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エクセター訪問記
愛知医科大学整形外科 廣瀬士朗
約 20 年ぶりの訪問である。たぶん前回は Nuffield Hospital であったろうと思うが記憶
は定かではない。当時日本ではまだ Taper-slip 理論を知っている先生はほとんどいなかっ
た頃であったが 1 日のみの訪問で Gie 先生の Primary THA1 例を手洗いで見学した。
さて、今回は日程の都合で訪問期間は 6 月 22 日(月)から 25 日(木)の 4 日間となっ
た。初日は手術が無く、指示された午後 1 時に担当の Media manager を Royal Devon and
Exeter Hospital の Princess Elizabeth Orthopaedic Centre に訪ねた。前年訪問の入江先
生によると先方から声を掛けてもらえたようで、
安心して Reception に訪問を伝えたが Hip
Unit になかなか案内してもらえなかった。担当者はランチ中で不在とのことで、秘書室で
10 分程度待ってようやく面会、院内の説明を受けることが出来た。たまたま手術室でロン
ドンから研修に来ている Dr に会って、明日の 8 時 30 分に来れば手術室内に案内してくれ
るようだ。訪問初日は、これで終了、午後からは市内散策に出かけた。
2 日目、さあ、いよいよ手術見学の開始である。1 例目は Mr. Wilson 執刀、手術室に案
内してくれた研修 Dr が助手、彼は手術前からいろいろと気配りしてくれて「コーヒーは?」
「TKA もやるのか?」と何かと話しかけてくれた。Primary THA で、手技は私たちが行
っている方法と概ね同じであることを確認した。隣の手術室へ移動、なんとなく緊張した
雰囲気で、指導の Mr. Hubble が「カップの前方開角が強すぎたので(Primary THA の)、
Cement in cement 法によるカップの入れ直しを行っている」と。思わず執刀の研修 Dr に
「患者さんと先生には Unlucky、でも私には lucky」と言ってしまった。なお、カップのセ
メント手技は、私たちの師匠である澤井先生が開発し現在も行っている、いわゆる 2 段階
セメンティング法であった。
次の手術の合間、控室で今回の訪問の目的である Porous metal wedge の適応と方法につい
て Mr. Wilson に聞いてみたが、あまりはっきりした返答は得られなかった。ただ「The
Exeter Hip 40 周年の本」
に載っていた Mesh との併用は通常行わないとのことを確認した。
3 例目は研修 Dr 執刀、Mr. Wilson が指導でフリーマンのセメントレス THA 後の Osteolysis、
カップの弛みの症例、術前から研修 Dr はステムが抜けるかを心配しており、ETO になっ
たら侵襲大きくなるなど話していた。大腿骨側は、フリーマンステムが頸部温存のため頸
部を切除して近位前方の骨欠損を確認して寛骨臼側へ。カップは骨面がスムースであり、
磨耗した PE とともに簡単に抜去。同種骨頭を細片化し始めたので IBG かと思いきや、な
んと臼底に骨移植してセメントレスカップ、しかも Dual mobility system ではないか。大
腿骨もステムは温存、骨欠損部に骨移植もしなかった(同種骨が十分残っているのに)
。Mr.
Wilson は「高齢で活動性が低いから」と説明した。
術前(左);セメントレス・フリーマン型 THA
城壁
2 日目も終了、夕食前いったんホテル(病院と旧市街との中間で、三角形の頂点に位置する
Jury’s inn hotel、徒歩で病院まで 20 分、旧市街まで 10 分)に帰ったが、緊張のためか朝
イチで Mr. Hubble が頼んでくれたランチを食べ忘れた!
3 日目は手術が無く、午後 3 時から Hip meeting(術前後 1 週間の症例検討会)なので、
午前中は市内散策、大聖堂とお城を含む旧市街はローマ時代に築かれた城壁に囲まれてお
り、城壁の一部に沿って散歩道とサイクリング道があり、散歩道を南に向かってエクセ川
まで歩き小休憩、帰りに大聖堂前の芝生で休憩し、また少し歩いて城跡へ。昼食は初日に
発見、場所を確認しておいた High street(メインストリート)沿いの麺屋でドリンク付き
ランチのうち、チキンスープ・ウドンなるものと温かい日本茶を選んだ。これは完全に長
崎ちゃんぽん(の麺がうどん)ではないか、なかなか美味。
エクセ川
チキンスープ・ウドン
午後からの Meeting(術前後 1 週間の症例検討会)でも、Porous metal wedge 使用の症例
なさそうである。手術中や控室でも話していたが、特に Revision THA では IBG 一遍通り
でなく、症例に応じていくつかの術式を選択しているようだ。
早くも最終日、1 例目は H/G カップとプレコート・ステムのハイブリッド THA の高摩耗
による Osteolysis の症例で Mr. Hubble 指導、研修 Dr の執刀。ステムを抜去した後、PE
を抜去してカップをコッヘルでつまみ、揺り動かし弛み無いことを確認し、カップ上方の
骨欠損がわずかで、スクリュー・ホールにペアンで突いて 1 ホールのみ軟部組織であるこ
とを示し「既往に心疾患、高齢で活動性も低いので」カップ・シェルに PE をセメント固定
した。大腿骨側も一部に骨欠損あるが、Cement in cement 法でエクセターステムに交換し
た。寛骨臼、大腿骨側とも骨移植は行わなかった。
術前;H/G カップ・プレコートステム
手術室を移動、2 例目は大腿骨近位部骨折術後の偽関節症例、Mr.Wilson 指導、研修 Dr の
執刀である。偽関節部が癒着しており整復が困難のうえ、内側の第 3 骨片が遊離してえら
いことになってきたと思っていたら、寛骨臼の操作に変更、またしてもセメントレスカッ
プ、Dual mobility system を選択!さらに大腿骨側もセメントレスで遠位固定タイプ、モ
ジュラー式ステムを選択したではないか。Mr.Wilson は私に、
「Ling 先生がみたら怒られる、
たたかれるけどね」を連発していた。ここでタイムアップ、ロンドンに戻るためエクセタ
ーでの手術見学が終了した。帰り際手術中にもかかわらず、Mr.Wilson が手を合わせてお辞
儀して「別れ際には日本では、こうするんだろう?」Mr. Hubble も「自宅に招待したかっ
たけど、滞在期間が短いので次回ね」など社交辞令であろうけど、少し嬉しかった。
今回は期間が短く、訪問の一番の目的であった Porous metal wedge を用いた Revision
どころか IBG を用いた Revision も見学出来なかったことは残念であったが、
Primary THA
の手技は、ほとんど私たちの方法と変わらないこと、Revision THA の術式は症例に応じて、
いくつかの選択枝があり、柔軟な考え方であること(これには全く賛成)などの収穫があ
った。
最後に、この訪問記が CHEF 参加の先生や、エクセター訪問を希望している先生の参考
なれば幸いです。
(廣瀬士朗
2015 年 7 月 1 日)