3, 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ(PDF:6.2MB)

Ⅲ . 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
­豊かな暮らしを創造する鴨川ツーリズム­
1. 鴨川ホリスティックツーリズムが目指すもの
豊かな暮らしを創造する鴨川ホリスティックツーリズム
● 光が躍る美しい景観 , 暖かな気候 , 澄んだ空気のなかで , ゆったりとした時を
すごし , 心身共にリフレッシュできる , 静かなツーリズム。
● マリーンスポーツやハイキングなど , アクティブ *ツーリズム。
● ガイド付きでじっくり本物をみてまわり , 匠の技や生命の輝きを心に刻む , 知る
ツーリズム。
● ガイドとともに歴史の現場に立ち , 歴史をみつめ , 明日の自分をつくる , 生き方
発見のツーリズム。
● 鴨川の歴史・文化を体験し , 楽しみながら明日へのやる気を増進する , 蓄積ツー
リズム。
● 鴨川の暮らしを体験し , 鴨川を好きになる , 交流ツーリズム。
● 年間通した鴨川の暮らし体験を楽しみ , 暮らしのためのパワーを高める , 暮らし
づくりツーリズム。
● 鴨川市に棲息する豊富な生き物とふれ合い , 大地・海・空気を五感で知り , その
大切さに思いを巡らす , 地球ツーリズム。
● 自然体験で鴨川市の環境をよりよくする , 環境づくりツーリズム。
● 休みの日には鴨川市に訪れる , もう一つの日常ツーリズム。
経済とともに「観光」が著しく伸びた昭和の高度経済成長期は , 遊園地や海水浴場等への
日帰り旅行や , 団体の慰安旅行で 1 泊する旅行が中心で , 地域の良さにふれることもほとん
どせず , 財布も体もクタクタになって帰ってくる「観光」でした。また「観光地」では ,「観
光」で利益をあげることのみを重視したため , 地域が荒れ「観光資源」が疲弊する事態を招
いていました。しかし , こうした「観光」は過去のものになり , 家族や友達などが少人数で ,
地域の暮らしを体験し , これからの生活の選択肢を豊富にするツーリズムへとニーズがシフ
トしています。また , 地域も資源の有限性から , マスツーリズム*から持続的ツーリズムへと
移行してきています。これらを背景に , 鴨川ホリスティックツーリズムでは , 鴨川で観たこと ,
体験したことを出発点にし , 豊かな暮らしを創造するツーリズムを目指します。
この鴨川ホリスティックツーリズムが目指すものの内容は , 次のニーズ段階として捉えら
れます ( 図 24)。
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
リフレッシュ
自分探し
暮らしづくりの
暮らしづくり
エンパワーメント向上
「もう一つの日常」
図 24 ツーリズムに対するニーズ段階
1)ウイークデーの日常から解放しリフレッシュするツーリズムで , 浜辺に座って一日過
ごすような静かなツーリズムと , サーフィンやハイキングをおこなうなど汗をかくことでリ
フレッシュするアクティブツーリズム。
2) 自分を見直し , 生き方を見出すツーリズムで , 歴史をみつめることによって自分の道を
考える生き方発見のツーリズムと , 鴨川の歴史個性を体験し,やる気のパワーを増進する蓄
積ツーリズム。
3) 暮らしづくりのエンパワーメント向上を求めるツーリズムで , 鴨川の暮らし体験を通し
交流を深める交流ツーリズム , 及び暮らし方の選択肢を広げる暮らしづくりツーリズム。
4) 学んだ暮らしづくりの方法を活かし , ウイークデーの日常とは違う休日の日常を鴨川で
過ごすもう一つの日常ツーリズム。
5) 自分探し以降の段階をもう一度見直し , さらにレベルアップをはかるため , 本物をじっ
くりみる,知るツーリズム。
6) 自然環境の視点からすべての段階にかかわるツーリズムで , 自然の営みを知る地球ツー
リズムと , その改善をはかる環境づくりツーリズム。
以上のツーリズムのうち環境づくりツーリズムはまだ鴨川市にはみられませんが , 将来性
が豊かなツーリズムと考えられます。
2. 鴨川ホリスティックツーリズムの柱
(1)鴨川ホリスティックツーリズムの構造
鴨川ホリスティックツーリズムで目指すツーリズムを , ツーリズム資源の性格とニーズの
性格の面から整理すると図 25 の構造になります。
歴史資源を活かした「カルチュラルツーリズム」, 鴨川の暮らし方を資源とした「カントリー
ツーリズム」, 鴨川の自然を資源とした「エコツーリズム」により,生き方を見直し , 明日
の暮らしの創造がはかられます。そして , この 3 つのツーリズムを「観るツーリズム」が結び ,
ベースとなる癒しの提供と , 本物をみてまわり各種の体験でそれまでおこなってきた水準を
見直し向上させます。
2 歴史をみつめ明日を切り開く :
カルチュラルツーリズム
1 じっくり本物に迫る :
観るツーリズム
3 暮らしに楽しみ暮らしをつくる :
カントリーツーリズム
4 自然や地域の個性を守り・育てる :
エコツーリズム
図 25 鴨川ホリスティックツーリズムの柱
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
(2)観るツーリズム : じっくり本物に迫る
体験型のツーリズムでなく , 従来の「観光」の系統を受け継いだツーリズムです。
観るツーリズムは , 次の 3 つの面が柱となります。
① 光が躍る美しい景観 , 暖かな気候 , 澄んだ空気のなかで , ゆったりとした時を
すごし , 心身共にリフレッシュできる , 静かなツーリズム。
鴨川市の海岸線は,どこにいっても美しい景観が続いています ( 図 26, 資料 III ­ 1)。ま
た , 鴨川市民には見慣れた景色に過ぎませんが , 緩やかな斜面につくられている水田の景観
は , 稲が大きく伸びる前は一面が太陽の光を受けて輝く水面となり
, 水郷以上に水の里をつ
じゅうたん
くりだしているし , 稲が育つと緑の , そして黄金色の絨毯に変わる美しい田園景観が広がっ
ています ( 図 27)。そして , 四方木や袋倉には , 渓谷の美がみられます ( 図 28)。仰ぎみると ,
清澄山系 , 嶺岡山系の山々がみえ , 変化に富んだ景観をみることができます。安藤広重が清
澄山から仁右衛門島を望む景色を描いたように , 津守山など鴨川市の奧部からも海が望め ,
山・田園・海のコントラスト豊かな景観を楽しむことができます ( 図 29)。特に日蓮が自慢し ,
古泉千樫が詠ったように , 朝日や夕日の美しさは格別です ( 図 30)。
こうした美しい景観と豊かな自然に包まれ , 浜辺などでゆっくり・のんびりした時を過ご
し , 日頃の疲れを癒すことが , 鴨川ホリスティックツーリズムのベースとなります。
図 26 海岸の景観 ( 蓮華潭 , 天津 , 鴨川 )
図 27 田園景観 ( 大山千枚田 , 主基)
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
図 28 渓谷の景観 ( 四方木 , 袋倉 )
図 29 海・山の眺望 ( 清澄山 , 大日 , 魚見塚より )
図 30 朝日・夕日の景観 ( 前原海岸の日の出 , 小弁天・東条の夕日 )
② マリーンスポーツやハイキングなど , アクティブなツーリズム。
のんびり過ごすことでリフレッシュするのではなく , 汗を流すことでリフレッシュする人
も多く , 大自然を感じるスポーツ型のツーリズムは今後伸びていくことが見込まれます。
鴨川市はサーフィンのメッカとして知られたため波が荒く海水浴には向かないとイメージ
されたことと , 近年は「プールでは泳げるが海では泳げない」など海を知らない人が急速に
増え , 磯遊びと結びついた海水浴などが激減していますが , インストラクターがついて楽し
さを知れば , 海水浴も増加基調に転ずることが想定されます。特に , 水が綺麗で美しい景観
であり , 生物が多い城崎海岸や仁右衛門島は有望なスポットといえます ( 図 31)。
鴨川市はサーフィンの発祥地であり , 波も手頃で初心者向きであること , 波の状態等の情
報がマネージメントされていること , 長い経験者も楽しめる海が存在することから , 今後も
増加基調を続けることが見込まれます。
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
ハイキングは , 内浦山県民の森でアジサイハイキング等をおこなう清澄山が中心ですが ,
嶺岡山や大山周辺も , 準備を充分におこなえば伸びるものと考えられます。
図 31 アクティブツーリズム ( 城崎海岸の海水浴 , 東条海岸のサーフィン , 長狭で里山ウォーキング )
③ ガイド付きでじっくり本物をみてまわり , 匠の技や生命の輝きを心に刻む ,
知るツーリズム。
ガイド付きでみてまわるツーリズムは , 旅の入り口の側面とともに , 各種体験をおこない
一定のレベルまでできるようになった人が , 本物をじっくりみて自分の技能のレベルアップ
をはかる , 高次のツーリズムでもあります。
天津小湊地域には鯛のまちボランティアガイド協会があり , ニーズに合わせたガイドをお
こなっています ( 図 32)。旧鴨川市域にはまだこうしたガイド組織がありませんが , 伊八の
彫刻や , 社寺内の絵画など普通にたずねたのではみられないものが数多くあります。しかし ,
木彫体験や絵画体験をおこなえば , もう一度匠がつくった本物をみて , その技を学びたくな
ります。現在注目されている伊八の彫刻の多くが室内にあり,なかなかみることができない
だけに , こうしたツーリズムが早急に展開することが期待されています。
図 32 ガイド付きツーリズム ( 鯛のまちボランティアガイド協会 , 仁右衛門島 , 西福寺室内にある伊八の彫刻 )
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
(3)カルチュラルツーリズム : 歴史をみつめ明日を切り開く
歴史・文化を活かしたツーリズムです。2 つの面が柱となります。
① ガイドとともに歴史の現場に立ち , 歴史をみつめ , 明日の自分をつくる ,
生き方発見のツーリズム。
鴨川市には原始古代から歴史遺産が数多く残されています ( 資料 III ­ 2)。これらから鴨
川の歴史個性を抽出すると図 33 のようになります。
1) 東条海岸で , 縄文時代に貝のブレスレットにしたベンケイガイやサトウガイを獲得し ,
県内に流通させた貝の原料供給基地でした。
2) 旧石器時代には石器に用いる頁岩を鴨川で入手し , 千葉県内に流通させました。また ,
ぎょくふ
縄文時代になると , 玉斧の原料である蛇紋岩を嶺岡山で得て , 千葉県中に供給した石材供給
基地でした。
3) 弥生時代の水田跡 , 奈良時代の条里跡 , そして主基斎田跡と , 長狭米にいたる稲作文化
史が良く保存されています。
4) 源頼朝の足跡を示す遺跡は仁右衛門島だけといって良い状況ですが , 東条氏 , 工藤氏 ,
正木氏の遺跡が数多く , 中世の地域史の中で頼朝が再起したことが確認できます。
5) 日蓮の誕生地であり , 日蓮ゆかりの史跡が多く残されており , 多面的に日蓮を知ること
ができます。
6) 鴨川の山々は修行の場でもあり , 千葉県では珍しい経塚を散見することができ , 珍しい
一字一石経をみることができます。
7) 嶺岡牧は , 江戸幕府が直轄した四牧の一つであるだけでなく , 中世の里見氏の牧 , さら
さかのぼ
には古代牧にルーツが遡る , 極めて貴重な史跡です。この牧があったことが , 長狭郷の人々
の生活と大きくかかわっています。また , 酪農の発祥地であり , 乳業の発祥地でもあります。
8) 武志伊八の誕生地で , 屋敷跡を中心に初代伊八の若い頃の作品や 5 代にわたる伊八の彫
刻が数多く残されています。
9) 房総からはじまった萬祝染めは , 海に生きる人達の文化を伝えています。
以上の他 , 近世以降に始まり亙の生産に変わった窯業や古泉千樫も , みられる遺跡数は少
ないですが , 歴史個性とみることができます。
ゆう
こうした歴史遺産に対して , テーマを持ってガイドとともに現地に立ち , 現地で考え , 悠
きゅう
久の歴史に迫り , そして自分の生き方を考えるツーリズムは , いつになってもニーズがある
ツーリズムです。源頼朝 , 日蓮は鴨川から再出発を実現したこと , 伊八も鴨川から発信した
ことなど , 鴨川は明日を切り開く出発点になってきたという歴史個性があります。その点で ,
明日の生き方を切り開くカルチュラルツーリズムは , 鴨川市に適したツーリズムといえます。
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
貝の原料供給基地
多い中世遺跡
嶺岡牧
石の原料供給基地
長狭米
日蓮の誕生地
一字一石経
伊八の彫刻
萬祝染め
図 33 鴨川市の歴史個性
② 鴨川の歴史・文化を体験し , 楽しみながら明日へのやる気を増進する ,
蓄積ツーリズム。
日本ではエコミュージアムの普及が遅れていますが , 歴史を体験する試みは加速的に増え
ています。こうした先駆例であった房総風土記の丘の実践が示すように , 体験することによっ
て歴史を単なる知識でなく生き方を考える材料であることに気づき , 明日の活力に繋げるこ
とが容易になります。
鴨川市では , 実際にあった現場でおこなう歴史劇や , 史跡で当時の生活の仕方で数日暮ら
してみることはおこなわれていませんし , 歴史個性を体験するメニューもわずかしかありま
せん ( 図 34)。最近始められたアート体験もまだ少ない状況です ( 表 1, 資料 II)。
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
図 34 鴨川市でみられる歴史体験 ( 貝のアクセサリー , 萬祝染め , お米ができるまで )
日蓮や正木氏はドラマティックな歴史が伝えられているので , 清澄寺や鏡忍寺で日蓮の劇
をおこなう , あるいは金山城跡や加茂神社で正木氏等の劇をおこなうことは比較的容易と考
うっそう
えられます。また , 放置され鬱蒼としている林を切り , どこからも海が望めた嶺岡牧に戻し ,
野馬土手 , 馬捕り場等の修復 , 陣屋の復元をおこない , 馬に乗って広大な牧を巡るだけでな
く , 野生に近い馬を飼養し , 馬の捕獲を体験や , 牧士がおこなう牧管理体験など , 幅広い体
験が可能です。歴史・文化を体験するツーリズムは ( 図 35), 今後の開発の余地が広大にある
といえます。
図 35 歴史体験の例と佐倉牧の図 (HP より )
(4)カントリーツーリズム : 暮らしに楽しみ暮らしをつくる
地域の暮らし方そのものを体験するツーリズムで , 最もオルタナティブツーリズムらしい
ツーリズムです。鴨川の暮らし方を体験し , 楽しみながら明日の暮らしを創造するツーリズ
ムです。主な面として次の 2 点をあげることができます。
① 鴨川の暮らしを体験し , 鴨川を好きになる , 交流ツーリズム。
鴨川市には , なりわい及び狭義の暮らしに関する体験メニューが 69 件確認されています
(II の表 1)。体験を通して鴨川市の魅力を体感するとともに , 鴨川市の人と親しく交流する
ことで鴨川が好きになり , リピータを増やすことができます。
現在 , 鴨川市のカルチュラルツーリズムは , 農業・農村の暮らしに関するものと , アート
面を併せ持つクラフト系を中心としています ( 図 36)。鴨川市の特徴である海とかかわるカ
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
ントリーツーリズムが現在のところ地引き網と地元産アジの南蛮漬けの 2 メニューとまだ未
開発であることと , 近代酪農発祥地であり乳業の発祥地という歴史個性を持ちながら体験メ
ニュー化されているのは酪農体験の 1 メニューだけと , まったくの未開発状態にあります。
そのことから , カントリーツーリズムとして今後開発が期待される体験メニューとして , い
わゆるブルーツーリズムなどと呼ばれている漁業体験や漁村での食品づくり・調理に関する
ツーリズムメニューと , 乳製品づくりが , ワークショップで提案されました ( 表 3)。なお ,
稲作・米文化関係の体験メニューは長狭・大山地域でおこなわれていますが , 米を用いた新
たな生活の仕方を体験メニューに加えることが示されています。商工業系の体験メニューと
してはベーカリー体験 , 亙焼き体験も提案されました。
祭り等の行事への参加を含め , 鴨川まるごと体験が望まれるところです。
図 36 鴨川の暮らし体験 ( 稲刈り , 花摘み , 太巻き祭り寿司 , 吹きガラス , 陶芸 )
表 3 ワークショップで提案されて今後開発が期待されるカントリーツーリズムの体験メニュー
産業
里
山
田
園
里
海
ベーカリー体験
亙焼き体験
ビーチ掃除体験
網の補修
船の掃除
金目鯛釣り
磯ノリ摘み
ワカメ・カジメ狩り
食物
乳加工品づくり
アイスクリームづくり
ケーキづくり
米粉ケーキづくり
米菓子づくり
煎餅づくり
塩づくり
干物づくり
寒天づくり
磯焼き体験
なめろうづくり
さんが焼きづくり
磯料理づくり体験
工芸
木工体験
その他
ドロリンピック
農家暮らし体験
漁師の暮らし体験
② 年間通した鴨川の暮らし体験を楽しみ , 暮らしのためのパワーを高める ,
暮らしづくりツーリズム。
カントリーツーリズムは , 余暇のアクティブな使い方としてはじまりますが , 体験を繰り
返しておこなっていくと「暮らしとは何か ?」を知らず知らずのうちに考え , 暮らしづくり
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
として体験をおこなうようになります。そこでは , 年間を通して一貫的・体系的な体験が求
められます。
大山千枚田保存会がおこなっている稲作体験から食文化体験まで , 藍栽培から藍染まで ,
綿栽培から織りまで , 大豆栽培からおから料理までは , こうした年間を通した体験であり ,
なりわいから狭義の暮らしまで体系的に結びつけられています ( 図 37)。棚田オーナーや各
種トラストの会員を中心としているとはいえ , 会員以外の若年層のリピータが多いのは , 一
貫した体験が提供されており , 暮らしづくりの糧になることによります。資源を痛めず持続
可能なツーリズムを実現するためにも , 一貫型のカントリーツーリズムにレベルアップして
いくことが重要です。
図 37 大豆栽培から大豆加工食品づくり , おから料理までの一貫体験
(5)エコツーリズム : 自然や地域の個性を守り・育てる
都会では味わえない自然とのふれ合いは , 自然が多い鴨川市ではツーリズムの戦略的部門
になります。自然を窓口とするエコツーリズムとしては , 次の 2 つのツーリズムに分けられ
ます。
① 鴨川市に棲息する豊富な生き物とふれ合い , 大地・海・空気を五感で知り ,
その大切さに思いを巡らす , 地球ツーリズム。
インタープリターが付いて生き物や地形・地質 , 水・空気 , 星などの自然とふれ合い , 自
然の営みを学ぶツーリズムです。自然界に対する驚きだけでなく , 楽しみながら自然環境の
大切さに思いが至ります。
鴨川市ではこうしたエコツーリズムは少ないですが , 棚田や里山でおこなわれています
( 図 38)。「観光」とエコツーリズムの相違が認識されていないため , 磯根資源の問題から海
でのエコツーリズムは仁右衛門島で鴨川市外の人によっておこなわれるだけに過ぎません
が , 海・海岸の生物資源が豊富なだけに , 漁民がインタープリターとなって海のエコツーリ
ズムをおこなえば , 魅力あるツーリズムとなります。
また , 自然観察にとどめず , 押し花やつる加工などのクラフトに展開し , 生活と環境を結
びつけるツーリズムも , 開発の余地が広い分野です。
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Ⅲ 鴨川ホリスティックツーリズムのテーマ
図 38 鴨川市のエコツーリズム ( 星の観察会 , 棚田の自然観察会と見つかったアカハライモリ , ネイチャークラフト )
② 自然体験で鴨川市の環境をよりよくする , 環境づくりツーリズム。
荒れた里山の手入れや海岸の清掃など , 地域の個性を育んできた自然環境を維持し , 改善
していく環境づくりツーリズムは , グランドワークなどと結びつきながら伸びてきています。
しかし , 鴨川市ではこうしたツーリズムは現在のところ確認されていません。単なる作業
体験に終わらせず , 飯田市の農業大学院のように自然と人の営みの関係と再生技術を学ぶ仕
組みをツーリズムに組み込めば , 年間通して訪れるリピータの多いツーリズムとなります。
(6)日常ツーリズム
① 休みの日には鴨川市に訪れる , もう一つの日常ツーリズム。
特別な余暇の過ごし方としての「観光」ではなく,毎週末は鴨川市で過ごす形のツーリズ
ムです。鴨川ホリスティックツーリズムの柱をなす 4 つのツーリズムのすべてで進めるべき
方向で,体系的・年間一貫型体験メニューと,そうしたツーリストを受け入れる宿泊施設を
整備することで可能となります。
これは,週末は鴨川市民が増えることを意味し,鴨川市がもう一つの居住の場になるため,
ツーリズム資源を荒らしたり,地域社会を荒廃させることなく,持続的ツーリズムの発展と,
地域所得の向上を実現することができます。
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