研修報告書 (中学校理科) 女川町立女川中学校 1 研修テーマ 敏之 生徒が自分で結論を導き出し,「分かる」を実感する授業を目指して - 2 工藤 生徒に考えを交流させる活動と教材・教具の活用を通して - 目指す授業像 (1) 生徒が考えを交流し,段階を踏んで自分の考えを深めながら,理解を進める授業。 (2) 生徒が図や具体物のモデルなどの教材・教具を活用して,イメージをもちながら実習や実験の結 果を分析,解釈し,表現できる授業。 3 研修テーマ・目指す授業像に迫るために これまでの実践を振り返ると,生徒に理科の楽しさを伝えたいという思いから,できるだけ多く の現象を演示することや,観察,実験を行わせることに力を入れてきたが,生徒に考察させること が十分にできなかったと感じる。具体的には,生徒がお互いの考えを交流しながら,まとめるため の時間を確保してこなかった。また,いろいろな現象の仕組みについて,教科書や資料集の図のみ を利用して説明してきた。その結果,生徒は十分なイメージをもって考えられず,自分の考えに自 信をもてずにいることが多かった。 これらの課題を解決するために,担任している中学校3年生の理科において,以下のような取組 を行いたいと考えた。 ・ 生徒に多様な考えに触れさせ自分の考えに自信をもたせるために,予想や考察をする場面で,発 問を工夫し,ペアで考えさせたり,グループで考えさせたりし,その過程ごとに考えを話し合わせ る。 ・ 肉眼で直接見ることのできないもののイメージをもてるように,教材や教具を工夫する。結論を 導き出すまでの探究の過程で,生徒が順を追って考えることができるように,学習プリントにモデ ルとなる図を示し,その図を繰り返して活用させる。 4 Ⅰ期の取組について 【実践単元名 遺伝の規則性と遺伝子】(「新しい科学」東京書籍) (1) 研修テーマに迫るための手立て ① 生徒に考えを深めさせる工夫について 「分離の法則」を調べる実習の結果を考察させる場面では,生徒に自分の考えをもたせるだけ でなく,ペアを組ませ,それぞれの考えを交流させる。 ② 教材・教具の活用について 単元を通して同じ遺伝子のモデルを使い,生徒が繰り返してイメージをもつことができるよう にする。学習プリントの図は,教科書の図や実習で用いるモデルに似せておく。また,生徒の気 付きを促すために,結果をまとめる表は個々の結果と全体の結果を並べて記入する配置にする。 (2) 具体的な取組 ① 生徒に考えを深めさせる工夫について 「分離の法則」を調べる実習において,初めに子や孫のもつ遺伝子の組み合わせを個人で考え させ,実習後にペアで考えを交流させた。生徒が自分の考えを練り直すことにより,自信をもっ て全体に自分達の考えを発表することができると考えた。 - TK1 - ② 教材・教具の活用について 考えを交流するペアごとに実習できるように,染色体に似せた形の遺伝子モデル(図1)を必要 数準備した。実習では,遺伝子を組み合わせる試技の回数を多くすることで,分離比を意識させ たいと考えた。また,遺伝子の組み合わせについて全体で確認する際には,モデルに似せた図を プロジェクターで拡大して示した(図2)。 図1 単元を通して利用したモデル 図2 全体の確認で利用した図 図3 実習結果の記録 学習プリントは,実習前に既習事項を図で書き入れ させ,それを基に孫がもつ遺伝子の組み合わせがどの ようになるかを各自で考えさせる構成とした。また, 実習結果は遺伝子の記号と現れる形質でそれぞれ記録 させ,順に判断させるようにした(図3)。さらに,自 分のペアの結果の隣に全体の結果の合計を並べて記録 する表にして,考察の場面で比べやすくした。 (3) 成果と課題 ① 成果 1単位時間で実習,考察まで行わせたが,結論を導くことはできなかった。成果としては,実 習と同じペアで考えを交流させたことで,明確に自分の考えを表現できた生徒もいた。単元を通 して同じ遺伝子のモデルを使ったことも遺伝子の組み合わせをイメージさせ,遺伝の仕組みを考 えさせることに効果的であった。また,実習結果を学習プリントに遺伝子の記号と形質の両方で 記録させたことは,生徒が考える助けとなったと思われる。 ② 課題 ア 生徒に考えを深めさせる工夫について 生徒に子や孫のもつ遺伝子を考えさせてから,実習に取り組ませたが,分離比を考えさせる という実習の課題を十分に伝えずに操作させたため,考えの交流において何について話し合っ たらよいか分からない生徒が多かった。また,生徒がもつ考えを予測できず効果的に発問がで きなかったため,生徒たちは段階を踏んで考えることができなかった。生徒が結論を導き出す までの過程を把握した上で,発問を吟味する必要があると痛感した。 イ 教材・教具の活用について 単元を通して活用したモデルと,既習事項の確認の場面で提示した画像とで,形や色の一部 が違っていた。また,遺伝子の組み合わせを表す板書では,学習プリントの図と違うものを示 してしまい,生徒の考えを迷わせた。生徒は実習に意欲的に取り組んだが,操作を終えるまで の時間にばらつきがあったため,指示の仕方を改善する必要があった。また,実習を通して学 習プリントに記録させる作業が多く,時間がかかりすぎてしまった。学習プリントの内容を精 選する必要があった。 5 Ⅱ期の取組について 【実践単元名 物体のいろいろな運動】(「新しい科学」東京書籍) (1) 研修テーマに迫るための手立て ① 生徒に考えを深めさせる工夫について Ⅰ期の反省から,理解力のある生徒が各グループに入るようなグループ編成を行い,話合い活 - TK2 - 動を行わせる。既習事項を1つ1つ確認しながら課題を把握させ,考察させる。 ② 教材教具の活用について 物体の運動のようすやはたらく力のようすを必要に応じ て電子黒板で見せることで,振り返りと理解の手助けとす る。学習プリントに実験の内容を簡略化した図(図4)を 入れておくことで,生徒が考える助けとする。また実験結 果を整理したグラフは,比較しやすいように並べる。 (2) 具体的な取組 ① 生徒に考えを深めさせる工夫について 理解力のある生徒を入れたグループ編成にすることに より,考えの交流を活発に行わせる。さらに,各グルー プで話し合った結果をホワイトボードに書かせて提示させ, 図4 実験の内容を簡略化した図 自分の班の結果と比較させることで,考えを交流し,自分なりの考えをもたせることができるの ではないかと考えた。また,考察の際に,悩んでいる生徒に対して,ヒントとなる言葉を与える ことで,自分の考えをもたせるようにする。 ② 教材・教具の活用について 導入の際に,電子黒板を利用して,前時に実験し た台車の運動の様子を映像で示す(図5)。その静止 画像に目では見えない斜面方向の力を矢印で書き示 すことで,斜面の角度と斜面方向の力の大きさの関 係を確認させ,本時の考察へと繋げさせる。学習 プリントに電子黒板の映像を簡略化した図を入れ, 生徒に物体にはたらく力の大きさや向きをプリント に記入させることで,見えない力をイメージさせる ようにした。また,記録の欄を力の大きさと速さの 変化の関連に気付かせるような配置にした。 (3) 成果と課題 ① 図5 実験の映像 成果 物体の運動についての実験の映像を示したことで,実験内容を振り返ることができ,その中で, 斜面方向の力を電子黒板上に図示したことで,考える手がかりを得た生徒もいた。各グループの 意見を発表する際に,ホワイトボードを利用して提示したことで他の班の考えを比較して考える ことができ,多くの生徒が自分の考えを練り直し学習プリントに書くことができた。 ② 課題 ア 生徒に考えを深めさせる工夫について 何について考えるか発問をした際に,予定していた以上にヒントを出しすぎてしまい,混乱 させてしまった。また,考えがまとまらない生徒に対する手立てを十分に行えず,自分の考え に自信がもてないままグループの話合いに臨み,理解力のある生徒の考え(図6)をそのまま グループの意見(図7)とするものも多かった。 図6 生徒の学習プリントの記述例① 図7 - TK3 - グループのホワイトボードの記述 イ 教材・教具の活用について 本時は考察が中心の授業のため,導入時に前時に行った実験の映像を電子黒板を利用して提 示した。実験内容を想起させるためには有効ではあったが,考察の段階で必要な斜面方向の力 の大きさを意識付けさせるために図示させたことは,教具の特徴を十分には生かせずに有効な 手立てとはならなかった。生徒の考えを引き出し結論に導くために,学習プリントをどの場面 で活用していくかをさらに吟味しておく必要があった。 6 Ⅲ期の取組について 【実践単元名 地球の運動と天体の動き】(「新しい科学」東京書籍) (1) 研修テーマに迫るための手立て ① 生徒に考えを深めさせる工夫について グループ内の話合いを活発にさせるために,グループを再編成する。また,課題について生徒 の考えや反応を予想し,生徒が何についてどのように考えるのかが分かるような発問を準備する。 ② 教材・教具の活用について コンピュータによるシミュレーションや大型なモデルを活用して,天体の動きや見え方と地球 の動きについて理解させる。実習で使ったモデルの配置と同じ配置の図を学習プリントに入れる ことで,実習した時の各自の気付きを記入させる。 (2) 具体的な取組 ① 生徒に考えを深めさせる工夫について 個人の考えを交流させ,グループとして考えをま とめる際に,個人の考えを引き出すことができる生 徒を入れたグループ編成を行った。実習後の考察の 場面で,Ⅰ期,Ⅱ期同様に,自分で考えをもち,そ れをグループで話し合い(図8),全体でまとめると いう授業の流れとした。 ② 教材・教具の工夫について シミュレーションソフトを活用し,自分が宇宙空 図8 グループでの意見交換 間にいて天体を見ているようなイメージをもたせた。また,星座の動きの観察を全体で疑似体験 させ,時間や時期の変化に伴い,星座の見える位置が変化することを確認させた。 実習では,太陽を中心に4つの星座を配置した大型なモデルを広い教室に準備し,その中の地 球の公転軌道に立って見ることにより,地球の動きと星座の見え方について考えさせた。 実習した際のモデルと同じ配置の図に星座の見え方や生徒の気付きをメモできる学習プリント を準備した。考察をする際には,授業の流れに沿った配置にすることで,段階的に考えを深めさ せるようにした。 (3) 成果と課題 ① 成果 ねらいを絞り,課題を明確にしたことで, Ⅰ期やⅡ期よりも話合いが活発に進み,多様 な考えを引き出すことができた。また,ホワ イトボードを利用して各グループの考えを掲 示し,生徒の考えを基にまとめを行うことが できた。グループ編成を変えたことで,これ までより活発に考えの交流が行われ,個人の 考えを生かしてグループとしての考えをまと 図9 グループで話し合った結果② めることができ,これまでよりも深まりのある考えが出てきた(図9)。 - TK4 - シミュレーションソフトを活用し地球の運動について確認したことは,生徒に実習の見通しを もたせるためには効果的であった。また,別教室に天体のモデルを配置し実習したことは,生徒 が地球の動きや天体の動きについてイメージ をもちやすくなり,結論を導く際に有効であ った。 季節の代表的な星座を配置して実習を 行い,その配置と合わせて学習プリント に図を入れたことで,生徒はイメージを もって実習や考察に取り組むことができ, 自分の考えを分かりやすく表現しようと した(図10)。 ② 図10 生徒の考えの記述 課題 ア 生徒に考えを深めさせる工夫について 深まりのある考えがそれぞれのグルー プから出されたが,その取り上げ方に工 夫が足らず,生徒に「分かる」を実感さ せるまでには至らなかった。 課題の予想と実習後の考えとの比較を させる時間をとるなど,より生徒の考え を深めさせたり,考え直させたりする工 夫が必要であった。 イ 教材・教具の工夫について 図11 使用したシミュレーションの図 1ヶ月ごとに星の動きを止めながらシミ ュレーションした(図11)が日周運動と年周 運動の区別をし,年周運動を強調するよう な見せ方の工夫が必要であった。学習プリ ントに太陽を中心に4つの星座を配置したモ デルと同じような図を配置したことにより, いろいろ気付いたことを書いた生徒もいた (図12)が,ほとんどの生徒は見えたものをた だ書くだけになってしまった。モデルの中で の移動の仕方や星座を見る際の注意点などを 書き込んでおいた方が生徒はよりポイントを 押さえて学習プリントに気付いた点を書き入 図12 生徒の学習プリントへの記述(実習結果) れることができた。 7 1年間の総括 (1) 研修の成果 ① 生徒に考えを深めさせる工夫について 3回の授業実践を通して,生徒が自分で結論を導くことができるように,課題に対する生徒の 考えを交流させる場を設定した。個人で考える,ペアやグループで考えを交流する,全体の場で 発表する,という段階を踏ませたことで,生徒一人一人の考えが深まるのが感じられた。発問に 関しては,生徒の反応を予想し,授業の流れの中で適切なことばを使うようにすることで,考察 の場面まで時間のゆとりをもって進めることができるようになった。 - TK5 - グループ編成については,実習や実験に応じて構成や人数を変えた。発言する生徒が固定せず, 生徒一人一人に考える自覚が出てきた。また,各グループの考えをホワイトボードに記入させ全 体に掲示することで,他のグループの考えを参考にすることができ,一人一人の考えに新たな深 まりや疑問をもたせることができた。 ② 教材・教具の工夫について モデルやシミュレーションソフトを利用し生徒の視覚に訴えることで,よりイメージをもちや すくなり,その後の実験や実習へと繋げやすくなることが分かった。 学習プリントについては,単に授業の流れに合わせたものにするのではなく,その中で,教科 書や提示する資料と関連づけたものにしたことで,生徒が内容を理解し意欲的に取り組むことが できていた。 (2) 今後の課題 ① 生徒に考えを深めさせる工夫について 各単元で,生徒の実態をしっかりと見取り,どうすれば生徒がより考えを深めることができる かについて引き続き考えたい。発問を焦点化しなければ,授業全体を低調なものにしてしまう。 また,生徒それぞれが考えをまとめる際の発問の仕方や学習プリントとの関わりについて更に工 夫していく必要を感じた。 ② 教材・教具の工夫について 生徒は図やモデルを通して,視覚的に捉えることで,具体的なイメージをもつことができ,興 味をもち,「なぜだろう」という気持ちになる。課題について考えさせるためには,教師側から の発問や仕掛けが大切である。今後も特に生徒が目で確認することの難しい分野やイメージする ことが難しいと思われる分野で,教材・教具の工夫を進め,生徒の理解を促していきたいと思う。 授業や観察・実験の流れに沿って学習プリントを作成してきたが,生徒が理解しやすいものに するには更に工夫が必要であった。学習プリントを活用することで,より生徒が考えをまとめや すくしていくために,発問の内容や教材・教具と関連した図を利用していくことなど,生徒の考 えを深める工夫をしていきたいと感じた。 主な参考文献 全般的な参考書 [1]評価規準の作成,評価の方法等の工夫改善のための参考資料【中学校 理科】 文部科学省 2011 図版の許諾について 図6,7,8,9, 10,12 授業実践の中で生徒が記入したワークシートやホワイトボードの一部であ る。記入生徒の氏名を伏せて資料を活用することとし,生徒の保護者から報 告書での使用許諾を得た。 図11 授業で利用したフリーソフト(つるちゃんのプラネタリウム)の画面で ある。制作者の許可を得て,報告書での使用許諾を得た。 - TK6 -
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