岩美自然学校における取り組みと エコツーリズム

岩美自然学校における取り組みと
エコツーリズム
格好の場であること、併せて学校外教育活動
1 設立の動機と経緯
の場を創造することが、未来性のある地域活
性化につながると確信を深めたことが継続の
地域の異業種、異世代の人間が集まり地域
大きな源である。
活性化集団「オフィス21」を1991年に立ち上
げた。発端となったのは地元教師の言葉「塀
2002年6月、「NPO岩美自然学校」を設立
に囲まれた学校から地域全てを学校へ」の含
した。会員は20名弱ではあるものの、実働可
意、すなわち学びと生活の一体化の町づくり
能な人数は少ない。勢い活動のリーダーは地
への模索であった。しかし実際に行ったこと
元の大学生に依存しているのが実態である。
は、どこでもあるイベントやフォーラムであ
事務局とて専従をおけない現実がある。ボラ
った。
ンティア団体から法人への脱皮をどう図る
そのなか、日本の国連加盟に尽力した郷土
か、拠点をどう確保するかが今後の課題であ
出身の澤田廉三の妻である澤田美喜が創設し
るが、この苦悩を背負い続けることがNPO
た、戦後の混血孤児のための「エリザベスサ
の宿命であることも偽らざる事実であろう。
ンダースホーム」の卒業生と出会う。彼らは
2 岩美自然学校の理念と役割
毎夏のように来ていた岩美の熊井浜を「僕た
ちのふるさと」と一様に語った。私たちは
経緯からみていただくと、我々は崇高な理
1995年に「戦後50年ホーム同窓会」を開催。
念を旗頭にして組織を作ってきたわけではな
そして澤田夫妻の「三愛(母子愛・祖国愛・
い。「我々の生活の場を少しでも豊かに」と
人類愛)」の精神を伝えたいと1998年に「澤
いう素朴な願いがまずあった。と同時に、こ
田メモリアル梧山塾」を発足させた。
れからの地域活性化は教育・文化を中核に据
「おやじ集団が次代に何を渡す」という精
えなければならない、というなんとはなしの
神は初志を具現化するチャンスに遭遇する。
感性が背後にあった。当時は至る所に金太郎
1999年文部省が始めた「子ども長期自然体験
飴のような「ハコモノ」が作られていた。私
村」の受託である。都会からきた子どもたち
たちは「ハコモノ」ではなく「地域のすべて
は、民宿を根城にしながら、大学生リーダー
が資源」にこだわった。資源に文化という付
のもと、岩美の海や野っ原を舞台にたっぷり
加価値を与えることが地域活性化そのもので
と遊び「今の子ども」から「いつもながらの
あると考えたからである。「環境、水」から
子ども」に返っていった。4年間受託しなが
「郷土の先人、偉人」、果ては「岩美の食」と
ら、岩美町の自然資源のみならず人的資源が
いった具合である。右往左往すること10年、
児童・青少年の様々な可能性を引き出すのに
辿り着いたところが「岩美の自然を子どもた
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れることは容易いが、心に取込むことは簡単
ちの学び場に」であった。
私心であるが、子どもの遊びと学びは同一
でない。我が恩師は「人の命は人の命(温か
線上にあると考えている。背景に美しい自然
さ)でしか育たない」といったが、リスクと
の存在が必要条件であること、遊びと学びが
対峙する覚悟、そしてバランスが重要である。
産業(文化)に結びついてはじめて地域の活
③チャレンジ教室:8月後半から1ヶ月、不
力といえる。美しい自然が美しい産業(人)
登校児童生徒を対象にした長期宿泊をともな
を育み美しい教育(心)を醸成する。「地域
う体験活動である。専門家とのタイアップが
の資源を豊かに保ちそれを皆で享受する」い
不可欠な事業だが現在は自然体験村の延長線
わゆるエコツーリズムの精神性をこのように
で取り組んでいる。私はどんな子ども達の心
捉えている。教室の学習だけではなく、地域
身も決して変わっていないし、差はないもの
全てが学びのフィールド、教室である。この
と捉えている、その子にとって僅か1%の感
ことは地域のグランドデザインにも通じる。
性の突出が、周りの人達に違和感を感じさせ
エコツーリズムはホスピタリティを享受する
ているだけなのだ。言い換えれば我々大人の
空間であり、その空間づくりに邁進する姿の
感性が99%退化しているのである。エコツー
ことではなかろうか。最近、頻繁に聞かれる
リズムには我々の失った感性の再生を求めて
問が「岩美自然学校はどこにあるのですか?」
いきたいものである。
である。答に窮して思わず「岩美の自然と人
④グリーンワーカー:環境省の委託による、
です」と答え、爾来このフレーズを使い続け
国立公園山陰海岸の海上からの清掃事業
ている。なんのことはない今の岩美自然学校
⑤ステップアップ事業:県の委託による、ひ
は企画・コーディネーター集団に過ぎない、
きこもりがちな若者を対象とした10日間の自
まだ出発点に立ったばかりなのである。
然体験・90日間の就労体験事業
⑥岩美サマースクール:小中学生を対象とし
3 現在(平成14年)の実践活動内容
た学習支援事業
①ワイワイクラブ:初めて試みている通年の
⑦岩美高校総合的学習支援事業:海を通して
自主事業である。毎月第2土・日曜、小中学
の自然体験活動
生を対象とした宿泊をともなう体験活動。週
これら事業は殆どが行政からの委託であ
5日制の受け皿としての発想であったが、町
る。行政がNPOを通して自然保護・自然回
内より町外の参加応募が多くいささか困惑し
帰のソフト事業を展開しようとしている時代
ている、テーマには修学旅行受入れ、エコツ
のトレンドが、この中身からも伺うことがで
ーリズムへの実験的試みとしての思いがあ
きる。しかし、政策に振り回されるのではな
る。近いうちには分析をしてみたい。
く、エコツーリズムのトレンドを本物にする
②子ども自然体験村:4年目になる。8月の
のは、我々個々の真摯な実践しかないことを
2週間、小中学生を対象とした長期宿泊をと
忘れてはならない。
もなう体験活動である。文科省支援は昨年で
打切り、県からの受託として行っている。子
ども達との関わりで成果を見出すには時間が
必要だ。2、3日ではイベントで終わる、10
日以上の時間がスタッフや子どもにも苦楽を
超える精神性が育ちやすい。エコツーリズム
に求められる時間も同じと考える。環境に触
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