由:色や形が変わっているから。 など 疑問の中には教科書に載っていないこともあるが、 疑問をインターネットなどで調べてみたりするこ とで、興味深く取り組んでいけた。素朴な疑問を大 事にした。 第6時 実験結果から考えを深めよう。 考察・疑問の中で別のものが 何かを知りたいと書いている 子どももいた。 塩酸と水酸化ナトリウム水溶液だけではなく他の水溶 液でも、鉄やアルミニウムがとけるのだろうかという疑 問が出てきた。そこで、他の水溶液にどんなものがある かを意見を出し合い、各グループでどの水溶液で実験し たいかを話し合った。 この授業の振り返りで、「次の時間に炭酸水や酢で実験 するのがとても楽しみです。」と書いている子どもがい た。実験が楽しいと感じる時は、自分たちで考えてそれ を確かめることができる時なんだなと実感した。 第7時 考察より・・・ ・身近にある水溶液はアルミや鉄をす ぐには溶かさない。だから、危険では ないことがわかった。 ・酢は鉄を溶かすのでびっくりした。 ・鉄を溶かす水溶液もあればそうでな いものもある。水溶液によって性質が ちがうんだろうな。 酢と鉄、酢とアルミニウム、炭酸水と鉄、石灰水とア ルミニウムはすぐには反応しなかった。けれど、何日 かおいておくと、これらは、少しずつ溶けていた。 水溶液の色も酢と鉄は、赤っぽい色に変化していた。 これには、子どもたちも私自身もびっくりした。 赤っぽいのはさびているにおいがしていたので、さび はこういう風に少しずつなるものだと、実感できた。 自分たちで調べたいことを実験して結果が出た時、生 き生きと活動できる理科学習になっていた。 リトマス紙の実験 では、日常生活にあ 第8・9時 るものを自分たち めあて で調べて実験を行 水溶液によって性質はちがうのだろうか? った。子どもたちは 身近にあるものと 関連付けて考えら れるようになり、理 科の面白さを感じ ているように思っ た。 自分たちのグループで、調べたい水溶液を話し合って実験を行った。調べたい水溶液を事前に考えてお くことで、次の実験の見通しがたち、意欲的に授業に取りかかることができていた。 今日は何の実験をして、何を調べるかということが子どもたちの中で整理されていた。 家でアルカリ性・酸性・中性のものを探して みたいと思った。と振り返りで書いている子 どもがいたので、宿題で自主学習ノートに調 べてくるように言うと、たくさん書いてきて いる子どももいた。 第10時 めあて 水溶液には何がとけているのだろう。 食塩水→食塩+水 砂糖水→砂糖+水 ここまでは既習の事柄であるが、炭酸水はわからなったので、炭酸水の成分表示を見てみた。 (成分表 示は第8時で家庭の中にあるいろいろな液体を調べた時に見ている。 ) 炭酸水→水+二酸化炭素 T:どうやって二酸化炭素を取り出す? C:はじめのころ、酸素を集めるのに水の中で集めた(水上置換法)から、そうしたらいいと思う。 T:集めた気体が本当に二酸化炭素かどうかを調べる方法をグループで考えよう。 C:気体検知管・石灰水・ろうそくの火・線香のけむり など 実際にそれぞれのグループで実験をしてみて、二酸化炭素だということがわかった。 考察や疑問より ・酸素や窒素は水に溶けるのだろうか? ・水に二酸化炭素が溶けているだけなのになぜ、ふると「シュワー」となるのだろう。 ・生活の中で二酸化炭素をたくさん体内に取り入れているとわかってとてもびっくりした。 ・二酸化炭素を飲んでいるからげっぷが出ることがわかった。 疑問に思ったことを自由に書くことで子どもたちは様々なものの見方や発想を持てるように なってきた。 第11時 めあて 実験方法 本当に二酸化炭素は水に溶けるのか。また、酸素や窒素も水に溶けるのだろうか。 ペットボトルに酸素・窒素・二酸化炭素をいれてふる。 結果 二酸化炭素だけペットボトルがへこんだことから、水に溶けるのは二酸化炭素だけであるとわか る。 6年のはじめのころは、自分の考えをノートに書くことに慣れていない子どもが多かった。予想、実験 方法、結果を自分でまとめることや、考察・疑問、振り返りをどのように書けばよいかわからずに戸惑 っていた。しかし、子どもたちは書く回数を増やすごとに、正解を求めなくてもいいという安心感や、 自分が思ったことを書けばいいと考えられるようになってきた。そして、自分の考えを書くことに抵抗 を感じる子どもが減ってきた。この単元の最後の感想もしっかりとノートに記録できるようになった。 ただし、実験方法やめあてはまだ、教師とともに考えているので、その点はこれからの課題である。 3.成果と課題 子どもの主体的な理科学習を意識してこの一年間取り組んできた。その結果、初めの頃に比べて子ど もたちは自分の考えを書くことに、抵抗がなくなってきた。つまり、書き続けることで子どもの表現力 はついてきた。また、自分たちで考察し疑問に思ったことを次の授業の課題とすることで、子どもたち の主体的な考えを生かした授業づくりを目指した。子どもの考えを生かして進めていくことで、次の理 科の実験を早くしたい、早く確かめてみたいと見通しを持って意欲的に取り組む子どもが増えた。 しかし、このような子ども主体の授業をしていくには、今までの積み重ねが大切である。3年の理科 から系統立ててできたら、子どもたちも自信がつき安心して学習に取り組めるのだと思う。また、授業 のめあてや実験方法を子どもたちが考えることが難しく、今後の課題である。 これからは、子どもたちが考察・疑問をしっかりと持ち、解決するための予想や仮説を立て、実験し ていく理科を目指したい。子どもたちは自分たちの疑問を、実験を通して解決できた時に理科の楽しさ を感じていた。また、日常生活と理科を関連付けて学習していくことの楽しさも感じた。子どもたちが 自分の身の回りの事象と関連付けた時、理科に興味を持って取り組んでいるのが伝わってきた。そうい う子どもたちを育て、より子どもたちが主体的に活動できる理科授業を目指したい。 4.おわりに 今回、子どもの主体的な考えを生かした理科学習を進めていく中でわかったことは、子どもの思考の 流れを考えた教材研究が重要であることである。そして、子どもたちの思考のもとに進めていくため、 次の時間の学習の見通しを持って取り組むことができる。与えられた理科ではなく自ら学ぶ理科学習に つながっていく。そして理科を通して表現力や思考力を高め、子どもの学びの力をつけていきたい。
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